Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい。Gヘッドです!

キャスター陣営も分かってきて、あと謎なのはランサー陣営や、アーチャー陣営ですね。

この聖杯戦争は案外強い子ばっかりです。


譲れぬモノがある

 男性の握り拳がライダーの一撃を凌ぐほどの力を持ち得ていた。ライダーはサーヴァントであるという地位の余裕があった。だけど、その拳はライダーのプライドも、この絶体絶命の危機も全てをぶち壊し、女の子の涙を拭う手となっていた。

 

 ライダーの宝具に亀裂が入った。木でできた宝具ではあるものの、それでもサーヴァントの宝具。簡単に壊れたりなど早々起こるものではない。

 

 つまり、マスターがサーヴァントの宝具に亀裂を生じさせるなど普通にやっても不可能に等しい。だが、その不可能を男性はやってのけた。

 

 そのことにライダーだけが気付いた。亀裂は外側ではなく内側に生じたものであり、雪方や男性には分からぬものだった。ライダーはその亀裂を手先で感じ、負けるかもしれないと初めて思った。

 

 舐めていた。人が自分よりも弱い存在であろうと舐めていた。戦闘という面において、自分はサーヴァントであるから、人は自分には絶対に勝てないのだと思っていたが、死の恐怖を感じた。もしかしたら、殺されるかもしれないという死の恐怖。

 

 両者ともに敵から離れるように数歩後退した。ライダーは雪方を守るように彼女の前に立ち、男性もキャスターを守るように彼女の前に立つ。

 

 その時、ライダーと雪方は男性のあることに気付いた。さっきは男性の力に関してだけしか気づかなかったが、離れて見てみるともう一つあることに気付くことがある。

 

 体から湯気が出ている。しかも、大量に。体が異常に赤い。冷たい外気と体温の高さによる結露だろうが、それでもやっぱり頭を傾げてしまう。息を吐いて、その息の中に含まれる水蒸気が水となり白く見えるという現象はこの冬ならよくある話だ。もちろん、体からというのもスポーツの最中やそのすぐ後なら、ならないわけではない。温まった体と外気の温度差による結露など珍しいものではないのだ。

 

 だが、何故彼は今、体から湯気が出ているのか。それほど過激な運動をしたわけでもない。ライダーの連続攻撃を交わす時も、渾身の一撃の力を殺す時も息を切らしてなどいなかった。然程辛そうでもなく、湯気が出るほど体温も高くなどなさそうであった。なのに、急に今になって何故これほどまでに体温が高いのか。

 

 男性の赤く血走った目がライダーを睨んだ。その目は獲物を狩る捕食者の目。獰猛なその目こそ、ライダーに危機感を持たせた目だった。

 

 男性は膝を直角に曲げた。深く腰を落とし、拳を腰に付けるように脇を締め、力強く構える。ふぅっと、息を吐く。口から結露した白い小さな水滴が彼を包み込んだ。

 

 —————彼は一歩を踏み出した。

 

「ヤバイッ‼︎マスぅッ……!」

 

 次の言葉が出なかった。

 

 —————もうそこに男性がいない。

 

 ライダーはふと腹部に強烈な痛みが走った。ゆっくりと恐る恐る自らの腹を見てみる。そこには拳があり、拳は自分の腹にめり込んでいた。腹の中にある内臓を打ち砕かんとばかりの力で男性の拳がライダーに触れていた。

 

 その時、ライダーはあることに感じた。それは自分の周りを過ぎる時間の流れが異常に遅く感じたのである。男性の拳がさっきからずっと当たっているのに、一向に吹き飛ばされる気配がない。これで自分は死ぬのだと理解しているのに、時間が過ぎるのが妙に遅い。

 

(自分が死ぬ?)

 

 彼は今の状況を理解した。これはきっと死ぬ間際に時間が遅く感じるというやつなのだろう。サーヴァントと余裕をこいでいた自分が隙を与えてしまったがために、このようなことを招いてしまったのだ。

 

 彼は自分が情けなく思えた。雪方の望みを叶えると言っていたのに、何もできないではないかと。

 

 —————何もできないままでいいのだろうか?

