Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

まぁ、今回は色々と伏線を張ってはおりますが、日常回でございます。


街へ出かける

 テーブルに座って、セイバーと俺で作った朝食を食べる。目の前には何処からか帰ってきたばかりの爺ちゃんがいて、爺ちゃんは一言も発することなく黙々と朝食を食べている。

 

 ご飯は美味しかった。米を研いで、炊飯器に入れるだけだから。味噌汁は……、うん。少し具材が不均等、食べにくいサイズ。そこから、何となくだがセイバーの包丁技術がどれほどのものなのか分かった気がする。

 

「セイバー、お前、刃物の扱いが全般的にダメだな?」

 

 目の前に爺ちゃんがいるので、霊体化しているセイバーに心の中で話しかける。セイバーが霊体化している時は、マスターである俺が心の中で話しかければ、言語を発さなくても理解し合える。何とも楽な機能がセイバーには搭載されているものだと、こんな時に感心する。

 

 セイバーは俺の指摘に呻き声を上げる。俺の感想が彼女にとって余程苦いものだったのだろうか。

 

「え〜、無理ですか?自信はあったんですけど……」

 

 この出来栄えで自信があったと言う彼女。いや、どう見たって、この味噌汁の出来栄えが良いわけがない。中に入っている具材は不均等。どのようにすればこんな形になるのかと心底不思議に思う。それに、味噌汁の味付けだってちょっとおかしい。何、これ?味噌の味濃くない?絶対、体に悪そうなんだけど。

 

「うん、料理は要練習だな」

 

「そ、そうですか?う〜ん、私食べてないからどんな味なのか分かりません」

 

「そりゃ、しょうがねーだろ。目の前に爺ちゃんいるんだし。お前、爺ちゃんが目の前にいる間は絶対に実体化すんなよ」

 

 爺ちゃんは聖杯戦争の関係者ではないから、セイバーが実体化する姿なんて見られてはならない。先日、爺ちゃんに玄関前でセイバーの姿を見られた時は焦ったけど、あれはまぁ何とか誤魔化せるが、流石に二度目はないだろう。爺ちゃんが前回の聖杯戦争に関係してんのか分かんないけど、今回の聖杯戦争に完成していないはず。だから、爺ちゃんは無関係な人で、セイバーの姿はもう見せまい。

 

 爺ちゃんは俺を見た。

 

「ヨウ、この飯マズイな。料理の腕、下がったのか?」

 

 堂々と飯を作ったであろう人の前でマズイと伝える。折角、俺がオブラートに包んでセイバーに伝えたことを、爺ちゃんはさらっと躊躇もなく口にした。

 

 テレパシーで聞こえる声が急に喚き出した。

 

「うわぁぁあぁぁ!マ、マ、マズイ!マズイ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 きっと彼女は俺にオブラートに包まれた言葉だから平静を保てていたのかもしれないが、今の言葉は流石に痛い。爺ちゃんはセイバーがいることに気づいていないし、そりゃ、身内の俺には本音を言ってしまうのかもしれないけど、少しは相手のことも考えてほしい。まぁ、俺が言えたことではないのだが。

 

「セイバー、諦めろ。爺ちゃんの言ってたことは事実だ」

 

「ヨウ!う、嘘をついたんですね!また私をからかったんですね!」

 

「いやいや、俺、別に変なこと言ってねーよ。ただ、マズイって言葉を回りくどく言っただけだ」

 

「マズイって言わないでください!これでも、頑張ったんですから!」

 

「おう、確かに頑張ってたな。ちょいちょい見てたぞ。苦戦してるお前の顔を」

 

 ああ、あの時は楽しかったー。俺が何かせずとも、彼女は勝手に頭を悩まして変な顔していた。味噌汁の作り方を覚えてるとか言ってたから大丈夫だろうなと思い彼女の方を振り向いたら、手が止まってたし。

 

「頑張りだけは認める。だが、料理は味だぞ」

 

「いやぁぁ、それだけは言わないでぇ〜」

 

 喘ぐ彼女を弄ってたら、ついふと笑ってしまった。心の底から湧き上がる感情が顔に出た。

 

「ヨウ、どうした?変なものでも食ったのか?」

 

 目の前にいた爺ちゃんは唐突に笑った俺に驚く様子を見せる。俺は爺ちゃんに変な姿を見られたと気付くと、咄嗟に誤魔化した。

 

「ああ、いや、昨日さ見てたお笑いの番組を思い出したら、面白くってさ。アハハ」

 

 必死に誤魔化す俺をきょとんとした目で見つめる爺ちゃん。そんな目で見られると、俺がイタイ人みたいじゃん!

