Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回はセイギとアサシンの好感度アップ回。


人であろうとする魔術師と優しい殺人鬼

 家に帰ってきた。爺ちゃんはまだ道場で稽古でもしているのだろうか、家には人のいる気配がない。

 

 俺は帰ってすぐに自分の部屋に向わず、庭に置いてある倒壊した蔵の方に行った。俺は地下へと続く穴を通り、骨董品の倉庫へと移動する。

 

 骨董品の倉庫の中は相変わらずひんやりとした寒さだった。今は真冬でただでさえ寒いのに、土の中となるともっと寒い。湿気などの管理は大丈夫なのだろうかと思うが、案外そこは大丈夫みたいである。骨董品は必ず木箱に入れてあり、その木箱には入っている物の名前とお札が貼られている。このお札、木箱の中の温度や湿度を保つための魔術の道具だろう。これはきっと爺ちゃんの魔術だ。まぁ、直接見たことはないけど、月城の人だし魔術は使えるだろう。

 

 俺はその蔵の中にある木箱を片っ端から調べた。木箱に貼られている札を確認し、怪しいものがあったら中を開けて調べる。

 

「ヨウ、何をしているんですか?」

 

 セイバーは霊体化から実体化した。俺の顔の横から俺の手元を見ようとしてくる。

 

「ん?ああ、使えそうな武器とかねぇかなって今、探してんだよ。ほら、お前、鍛冶得意だろ?なら、使えそうな武器があれば使いたいって思ってたんだけど……」

 

「私が武器を鍛えると?」

 

「そういうこと。お前、セイバーなのに剣の扱いは下手くそだ。だけど、お前はどの英霊よりも秀でた才能があるじゃん」

 

 セイバーは鍛冶をすることができる数少ないサーヴァント。そもそも、サーヴァントとは英霊であり、その英霊、つまり英雄は武器を使ったりはするものの、その武器を自分で整備したりしない者が大半である。そういう英雄の影の立役者であるのは武器を鍛え上げる鍛冶職人であり、神代の時代の鍛冶職人ともなれば鍛え上げた代物は天下一品。セイバーはその神代の時代の鍛冶の技術を会得している。セイバーは剣は振るうことできなくとも、その剣を最大限、いやその限界を突き破るほどのものに鍛え直すことが可能。

 

 前回は鈴鹿の刀を鍛え直したが、実に素晴らしいものだった。ポッキリと折れていた剣を彼女は繋ぎ目が見えないほど綺麗に直したのだ。刀身は滑らかに凸凹やムラもなく、美しい光沢を輝かせていた。元通りと言うより、元よりもいい刀になっていたと思えるほどに。

 

「いや〜、私はそれほど上手く出来ませんよ。ここ一ヶ月ほど本格的に鍛冶仕事をしていませんし、腕は結構落ちていますよ。鈴鹿さんの顕明連を鍛えた時も、腕が落ちてはいることに内心ガッカリしたほどです。だから、あまり期待しないでください。あれは鈴鹿さんに時間がなかったとは言え、私はあれぐらいしか出来ません」

 

「いやいや、それだけでも出来るだけスゲーよ。そうそうそんな人間いないから」

 

「私はそんなにすごくなんかないです。本当に凄い人は一目見て、腰が抜けてしまいます。それほど緻密で繊細で……」

 

 セイバーは鍛冶のその何たるかを俺の隣で熱弁していたが、俺はその熱弁の九割方をさながら作業BGMのように聞き流していた。

 

「あっ、これとかどうだ?」

 

 俺は面白そうな木箱を見つけたため、その木箱に貼ってあった札を剥がして蓋を開けた。中には美しい刀が保管されていた。高い鎬筋に、金属の光沢が宿り、頭上のランプの光を反射している。艶やかな表面、滑らかな反り、片面にくっきりと浮かぶ刃紋。

 

「セイバー、これだこれ。脇差だな、この長さだと。これ、今でも全然使えそうだけどな」

 

 俺はそう言って彼女にその箱の中にある刀を勧めた。その刀なら戦闘に使えるかもしれない。

 

 だが、セイバーはその刀を見るなり、ゾッとした表情を浮かべた。急に青ざめてこう言った。

 