 

弖筒(てづつ)ッ—————‼︎」

 

 男性は手の平をライダーにつけたまま腕を伸ばした。手は腹にめり込み、皮を破り、筋肉を断ち、臓を潰した。ライダーは口から血を吐き、吹っ飛んだ。

 

 —————だが、このライダーもまた特別な想いがある。

 

 ライダーは臓を潰されても、体勢を立て直そうとアスファルトの地面に足をつけた。ライダーは手で口から出た血を拭い、男性を睨みつけた。

 

「—————何もできないのは嫌なんだっ!」

 

 そう言うと、丸太のようなトンファーを地面に思いっきり強く叩きつけた。

 

「殺す、殺さないを考えていたら僕が負ける。だから、あなたを殺す気でいきます」

 

「そうかいそうかい。まぁ、かかってこい。全部殺ったるわ」

 

 ライダーは手を仰いだ。すると、雨水がまるで命を持つかのように動き出したのである。それは全てライダーの意思によって動く雨水。その雨水をライダーは全て男性に向けた。

 

 男性に向かって大きな水の塊が飛んでくる。しかし、男性は怖気付くことなく、さっきの構えをとった。腰を深く落とし、脇を締めた。

 

「弖筒—————‼︎」

 

 男性は右手を前へと力強く伸ばした。すると、その右手は空気を押し出したのだ。押し出された空気は強風となってその大きな水の塊を粉砕した。一段と雨が強くなった。

 

 だが、それだけで満足してはならない。

 

「私を、忘れないで……!」

 

 雪方である。雪方はスタンガンを手に持ち、獲物を狙った。スタンガンに溜めた魔力を放つ。

 

暴走電圧機(バースト)—————!」

 

 その青い稲妻は矛先に向かって突き進んだ。

 

 だが、その矛先は男性ではなかった。

 

「—————逃げろぉッ‼︎」

 

 男性は叫んだ。

 

 その矛先は女の子であった。キャスターである女の子さえ倒してしまえばいいのだ。男性を倒す必要などあまりない。

 

 女の子は雪方の攻撃に気付いた。しかし、もう一歩遅い。女の子は電柱の麓に腰を抜かして尻餅をついた。

 

 そして、その場にいる誰もが終わりだと思った。この電撃が女の子に当たって、雪方とライダーの勝利だと。

 

 でも、何の弾みか、たまに人には偶然というものが起こる。それは何であろうと、たまたま起こること。良きこと悪しきことを問わず、グッドタイミングな時、それを偶然と呼ぶ。

 

 —————そして、良き偶然は幸運となる。

 

 なんと、電柱に繋がれていた電線が切れたのである。きっとライダーと男性の闘いのせいで電線に綻びが生じたのだろう。と、言えば可能性はなくはないが、それでも電線がそれだけで切れるだろうか。いや、切れる可能性などゼロに近い。なのに、電線は切れたのである。

 

 その電線は丁度電撃が放たれた時に切れた。切れた電線は重力に従い下に落ちる。そして、電撃は女の子に向かって放たれる。

 

 それが偶然、幸運にも重なった。電撃が電線に当たり、電気は全て電線に流されてしまったのだ。

 

 驚きの事態にそこにいた四人は呆気に取られていた。だが、男性は一番に我に返り、女の子を抱えた。そして、雪方とライダーに背を向けたのである。

 

「逃げるんですか?」

 

「それが何か悪いかよ?」

 

「いや、別に。でも、追いますよ?」

 

「追えるんなら、追ってみろ。ただ、あんたのサーヴァントも相当やばいだろ?」

 

 雪方はライダーを見た。ライダーは腹を抱えながら、地に膝をつけている。血を吐いていて、どうもすぐに回復なんてことはできなさそう。これは休む時間がほしい。

 

