Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

さぁ、今回はこの聖杯戦争の根源について詳しく掘っていきます。そして、ヨウ君に異変が……?


彼女は語る、聖杯を

 彼女の名は藤原八千代。この織丘市の市役所のトップに抜擢された美人市長。歳は三十歳。高学歴、そして持ち得るカリスマ性から四年前に市長選に当選して以来、株は上がる一方である。

 

 また、日本有数の魔術財閥、陰陽道を極める藤原家の若き女当主でもあるのだ。魔術においては、女性でも男性と基本的に対等な土俵のため、男尊女卑の考えが廃れた地域では女性が当主になることは少なくない。その中の一人が彼女なのだ。

 

 そして、彼女はこの聖杯戦争のマスターであった人物。アーチャーを召還し、そして敗れた。

 

 その女性が今、俺の目の前にいる。

 

 きちんとしたスーツ姿。肩まで伸びている短い髪の艶やかなことこの上なく、首筋の鎖骨は大人の女性としての美しさを象徴している。凛とした立ち姿の中に光る淑女の魅力。決して若くはないが、これはこれでいけるかもと思えるほどの姿は年上好きの男ならグッとくる。

 

 実は俺、年下か年上かと問われれば、年上と答えるタイプの人である。許容範囲は十五歳から三十歳まで。もちろん、俺の今の歳が十七だから、歳が上がれば俺の許容範囲も底上げされるが、今のところ基本的にはその範囲。

 

 そんでもって、今回俺の目の前にいる大人の色気を漂わせている淑女は俺の許容範囲内。実年齢的にもオッケーだし、見た目年齢は二十八歳くらいでさらに好印象。

 

 澄ました顔をする俺。その顔をセイギは覗き込んで、目の奥の俺の下心を見ようとする。

 

「ねぇ、ヨウ、何を考えているの?この人、市長さんだよ?……そういえばヨウって、年上の人好みだったけど……。まさか……」

 

「お前が俺をここに連れてきたんだろ。俺は悪くない」

 

 あくまで俺に罪はないと主張する。そんな俺にセイギは頭を悩ませた。

 

 藤原市長はそんな男子高校生二人の会話を不思議そうに眺めている。

 

 それもそのはず。彼女はアーチャーのマスターだったのだ。理由がどうであれ、彼女は敗退し、俺たちは生き残っている。何故俺たちみたいな高校生が聖杯戦争で生き残れるのかという疑問を抱いているような表情をする。

 

「あなたがヨウくん?情報は調べたつもりだったのだけれど、まさか君みたいな子だったとは……。予想と少し違った子ね」

 

 それはどういうことだろうか。きっと、彼女の予想していた俺という存在は聖杯戦争に勝ち残るような何かを持ち合わせている人なのかもしれない。膨大な魔力、圧倒的なカリスマ、非道な狡猾さ、名探偵顔負けの洞察力、異常なまでの身体能力などを。だが、生憎俺にはその何一つも持ち合わせてなどいない。あるとすれば、ここまで生き残れた運だけである。

 

「ご希望にお応えできず、申し訳ございませんね……」

 

 さっきの言葉が若干癪に触る。いや、確かに彼女がそう思うのも納得だし、俺自身も自分が生き残れていることに驚いている。だが、それでも普通、そういうことは堂々と口に出さず、心の中で止めておくのではなかろうか。

 

 セイギは俺のことに気がついたようで、俺を軽くフォローしようとした。

 

「こ、これでも案外すごいんですよ。魔術の腕はまだまだでも、剣の腕はセイバーよりも良くて、実戦でもライダーと戦って生き残っていますから」

 

 これでもとは何だ?これでもとは。いや、まぁ、ここはフォローしてくれているのだし、少し多めに見よう。

 

 市長は俺の体をじっと見つめた。俺の体を、いや、その体の奥底にある何かを見るように。

 

「そうなの。じゃあ、お母さんより、お父さん似なのね—————?」

 

 ……え?それはどういうことだろうか?俺は母さんよりも、父さんに似ているというのは。顔か?性格か?何が似ているのだ?

