Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回は若干グダってます。


微かな星の光は暗く眩い月に潰されて

 真っ白なスクリーンのドームが頭上を覆っている。背後にはそのスクリーンに星を映し出す大きな投影機が設置されている。投影機はミラーボールのようなものが先についており、きっとそのボールを回して星を写すのだろう。広い空間には椅子が中央に向かって等間隔に並んである。席のほとんどが埋まっており繁盛はしているようだ。しかし、何処もかしこもカップルと思われる人たちばかりである。

 

 俺たちも席に座る。丁度二人分席が空いていたので、そこにセイバーと並んで座る。セイバーは予想以上の人の多さに驚いていた。

 

「プラネタリウムとは、こんなに多くの人が見るものなのですか?」

 

「いや、そういうわけじゃない。ただ、例のカップル割引チケットのお陰なのか、大盛況ってところだな」

 

 その割引チケットの効果により俺たちもここにやって来たわけである。そういう点では他の客と大差ないだろう。

 

「それにしても、大きいですね?スクリーン、というものでしたっけ?」

 

「そう、スクリーン。あれだ、テレビの画面みたいなもんだ。光があのスクリーンに当てられて映像が見えるんだよ」

 

 俺が簡単に説明してやったが、セイバーはどうも理解不能のようである。やはり、過去の知識だけで、現代のものを理解しようとするのは難しいのだろうか。

 

「まぁ、見れば分かる」

 

「さっきからそればっかりじゃないですか」

 

「しょうがねーだろ。言ってもどうせ分かんねぇだろ?」

 

「うぅ。そうですよ、どうせ私には分かりませんよ……」

 

 悲しむセイバーには申し訳ないのだが、俺はその言う通りだと思う。俺とセイバーは多分齢は同じだとしても、学力的差があまりに大きすぎる。別に俺は頭のいいわけではないが、現代の学校教育を受けた俺と、そもそも生きる術以外の勉強をしてこなかったセイバーとでは差は歴然としていて、俺が理解できたとしても彼女が理解できる保証はどこにも無い。

 

 だから、彼女が理解できるには体でしかない。頭で理解できなくとも、根本的に体で感じ取り理解するしか方法はないだろう。

 

 俺だけ理解できても、彼女が理解して知識欲求を満たさなければ意味がないのだし……。

 

「まぁ、見れば楽しいだろうし、我慢しなさい」

 

「んなっ⁉︎う、上から⁉︎」

 

「基本的にいつも上からなんだけど」

 

「自覚しているなら直してください!」

 

「ははは、そうだなぁ〜」

 

 セイバーの頼みを軽くいなしながら、座席に体を委ねる。天井を見やすいようにと傾いた背もたれに全体重を託すと、疲れがどっと出たような気分に襲われる。さっきまでの少しの徒歩だけでそれほど疲れたのか、もう歩きなくないと感じてしまった。

 

「もう、歳か……」

 

「何言ってるんですか?まだ二十歳にもなってないじゃないですか」

 

「いや、小さい頃はよく公園とかで遊んでたんだけどさ、今となっては家でダラダラとしていたいんだよ。関節動かすのがもう辛くてさ。ってか、疲れるのイヤだ」

 

「性根が鈍ってますね」

 

「それを言うなら、性根が腐ってんのよ。マジで」

 

 疲れたくない。疲れることがイヤだ。だから、運動なんてしたくない。外出て遊ぶとか、正直あんまり得意じゃない。インドア派だから、家の中でゆったりとしていたい。

 

 プラネタリウムにまで来てだらけていると、隣の客が俺をじっと見てくる。しかも、その顔はなんか見覚えのあるような……。

 

「ジィーッー」

 

 よく分からない謎の効果音を発しながら俺をガン見してくる少女。座席に膝を立てながら俺を警戒しているようで、その視線に対してなんとなく目を合わせてはならないような気がした。

 

 が、やっぱり、なんか気になる。ので、ちらっとその少女を見る。

 

「あっ、こっち向いた。ヘンタイだ」

 

 すぐさま目を逸らした。

 

 今、物凄いことを直接真正面から言われたのは気のせいだろうか。多分、この少女とちゃんと顔を合わせるのは初めてであって、この少女に俺のことを知られていようがいまいが、普通初っ端に人を変態呼ばわりするだろうか。

 

 否、絶対にしない。少なくとも俺は彼女にそのような姿を見せた覚えはないし、見られるような行動などしていないつもりだ。

 

「ジィーッー」

 

 少女の熱い視線が少し怖い。何で俺がこんなに警戒の目で見つめられなければならないのか分からないのだが。

 

 その時、男の人がその少女の肩をポンポンと叩いた。

 

「こら、ヒーちゃん。ダメでしょ。隣の人が怖がっているじゃないか」

 

「ブーブー、だってつまんなーい!つまんないんだもん!まだ⁉︎プラネタリウム、まだ⁉︎」

 

 どうやらこの少女、プラネタリウムの上映が遅いからと言って、隣の客である俺をガン見していたそうである。とばっちりを受けたのかと思った。いや、だが、そこで安心してはならない。つまらないからという理由で隣の客をガン見する少女。実に恐ろしい。

