Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

71 / 137
はい。Gヘッドです!

シリアス続きだったので、今回は少し気を抜いて楽しんで読んで頂ければ幸いです。


変わりつつある二人

 俺は神零山を下った。三人は神零山から少し離れた教会の所で俺を待っていた。彼らは俺を見ると、胸を撫で下ろし、ため息を吐きながらも笑っていた。

 

「良かった。ヨウが生きていて。本当に死んだのかと思った」

 

 彼らの言っていること、つまり俺が死ぬという可能性は十分にあった。五分五分、いや七割ほどの確率で俺は死んでいただろう。だが、偶然が重なった結果、俺は今ここにいて、心臓もちゃんと脈を打っている。

 

「二人ともありがとう。俺の言うことに従ってくれて」

 

「あれのこと?あれは本当に、もう許さないからね。もうあんなお願いは聞かないから」

 

「はは……、それはそれで有難い。俺の存命の可能性が増えるってもんだな」

 

 俺はアサシンが担いでいるセイバーを見た。セイバーは俺たちの苦労も知らずに気持ち良さそうに眠っている。その姿を見ていて、何とも遣る瀬無い気持ちになった。こいつのせいで俺たちは大変な目に遭ったが、彼女の行動が理解出来ないということはなく、寧ろ十分に理解してしまっている。本当だったら、俺たちを危険な目に遭わせた罪として彼女が彼処に残るのが定石だ。だが、そんなことをさせられずに、結局彼女はアサシンの背中に全体重をかけるということになっている。

 

 俺は目を瞑り、何の夢を見ているのか涙を流している彼女の額にデコピンをした。

 

「今度変なことしたらタダじゃおかねーからな」

 

 全く今日は散々な目に遭った。もうこんなことは懲り懲りである。

 

 だけど、それは彼女も同じであろう。だってこの四人の中で一番に傷ついているのが彼女だからだ。しょうがないという一言で片付けられるような事柄なのかもしれない。だけれど、彼女にとってはそんな簡単な数文字程度の言葉で終わらせられるほどの事じゃない。彼女の人生に大きく関わるといっても過言ではないほどの時だったろう。

 

 まぁ、もう彼女にとってこんなに心に苦しみを覚える日はもう無いだろう。それほどまで彼女が負ったショックは計り知れないものだ。

 

「明日はお休みにしよう。色々なことがあったからね、休ませてあげよう」

 

「ああ、そうだな」

 

 彼女をアサシンから降ろして、俺が担いだ。

 

「もう家に帰ろう」

 

 今日は色々なことがあった。主にアーチャーの事とか。そのアーチャーの件に関してはあまりにも記憶に鮮烈な映像として残っていて、生々しいあの情景が目を閉じても瞼の裏に浮かんでくる。あれはまだ俺のようなガキが理解するには早い気がする。そんなことを考えていると、まるで現実から逃げているようだが、あれは実際逃げても問題はないと誰もが思うほど辛いものだ。そして、それを真っ向から受けたセイバーはどうなのだろうか。

 

「—————辛かったよな」

 

 俺は彼女の気持ちが少しだけ分かる気がする。

 

 俺だって両親を亡くした。父さんも母さんもこの世にはいない。きっとあの世で仲良く暮らしているのだろうけど、二人の顔をすぐに思い浮かべることも出来ないから、あの世の二人の姿を想像することが出来ない。

 

 その上、俺は鈴鹿まで葬った。しかも、彼女はこの手で殺された。肉を断ち切り、骨の折れる音と感触が俺の手に染み付いている。思い出そうと思えば、思い出せるくらい生々しく。あの彼女の情景は絶対に忘れない。血も繋がっていないのに、俺を十年間も見守っていてくれたんだ。

 

 あの時、俺が鈴鹿を殺そうが殺さまいが、どちらにせよ彼女はすぐに死ぬ運命だった。だから、俺がなんともしようのないこと。両親だってそう。力のない俺には二人を引き止める力さえなかった。

 

 しょうがない。その一言で俺のは片付けられる。だから、傷心はしているものの、自らを傷つけるということはなかった。

 

 セイバー(こいつ)はどうだ?

 

 もう、考えただけで彼女は自らを責めるだろう。あの時、私が守れていればと。俺たちからして見れば、しょうがないと言えるけれど、セイバーからして見ればそんなこと言えない。言えたとしても、セイバーみたいな性格じゃ、どうせ自虐をする。

 

 アーチャーに言われた。ありがとう、と。だが、俺は本当にありがとうと言われるほどのことをしたのか。

 

 自問自答した。だが、その答えは出そうにない。いや、これはもう答えが出ない問いなんだ。永遠に悩まねばならない矛盾(パラドックス)

 

「—————お前は俺が守るよ」

 

 アーチャーから託されたのだ。守らねばならない。俺がマスターなのだから。

 

 そう思った反面、心の何処かで俺は何か彼女に対しての靄がある。その靄を無視して、足を動かした。

 

 家に着いた。玄関の鍵を開けて、家の中に入り靴を脱ぐ。リビングを見てみたが、爺ちゃんはそこにはおらず、どうやら寝てしまったらしい。俺は階段を上がり二階へと登る。そして、自分の部屋に入った。ちょっと散らかった服と教科書が床に落ちている。歩けるスペースを一歩一歩踏み、ベッドの所まで来るとセイバーをベッドの上に寝かせた。彼女はもう涙を流してはいない。それでも、また目を覚ましたら彼女は泣き叫ぶだろう。

 

 それまで俺も休むとしよう。彼女が泣き叫ぶまで俺も休みたい。疲れが溜まっている。

 