 

「そう、貴方はお母さん似の顔だし、てっきりお母さんの魔術体系なのかと思ったら、お父さんの剣技を極めているよう……」

 

「ちょっと待て、それって、俺の母さんと父さんを知ってるってことか?」

 

「知ってるも何も、前回の聖杯戦争には私の姉も参加していた。敵として、君のご両親は詳しく調べ上げたし、戦いもした」

 

「……それって、その……、お姉さんって生き残ってますか?」

 

 彼女は顔色一つ変えなかった。嫌そうな素振りを見せず、淡々とこう言った。

 

「死んだ、死んだわ。姉は聖杯戦争で負けた。伊場理道、彼の叔父さんのサーヴァントに殺された—————」

 

 そう言うと、市長はセイギに視線を移した。だが、セイギは狼狽えることなく、いけしゃあしゃあと笑顔を浮かべている。そんな顔を見ても、市長は感情を見せることなく、作った笑みを変えなかった。

 

「セイギ……、それって……」

 

「ん?ああ、そうだよ。事実だよ。でも、それがどうしたんだい?別にそれは僕とは関係ないし、それにお姉さんだって、自ら参戦したくて参戦したんだ。ヨウみたいな場合じゃないし、それで殺されたのなら自業自得としか言いようがない。そうでしょう、市長?」

 

「ええ、そうよ。だから、私は別に貴方は責めてなどいないわ」

 

 二人とも一切表情を変えない。微動だにしない顔はもちろん偽物の顔で、本当の顔がどんな顔なのか分からない。ただ、上辺だけの魔術師の世界がこうも怖いだなんて思っていなかったので、少し畏縮した。上辺だけの話し合いが実に怖い。

 

 彼女は高そうなソファに手先を向けた。

 

「まぁ、座って。今日は前回の聖杯戦争の話だけをしに来たのではないでしょ?今の、あなたたちがいる聖杯戦争についてのこと。過去よりも知るべきは今じゃないかしら」

 

 全くその通りである。過去のことを知れば、この聖杯戦争の歴史についてや、俺の両親の話を聞けるかもしれない。だが、やはり俺は今を生きているのであって、過去にはいない。過去を知って、今を良くすることもできなくはないが、知るのなら今の方が圧倒的に良い。過去の敵を知るよりも、今の敵を知るといったところだろうか。

 

 俺とセイギはソファに座った。座り心地は抜群である。尻を乗せると、クッションは反発せずにふわりと俺の尻を包み込む。高そうな革でできたソファだったので、硬いと思っていたが、予想と反していたので驚いた。さすが、市長室にあるソファ。柔らか過ぎる。

 

 気持ち良さそうな俺の顔を見たセイバーは目を細めて俺を睨んだ。そんなことをするためにここに来たのかと言われているようで、気を戻した。

 

 俺は堂々と市長に質問をした。

 

「—————聖杯の場所、あなたは知っていますか?」

 

 聖杯の場所。それはここまで勝ち残れている俺とセイギなら、知る権利がある。もし、聖杯戦争で聖杯を手にする権利を得たとしても、その聖杯がどこにあるのかを俺は知らない。

 

 それにセイギに聞くより、彼女に聞いた方がいいだろう。彼女は市長であり、聖杯戦争の参加者であり、魔術財閥の当主。知らないわけがない。

 

「ええ、もちろん。知っているわよ」

 

「本当ですか?じゃぁ、教えて……」

「でも、簡単には教えられない」

 

「え?何故ですか?」

 

 俺は彼女に尋ねた。すると、彼女は自分の胸に手を添えて、こう豪語した。

 

「あなたの願いが、私の願いの妨げとなるのなら、教えられるわけがない。いや、教えないわ。絶対にね」

 

 彼女は聖杯戦争で敗退している。彼女は聖杯を使用して望みを叶える権利などとうにありはしない。だが、彼女は胸を張り、傍若無人にそう言った。謎の自信が彼女から窺える。

 

「望み……ですか。俺の望みは……」

 

 考えてしまった。今、ここでふざけた答えを言えば、俺らしいだろうが、茶化された市長は若干嫌な印象を俺に対して持つだろう。彼女の知識は俺の知識を遥かに超えるし、その知識が俺には必要だった。

 

 望み。なんであろうか。俺の叶えたいと切実に思うことは。

 

 セイバーに救いを—————

 

 ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。何を考えているのだろうか。そんなことを考えるのなら、俺が王様のハーレム帝国でも作りたい。

 

 が、そんなことを言えるわけもなく、俺の返答は途切れてしまった。

 

「まだ、ないです。望みとか、そんなん考えてもないし、そもそも何でも叶えられるなんてこと自体がそもそも期待できないですし。漠然としたことを言われても、具体的にどうとかこうとかをすぐ言えるほど俺の頭は冴えちゃいないです」

 

「そう……。じゃあ、あなたに聖杯の場所は教えられないわ。ごめんなさい」

 

