Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい。Gヘッドです!

市長の身の上話が出てきて、あのキャラについても語られ始める⁉︎


最初で最大の誤算は

 セイバーは市長に何故アーチャーを召還したのかと尋ねた。それは彼女が彼女なりにアーチャーの娘であると自覚しての質問だった。アーチャーのことをまったくもって知らない。だからこそ、知りたいと彼女は思っていたのだから、彼が召還された時のことも詳しく知りたいのだろう。

 

 アーチャーのことを知ることは言ってしまえば彼女自身のことを知ることに他ならない。彼女は生前、自分の出生で悩んだ。悩んだ挙句、義父を激情に駆られて殺すということまでしてしまった。彼女はその罪を背負い続けながらも、未だに出生のことを知りたがっていた。つまり、それはアーチャーのことを知るということ。自分の父はどのような人なのかということが知りたいのだ。

 

 市長は隠す気などないらしい。

 

「彼は私にとって一番最初の誤算よ。そして、一番に大きな誤算だった—————」

 

 誤算、それはつまり彼を召還したことが間違いだということ。彼との仲は悪かったのだろうか。

 

「私の願いはこの聖杯戦争が手っ取り早く終わることだったの。市長という役職ってこともあるけれど、それだけじゃない。私はこの街が好きだから。だから、聖杯戦争でこの街を壊されたら堪ったものじゃない。それゆえに、私はこの街を守護するサーヴァントを欲した。せめて、聖杯戦争を穏便に素早く終わらせる強いサーヴァントが欲しかった」

 

 市長はこの街が好きだと言う。海があり、川があり、山があり、空がある。自然に囲まれた都会。全てを兼ね備えていて、そんなこの街を愛していた。だから、彼女はこの街を守りたかったのだ。前回のアサシンによる大量殺戮なんてことが二度と起きないようにしたかったのだ。

 

 サーヴァントにはサーヴァントを。そう考えたのだろう。その思考の先ある結論は自らが聖杯戦争に参加すること。その結果がアーチャーを召還した。

 

「だけど、私はアーチャー、またはアサシンのサーヴァント以外は召還したくなかった。私はある病気を患っているの」

 

「病気を患っている?」

 

「ええ、血友病っていうものなんだけど……。知ってるかしら?」

 

「血友病?いや、知らねーっすわ」

 

 俺が知らないと口にすると、隣にいたセイギは俺を鼻で笑った。

 

「僕は知ってますよ」

 

 そう言った後に横目で俺の方を見てドヤ顔してくる。その顔、めちゃくちゃにしてやりたいわ。

 

 血友病、それは遺伝子に異常があり発症する病気。血液を凝固させる因子の機能が低い、あるいは一部欠けているために止血に正常な人よりも時間がかかる体質の人たちを呼ぶ。出血した場合、血が止まりにくいので軽い出血でも大きな血腫になったりとすることもある。軽い運動はできるものの、大怪我を負う可能性のある過度な運動ができないなど制限が生じる。

 

 ああ、何となく分かった気がする。

 

 聖杯戦争に怪我は付き物。特に大怪我をしないこともなくはないが、やはり相当数の聖杯戦争参加者が少なくとも軽傷を負う。彼女の血友病は軽度の出血でも大きな事態になることもある。運が彼女を毛嫌いしていれば、死ぬかもしれない。だから、彼女はアーチャーを召還する必要があった。アーチャーというクラスは必ず保有するクラススキル『単独行動』。このスキルが彼女にとっては何よりも必要なものだったのだろう。

 

 彼女はサーヴァントたちからこの街を守りたかった。だからサーヴァントにはサーヴァントをぶつけた。聖杯戦争の舞台に立つことによりこの街を守ろうとしたのだ。そして、戦えぬ自分に一番適しているとして召還しようとしたのがアーチャーである。アーチャーこそが彼女に一番最適なクラスだった。

 

 そして市長は望み通りアーチャーの召還に成功する。

 

 ただ、その時点で彼女が思い描いていた予想の歯車は噛み合わさってなどいなかった。

 

「血友病だから、私はアーチャーを召還した。なるべくアーチャーのクラスにしか呼ばれないようなサーヴァントを召還したつもりだったのだけれど、現れたのはあいつ。その時は召還しようとしていたサーヴァントが現れたって思って凄く嬉しかったのだけれど、そのサーヴァントと彼は全くもって別物よ」

 

「元々はお父……、アーチャーを召還しようとしていたわけではないのですか?」

 

「そうよ。あなたのお父さんは私を、いえ、この聖杯戦争のシステムを欺いたの」

 