「どうだ?ここは見逃すっていうのは」

 

「ええそうね。ここでライダーが死なれたら、いくらあなたたちを倒しても聖杯は掴めない。それならしょうがない」

 

 雪方もその二人に背を向けた。その二人は闇夜の中に紛れて消えた。それから、雪方はライダーの傷を癒すためにできる限りの治療を施し、五日後ライダーの傷は癒えた。その五日後の日はライダーが倒された日である。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「—————と、まぁ、こんな感じよ。キャスターとの闘いは」

 

「……う、うん」

 

「どうしたの?別に変なこと言ったつもりはないけれど……」

 

「いや、変なことを見っけたとかそういうのじゃなくてさ、その……、何?あれだよ、あれ。色々と驚いたっつーか、何つーか。ツッコミどころが多い的な?」

 

「それは十分私が変なことを言ってるっていう風に捉えていいのよね?」

 

 雪方が俺を睨んでくる。俺は何にも言えずに肩がぎゅっと狭くなったような気がした。

 

「ヨウでも口喧嘩で勝てない人、いるんですね」

 

「うるせぇ。それは言わんでよろしい」

 

 とにかく、今は雪方のお話を整理してみよう。いや、整理はしなくていいや。別に聞きたかったのはキャスターのことで、それ以外は特に無いしな。

 

 まぁ、でもツッコミどころは本当に色々あったけど。まぁ、まず、第一に言いたいことがある。

 

「キャスターのマスターの男の人さ、人格変わってね?」

 

「それ、私も思いました。何か、最初ばったり会った時と違いますよね。最初は謙虚なのに、体から湯気を吐き出してから性格がガラリと……」

 

「ごめん。私もそれはよく分からない。あの時ばったり出会しただけだし、それ以降会ってないから」

 

 どうしても突っ込まずにはいられない所がもう一つある。

 

「キャスターって何をした?」

 

 そう、キャスターなのである。雪方の話を聞く限り、キャスターは何か仕事をしただろうか。否、何もしていない。いきなり最初にぶっ飛んだ行動をして、それからの戦闘は全てマスターである男性にだけしか出てきてないし、魔術師のサーヴァントらしく魔術を行使する一面もない。そもそも、男性を守る時、何にもせずに殺されようとしていたし。

 

「何もしてないわよ。戦闘中はずっと端っこの方でオドオドと戦闘にビビってたわ」

 

 ビ、ビビってた?サーヴァントであるキャスターが戦闘にビビって、隅っこの方にずっといた?

 

「セイバー、良かったな。もしかしたら、お前よりも弱ェ奴かもしれねぇぞ。そのキャスター」

 

「本当ですか⁉︎あ〜、でも、私、一番じゃなくなるってことですよね?そしたら、私の存在意義がなくなる……」

 

 この子はどんなところに自分の存在意義を見出しているのだろうか。せめて、もっと優しいとか、料理が上手いとかそういう存在意義はないのだろうか。

 

「なぁ、一応だけど、詳しく教えてくれねぇか?キャスターとそのマスターの外見」

 

「外見?そうね……、マスターは背が若干高くて、細マッチョって体かしら。キャスターは背が小さくて可愛らしい姿。オレンジみたいな髪の毛で、腰ぐらいまで長かった。童顔で、中学一年生みたいな……」

 

「それって、二人の関係を知らない人から見ると、ただの誘拐じゃない?」

 

「あながち間違ってないわね。でも、キャスターがマスターを振り回しているって感じだった。結構、マスター苦労してそうだったし」

 

 うん、そのマスターの人は優男なんだろう。人格は変わったとしても、きっといい人なんだよ。

 

「なぁなぁ、じゃぁ、キャスターってマスターのことを『ソージ』って呼んでた?」

 

「そうね。多分、名前なんでしょうね。調べれば出てくるんじゃないの?その『ソージ』って人の名前ぐらい」

 

 俺はその雪方の話を聞いていて確信を持てた。やっぱり、キャスターは死んでなかったのだと。いや、正確に言えばキャスターが死んでいなかった確率が高い。

 

 雪方たちとキャスター陣営が鉢合わせになったのは、俺たちがアーチャーにキャスターは殺したと聞いた日の後らしい。なら、アーチャーの言っていたことは嘘で、聖杯がまだ七騎の魂で満ちていないということ。

 

 —————つまり、まだ聖杯は完成なんてしていないのだ。

 

 あれ?じゃぁ、何故グラムは七騎のサーヴァントの魂が集まったと言ったのだ?