 彼女はそう言うと俺の質問を一蹴した。だが、俺はそこで食い下がれなかった。

 

「でも、誰かを守るため……っていうのはダメですか?別に聖杯で叶えたい願いなんて、まだ決まってないし、そもそも聖杯を掴み取れるビジョンが浮かばないけど、でもこの聖杯戦争を戦う理由はある。守るためって思いではダメですか—————?」

 

 俺は彼女の目をじっと見つめた。彼女は穏やかな目をしながらも一向にその顔の形を変えない。俺はダメだったかと落胆した。

 

 だが、彼女の目は本当に優しい柔らかな目になった。

 

「そう、守るため……。あなたは、アーチャーと同じことを言うわ。実に似ている」

 

「俺とあいつが似ている?」

 

「ええ、お互い誰かを守るためって所が。いや、似ているのではなく、一緒なのかしらね」

 

 俺は誰かのために戦うような男ではない。あくまで戦う時は俺のために戦うのであって、誰かさんのために頑張るなんて嫌だ。

 

 アーチャーと俺は根本的に違う。アーチャーは過去の業のようなものに囚われ、そして家族愛という狂愛のために死んだ。

 

 アーチャーの死はまるで桜のようだった。美しくも、何と儚いものなのかと感じてしまう。その散る美しさは心打たれた。

 

 だが、俺はそれら全てにおいてアーチャーとは全くとって別であると自負する。まず、そもそもそこんとこの信念が彼とは別物だし、美しく散りたいわけでもない。

 

「ふふふ、そこは今すぐに気付くことじゃない。ゆっくりと考えて、自分と向き合う。私にはそれができなかったから、負けたの」

 

 顔は一切変えない。背筋もピンと伸びたまま。だが、何故か彼女の言葉の雰囲気がふと重くなった。姿はさっきの怖い姿と変わらないのに、いつしか厚顔は剥がれていた。

 

「ええ、いいわ。教えてあげる。聖杯の在り処について」

 

 彼女は語る、聖杯を。

 

「聖杯はここにあるわ」

 

 彼女は人差し指を下に向けた。その事実に俺とセイバーは驚くしかなかった。

 

「ここって、市役所に……?」

 

「ああ、そういうことじゃないの。ここっていうのは、市役所ってことじゃなくて、もっと広い意味で」

 

 もっと広い意味で。その一言はあまりにも漠然としていて、よく分からなかった。

 

「それは、織丘市にあるってことですか?」

 

「そうよ」

 

「いや、それくらいは俺でも知ってます。だって、織丘でやるんだから、聖杯はここにないと……」

 

 そう言った後にすぐ、セイバーはこう口にした。

 

「—————まさか、この織丘の地自体が聖杯……とか?」

 

「ええ、正解」

 

 この地そのものが聖杯?それは、どういうことだ?だって、今はもう聖杯には六騎のサーヴァントの魂が溜まっており、もうすぐ溢れるはずなのだ。この地自体が聖杯だったら、この地がはっちゃかめっちゃかな混乱状態に陥るに違いない。嵐は吹き荒れ、落雷は所々に落ち、波は高く、森は騒めく。人がいられないほどの災害がこの地を襲うに決まっている。だって、聖杯は何でも願いを叶えられる願望機。だが、その力は強大で、大災害を引き寄せる。

 

「聖杯がこの地にあるって?そんなわけないじゃないですか。だって、聖杯がもうすぐ満ちるって今に災害や事件が何一つ起きちゃいない。徐々に聖杯にサーヴァントの魂が溜まれば、その分だけ禍を引き寄せる。聖杯は人類を滅ぼすかもしれないほど危ないものだし、世界も聖杯を壊そうと修正をかけてくるのも、その一つ。なのに、まだ世界は修正をかけていやしない!つまり、この地は安全じゃないのかよ?」

 

 俺の言っていることは筋が通っている。聖杯が呼び寄せる禍とは世界が聖杯を、聖杯戦争を壊すための修正のこと。だが、ここでそのような禍が何一つとして起きていない。

 

「そう、確かに誰もが普通そう考える。もちろん、私も最初はそう考えたし、聖杯がここにあるってことの証明は実物を見ない限りは憶測の域でしかない。だから、私の言っていることが戯言かもしれないけど、真剣に耳を傾けてほしいの」

 

「……分かりました」

 

 俺は口を閉じた。俺は彼女の考えを否定はしたが、彼女がどうも嘘をついているようには思えない。

 

「—————この地は、この世界の中で、一番世界が修正しにくい場所なの」

 

「世界が修正しにくい場所……?」

 