 

 だが、どうしたことか、爺ちゃんも唐突に笑い出した。

 

「ハッハッ、ヨウ、お前は変わったな」

 

 その時、朗らかに笑う爺ちゃんを初めて見た気がした。俺のことに対して、こんなに笑うのかと思い知った。そして、俺が変わったと爺ちゃんに言われた時、少しだけ嬉しかった。

 

「そう、例えば?」

 

「ん?なに、別に何処が変わったと分かるわけではない。ただ、ヨウ、お前という人そのものが変わったんじゃよ。敢えて指摘するのなら……」

 

 爺ちゃんは自分の胸に指差した。

 

胸の奥(ここ)じゃよ—————」

 

 変わった。確かに俺はこの聖杯戦争で見違えるほど変わったのかもしれない。何かに前向きになろうという姿勢。生きるってこと。人であるがためのこと。あとは、誰かを守りたいって切実な想い。

 

 色々なことを知って、色々な変化を遂げて、俺の心は変わって。変わることは素晴らしい希望であり、暗い恐怖でもある。

 

 爺ちゃんは俺を羨ましそうに見つめる。

 

「お前は良いな。変化の可能性がある。人とは実に輝かしい命だな」

 

「爺ちゃん、どうしたのさ?急に何言いだしてんの?」

 

「いや、孫が成長していく姿を見て、感慨深いものもあるなと思っただけのことよ」

 

 そう言うと箸を揃えて膳の前に置く。ごちそうさまでしたの挨拶をして、顔を上げた爺ちゃんの顔は俺が見たこともないような冷たい顔だった。

 

「—————儂は変われぬ存在だからの」

 

 その言葉が何を示唆しているのか、この世界の俺は分からなかった。ただ、どうしようもない絶対的な運命のことを言っているのだと、それだけは理解した。

 

「おお、そういえば今日の郵便受けにこんなものが入っていたぞ」

 

 話をはぐらかすかのように一旦席から立ち上がり、郵便受けから取ってきた新聞やら何やらをゴソゴソと漁りだした。そして、目的の物が見つかったのか、席に座って、俺の目の前に差し出した。

 

「これは?」

 

 手渡されたのは紙っぺら。

 

「プラネタリウムじゃよ」

 

「プラネタリウム……。それって、ついこの前新しく作られたっていう中心街の?」

 

「ああ、そうじゃよ。その割引チケットが新聞と一緒に挟んでおった」

 

 そのチケットをまじまじと見てみる。背景が星空で、そこに大きく割引などと書いてある。それはそれでいいのだが、幻想的なはずの星空に金のことを書かれてもどうかと思う。

 

「どうじゃ?今日とか休みじゃろう?あの、外国の女の子と一緒に行ったらどうじゃ?」

 

「いや、あの子とはそういう関係じゃなくて……。いや、まぁ、確かに変なこと言ったけどさ……」

 

「そ、そうです!わ、私とヨウはそんな関係なんかじゃありません!」

 

 セイバーは爺ちゃんに聞こえないというのに、俺とのテレパシーで反論する。

 

「儂もこんな歳じゃし、いつコロッと逝くかも分からんしなぁ。早よ、可愛いひ孫が見たいのぅ〜」

 

 爺ちゃんはチラリと横目で俺を見る。意味深、というか結構ダイレクトに言われたかも。

 

「なぁ、なぁッ⁉︎そ、そ、それはどういうことですか⁉︎」

 

 セイバーもセイバーで恥ずかしがっている。きっと赤面しているのだろう。だが、それは二の次で、言いたいことは他にもある。

 