 

 多分、それはアーチャーの嘘に騙されているのだ。理由は分からない。だけど、彼が嘘を吐いたという可能性は十分高い。

 

 俺はそのことを二人に話した。すると、二人は俺の言っていることを理解したようである。

 

「まだ聖杯は満ちていない—————?」

 

「そういうことじゃねぇか?まぁ、キャスターが生きていればだけど」

 

 だが、それをどうやって調べようか?キャスターの容姿や戦闘スタイルなどは分かっても、生きているのか生きていないのかは分かりやしない。

 

「じゃぁ、死亡届を調べに行けば?」

 

「死亡届って、役所に出す証明書みたいなやつだろ?」

 

「そう。それを頭下げて役所の人に見せてと頼めば許してくれるんじゃない?それに、もし死亡届がなくても、住民票を見ればいいんじゃない?名前は『ソウジ』って人みたいだし」

 

 それもそうである。役所で調べられれば、そういうことは簡単に調べられる。

 

 それで調べよう。

 

 俺は立ち上がった。厚い上着を着て、雪方の部屋から出ようとした。

 

「もう行っちゃうの?」

 

「ん?ああ、やることあんだよ。こっちも色々と」

 

 俺はセイバーにもうすぐ帰ると言った。すると、セイバーは目の前にある若干冷えたお茶を口に含み、俺の後を追った。

 

 階段を降りて、玄関で靴を履いていたら、雪方は見送るように玄関のところまで来た。

 

「別に来なくても良かったのに」

 

「鍵は誰が締めるの?」

 

「ああ、そうか。鍵か……」

 

 そういう正論を返してほしかった訳ではないのだが。

 

「じゃぁな。あっ、そうだ、最後に一つ聞きたいことあんだわ」

 

「聞きたいこと?」

 

「んだ。お前、聖杯が何処に現れるのかとか、どうすれば現れるのかって知ってるか?」

 

「……そう言えば、私、そこ知らない」

 

 ええ〜。お前もかよ。はぁ、ダメだこりゃ。

 

「ゴメン。私、基本的なこと知らなかった」

 

「いいや、いいよ。こうなりゃぁ、セイギにでも聞くからさ」

 

「そう言えばセイギも参戦してるんだっけ?」

 

「そう。アサシンのマスターだよ、あいつは」

 

 俺がそう言うと、彼女はぐっとスカートを握りしめた。悔しそうに、何処か怒りのある表情をしている。

 

「アサシン—————」

 

 アサシンという言葉に異常な執着があるようで、そこが少し気になった。だが、すぐに彼女は顔を戻し、笑った。

 

「頑張って」

 

 応援されているということが俺にとってすごく心強い。

 

「おう、頑張るわ」

 

 俺も雪方に笑顔を向けた。朗らかで濁りのない笑顔を。

 

 だが、その笑顔の横で、セイバーが薄暗い表情をひっそりと浮かべていたのに俺は気付かなかった—————




進む、進む、物語は進む。

人の想いはいつの日にか、がらりと変わっているでしょう。

なんの因果か、この時代にめぐり合わせた二人は何を想い、何を伝え、何をするのか。

想いは違えど、行き着く先は聖杯。

彼らの願いは何なのか。

自らのを、相手のを理解した時、聖杯は形として現れる。

なーんちって。

まぁ、本当のこと言えば、聖杯はもう◯◯◯。

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