長月(偽)だ。駆逐艦と侮るなよ。   作:萩鷲

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初めての海-1

 朝食を食べ終えて一旦解散した後、僕は言われた通り、第一格納庫――その名の通り、艤装やらが格納されている倉庫らしい――にやって来た。昨日皐月に案内して貰ったおかげだろう、特に迷うことも無かった。

 

「来たね。さ、入って」

 

 入り口の前で待っていたヴェールヌイに案内されて、僕は部屋の中へと足を踏み入れる。ヴェールヌイは、既に艤装を装着していた。

 

「――広いな」

 

 皐月と来た時は、中には入らなかったので分からなかったが、内部はかなり広い。内装は、いかにも倉庫ですといった風で、大量のコンテナが置かれていた。

 

「ええと、三十五番、三十五番――ああ、これだ」

 

 ――歩きながら、整列されたコンテナをきょろきょろと見ていたヴェールヌイが、不意に一つのコンテナを指差した。

 

「この中に、君の艤装が入っている。開けてみてくれ」

「分かった」

 

 言われた通りに、二メートル程度の高さで、ちょうど長月(ぼく)が両手を広げたくらいの幅のコンテナの、蓋を開いた。

 

「――これが、私の」

 

 コンテナの中には、『艦これ』でも見慣れた、長月の艤装が収められていた。正確に言えば、『艦これ』では長月が付けていない、背中の艤装や装甲板も入っていたけれど。

 

「今朝東京から届いたばかりの、『長月』用の艤装だ。さあ、付けてみて」

「付け……って、どうすれば良いんだ?」

「ああ、そっか……ええとね、これが、こうで――」

 

 ヴェールヌイに手伝って貰いながら、艤装を装着していく。重そうな見た目の割に、背負ってもあまり重量を感じなかった。そもそも軽量なのか、艦娘の身体能力のおかげか、あるいは、艤装を装着した状態こそが、艦娘として自然だからなのか。

 

「――はい、できたよ」

「おお――」

 

 ――背中には機関部。腕には装甲と単装砲。腰には爆雷、足首には魚雷。

 

「――こいつはいいな!」

 

 思わずテンションが上がり、くるりと一回転した。すげえ、艦娘じゃん! 僕、艦娘じゃん!

 

「問題は――無さそうだね、良かった。じゃあ、付いてきて」

 

 ヴェールヌイは再び歩き出し、僕もその後ろに続く。かちゃかちゃという、艤装の擦れる音が、辺りに響く。ヴェールヌイはほぼ無音で歩いているけど、慣れの問題だろうか。

 

「この隣に、艦娘用の桟橋があるんだ。基本的に、艦娘はそこから出撃することになる」

 

 言いながら、ヴェールヌイは重そうな鉄扉を開く。潮の香りと強い日差しが、倉庫の中へと入り込んだ。

 

「――来たわね、二人とも」

 

 桟橋では、艤装を身に付けた暁が待っていた。

 

「さあ、訓練開始だ。――マトモに動けるようになるまで、徹底的に叩き込んであげるよ」

「……お、お手柔らかに、な?」

 

 若干目つきが怖いヴェールヌイと、苦笑いする暁。そして、二人の指導の下――僕こと長月(偽)の訓練が、開始された。


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