 テレパシーで反論するのやめてもらえないかな。俺に言うなら、もう一層の事、直接言ってほしいものである。まぁ、実体化する時点でそれもそれでダメなのだが。

 

 爺ちゃんは俺にチケットを渡すと、ご機嫌な様子でリビングから出ていった。残された俺は渡されたチケットを再度見る。

 

「プラネタリウムかぁ〜。そういや、小学生の頃以来、行ったこともなかったしな。セイバー、行くか?」

 

 俺がセイバーに話しかけるとセイバーはう〜んと唸り声を上げた。

 

「プラネタリウムですかぁ……。でも、ニュースでも見ましたよね?バーサーカーの少年が騒動を起こしたって。今夜辺り、何か大きなことが起きるんじゃないですか?だから……」

 

「いや、行こうぜ。どうせ、その何か起こる夜までまだ時間あるし」

 

「まぁ、はい。そうですね。そうしましょうか」

 

 セイバーの声は少しだけ高く抑揚のある声になった。聞いている俺の胸も踊るような。

 

「じゃあ、行こうか」

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 織丘市の中心部。近年、住民が増加傾向にある織丘市内でも、特に市政が力を入れて素晴らしくしようと意気込んでいる場所。中心部に行けば、基本何でもあるし、買い物に行けばあれが欲しい、これも欲しいで財布を痩せさせる主婦の敵。俺の財布の鬼である。

 

「着いたぞ。中心部」

 

 バスから降りたセイバーは目の前に盛大に広がる中心部の街並みに目を輝かせた。

 

「わぁ〜、スゴい!ここが、織丘市の商業の中心部なのですね?」

 

「ああ、うん。まぁ、そうだな」

 

「色んな店舗がそんじょそこらにあります!飲食店に、コンビニ、花屋に、お菓子屋さん、本屋、服屋、家具屋!目の前にこれほどの店が広がっているなんてっ!」

 

 童心に返ったようである。好奇心が全面に出て、自分が居た時代と今の時代との変わり様に歓喜している。セイバーは時代の差を感じる時、いつも何処かしらに悲しみを感じていたが、このような場合では喜びしか感じないのだろう。いや、悲しみを感じてはいるかもしれないが、その悲しみを好奇心が押しつぶしているのかもしれない。

 

 セイバーは俺の肩をポンポンと叩いた。

 

「ヨウ、あそこのお店行きましょうよ!」

 

「いや、まずプラネタリウムが先だ。先に買い物したら、歩くの大変だしな」

 

「えぇ〜。ダメですか?」

 

「ダメ!絶対!」

 

 そんなわけで、お店には目を向けず、目的地まで移動する。

 

「ほい、ここが織丘コスモステーション」

 

「ここにプラネタリウムがあるんですか?」

 

「そう」

 

 織丘コスモステーション。最近新しくこの中心部に出来た宇宙のことについてのものが展示されている館である。織丘歴史博物館と併設されており、子供とかが夏休みの自由研究の宿題とかに使いそうな場所である。

 

「で、そ、そのぅ……、ここに来てからではなんですが……」

 

「何さ、そんな畏まって」

 

「その、プ、プラネタリウムとはどのようなものなのでしょうか……」

 

 ……。

 

 あっ、そういうパターンか。

 

 大丈夫、俺は咄嗟の状況にも瞬時に対応できる男。何でもそつなくこなすクールな男。だから、これしきのことで戸惑う俺ではない。

 

 パァァンッ‼︎

 

 と、瞬時にポケットから取り出したハリセンをセイバーの頭に叩き込む。

 

「イタァッ‼︎まったく、何するんですかッ⁉︎って、何処からそんな物取り出したんですか⁉︎何処にそんな武器をッ⁉︎」

 

「いや、ポケットから瞬時に作り出した。そこへの詮索は止めてくれ。それが、この世界のルールだろ」

 

「この世界のルール?ま、まぁ、それはいいとして、何で殴るんですか⁉︎」

 

「殴ってねぇよ!叩いただけだ!誤字、言葉の誤り!」

 

