Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

いやぁ、聖杯戦争、まだまだ終わってないかもしれないだなんて……。

まぁ、物語がこんな中途半端に終わるわけもないんですけど……。


キャスターのマスターの所在を探しに

 ペダルを漕ぐ。自転車のチェーンが回り、小刻みに身体が揺れる。空気の中を突き抜けるように進んでいた。季節は冬、冷たい風が俺の耳や手先を悴ませ、目は乾燥してくる。

 

「ヨウ、あとどれくらいですか?」

 

「ん?もうすぐだよ」

 

 自転車を漕ぐこと三十分ほど。俺たちが向かう所は市役所である。セイバーは霊体化した状態で、俺の背後にいる。

 

 市役所が見えてきた。この織丘市で一番高い建物で、近年人口が増加傾向にある織丘市の中心の一つとも言える場所。モダンでオシャレな外装は多くの市民からの自慢でもあるらしいが、特に俺はそんなことに興味などない。ちゃんと市役所として機能していて、外装が相当荒んだものでなければ何でも良いというのが率直な意見。

 

 まぁ、市役所に行くような用事など人生の中でそう数多くはないし、俺もここに来るのは二回目ほどである。

 

 自転車を道のそこら辺の道端に置いて、市役所へと入った。市役所の一階は誰かさんの銅像や、絵画が飾られていた。俺は一階の柱に貼られている見取り図を見た。

 

「え〜っと、市民課は〜」

 

 図を指でなぞる。一階から順に辿り、市民課の階を把握する。そして、指先が場所を捉えた。市民課は七階にあるようである。俺はエレベーターに乗り、七階に行くボタンを押した。

 

 七階に着いた。目の前には受付があり、何人かがその受付の前で書類を描いたり手続きをさせたりと苦労している。その受付の奥では多くの人がパソコンを目の前にして黙々と仕事をしている。自らの肩を揉みながら、苦労が抜けていない顔を天井に向けるも、またすぐにパソコンの画面とにらめっこ。

 

 俺は受付の前に立った。ちなみに、目の前の受付の人はチョー美人な女の人。もちろん、下心でその受付のところに行きました。

 

 単刀直入、堂々と俺はお願いをした。

 

「死亡届、見せてくれませんか?」

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「はぁ〜」

 

 深いため息を吐いた。頭を抱え、どうにもならない現状にため息を吐くぐらいしか、今の俺に出来そうなことはない。

 

 やはりダメであった。薄々感づいてはいたものの、俺みたいな特に話せる理由もない一般庶民が個人情報を知ることは出来ないようである。いや、理由がないというより、その理由を理解してもらえないだろう。だって、聖杯戦争の参加者かもしれないからとか、魔術を使う者かもしれないからとかいう理由を言ったところで、受付の人は魔術師じゃないだろうし、そもそも秘匿を義務とする魔術師にとってはこんな所でそんなことを言われたら堪ったもんじゃないはず。そこは剛に入れば郷に従えで俺もそこは秘匿とする。

 

 まぁ、この聖杯戦争、案外色々とあり過ぎて、もしかしたらあの受付のお姉さんが魔術師なんてこともあり得なくはないが、確率で言えばこの市の住民分の二ぐらいの確率である。

 

「参ったなぁ。これじゃぁ、確認なんて取れねーし。あのソージって人が生きてんのか死んでんのか分かんねーし」

 

 打つ手なし、八方塞がり。どうにも俺が出来そうな手段は見つからないし、ここで諦めるしか方法はない。この市内を全て遍く練り歩くという方法も無くはないが、流石にそれはしたくない。翌日には俺の足が棒になるどころか、岩となる。全くもって動かなくなってしまうなんて、そんなんは絶対にしたくないし、そもそも一週間かけても見つかるのか不安である。

 

 無駄なことはしたくない。というか、なるべく楽チンな方法(クール)に行きたいものだ。

 

 が、そこで俺の考えは矛盾した。

 

 諦めるという方法はそもそもクールか?確かに足が棒、乃至岩になることはないが、それがクールと呼べるだろうか。

 

 う〜む、難しいものだ。今回の選択はクールか、楽か。どちらも俺の信条の第一にくる言葉だしどちらも優先させたいが、欲張りはできない。

 

「……よし、帰るぞ」

 

 うん、面倒くさいのは嫌だ。疲れたくないし、その上絶対に見つかるというわけでもない。そんなロシアンルーレットみたいなのはしたくない。

 

「良いんですか?」

 

「まぁ、良いよ。諦めた。あとはセイギにこの事を話しておけば何とかなるだろ」

 

「他人任せですね……」

 

「しょーがないだろ。俺ってばそういう男だから」

 

 もうここにいる必要はない。セイギとは夜会う約束であるため、家に帰ってゆっくりとしていよう。市役所の出入り口まで突っ切って歩く。

 

 その時だった。

 

「ヨウ?」

 

 誰かが俺の名前を呼んだ。その声の主の方を振り向くと、そこにいたのはセイギだった。

 

「セイギ?何でここにいるんだ?」

 

「それはこっちの台詞だよ。ヨウこそ、何でここにいるんだい?」

 

「ん?ああ、それはな……」

 

 俺は周りをキョロキョロと見回し近くに人がいないことを確認すると、セイギの耳元に口を近づけて、小声で彼にこう話した。

 

「ここだけの話だけど、実はキャスター、生き残ってるかもしれないんだよ」

 

 それを聞いたセイギは特に表情変えず、平然とこう答えた。

 

「ふ〜ん。何だ、そんなことか。気付いたんだ、スゴイね」

 