 

 少女と言っても、小学生ぐらいの少女ではなく中学生ぐらいの少女だから、恐ろしく思える。その歳ぐらいになったら、少しは常識とか他者のことを考えるということぐらい知っていてほしいものだ。

 

 男の人は聞き分けのない少女を咎めようとするが、少女はあっけらかんと、いやむしろ笑っている。

 

「まぁーだー⁉︎つまんなーい!」

 

「こら、周りのお客さんに迷惑でしょ?これ以上誰かに迷惑をかけるようなら、怒っちゃうよ?」

 

 男の人がそう言うと女の子は黙った。が、よくよく見ると女の子はニタリと満面の笑みで男の人を見ている。

 

 満更でもなさそうじゃねぇか。

 

 男の人は女の子の屈託のない笑顔を見てため息を吐いた。深いため息からその男の人のこれまでの苦労が窺える。

 

 セイバーを見た。セイバーは俺に見られると、少しだけ顔を赤くして聴牌になっている。

 

「な、何ですか?いいい、いきなりじっと見つめて……」

 

「いや、俺の隣がお前みたいなので良かったなって何となくだけど、痛感した」

 

「んなっ⁉︎そ、そんなこと言うのは卑怯ですよ!」

 

「卑怯とかねぇだろ。いや、普通にお前で良かったなってだけで……」

 

「そ、そ、そういうことが卑怯なんですよ!それでいて、無自覚!デリカシーというものがヨウには無いんですか⁉︎」

 

「いや、あると思うか?」

 

「あっ、そうですね。無いですね」

 

「でりかしー?何それ?美味しいの?」

 

 隣に座る少女が話に首を突っ込んでくる。男の人は俺たちにまた謝ると、少女に色々と常識とかそういう根本的なところを教え始めた。が、少女の表情から察するに男の人の言っていることが何一つ分かっていないようでポケーッと空を向いている。

 

 能天気、終始お気楽そうな様子の二人。その二人の姿が少しだけ羨ましいと思えた。隣にいる一人の少女は常に笑顔で人に迷惑をかけまくって、それでも誰も悪い気分にはさせることがない。その一方、もう一人の少女は人に迷惑をかけまいと笑顔を作る。だけど、その笑顔は誰かを迷惑に巻き込み、結果彼女は悲しむ。救われないという言い方はどうかと思うが、でも間違ってはいない。

 

 セイバーは本当に救われない人間だ。運が悪いというレベルではない。運命の輪に彼女は嫌われている。そして、それでもセイバーは笑おうとする。そこに俺は惹かれているのかもしれないけれど、それでも俺とセイバーが隣の関係みたいにいることができればと考えてしまった。

 

 戦ばかり、血ばかり、死ばかり。思えばろくなものを見れた覚えがない。苦し紛れで出る笑顔で笑い合うのではなく、腹の底からの笑顔で笑い合いたい。

 

 だから、その時ふと羨ましいと思えたんだ。

 

 勝手な思い、それでもその思いは暴走して胸の中を壊そうとしている。

 

 俺はどうしたらいいのだろうか。

 俺は彼女を守れるのだろうか。

 俺は彼女の願いを壊すんではなかろうか。

 

 勝手な思いで、勝手な行動で彼女を絶望のどん底に突き落とすのではなかろうか。

 

 ドームの中が暗転する。二人の少女は初めての体験に驚きながら心を躍らせていた。

 

 映し出される空の景色。段々と濃くなる星の光。街の明かりを消せば星々が地球からたくさん見えるのだとアナウンスが流れる。

 

 しかし、星などは目で見ることはできない。あんな微かで脆い光は一緒くたに夜空にばら撒かれ、その光も月に潰されるのがどうせオチ。

 

 確かに俺は月よりも星の方が希望のような明るさが感じられると思う。月は混沌としていて、狂気とかそういうイメージがあって、星の方がいいと思える。だけど弱い光は強い闇に飲まれて、結局は一介の僅かな光に過ぎない。

 

 夜空は美しいけど、まるで絶望を見ているような気分になってくる。

 

「綺麗、ですね」

 

 セイバーがボソッと呟く。そういう彼女の横顔が僅かな光に照らされて目の中に焼きついて、酷く心が痛い。

 

「ああ。綺麗、だな……」

 

 確かに綺麗だ。だが、何が綺麗なのか分からなくなって、そう言うしかなかった。端的に綺麗だとしか言えず、その後の言葉はもう二度と出て来なかった。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「……ョ……、……ョウ……、ヨウ……」

 

 気がつくと目の前にはセイバーの顔があった。セイバーは心配した様子で俺の顔を覗き込んでいる。そんな彼女の顔を見て、俺は今何をしているのだと我に返った。

 

「……え?何?」

 

 まずさっぱりなんだかよく分かんないから体を起こして辺りを見回す。プラネタリウムを見ていたはずの客は荷物を手に持つなりして帰り支度を始めている。

 

「ヨウ、寝ちゃってたんですよ?」

 

「えっ?寝てた?」

 