「特にそんな変わりなんてありませんよ!そんなとこに拘らない!」

 

「拘るわ!殴るより、叩くの方が暴力的じゃないだろ!」

 

「だから変わんないって言っているでしょ!まったくもう、ヨウは頑固ですね!」

 

「ドコが頑固なんじゃい‼︎」

 

「そういうところが頑固なんですよ‼︎」

 

 建物の前で罵詈雑言が二人の間に飛び交う。そんなことしても、話が終着しそうにないので、一旦、落ち着くことにした。

 

 例のプラネタリウムがあるコスモステーションの花壇の段差にチョコンと二人並んで座る。

 

「で、何でヨウは私を殴ったんですか?」

 

「殴ってない。叩いた」

 

「……ッ、は、叩いたんですか……?」

 

「いや、まさかここに来てプラネタリウムって何っていうまさかの質問が出てきたからな」

 

「ま、まさかの質問とは?」

 

「いや、そのまま受け取ってくれて構わねーよ。普通なら、『プラネタリウムって何円くらいなんですか?』とか、『入場料とかかかりますか?』とか、そんなもんだろうよ」

 

「殆ど金の話じゃないですか!」

 

「バカ野郎、金はこの世界を支えてくれてんだぞ。お金様々だろ」

 

 そこだけは割と本気で答える。すると、セイバーはガチで軽蔑の目を向ける。

 

「え?何でそんな目を向けるのさ。お前、お金のスゴさが分からないな?」

 

「……いや、もう、ヨウは救出不可能なバーサーカー領域にいるなと察してしまいました」

 

「ファッ⁉︎俺を救出⁉︎何のことだ⁉︎」

 

「も、もういいです。ヨウはもういいですよ。はい、しょうがないですよね。小さい頃から家事に追われ、家計の管理に根を詰めているヨウは節約の虫にもなりますよね。もう、そこまできたら、それこそ主婦魂の悪化バージョンとでも言うのでしょうか……」

 

 セイバーが何を言っているのか俺にはさっぱりと分からなかったが、取り敢えず頭ごなしにディスられて、それで完結されたっていうことだけ分かった。

 

 セイバーは憐れむような目で俺を見つめる。その目を見ると無性に苛立ってしまうのは何故だろうか。

 

 そんなセイバーに厳格に抗議しようとしたら、セイバーは顔を赤らめている。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

 俺がそう尋ねるが、セイバーは何も話そうとしない。ただ前を指差すだけだった。その指差した方向を俺は見るとそこには何やら男女のカップルがいる。そのカップルはいかにもラブラブな恋人ですっていう肩書きが付いているような仲だ。その二人組は終始イチャイチャしながらコスモステーションの中に入って行った。

 

「いや、それがどうしたんだよ」

 

「わ、分かんないんですか……?そ、その、さ、さっきから、ああいう人たちが建物に入って行っているんです……」

 

「うん、そう……」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……は?

 

「いやいや、で?だから、どうしたってんだ?」

 

「ヨウは分からないんですか?こ、この建物に入って行く人たちの殆どがカップルですよ?」

 

「へぇ〜」

 

 ……で、だからどうした?という気分である。まったく、どうでもいいではないか。他の奴らがカップルばっかでも別に俺たちがどうこうなるわけでもない。

 

「ヨ、ヨウ、まさかこのプラネタリウムとは新手のラブホテルですか?」

 

「いや、流石にそれはないわ。それはプラネタリウムの従業員に言ってはならない言葉だから。っていうか、ラブホって言葉を知ってるなら、プラネタリウムぐらい知っておけよ」

 

 セイバーはまだまだ現代常識を知り得ていない。この一ヶ月間、彼女は何をしていたのだろうかと疑問に思えてきた。

 

 そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「ねぇねぇ、ソージ、ここがプラネタリウムって所なのッ—————⁉︎」

 

 太陽のように赤く腰まで垂れ下がった髪をふわりと揺らしながら後ろを振り返る少女。その少女の目線の先には一見弱そうな高身長の若い男の人が立っていた。しかし、その弱そうな体は実は着痩せのフェイクであろう。ちらりと見える彼の腕は隆々としており、筋肉の筋がくっきりと皮を通して浮き出ている。

