Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

70 / 137
はい!Gヘッドです!

さぁ、前回の後書きの作者のあの一言。その真相が載っております。


彼女は本当に悪い奴なのか?

「—————そこにいるのは誰だ?」

 

 グラムが俺たちに向かってそう言っている。その言葉からして、まだグラムは俺たちが誰であるかを認識していないのだろう。もしかしたら、ここに何人いるのかも認識出来ていないのかもしれない。

 

 だが、ここにいるということがバレてしまった。俺たちには気絶しているセイバーがいる。そのセイバーを担いで逃げるなんてことになったら、逃げ切れる確率は圧倒的に低いだろう。

 

 俺はセイバーを守らなければならないという託された義務がある。だから、セイバーを置いて逃げるなんて言語道断。

 

 タンッ、タンッ—————

 

 コンクリートの床を歩く足音が近づいて来る。死神の足音のように聞こえてきて鳥肌が立ってしまう。アーチャーが死ぬよりも先に俺たちが見つかってしまうのではないのか。

 

 そんなことを考えると、孤独の沼の底に落ちたように周りの音が聞こえなくなる。自分の早い心音だけがまるで俺を急かすように脈打つのが感じる。リミットが刻一刻と近づいて来て、発狂しそうになってきた。

 

 切羽詰まったこの状況。そんな中でセイバーの顔を見る。俺たちの思いも知らないで、勝手に行動して俺たちを巻き込みやがった。絶対に許さない。帰ったら、とことんイジメてやる。

 

 —————そう、帰ったら。

 

 ああ、帰らないと。ここは一旦、何が何でも帰らないと、イジメてやることなんて出来やしない。

 

 俺は腹を決めた。

 

「なぁ、セイギ、アサシン。セイバーを担いで山を下りてくれ」

 

 それはつまり、俺はここに残ると言ったようなもの。死神と対面するということ。

 

「え?それはダメだよ。だって、そしたら、ヨウはどうなっちゃうのさ?」

 

 セイギは俺が唱えた提案に乗ろうとしない。幼馴染を死なせるわけにはいかないという理由だろう。しかし、今回ばかりはそんな弱音を吐いていられない。この切羽詰まった状況の中、一時の猶予もない時にそんな事を言って殺されるかもしれないのだ。

 

 時間は無い。俺が出した苦渋の選択、それを俺は彼らに委ねた。

 

「分かったわ」

 

 アサシンは俺の提案に乗った。彼女はそう言うと、すぐさまセイバーを担ぎ、気付かれないように気配を薄くした。

 

「……分かった」

 

 彼も承諾した。彼は俺の顔を見ようとしない。後ろめたいのか、彼はその後の言葉を何も言わず、後ろを向き、静かに山を下り始めた。

 

 一人になった。俺は工場内に侵入しようと、窓を通って工場内に侵入する。工場内のコンクリートの床は所々凸凹があり、グラムとアーチャーの戦いの凄まじさを窺うことが出来た。空いた屋根の隙間から夜空の薄い光が見え、倒れているアーチャーを照らしている。グラムは俺の姿を見つけると、剣先を俺に向けた。

 

「ヨウ……?隠れていたのはお前か?何故、お前がここにいるんだ—————?」

 

「ああ、そうだよ。見てたんだよ。お前たちの戦いを」

 

「……本当にお前だけ?」

 

「俺だけだ」

 

 俺は三人のために嘘を吐く。もちろん、これがバレてしまったら、即串刺しの刑に処され、例えバレなかったとしても串刺しの刑に処される可能性は十分にある。

 

「あの叫びはお前の声か?」

 

「ああ。怖かった。アーチャーがあんな風に負けるなんて思ってもいなかったからだ」

 

 俺はアーチャーの方に目を向けた。痛々しい限りである。まだ彼の息の根は止まっていないのだろうか、まだ彼の体は現界している。だが、彼らサーヴァントの体を構成するエーテル物質が崩壊し始めており、足の方から物質が消えていっている。彼はボヤけた視線をゆっくりと動かしながら俺を映していた。

 

「他には誰がいる?」

 

「誰もいない」

 

 俺が否定すると、彼女は滞空させている剣の一つを俺に投げつけた。その剣は首すれすれの所を通り、コンクリートの壁にぶつかった。

 

「嘘を吐け!誰がいるだろう?」

 

「いない!」

 

 彼女は俺を簡単に折れないと悟ると、手に剣を持ち俺の目の前に立った。そして、持っていた剣を俺の首の横に携え、もう一度同じ質問をした。

 