 それはつまり、聖杯戦争のシステムに嘘をついていたということ。あの男、何でもかんでもやりたい放題ではないか。どれだけ(セイバー)を思っていたのやら。

 

「先の話にも出たように、この聖杯戦争はツクヨミのバックアップを受けている。だけれど、彼はどういうことかそのツクヨミにまでも嘘をついた。そう、自分の真名を偽ったの」

 

「じゃぁ、それで召還したかったサーヴァントとは別のサーヴァント、シグムンドが……」

 

「だから言ったでしょ?私にとって彼は最初の誤算だって。それでもって、最大の誤算。こっちにしてみればとんだ迷惑よ。あなたたちの親子愛のせいで、私はこの街を守れそうにないじゃない……」

 

 セイバーは下を向き、何も言い返せなかった。市長の言っていることは自分の欲望も混ざってはいるが、彼女の行動の理念と目的はなんら間違っていない。むしろ、この街を、人々の危険を脅かしてまで成就されようとした二人の親子愛こそ功利主義的に言えば間違いである。

 

 アーチャーの行動は間違いであったとは誰も思わないし、誰も言わない。素晴らしい親子愛によって引き起こされた結果だと誰もがそう思う。ただ、やはり彼は他の人たちを危険に遭わせ過ぎた。

 

 市長もアーチャーのことを述べると、少しだけ後ろめたそうな表情を浮かべる。それはきっとアーチャーに対する令呪を少年に譲渡したことについてだろう。ただ、彼女はそのことについての話を切り出そうとしなかったので、俺たちもそのことについての話は一切関わらないつもりである。

 

「—————この街だけは守ってくれればそれでいいの」

 

 俺たちにそう言い聞かせる。それを言う時の彼女は自分自身の矛盾を感じていただろう。

 

 彼女は街を守りたい。そう願っているのなら、それはそれで構わない。だが、彼女が令呪を譲渡した相手はあのバーサーカーを携えた少年である。彼は子供にしては若干イカれた強い破壊欲求があり、ヤバい子。そんな子にアーチャーの令呪を託すということは、どうぞ街を破壊してくださいと言っているようなもの。それこそ、彼女の言動の矛盾である。

 

 守りたいなら、少年に令呪を譲渡しない。なのに、何故市長は令呪を譲渡したのか。

 

 一切関わるつもりはない。だが、やはり気になる。

 

 俺が虚偽の疑いを市長に向けていると、セイギが怖い笑顔を作り出した。

 

「あと、僕からはお願いがあるんですけど……、僕のこと監視し過ぎじゃありませんか?そろそろ監視の使い魔の数減らさないとキレますよ?」

 

 セイギは笑ったまま怒っている。怖い。市長もその笑顔なのか憤怒の顔なのかよく分かんない態度に、ニッコリ笑顔で対応している。市長も怖い。

 

 どうやらセイギの話から聞くに、毎日毎日監視の使い魔の数が異常な程多く困っているらしい。俺の監視にも使い魔がついているらしいが、生憎俺は魔力の探知が一切できないので、ある意味では誰かに見られているという感覚もなく気にならない。セイギは俺の二倍ほどの使い魔の数が付いているため、毎日苦労しているんだとか。

 

「あら?私の使い魔があなたを監視(ストーカー)していると?ご冗談はやめて下さい。私はそのようなこと致しておりませんし、その証拠は何処にあるのですか?それに、もし使い魔を監視させていたとしても、前回の聖杯戦争の大事件を引き起こしたアサシンのマスターの弟子であるあなたが師を越えたいと思いアサシンを召還したのですから、街を守りたいと考える私にとっては危険人物も同然でしょう」

 

 二人の間に生じた火花が段々と大きくなっているように思える。セイギも市長も顔つきは一切変えないが、やはりその顔の中は物凄い形相なのだろう。

 

 これが現代の魔術師の姿なのだと知った。互いに顔を変えず、妙な空気が流れる空間で口論をする。なんと窮屈なのだろうか。

 

 やはり俺は魔術師に向いてないらしい。市長はいつか俺が立派な魔術師になったら教えてあげると言ったが、どうやらそんな日は来ないのかもしれない。

 

 それから少しの間セイギと市長のネチネチとした言い争いは続いた。だが、そこを何とか二人の機嫌を良くしようと仲介役に入ったら二人とも静かになった。というより、仲介役に入った俺が二人にコテンパンにされて、そのことを二人は自重したので自然と収まった。つまり、俺の身を犠牲にしてなのだが、ここで俺が止めなかったらきっと明日まで口論が続いていただろう。

 