「世界が滅亡への道を根絶させるために行う修正。でも、この織丘の地は世界の修正力が一番届きにくい場所なの」

 

 まさかの事実。といっても、その事実がどれほどのことなのかよくわかんない。けど、多分すごいことなんだと思う。

 

「へぇ〜」

 

 曖昧な返事でその話を流そうとする。だが、セイギは横目で視界の中に入った俺に厳しい一言を言う。

 

「ヨウ、全然分かってないでしょ」

 

「あっ、はい。全然分かりません」

 

 セイギはため息を吐いた。

 

「重大なことなんだよ。簡単に言っちゃえば、この地は世界の修正力が届きにくいから、世界滅亡なんてことを聖杯に願ったら、修正力がかかる前に聖杯が願いを叶えてしまうかもしれないんだ。つまり、この聖杯、やろうと思えば世界滅亡なんてこともできるんだよ」

 

 彼の口からは物騒な言葉が出てきたが、正直言って世界滅亡だなんて言われても全然実感わかない。聖杯戦争最中は死ぬかもしれないという恐怖があるが、それでも世界が滅びることの想像はつかないのである。

 

「アーチャー、アーチャーがいたでしょ?彼は嘘をつく力を持っていた。それに私も騙されて、聖杯戦争に負けたのだけれど、それは不問よ。それよりも、アーチャーのすべてのパラメーターがオールEXっていうのを覚えているかしら?」

 

「え?まぁ、一応」

 

「あれはね、本来ならあんなことを起こした時点で、世界は神、いやそれ以上の存在を作り上げて、アーチャーを殺しに来るわ。だって、どんな英霊でもパラメーターがEXになるなんて、ほんの一握りしかいないのに、その全てを兼ね備えるなんてありえないの。世界の均衡が崩れてしまう。だけど、彼は徐々に体力を削がれてはいても、決定的な修正力は作用しなかった。これが、この市の呪いのようなもの。修正力が届きにくい。圧倒的に」

 

 言われてみればその通りだ。だって、あのバーサーカーの怪力もEXに及びはしなかった。あれほどの力でも到達できないのだ。

 

 オールEXなら、世界を滅ぼすことも可能かもしれないのに、世界はかすっちぃ修正力しかかけなかった。それはこの地の呪いだと市長は言う。

 

「この地は海、川、そして小さな山と大きな山の四つに囲まれた陸の孤島。プチ扇状地みたいな形。今は急速に都市化してきて、扇状地みたいには思えないけど、それでも昔は農家だってたくさんいた。そんなこの地は魔力を貯める器に適している。四つの遮物に囲まれていて、器のような形になっているの。そして、神零山にある小さな祠。この祠が聖杯の中に溜まっている魔力を溢れないように制御しているの」

 

「祠?それって、どこの神様を祀っているんですか?」

 

「月の神であり、暦の神とも呼ばれる大神、ツクヨミよ—————」

 

 ツクヨミ。月讀命、日本を創造したイザナギとイザナミから生まれし謎多き神。アマテラス、スサノオのこの三人はよく比較されるものの、ツクヨミだけが唯一と言っていいほど詳しく話を取り上げられていない神。

 

 月が東から昇り、そして月は西に沈む。何回も何回も、その永遠の繰り返しを数えることからも暦の神と呼ばれ、裏でひっそりと目立たずに働く神様という印象もある。

 

 ツクヨミが祠に祀られている。ツクヨミはその恩恵か、この地の聖杯の中に溜まる膨大な魔力を押さえ込んでいる。

 

 それがこの聖杯戦争を円滑に進める仕組み。修正力がかかりにくいこの地で、神による手助けを得て、聖杯を手に入れようとする。

 

 だが、何故だろうか。俺はこの話一連を市長から聞いたあと、すぐに大事なことを思い出したような気がした。

 

 俺はこんな話、今まで一度も聞いたことなどない。なのに、何故だ?

 

 —————俺はこの話を知っている。

 

 俺は頭を抱えた。

 

 知らない、知らない。こんな重要な、重大な事実は知らなかったはずなのに、知っている。何時、何処で、誰に、どのような状況で知ったのか知らない。

 

 だけど。

 

「—————俺、前にこの話を誰かから聞いた事がある」

 

 その時、俺の記憶のペンキがゆっくりと綻び始めた。




さぁ、ヨウくんの失われた過去。実は彼、過去がないんです。といっても、幼稚園生くらいのときの年齢のことなので覚えてなくてもおかしくはないのですが……、ちょっとわけが違う?

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