「その刀、あんまいい刀じゃないですよ。なんか、こう、負のオーラというものがその刀から漂っています。それは触ったらやばいやつです」

 

 そう言われた俺はその刀の銘を見てみた。

 

「あっ、これ、村正じゃねーか。妖刀だぞ、妖刀。ヤベェヤベェ」

 

 セイバーの言っている意味がわかるとすぐさま箱を閉めた。これは見てはいけないものを見てしまったような気がする。

 

「……まぁ、次だ。次。なんか他のねーの?」

 

 俺とセイバーはまた新しく使えそうな武器を探し出した。が、どうも使えそうな武器はありそうにないのだ。

 

「……なんか、いい武器、ありませんね」

 

「そうだな。こうなったら、もう諦めるか」

 

「えええっ⁉︎諦めちゃうんですか?」

 

「いや、だってもうここには良い武器ありそうにないし」

 

「そしたら、武器はどうするんですか?また私の宝具ですか?」

 

「いいや、それはない。ただお前にはどうせ鍛冶仕事はしてもらう」

 

「でも、どの刀剣を鍛えればいいんですか?」

 

「それか?それは俺の部屋に置いてある」

 

 俺たちは部屋に向かった。地下から地上に出て、家の中に上がって、階段を上り部屋に行く。部屋に着いた俺たちは部屋の押入れの中のものを取り出した。

 

「こ、これはッ—————⁉︎」

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 北東にちょこんと置いてある小さな山、赤日山。その赤日山には以前燃えた小屋がある。その小屋は伊場理道(りどう)、セイギの叔父が建てた小屋だった。その小屋は見た目何の変哲もない小屋だが、その小屋にはある秘密がある。それは、その小屋自体がただの入り口でしかないことである。

 

 赤日山は市が管理する土地だが、市は急速に人口がの数が増えてきた市街部の整備で手一杯でこのような土地に手が回っていない。そこを利用し、理道はこの赤日山の地下に迷路を張り巡らせた。

 

 午後十一時四十五分。その迷路の最深部、魔術師復興を目指した理道の全ての知識が溜め込まれている部屋に一人の少年が訪れた。セイギである。セイギは腰ぐらいの高さまでしかない小さな本棚の上を指で擦った。指には若干の埃が付着した。

 

「なんだかんだあって、ここにはあまり来れなかったな—————」

 

 彼はそう呟くと本棚から数冊の本を選び、中央に置いてあるテーブルに縦に重ねた。すると、セイギの隣にアサシンは現れ、その本を眺めた。

 

「何これ?エロ本?」

 

「あはは、違うよ。確かにここにエロ本を隠せばバレることはないだろうけど、流石にここにそんなものを隠さないさ」

 

 彼は椅子に座って部屋を眺めた。

 

「—————だって、ここは僕の魔術工房だから。ここは、叔父さんが残してくれたものだし、僕が魔術師として大成して、叔父さんの夢を叶えてあげないと。だから、ここだけは魔術一色だよ」

 

 アサシンは濁りのない少年の瞳に心酔するように艶やかな白い肌を少し赤らめた。

 

「ふふ、何も変わってないわね。初めて出会った時から、あなたはずっとその夢を持っている。輝かしい。華やかで、私には到底無理だけど」

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。まぁ、そういうアサシンは自分の望みを僕に教えてくれないね。強制じゃないけど、聞きたいな」

 

「—————嫌よ、言いたくないわ。恥ずかしいもの」

 

 簡単に体を金へと変えそうな彼女でも恥ずかしいことはある。自分の望みなど、彼女でもそう簡単に人に教えたくないのだ。

 

 セイギはテーブルの上に重ねられた本を開いた。彼が開いた本は魔法陣の図が手書きで書いてあり、詠唱の文字も全て手書きだった。

 

「まさか、この魔法陣と詠唱だけで召還できるだなんてね。あの時はちょっと疑ってたからな。この本」

 

「ああ、セイギ、その本を見ながら召還したのが私だものね」

 

 彼は頷いた。そして、頭の中でいつの日か彼女が自分の目の前に初めて現れた時を思い出していた。

 

「そうだね。アサシンとの出会いはあそこからだもんね—————」

 

