Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい。Gヘッドです。

なんか、ヨウ君がネガティヴモードになってしまいました。どうなるのか、二人は⁉︎


自分が惨めに思えてきて

 今まで気付かないようにしていたことに気付いてしまった。すると、俺の心は儚く音を立てて崩れていき、今までの自分が悪者だと認識して、自分とセイバーの在り方の違いを直視した。

 

 あまりにも届かぬ俺と彼女の差。彼女は戦いに関しては凡人で、その凡人のパワーアップバージョンのようなものだ。だが、それでもやはり彼女の人らしい信念は英雄の名の通りである。その素晴らしさに俺は薄々感嘆し、軋轢のようなものができているのを感じた。

 

 その溝も若干のものであり、俺は時が経てばその溝も埋まると思い彼女と話していたら、彼女から出た一言に弱い自分を強制的に見つめることとなった。

 

 収まりきらぬこの負の感情。俺は人間で彼女は幽霊で、なのに俺よりも彼女の方が在り方として紛う方なし良さ。損得、勝ち負けで物事を決める俺にとってそれは屈辱に等しい。

 

 —————そう思う時点で俺はクズなのだが。

 

 自分の部屋の中に入ったのに、俺は自分の部屋が俺を拒んでいるように感じた。部屋にある景色がいつものようには思えず、俺の部屋が変わったよう。もちろんそんなことはないけど、それでも俺はそれだけで誰も俺に手を貸してくれないんだと痛切に思う。

 

 俺は悪役。例えセイバーを守るとしても、俺なんかは彼女を盾にしか扱わないのだろう。そんな悪役は嫌われ者で、そんな嫌われ者に手を差し伸べることなんてあるわけがない。そう、俺は孤独。

 

 自分が何をしていたのか、考えたくないけど考えた。セイバーにしたことはやり過ぎたの一言で片付けられるほどじゃない。

 

 一番心に棘として残っているのはアーチャーのことだ。アーチャーのことは、あれでよかったのだと思いつつも、それで本当に良かったのかという問いがいつまでも脳裏にある。

 

 俺の選択は間違ってはいない。だが、正解であったのか。

 

 頭を抱えた。あらゆる悩みが交錯して、心が重くなるばかり。このままいけば、俺の心は重さに耐え切れず、底が抜けるだろう。

 

「ああ、俺、なんか色々と馬ッ鹿だなー」

 

 自分を罵倒した。そうでもしないと、一人で勝手に内に溜まる負のエネルギーによって爆発しそう。鈴鹿の気持ちが少しだけ分かる気がする。責められるからこそ、何故か救われるということなのだろう。

 

 ドSな俺がそんなこと考えるなんて一生ないと思ったが、あるものだな。

 

 その時だった。ドアに寄りかかっていたら、セイバーがドアを叩いたのだ。俺の背中が叩かれている気分で、なんかちょっと不快。

 

「その、ヨウ—————?」

 

 重苦しい声のトーンで俺に語りかける。

 

「ん?何さ?」

 

「どうしたのですか?何か、ヨウ、いつもらしくないですよ」

 

 いつもらしくない。今の俺は普段の俺とはどこか違うように彼女は思えるらしい。それは俺も同じで、やっぱり何かが変わっているって思う。だけど、それが何なのかが分からない。

 

「いつもの俺ってどんなんだよ?」

 

 セイバーに尋ねた。比べれば分かるのではと考え、比較するための基準を彼女に聞く。

 

「いつものヨウ。簡単に言えばヒドい人です」

 

 さすがセイバー。人付き合いがないがために、どストレートで傷つく言葉を言い放つ。それが悩んでいる人に贈る言葉だろうか。

 

「この聖杯戦争はマスターとサーヴァントの二人三脚で進まねばならないんです。つまり協力しないといけないのに、ヨウは私に酷い言葉を浴びせて、その協力をいつも壊そうとします」

 

「いや、壊そうとしてねーよ。あれは一種のコミュニケーションだ。むしろ壊そうとしてんのはお前だろ。人付き合いができてない奴は、言ったことの冗談か本当かの聞き分けができないから嫌なんだよ」

 

「で、できます。私にだって冗談と本当の区別くらいできますよ」

 

「ああ、そうか。じゃぁ、俺が仮病して学校休もうとしたら、お前ガチで心配してたじゃねーか」

 

「ええっ⁉︎あれって嘘だったんですか?」

 

「おう、そうだよ。学校行きたくねぇから嘘ついたんだよ。だから、意外とピンピンしてただろ?」

 

「……ええ、まぁ……」

 

 沈黙が流れた。彼女は俺のある言葉を待っているようで、静かに黙っていたが、俺はさっぱりとして彼女の意中の言葉が分からない。結果、その自分で作った沈黙をセイバー自身が壊した。

 

「……やっぱり、何か変です。いつもならこの後、馬鹿だなぁ〜、とか、目ん玉あんのか?、とか私に罵声を浴びせます」

 