 

 いつぞやどこかで見た二人組。その二人組を見て、俺とセイバーは唖然とする。

 

「ヨウ、あれって、例の……」

 

「いや、セイバー、きっと見間違いだ。あり得るはずがない。こんなところで、ばったり?笑わせるな」

 

 俺とセイバーがこそこそと話していたら、その話を聞いていたかのように二人組の会話は耳を疑うものとなる。

 

「キャスター、プラネタリウムではあんまり大声出さないでね。周りのお客さんの迷惑になっちゃうから」

 

「そーゆーソージこそ、外ではその名前で呼ばないでください!他の参加者が近くにいたらどうするんですか?また、戦わないといけないんですよ?そしたら、ソージがまた痛い目に遭うんですよ?私はイヤ!そんなのゼェェェッタイにイヤ‼︎」

 

「分かった。分かったから。キャスターって呼ばないから」

 

「あー!また、その名前で呼んだ‼︎ダーメ!それ、ゼッタイにダメ!私のことをヒーちゃんって呼んでください!」

 

「それこそ、本当にアウトな気が……」

 

「ヤーダ!ソージがそう呼んでくれないと、私ヤダ!」

 

「はぁ……。分かったよ。ヒーちゃん」

 

「ヤッタァ!私のこと、ちゃんと呼んでくれたぁ!ヤッタァ!ソージ、ダイスキー‼︎」

 

 何ともバカで低脳な会話でしかないと思うだろう。実際、今の俺もそう思っている。今の話を聞いてて、なんか物凄い時間の無駄をしたなと思えてきた。

 

 セイバーも俺と同じ顔をしている。無色、死んだ目をしている。

 

 例の二人組もイチャイチャしながら、建物の中に入って行った。

 

「……ヨウ、あれはやはり……」

 

「セイバー、その先は言うんじゃない。言ったら負けだ」

 

「え?言ったら負け?ま、まぁ、よく分かりませんが、一応ヨウも理解しているようなので……」

 

 俺は立ち上がった。そして、入り口とは逆方向に移動する。そんな俺の服の裾をセイバーは掴み進行を妨げる。

 

「ちょっと、何処行くんですか?」

 

「いや、他の場所、行かない?」

 

「プラネタリウムはどうするんですか?」

 

「いや、後で。今、行ったらなんかヤバそう」

 

「ヤバそう?そうですか?私としてはあのキャスターなら、戦闘などしなくても良い気が……」

 

「そういう問題じゃなくて。いや、まぁ、そういう問題なんだけどさ……」

 

 話が膠着した。すると、セイバーは強引に俺を引いて、入り口に近づこうとする。

 

「やっぱり、なんか今行かないとダメな気がします。行きましょう!」

 

「いやいや、何で⁉︎」

 

「何でもです!少し、キャスターの現在状況を確認したいという気持ちもありますし……」

 

「ありますし?」

 

「それ以外にも、ここでプラネタリウムというものを見れなかったら、一生プラネタリウムというものを見れない気がします」

 

 セイバーはそう言うと、力ずくで建物の中に入ろうとする。俺は彼女の確固たる決意に勝てないと知り、渋々建物の中に入った。

 

 入り口は受付になっていて、どうやらそこで入場料を取るらしい。小学生以下は無料、中学生は四百円、高校生以上は六百円と受付の上にある料金表に書いてあった。

 

 うん、なかなか高いじゃないか。なんだこの値段は。高校生は六百円だと?ボッタクリじゃないのか?俺とセイバーで千二百円も払わないといけないんだぞ?俺の財布になんと悪いのだろうか。

 

 セイバーをマジマジと見る。こいつなら中学生でもいけるかと鑑みたが、やはり高校生の俺が隣にいて、同じ歳ぐらいにしか見えないだろう。まぁ、つまり、セイバーに中学生役は無理そうである。

 

 俺は財布の中身を見た。ここから千二百円がプラネタリウムのために消えるのかと思うと胸が苦しくなる。

 