 セイギとアサシンの出会いは聖杯戦争が始まる二日前のことだった。ここの工房で彼女が召還された。大量の暗器と、セイギの抱く魔術師としての大成の夢、つまり膨大な知識を得るという知識欲の二つが触媒となってアサシンはここに現界した。セイギはある理由により、どうしてもアサシンというクラスのサーヴァントを召還したかった。いや、そうでなくてはならなかった。そのクラス以外で勝ち上がっても良かったのだが、彼はアサシンのクラスのサーヴァントを召還して聖杯戦争で勝利しなければ意味がないと思い、アサシンを召還することにした。

 

 だから、アサシンが何の英霊であるか、つまり真名は召還されるまでセイギには分からなかった。セイギはアサシンのサーヴァントであればどんな英霊だろうと別に良いと考えていた。どうせ選んで、その結果反りが合わないというよりかは、聖杯に自分と気の合うサーヴァントの方が良いと思ったのだ。そして召還されたのが、自らを屍や娼婦などと揶揄する彼女だった。

 

「あの時の僕はヨウや雪ちゃんがマスターだなんて思ってもいなかった。だから、アサシンらしくマスターを殺させて、手っ取り早く聖杯戦争を終わらせるつもりだったけど……」

 

「出来なくなっちゃったのね」

 

「あはは、まぁ、そうだね。出来なくなっちゃった。知らない時は、人殺しだって厭わないし、聖杯に魔術の根源への到達だけを願っていた。だけど、今は変わっちゃったからさ。ヨウは守りたい者ができて変わったかもしれないけど、僕だって変わったさ」

 

 セイギは本を閉じた。

 

「—————人を殺すのが怖い。友達を殺そうと考えていたあの時の自分が少しだけ怖い。そんな自分に染め上げた魔術が怖い。あれだけ好きだった魔術が恐ろしく思えてきたんだ」

 

 セイギの言葉は心の底から出た言葉だった。その心の言葉を聞いたアサシンは柔らかな笑みを浮かべた。

 

「それでいいのよ。あなたは、それでいいの。人を殺すなんてあなたみたいな人がやっちゃいけない。それは倫理とか人徳とか理性とかそういうことじゃなくて、私の経験則からだけど。人を殺す感覚なんて、あなたが知るべきじゃない。人を殺した快感なんて、あなたが知っていいことじゃない。人を殺したことの後悔をあなたに感じてほしくない。人を殺すからこそ命の尊さに気づくけれど、その命の尊さは時に知らない方が良いとも思えるの—————」

 

 彼女は彼に近づいた。

 

「—————命を軽んじて人を殺し、命を重んじて自らを殺す。そんな人生、あなたには送って惜しくない。命は矛盾、だからこそ美しいのかもしれないのだけれど、その矛盾の地獄に囚われてほしくないわ。私みたいに」

 

 彼女は彼の顎をクイッと持ち上げ、彼の視線を天井に向けた。斜めった彼の視線に彼女は入り込む。彼の唇と彼女の唇を重ね合わせた。赤い果実のような唇が彼の唇をこじ開けて舌を入る。まさに遮二無二で、でも何処か優しく穏やかな唾液の交換。唇と唇、舌と舌がまぐわい、歯茎を舐め回す。二人の感覚が段々と遠のいて行き、互いの境界線が乱れ、やがて一つとなっていった。

 

 アサシンはセイギの唾液を飲んだ。口の中の分泌液を綺麗に舐め取り、彼の口の中を吸う。セイギの魔力が手足の先から口に向かい移動し、その魔力はアサシンの口の中へと入った。魔力を吸ったアサシンの肌はより一層白く艶めかしい色となり、それでも血色の良いという矛盾のような美しさがアサシンに宿った。

 

 アサシンはゆっくりと唇をセイギの唇から話した。互いの交わった唾液が糸となって二人が離れるのを引き止めるが、その糸は切れて下へと落ちた。

 

 セイギは力を失ったようにぐったりと椅子にもたれる。眠そうに目を擦りながら、突然の接吻に驚きを見せながらも、若干の笑みも見せた。

 

「あはは……、突然過ぎだよ……。毎度毎度やっても、これは慣れないな」

 

「ごめんなさい。悪気はないの。でも、私、こんな身体だから、こうしないと……」

 