 まぁ、とにかく言い争いは終わり、俺たちはもう用がなくなった。ここに来る目的は大体達成できたし、予想以上の収穫もあった。

 

 よし、帰って寝るか。なんか、色々と疲れた。現在時刻は午後三時。今帰って寝れば、夜には気分絶好調だろう。

 

 俺はセイギに目で合図を送る。セイギはその合図を悟り、目頭を手で押さえてため息を吐いた。

 

「市長、すいません。僕たちはそろそろ帰らせていただきます。夜まで休息を取りたいので」

 

 そう市長に伝えると、彼は席を立った。行こうか、と声をかけられた俺は彼の歩いたところを歩くように部屋のドアに向かう。市長はそんな俺たちを見て、何かを悩んでいるようにそっと目を逸らした。

 

 言いたくても言えないということがあるが、現在の状況こそそういうことだろう。鎖に縛られて、思うように発言できない姿は、さっきまでの堂々と胸を張っていた市長とは大違い。俺たちの後ろにいる市長は、市長としてではなく、一人の女性としての姿なのだ。

 

 それでも、時には言わねばならぬこともある。そこで覚悟を決めて、勇気を振り絞って一歩を踏み出さなければ最悪の終わりを迎えることとなろう。

 

「その……、あなたたちはバーサーカーの少年と戦うのかしら—————?」

 

「そうですね。多分、彼と戦うことは免れることなどないでしょう。彼は子供にしては行き過ぎた破壊欲求がありますし、彼の望みを叶えさせようとは微塵も思いません」

 

 セイギは市長の態度の違いに気付いたが、表情も口調も変えることはなかった。容赦しないと言うと聞こえは悪いが、まさにその感じ。市長と少年の間には何かある繋がりがあるんだと分かっていたけど、セイギはそこに気を許すような男ではない。聖杯戦争は命の賭け事。だから、どんなことがあっても、彼は心を揺らすことなどない。

 

 深入りはしない。ただ、市長が自らその話を持ちだして来れば聞く。そう考えていた俺は市長の優柔不断さを見て、憐れと感じた。ここまで彼女の心を揺さぶる何があるのかと気になるよりも、その動揺の理由を俺たちに打ち明けられない彼女の心の弱さが滑稽と思える。

 

 それでもって、何処か俺に似ている節があると痛感する。自分を見ているみたいだ。

 

 自分の弱みを人に言えない。それこそが一番人間として弱いことなのだ。

 

「何が言いたいんですか?」

 

 つい助け舟を出してしまった。深入りもしないし、話を自分から聞く気もなかった。滑稽だと思えていたのに、見ていると自分の弱さを見ているようでイライラしてくる。

 

 市長は左腕を握りながら俯いていたが、俺たちと目を合わせた。そして、彼女は俺たちに向かって頭を垂れる。これはきっと謝罪よりも、感謝よりも、懇願。

 

「お願いします。あの子を、どうか殺さないで下さい—————」

 

 深々と下げられた頭を見た俺たちは驚いた。きっと彼女は何か後ろめたいことをしたから謝罪をするのかと思ってはいたが、まさかお願いされるとは思ってもいなかった。そればかりか、その内容がバーサーカーの少年を殺すなということ。

 

「あの子は私の甥なんです。前回の聖杯戦争で亡くなった姉の大切なたった一人の子。だから、どうか彼の命だけは見逃してあげてください」

 

 さっきと比べて謙った口調と弱くハッキリとした芯のない声。あの少年の身の上を教えられて、助けてやってくれとお願いされて。だけど、自分では何もする気などないというように他人任せなようにも感じられる。

 

「僕たちは今、聖杯戦争という舞台に立っている。そして、あの少年も命を懸けてまでもこの舞台に立ったんだ。だから、彼が殺されても何にも文句は言えないし、どうしても助けたいと思うのならあなたが助ければいい話だと思います。あなたが命を落としてまでも、あの少年を助けたいと思うのなら別ですが……」

 

 至極真っ当、正論で彼女の願いをセイギは跳ね除けた。俺たちだって死ぬかもしれないこの聖杯戦争で、そう安々と人の願いを叶えさせようだなんて思えるわけがない。どんなに必死に懇願しようと、こっちだって必死。

 

 市長はセイギにあっけなく一蹴されると、悔しそうに下唇を噛んだ。ただそこにセイギに対しての恨みがあったというわけではない。焦燥が滲み出ていた。

 

「私が彼を守る資格なんてない……、だって私が彼を見捨てたのだから」





さぁ、次回は少年の話でございます。

バーサーカーの少年、何やら訳ありのようです。

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