「……あっ、そういえば割引チケットがあったんだ」

 

 割引チケットの存在を思い出し、ポケットの中からチケットを取り出す。チケットは一人につき一枚有効なようで、二百円引きのようだ。

 

 よし、これを使うか。

 

 受付の前に行き、所持していたチケットを出しながら入場料を払おうとした。その時、受付のお姉さんが、なんとまぁ、凄いことを俺たちに聞いてきた。

 

「こちらの割引チケットをご使用ですか?こちらのチケットはカップル限定で使用可能となっておりますが……」

 

 受付のお姉さんはそう言うと、チケットの裏側のところを指差した。そこにはなんと、恋人限定と書いてあるではないか。

 

 実はこの割引チケット、恋人限定使用可能のチケットで、表にもそのように書いてあったのだが、なんと俺はその文字よりも割引という文字に目が行ってしまったため気付かなかったのである。

 

「ま、まじか……」

 

 一度目を深く閉じる。そして、また目を開きチケットを確認する。が、やはりそこにある文字は変わらずそこにあり、夢だったとか見間違いとかそんなことで片付けられそうにもない。

 

「恋人かぁ……」

 

 隣にいるセイバーを見る。セイバーはモチっとした頰をさらに膨らませる。

 

「な、何ですか?嫌なんですか?私とか、か、カップルっていうのが……」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……。いいの?俺とカップルで?」

 

「良いですよ。どうせ、割引のためのカップルなんですから」

 

「おお、流石。よう分かってるじゃん」

 

 セイバーは俺にカップルであると言ってもいいと伝えるが、やはり前置きとして割引のためのカップルである。別にそれがどうしたとか、それでどうこうあるわけではないが、ああ、そうなのかと思わされた。

 

「か、カップルです……」

 

 セイバーと腕を軽く掴みながら、受付の人に宣言する。その時、恥ずかしいという思いが若干あったが、それ以外にも他の思いがあって、少し声が小さくなってしまった。受付の人は俺がカップルたと了承すると、二人分のチケットを差し出した。そのチケットの一枚をセイバーに渡すと、セイバーはチケットをじっと見つめる。

 

「これが入場券ですか?」

 

「そ。これ持って、入場口に行けば入れんの」

 

 セイバーは俺の後ろにくっ付くようにして歩いている。俺は後ろにいる彼女の見本ということ。じっと俺の行動を観察する彼女の純粋な知識欲の目が体の隅々まで見られているようでなんか嫌な感じしかしない。

 

 まぁ、しょうがない。彼女はそのことをよく分かっていないようだから。

 

 入場口で券を係員の人に渡す。係員の人は手際よく券の予め刻まれた切り込み線に沿って千切る。セイバーは、オォーと感嘆しながら小さくなった券を手に収めた。

 

「お前、券をそんなに強く握るなよ。クシャクシャになっちゃうだろ?」

 

「あっ、そ、そうですね。すみません。つい、あんなことも私たちの頃にはなかったですから。物珍しくて、凄いなって」

 

「そうか」

 

 彼女のキラキラとした目はあまりに眩しすぎる。そして、そんな目をしている彼女にとって、ここは異世界のようなもの。彼女が元いた世界ではないのだと現実を押し付けられた。

 

「見に行こうか、プラネタリウム」

 

「はい!」

 

 笑う彼女のえくぼ。そのえくぼがいつまでもその顔に刻まれていてほしい。

 

 それはきっと、彼女が過去に帰ることが一番の道なのだろうとふと感じた。





さぁさぁ、プラネタリウム。皆様は見た経験があるでしょうか?綺麗ですよね〜、室内にいるなんて思えないほどです。

さてさて、あと一応ご報告です。

この物語は3ルートあると言っておりますが、話は一本で通っております。パラレルワールド的な、可能性で3つの結果が……、などではございません。

しっかりと、話は繋がっております。それだけはご理解を。

まぁ、そんなこと言ったって、この第一ルートでは気付く要素などほぼ皆無なんですけどね……。

分かりにくいかと思い、一応の補足でございます。

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