「大丈夫。わかってる。分かってるつもりだから。怒ってないよ。アサシンはアサシンらしくやっているだけなんだ。何も自分を咎めなくてもいいよ。僕は君を咎めるつもりなんてないよ」

 

 セイギは欠伸をかくと、テーブルに寝そべった。だるそうな姿をし、虚ろな目をアサシンに向ける。

 

「アサシンの過去の業はちょっと特殊なだけだから。他のサーヴァントよりも、特殊で、だから自分が悪いと思ってる。だけど、そんな必要なんてないさ。僕は他のみんなみたいに悲しい過去とかはあんまりないし、恵まれた者だから気持ちに同情なんてしないけど、それでも悩んでいる人の側にいることができるとは思ってる。それが、僕みたいな者にできる唯一のことだからね」

 

「それは、私も含まれているの?」

 

「もちろん。ヨウもセイバーも、アサシンも。それが僕なりのやり方だし、それが人ってものでしょ?魔術師である前に僕は人だから。だから、寄り添ってあげる。理由なんて後付けでもいいから、とにかく僕はそうしたい。例えアサシンが殺人鬼であろうとも、その運命に翻弄されようとも、僕が助けない理由にはならないよ」

 

「でも、私、人じゃないけど……」

 

「大丈夫。人じゃなくとも、君は一番人らしく生きようとしている。人じゃなくとも、そんな身体でも、僕の目の前にあるその心は嘘じゃない……。そうでしょ?」

 

 アサシンは顔が温かくなった。単純に、そう言ってもらえたことが嬉しかった。嘘偽りのないセイギの言葉は未だ経験したことのない言葉。その言葉に救われた。

 

「ありがとう。セイギ。そんなあなたのこと、私は好きよ—————」

 

 セイギも笑った。照れ隠しのように嬉しさを押し殺そうとしていたが、その嬉しさを押し殺すこと出来ず、火照っている。

 

「ねぇ、アサシン。もう、眠くなっちゃったからさ、寝てもいいかな。二時間後に起こしてくれない?」

 

「ええ、分かった。ゆっくり休んで頂戴」

 

 アサシンがそう言ってすぐにセイギは目を閉じ、ピクリとも動かなくなった。深い眠りについたセイギの顔をアサシンは軽く撫でる。アサシンの顔は暗殺者とは思えぬほど、柔らかい笑みをしていた。

 

 だが—————、

 

「で、私たちのイチャイチャラブラブ行為を見ていたのは誰かしら?」

 

 アサシンはギョロリと部屋の隅に視線を移した。その時にはもうさっきまでの顔ではなく、確実に獲物を仕留める暗殺者、乃至殺人鬼の目。

 

 部屋の隅の本棚を軽々と移動すると、そこには一匹の蜘蛛がいた。一匹の蜘蛛はアサシンに目をつけられると、一目散に逃げようと壁を駆け上る。だが、所詮蜘蛛。小さき命は例えしぶとい命であろうとも、アサシンの鎌に捕まえられたら無惨に命散る。

 

 蜘蛛の腹をアサシンの鎌が突き刺さり、蜘蛛は即動かなくなった。アサシンはその蜘蛛に残る微妙な魔力を鎌から吸い取り、吟味する。

 

「あら、澄んだ魔力。美味しい。これはきっと、高位の魔術師の使い魔ね。セイギが起きたら教えてあげましょう。私たちのイチャイチャが見られていたって」

 

 アサシンはまたセイギを見た。小さな鼻息を立てて寝ているマスターを横に彼女は一つの命を狩った。それが人でなくとも、命であることに変わりはなく、それが少しだけ罪深く感じた。

 

「やっぱり、私のこの手は命を奪うことを欲している。この世は実に皮肉で不条理。あなたに会えたことが嬉しくて、こんな身体なのが悲しくて。心が温度差で崩壊してしまいそうだわ—————」




はい。セイギとアサシン。今まであんまり語られてなかったですが、こう見てみると彼らにも何かわけがありそうですね。

このルートはメインヒロインであるセイバーとアーチャー、鈴鹿の他にも語られる対象の人物が何人かいます。

まぁ、大体分かってると思いますが、予想してみてください。全問正解だった人には何にも景品などございませんが……。

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