 床に散乱した漫画を積み上げ、服を分かりやすいところにぽいっと投げ捨てた。そして、人二人ほどが寝れるスペースをベッドの隣に作り、そこに布団を敷く。布団以外にも、毛布と枕を用意した。

 

「……寝るか」

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 日差しが窓から差し込んでいて机の上に置いてある若干埃を被った教科書を照らす。窓を開けてはいないけれど、もう冬真っ只中なので、部屋の中は寒い。

 

「……なんか、寒ぃ」

 

 布団に蹲っていたのに、寒い。やっぱり、布団を敷いた所が窓の近くだから、外気の寒さを感じてしまう。

 

 だが、眠い。仰向けに寝ていた俺はベッドの方を向きながら寝ようと、横に寝返りを打った。

 

 すると、何故か俺の顔の目の前に見慣れた奴の寝顔があった。セイバーである。俺の顔の目の前に、ほんの十センチの距離の所でぐっすりと寝ていた。彼女の寝息が俺の唇に当たった。

 

 ……えっ?

 

 そんな状況に俺はまず慣れていない。別にラッキースケベ能力を持っているわけではないので、こんな状況を平然と受け入れることなんて、まず出来ない。

 

 良い香りがする。俺の下半身のある場所がムズムズイライラするほどの。

 

 赤面した。耳の端まで赤くなり、彼女の柔らかそうな唇にふと視線が移ってしまった。その柔らかそうなぷるんとした唇はあどけないセイバーの唯一と言っていいほど艶かしい所であり、その唇を凝視すると段々と鼓動を刻むスピードが速くなっていく。メトロノームの域を超えてしまうほどに。

 

 数秒間、俺はまるで何かに時を止められていたような気分だった。

 

「うわぁぁッ‼︎」

 

 数秒間ほど止まっていた時間が動き出しす。ショートしていた脳内回路も正常に動き、目の前に何故彼女がいるのかという疑問が行動として表され、その結果驚きの声が出た。

 

 驚きのあまり、俺は声を出しながら後ろへと床に手を付きながら交代していたら、机の脚に後頭部をぶつけた。ゴンッという聞くからにして痛そうな音が部屋に響いた。

 

「痛ッ〜‼︎」

 

 机の脚にぶつけた後頭部を手で押さえていたら、セイバーが眠りから覚める。彼女は眠そうに目を擦りながら、俺の方を見た。

 

「……もう、ヨウ。どうしたんですか?」

 

「どうしたも何も、お前、何で俺の布団の所で寝てるんだよ!」

 

 そこである。そもそも、俺が後頭部に痛みがある原因はセイバーが一緒の布団の上で俺の隣にいること。昨日は確かにベッドの上に彼女を寝かせたはず。

 

 すると、彼女はその事に気付いたようだった。だが、彼女は頭に手を当てて、えへへと笑ってごまかそうとしている。

 

 その状況を見て、ますます頭が混乱した。だって、セイバーが、あのテンパり娘が、こんな恰も夜のエッチな行為とかに間違えてしまいそうな添い寝というものをしていて笑うだけで済ませるということがおかしかった。いつもなら、俺と一緒に俺以上の声を上げながら叫び、恥ずかしがっているはずの彼女が、ただ笑うだけ。しかも、ちょっと恥ずかしそうに笑ってお終い。

 

 ……え?まさか、セイバー、わざと俺の隣に添い寝したとかそんなんじゃないよね?

 

 そう、彼女のあの笑いを見るまではセイバーがベッドから落ちてきたのだろうなんて考えていたが、どうもそうではないらしい。

 

 すると、もう選択肢がないのだ。

 

「……一応、確認するけどさ、セイバー。お前、夜中に俺で添い寝しようとベッドから降りた?」

 

「そ、添い寝しようと思ったわけじゃありません!ただ、その……、一緒に寝ようかなぁって……うむぅ」

 

 ……うん。セイバー。それはね、添い寝って言うんだよ?知らなかった?

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめてはいるものの、彼女が俺の知っている彼女ではないような気がした。やっぱり、何処かおかしい。

 

 俺はセイバーの額に手のひらを付けた。

 

「何してるんですか?ヨウ」

 

「ん?いや、なんか、お前に熱ねぇかなって」

 

「ね、熱なんてありません!い、い、至って正常でしゅ!」

 

 あっ、噛んだ。

 

 今の彼女の姿を見てこう思えた。やっぱり彼女は何にも変わっていないと。

 

 ほっとした俺は胸を撫で下ろした。

 

「よかったぁ。セイバーがアサシンみたいに娼婦サーヴァントになるのかと思っちゃったよ」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか!ヨウだからですよ—————!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 今、物凄い聞き間違えをしたような気がする。

 

 なんか、セイバーが、俺だから添い寝したとか、何だとか。そんなこと言ってたような。

 

「はっはっはっ!冗談よせって!」

 

「えっ?冗談?えっ、あ……。はい」

 

 彼女は笑った。その笑顔を俺は忘れることないだろう。だって、何で笑顔の前に一瞬暗い顔をしたんだ?冗談なら、そんな顔はしないはずなのに。

 

 やっぱりおかしい。今、俺の目の前にいるセイバーはどこかおかしい。アーチャーのあんな姿を目の前で見たからなのだろうか。

 

 ちょっとだけ、俺も彼女に対する反応が変わりつつある。その反応は既存の俺を少しだけ揺さぶった。




彼らはまだ17歳ぐらいの若者です。セイバーだって、死んだのはそのくらいの年。そんな二人が同じ屋根の下にいるのですから……。

でも、それ以外にも色々な想いが渦巻いて……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。