 どうやらヨウは知っていたようである。俺はため息を吐いた。とんだ無駄足だったらしい。

 

「なんだぁ〜。知ってんのかよ」

 

「僕が知らないわけないじゃん。キャスターが死んでないって……」

 

「世紀の大発見かと思ったんだけどなぁ〜」

 

「それぐらいじゃ、ダメだよ。キャスターが生きているって事ぐらいで……」

 

 だが、段々と彼の顔は青ざめてきた。

 

「え?キャスターが生き残ってる?」

 

「あ?いや、だからそうだって」

 

「ふ〜ん……、そっかぁ、キャスターがぁ……。って、えええええええええええええェェェェッ‼︎キャスターが生き残ってるッ⁉︎」

 

 あっ、こいつ知らなかったな。

 

 目玉が飛び出るほど驚いているセイギの姿を見て、やはり俺の発見は世紀の大発見だったんだなと確信した。

 

「ちょ、ちょちょ、ちょっとどういうこと⁉︎キャスターは死んだんじゃなかったの⁉︎」

 

「確かにそうだった。だけど、もしかしたら、あれは思い込みかもしれないんだ。あの噂を流布したのは誰だ?」

 

「誰って?それは……、アーチャー?」

 

 セイギの頭の上にある電球がピカリと光った。セイギはどうやら、俺の言いたいことに気付いたらしく、真剣な表情をした。

 

「キャスターのマスターは?分かってるの?」

 

「ん?ああ、名前と容姿は分かってる。それで、キャスターが生きている証拠にと、市役所で死亡届とか住民票を見せてもらおうと来たんだけど、無理だったわ。個人情報だから、正当な理由無しじゃ見せられないって言われた」

 

 魔術師としての道を歩むセイギは今回のことを完全に理解した。

 

「つまり、キャスターの情報を手に入れたいんだけど、その情報入手の方法がないと?」

 

「そういうこと。で、困ったなぁ〜って思ってたらお前に会った」

 

 彼は頷くと、考える人の像のように腕を組んで頭の中であらゆる方法を練る。だが、やはり彼にも限度はあるようで、深いため息を吐いた。

 

「ダメだ。僕もその件に関してどうしたら良いのかが、全く分からない。その件は結構重要だし、僕も参加して調べたいのは山々だけど、力になれそうにない。ゴメンね」

 

「ああ、いや、しょうがない。ちくしょう、アーチャーめ。こういう時のために、せめてヒントぐらい残してくれたら……」

 

 そう声に出したら、霊体化中のセイバーがテレパシーで俺に文句をつけた。

 

「ヨウ、私のお父さんを侮辱しないでください」

 

「いや、何、娘面してんだよ。つい数日前までは赤の他人だったくせに」

 

 俺とセイバーがテレパシーで喧嘩をしていると、セイギがあることを閃いた。

 

「アーチャー……?そうか、そうかそうか。そうだね、あの人に聞けばいいじゃないか。丁度いい、僕もあの人に会いに来たんだよ」

 

「あの人?誰だ、そりゃぁ」

 

 俺はそう聞いたが、彼はニンマリと笑ったまま俺の質問に答えようとしなかった。ただ、セイギは手招きで一緒に来いと合図している。つまりは自分で確かめろということなのだろう。そんな風に誘われたのなら行かないわけがない。キャスターが生きているかどうかの真相が掴めるのだから。

 

 俺はセイギの後について行った。セイギは人の目の付かぬような場所で、アサシンの力を使った。アサシンの力である、魔力の吸収、備蓄、そして放流。それを使いこなし、俺とセイギはアサシンの気配遮断のスキルを一時的に得た。

 

「これからはちょっと影を薄くしないとダメだからね。人に見つかったら、僕たちは即座に外に追い出されてしまう。サーヴァントであるアサシンとセイバーは霊体化できるけど、僕たちはそうはできないから、こうして気配遮断のスキルを得る必要があるんだよ」

 

 彼はそう説明をすると、スタッフオンリーのドアを堂々と開けた。ガチャリと音が鳴る。気付かれていたり、見られていたりしたのではとキョロキョロと周りを見るが、そこはアサシンの気配遮断のスキルでしっかりと影が薄くなっている。誰一人として俺たちの行動に気付いていない。

 

 スタッフオンリーのドアの先は個人情報が保管されている部屋や、電気のブレーカーなどがあった。これは確かにスタッフオンリーな場所である。

 

 そのスタッフオンリーのドアの先の通路を歩いて行くとエレベーターがあった。

 

「エレベーター?何でこんな所に?」

 

「ああ、これかい?これは職員専用のエレベーターなんだ。一般の人が使えるエレベーターには行ける階に限りがあるけど、これは基本全ての階に行けるんだ。二つの階を除いてね」

 

 ……あっ、何となく察したわ。セイギの浮かべる笑みがとてつもなく下衆な笑顔だったことに気付いて、ついて来たことを心底後悔した。

 

「一応聞くけどさ、まさか、その階に行くとか……」

 

「もちろん。そこに行かずにどこへ行くのさ?」

 

 ですよね〜。だと思った。知ってたよ、うん、知ってた。どうせこんなことになるんじゃなかろうかと予想はしていた。していたとも。

 

「さぁ、乗ろう。エレベーターに」

 

 赤信号を一緒に渡ろうと言われているような気分だ。だが、ここまで来たからには戻りたくはない。仕方なく俺はその後もついて行くことにした。




いきなり突然現れたセイギ。そして、二人が行く先にいる者とは⁉︎

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