「もう一度聞く。他に誰がいる?」

 

「誰もいない—————」

 

 心臓がドクンドクンと脈打つのが聞こえた。額から汗が大量に吹き出て、死を覚悟したほど。

 

 だが、運良くグラムは俺を殺そうとはしなかった。彼女は持っていた剣を収め、俺に後ろ姿を見せる。そして、アーチャーに近寄り、彼に剣を向けた。

 

「そろそろ、苦しみも何も感じなくなってきただろう。殺してやる」

 

 彼女はそう言うと、手を仰いだ。すると、彼女の後ろにあった幾本もの剣が彼を串刺しにした。俺はその光景を見ているしか出来なかった。セイバーを命懸けで守ろうとしていたアーチャーが呆気なくやられていく姿を。

 

 彼は死に際、俺にこう言った。

 

 ありがとう、と—————

 

 声にこそ出していなかったが、彼の唇の動きはそう言っていた。あのアーチャーの柔らかい笑顔。あの笑顔をセイバーに見せてやれたらと思ってしまう。それと同時に、彼を助けることが出来ず、自分の身を守ろうとしている自分が酷く情けない。

 

 あまりにも儚く散るアーチャーの姿は彼の信念の果てなのかもしれない。だけれど、その信念は俺たち部外者からしてみれば愚直で、それ故に美しくもある。そんな生き方だから英雄と呼ばれ、伝えられた話は彼と違えど、それでも現代まで語り継がれている。

 

 尊敬の意を表する。それぐらいしか、俺に出来そうなことはない。

 

 そして、アーチャーは跡形も無く消え去った。それを確認すると、グラムは笑みを浮かべると予想していたが、意外にもその顔に喜びの感情は含まれてしなかった。だがすぐに浮かべた顔をかき消そうと、目を瞑る。そして、また目を開けて俺の方を見た。もうその時には普段のグラムの冷たい目だった。

 

「これで聖杯に溜まった魂は前回の三騎、アーチャー、ランサー、ライダーにキャスター。これで七騎揃った。だが聖杯は現れないぞ。何処に現れるのだ—————?」

 

 グラムが俺に質問したということは、つまり聖杯をどうやって手に入れるのかという方法を知らないようである。彼女は正規の方法で召喚されたサーヴァントではない。というより、彼女自体がサーヴァントと呼べる存在なのかは知らないが、聖杯を使用出来る存在なのだろう。

 

 聖杯を使用出来る者はサーヴァント、そしてマスターである。基本、サーヴァント七騎分の魂がなくとも、その願いに合わせた魂の量であればよく、サーヴァント七騎と言われるのは根元へと到達することを前提としてである。

 

「—————お前、何を願うんだ?」

 

 グラムが何を願うのか。予想は出来る。だけど、ここで彼女の真意を聞いて、本当の彼女の願いを聞かねば、俺は彼女に場所を教えられない。

 

「質問を質問で返すのか?」

 

「俺の質問に答えろ。質問に答えないと、教えない。お前の望みは何だ?」

 

「私は……復讐だ。私をこんな存在にしたお前たち人間に復讐をすることが私の望みだ。大虐殺が望みだ」

 

 そう言うと思った。彼女はそう言ってくれるだろうと予想していた。

 

 だから、ここで言おう。

 

「グラム、嘘、吐いてない—————?」

 

 彼女は俺の言葉を聞くとひどく動揺した。

 

「そんなわけがなかろう!だって、私は……、魔剣だぞ⁉︎人の血に染まった剣、それが私だ!」

 

「そうだけどさ、じゃぁ、何でそんなに悲しそうな顔をするのさ」

 

「……えっ?」

 

「お前さ、そういうこと言う時の顔、悲しそうな顔してるよ—————」

 

 俺の言っていることは嘘ではない。本当のことである。少なくとも、今日の彼女はそうだった。虐殺やら、死ねやらと物騒な言葉を並べてはいたが、そんなことを言う彼女の顔が全然血濡れた魔剣らしくない。悲しそうな顔を浮かべながらも、その心を押し込もうとしていたのが見ていて伝わってきた。

 

「お前が聖杯に叶えてもらいたい本当の願いって何?」

 

「……ぃ……ゎ……ぁぇ……」

 

 彼女は下唇を歯で噛んだ。何を言おうとしているのだろうか。全然分からない。

 