 彼女の中の俺の人物像はきっとどれほど酷く歪んだ人格の持ち主なのだろうか。少なくとも、俺はそこまで酷くない。罵声は浴びせるかもしれないが、協調性は一応あるつもりである。セイバーよりかは。

 

「いつものヨウは本当に、私の出会ってきた人の中で一番手本として見習いたくない人です。これじゃぁ、鈴鹿さんの死も悔やまれます」

 

 中々に彼女の言葉のパンチがきつい。結構俺の心を抉ってくる。案外容赦ないし、もしかしたら俺よりもドSなのかもしれない。

 

「……だけど」

 

 彼女は言葉を続けた。

 

「ヨウはあのままが一番いい。あのままだからこそ、一番ヨウがヨウらしく輝ける。もちろん、輝くと言っても、黒光りですけど……」

 

 俺はゴキブリか何かだろうか?

 

「ヨウって存在は私の記憶に残る人の中で一番悪名高き人です。というより、個人的な恨みばっかりで悪名高いだけなんですけど」

 

「めちゃくちゃディスってるよね?」

 

「そうですよ。でも、それでも、ヨウは誰にも気付かないような所で、ちゃんと優しさを持っている。ヨウは絶対に誰かのために動く人です。自分のためじゃなくて、誰かのために何かをする」

 

 違う。それは大いに違った。俺は誰かのために動いているというのは何処ぞの噂か知らないが、俺はそんな奴ではない。自分が圧倒的な有利な立場に立てるように動くのだ。そこに他人のことなんて入っていないし、誰かのために動くのだって勘弁だ。俺はそんなに暇じゃない。

 

「俺はそんな奴じゃねぇよ。セイギの受け売りか?」

 

「……受け売りです」

 

 彼女は嘘を吐かずに正直に言った。彼女は決して嘘を吐かない。それはそれで彼女らしいっちゃ、彼女らしい。

 

 嘘を吐かないということが、人生において大きな嘘を吐くことになる。もっとも、セイバーのようなこの世界では短命な者にそんなことを教えたって意味はない。

 

「よしてくれ。俺はセイギとかが言うような人間じゃない。お前、セイギの言葉を丸呑みにするな。俺はお前らが思っているような人間じゃないぐらい、近くにいるんだから分かるだろ?」

 

 お世辞は止めてほしい。お世辞とか言われると逆に傷つくだけだから。言われるのなら、本音を教えてほしい。

 

「お前は俺をどう思ってるんだ?本当のことを教えてくれよ」

 

 彼女はまた沈黙を作り出した。何も聞こえぬ無音の時が流れる。次に彼女がその静寂を破るまで、俺は静かに待っていた。

 

「—————私はヨウのことが分かりません」

 

「分からない?」

 

「はい。ヨウは酷い人ですし、だけど優しさの欠片をたまに見せる。その時のヨウは、本当にいい人です。今までヨウがしたことが全て嘘なのかって思ってしまうくらい、温かい目をしているんです。なのに、ヨウはその姿を見せまいとしているようで、ずっとトゲトゲしている。分からないんです。本当のヨウの姿が。もしかしたら、ヨウは誰よりも優しすぎるんじゃないかってぐらいにまで思っちゃって……」

 

 彼女は口を閉じた。

 

 もう、全てが嘘だ。彼女にしては随分とできた嘘である。

 

 あり得まい。俺が優しい?俺がいい人?冗談はよせと言ったはずだ。

 

 違う。本当の俺はそんないい人じゃない。だって、今の俺は彼女の人としての良さに嫉妬している。自分があまりにも醜すぎるが故に、彼女を一方的に妬み、彼女が物凄く羨ましい。

 

 俺にはないものを彼女は持っている。人として生きる上で大切なものを。

 

「すまないが、お前の目は節穴か?俺がそんな人間に見えてきたか?見えてきたなら、眼科にでも行け。お前が思っている以上に俺はクソだ」

 

 彼女を散々弄った上に、ここまで俺は彼女を妬むなど男として惨めで仕方がない。これほどまでに俺の心は汚れているのかと思いながら下を向いた。

 

「なぁ、お前は何であの時、アーチャーが殺されそうになった時、戦闘に介入しようとしたんだ?」

 

「そんなの、アーチャーが死ぬのが嫌だったからです。死んでほしくなかった。それだけで、十分な理由でした」

 

「みんなを危険に晒してもか?」

 

「……その件はすいませんでした」

 

「いや、謝れって言ってるんじゃない。凄いな、お前って—————」

 

 本気で純粋に感心した。セイバーという一人の悲劇の運命に巻き込まれた少女は、自分の運命を恨むことよりも行動をしようとしていることに。結果、みんなを危険な目に晒したが、それでも彼女の行動は決して俺には出来ないし、彼女の力の強さには驚くばかりである。

 

「俺は絶対に逃げている。俺だって父親は死んじまって、顔もろくに覚えてないけど、父親が死にそうでもあの場面なら逃げている。それはみんなとかを考えた数の理念じゃなくて、ただ怖いから」