 頭がいきなりの事態についていけなく、一旦頭の中で事態の整理をする。

 

「えっ⁉︎俺、寝てた⁉︎」

 

「いや、だから言ったじゃないですか。寝てたって」

 

 俺はそのセイバーの言葉を聞き、絶望に駆られる。座席に全体重を委ね、もう生きる気力を失ったかのように呆然と息をする。

 

「お、俺、寝てたの?」

 

「そ、そんなに悲しむものなのですか?まぁ、確かにプラネタリウムは素晴らしいものでしたけど、ヨウは見たことがあるのですよね?そこまで見なければならないという理由があったのですか?」

 

「理由があったもなにも、俺は金を払ってここにいる。なのに、俺はその金を払って見るはずだった上映を睡眠に使ってしまったんだ!その意味が分かるかっ⁉︎」

 

「ま、まさか……」

 

「そう、そのまさか!俺は金を無駄にしてしまったんだっ‼︎綺麗な星々を見て癒されるはずだったのに、その癒しが睡眠という名の癒しになってしまったんだっ‼︎」

 

 あ〜、マジでショック。数百円払って寝に来ただなんて。その数百円があれば一食ぐらいは賄えるとでもいうのに。

 

「なぁ、俺ってどのぐらいで寝たか分かるか?」

 

「さぁ、それは分かりません。ドーム内が点灯してから気付いたもので。ヨウはどこまで記憶があるんですか?」

 

「ん?ああ、北極星の説明ぐらいまでは記憶はあるぞ」

 

「それって最初の最初じゃないですか」

 

「うわぁぁぁぁぁっ‼︎見事に数百円を無駄にしたぁぁっ‼︎最悪だぁっ!」

 

 払った金を無駄にするというのは何とも虚しい気分になる。しかも、それを了承の上で無駄にするのなら良しとするものの、寝落ちという実に馬鹿なことをしてしまった。

 

 きっと昨日の夜全然眠れなかったことが原因だろう。いや、そうとしか言いようがない。毎日毎日、聖杯戦争のためと言い、遅くまで起きているせいで体は疲れがたまっており、さらにそこに釘を打つかのように昨日のセイバーの腕枕。ああ、そうだ。あれが決定打に違いない。あれのせいで全然眠れなかったのだ。最初は女の子の甘い香りとか、そもそもこのままピーーなことしちゃうとか考えてたけど、段々と腕が痺れてきて、セイバーは寝てるし起こさないように腕を頭の下から外すのに時間がかかって……。

 

「お前か、お前のせいか」

 

「ええっ⁉︎わ、私のせい?」

 

 意気消沈する俺とそもそも話の内容を掴めていないセイバー。そこに横槍を入れるかのようにあの例の少女が俺の腰をベシベシと叩く。

 

「ん?って、お前か。どうした、ガキ」

 

「私、ガキじゃないもん!きっと君より年上だもん!」

 

「……えっ?」

 

 唐突に、そして突然であり自然に彼女は意味を含めて言った言葉に少し凍りついた。少女はそんな俺の手に指を指す。

 

「あと一つ、大切にしたほうがいーよ」

 

 彼女はそう言うと、てくてくと出口の方に走って行く。出口のところには男の人が待っており、男の人はどうやら俺たちの会話を知らないようだった。

 

 女の子は俺の方を振り向く。そして、大きく腕を振りながら声を掛けた。

 

「頑張ってねー!」

 

 声を残すと、彼女は男の人と手を繋ぐ。嬉しそうな笑顔をしながら目の前から消えた。だけど、俺の耳に聞こえた言葉は少し俺をゾッとさせた。

 

「……気付かれてた、のか?」

 

 しかし、すぐに俺は笑った。単に面白いと思えたからだ。

 

 彼女はきっと気付いていた。いや、絶対に気付いていた。だけど、彼女は気付いていた上で俺に声をかけた。頑張ってね、と。あの笑顔は偽物の笑顔などではない。本心からの笑顔だった。

 

 他のサーヴァントは怖い。ずっとそう思っていたけど、少しだけその根本的な捉え方が変わったような気がした。

 

 突然笑う俺にセイバーは驚く。

 

「どうしたんですか?」

 

「ん?いや、なんか、面白い奴もいるもんだなーって思っただけだ」

 

「おも……?わ、私のことですか?」

 

「自意識過剰だろ」

 

「んなっ⁉︎ヨウがいつも私に変なことするからじゃないですか」

 

「えっ?そうか?」

 

「真顔で返事しないでください!」

 

 セイバーはそう言うと足早にその場を去っていった。俺もそのあとを追うように出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「ん?どうした、急に立ち止まって」

 

「……そう言えば、あのキャスターの子と何話していたんですか?」

 

「ん?いや、頑張れって言われた」

 

「……えっ?」

 

「ああ、バレてたかも」

 

「それってダメじゃないですかッ⁉︎」




プラネタリウム、どうしても寝ちゃいますよねー。

あと、一応どーでもいい補足ですが、ヨウくんは手の甲にある令呪を隠しております。何で、キャスターちゃんはヨウくんがマスターだって分かったんですかね?

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