 

 俺は他人に罵声を浴びせるようなクソ人間。それに加えて、怖がりな臆病人間。それだけの男なのだ。月城陽香という一人の男は。

 

「でも、ヨウは間違ってないと思います。確かにアーチャーにお父さんって一言もかけてあげられなかったことは後悔ですけど、それでもあの選択があるから、今の私がいる。一瞬の幸福ではなく、長くに続く幸福。生きているって感じられる。それはヨウのおかげです」

 

「だけど、俺、考えちゃうんだよ。あの時の選択が俺にできる最善の選択だったのかって—————」

 

 俺はどうもあの選択が最善の選択には思えない。セイバーは絶対に無理をしている。だって、聖杯に願うようなことが、目の前にあって、願いを掴むチャンスだったんだ。なのに、その願いを掴むことなく、生き延びている。あの時、願いを叶えられればとセイバーは悔やみ続けるだろう。

 

 長い幸福でも、一瞬の幸福が勝る場合もある。そして、彼女にとってその一瞬の幸福があまりにもでかいのだ。

 

「やっぱりお前、無理してるだろ。……ゴメンな。こんなマスターでさ」

 

 自分というあまりにもみすぼらしい人間が彼女のマスターと名乗る。滑稽極まりない。

 

 俺がそう言うと、セイバーは何やら叫んだ。

 

「ぁああ!もうっ!」

 

 彼女は無理矢理俺の部屋のドアを開けた。ドアに押される形で、俺は前に倒れた。セイバーはそんな俺を見て、顔色を赤くする。胸ぐらを掴み、俺を立たせた。

 

「あなたはそれでも私の、サーヴァントのマスターですかッ—————⁉︎」

 

 彼女は怒っているような、悲しいような目をしている。少し赤く充血した目はいきなり俺の目の前に現れた。

 

「私のマスターはもっと非道で、自己中心的で、他人のことは顧みずに自らの欲のために動く人で、いつもちょっかいを出してくる人です!でも、そんなあなただから救われた人がいる!一人ぼっちだって思ってたけど、あなたがいたから自分がいることを自覚できた人がいる!なのに、今、あなたはなよなよと一人で悩み事を抱え込んで、誰にも迷惑をかけずに、こんな部屋の中で閉じこもって!それが一番、迷惑なんですよ!あなたがそうしていることが、少なくとも私は一番辛いし、悔しい!」

 

 何故だろうか。俺だけの悩み事のはずなのに、彼女は涙を流している。

 

「あなたがどのような悩みを抱いているかを私は知りません。その悩みはきっとあなたにとって大きい悩みかもしれない。でも、その悩みを今すぐ消そうとしないで」

 

 彼女の言うこと。それはつまりずっと悩み続けろということだ。

 

「悩みを消そうとするから悩むんだ!私だって、アーチャーが死んだことは悔しいです!何もできない自分が生き残り、私を守ろうとしたアーチャーが死ぬ。不条理過ぎるこの世を悩みました。それは生前の私の育ちの謎についてと同じくらい」

 

 彼女にとって、アーチャーが死んだことは自分の生前の育ちの謎についての悩みと同じくらいの大きさだという。彼女の生前、最大の悩みは未だに癒ず、その上さらにアーチャーの悩みまでが彼女にのしかかっただろう。

 

「だけど、私はその悩みをずっと抱き続ける。その悩みを捨てることなんてしない。悩みは私たちの体に繋がれた枷のようなもの。離そうとしても、簡単に離せるわけがない。それを離せないのに離そうとして悩んだら、元も子もありません。私たちができるのは、その枷に繋がれたまま、根気よく生きるんです。そうすれば、いつかは必ず悩みが消えていますから」

 

 彼女は胸ぐらを離した。そして、握り拳を作り、軽く俺の心臓の部分を叩いた。

 

「あなたはまだ人生がある。私にはもう悩みを解消する時間はないし、この聖杯戦争でいつまで私がここにいられるのかも分からない。けれど、あなたはまだ歩ける人生があるんです。だから、急ぐ必要はないんです—————」

 

 彼女は柔らかい笑みを浮かべた。その笑顔、まるで太陽のように明るく、温かく、敵わない。そう思えた。黒い悩みの影も彼女に消された。

 

「—————ヨウはそのままが一番かっこいいですよ」

 

 その後、もう俺は何があったんだか覚えてない。ただ、目の前の現実と俺の頭の中が全くもって違い過ぎて、そんなこと考えてる俺って馬鹿だなぁって思うと、悔しくて悔しくて、もう何が何だかわけが分かんなくなって。思い出そうとしても、思い出せない。

 

 けど、心持ちが少しだけ軽くなったのだけは覚えてる。詰まってたものが無くなって、すっきりしたような、ポッカリした穴が空いたような気分になった。




ヨウ君とセイバーちゃんは色々と反対なんです。そんな二人だからこそ、彼らは心を許しあえるのかも?

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