「……えっ?何て言った?」

 

「な、何でも言いだろう!それより、聖杯の場所を教えろ!」

 

 これ以上彼女をからかってはいけない。これ以上そんなことしたら、俺の首から紅い綺麗な曼珠沙華が咲いてしまう。

 

「あ〜、そのことなんだけどさ、実を言うと……、俺、知らないんだよね。聖杯の場所」

 

「……は?」

 

「あっ、いやぁ、その悪いと思うんだけど、分かんないんだよ。お前に言われて、そう言えばって思ったんだけどさ、元々俺って変なことに巻き込まれて聖杯に参加したじゃん?だから、分かんないんだよ。基本的な知識」

 

「お前こそ嘘を吐いてないか?」

 

「本当ゴメン。これ、ガチ」

 

 本当に知りません。

 

「……そうか。そうか、そうか」

 

 彼女はそう呟きながら俺に近づいてくる。手に剣を持ち、物凄い殺気を感じられる。

 

「……あの、怒ってます?」

 

「怒ってるも何も!」

 

 彼女は俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「貴様ァ‼︎私が秘密を暴露してやったのに、お前は何にも言わないのかァッ⁉︎」

 

「ゴメン!本当、マジで悪気はなかったんだ!いや、でも、知らないなんて言ったら、俺、殺されるじゃん?」

 

 妥当な返答である。多分、多くの人が俺と同じ立場ならそう言うだろう。だって、知らないなんて言ったら殺されそうだし。聖杯の場所なんて他のマスターに聞けばいいじゃん!

 

 俺が怯えていると、彼女は浮かない顔をする。何で、そんなに悲しそうな表情を、お前はするのか。

 

「……私、そんなに怖いか—————?」

 

 うんッ☆‼︎めちゃくちゃ怖い☆‼︎なんて言えるわけもない。こんな悲しそうな顔をするグラムを見ていたら、セイバーみたいなノリで言えなくなってしまう。

 

 セイバーと見た目は瓜二つだから、同じようなノリで扱いたくなる。実際、彼女は残虐だが、セイバーと同じようにすぐ悩みを抱くという所がある。そうした場合、この二人はすぐに下を向いて、声のトーンを低くする。分かりやすくて、扱いが楽だ。

 

 だが、やはり目の前にいるのはグラム。怒らせたらセイバーみたいにグジグジ言われるだけでなく、剣でグサグサと刺されてしまう。要注意。

 

「怖くないよ」

 

「……嘘を吐け」

 

「うん。嘘」

 

 俺の首スレスレを通って、剣がコンクリートの壁に当たった。

 

 ヤバイ、ヤバイ。殺される。

 

「……もういい。ヨウ、殺す」

 

「ゴメンゴメン!本当悪かった!マジでごめん!土下座するから許して!」

 

 俺は誠心誠意の土下座を披露する。地面に頭を擦り付けて、大声で謝った。

 

「すいませんでしたァッ!」

 

「……じゃぁ、令呪見せてよ」

 

「え?ああ、いいけど……」

 

 いや、待てよ。これってあれじゃないか?令呪を奪うってやつ。セイギから聞いたけど、令呪って移植したり奪ったりすることも出来るらしい。

 

 彼女の手に握られているのは剣で、その剣で俺の……。

 

「腕斬るのっ⁉︎」

 

「斬らないわよ。見せて」

 

 彼女はそう言うと、俺の右手を掴んだ。そして、右手の甲を見ようと頭を下げた。

 

「あれ?一画しかない?」

 

 彼女の髪が近い。鼻息を荒くしたら、髪が俺の息で揺れるだろう。黒い髪が邪魔けど、なんかいい匂い……。

 

「これって令呪を一画使ったのか?」

 

 彼女はそう訊きながら、顔を上げた。

 

 あっ、近い。鼻と鼻が当たりそうだった。

 

「……あっ、その、ち、近い!」

 

 彼女は俺を押し飛ばした。痛い。壁に頭を打った。

 

「いったぁ〜、痛いよ」

 

「ああ、その……ゴメン」

 

 やけに素直に謝るグラム。彼女の白い頬が赤く染まっている。そんな彼女に少々疑問を抱きながらも、まぁ、話を進めよう。彼女という存在が分からなくなってしまいそうになる。

 

「で、何で令呪なんか見たの?」

 

「いや、二画あったらセイバーをここに呼ぼうかと思ったんだ。そうすれば、彼女にも復讐出来る」

 

 それは多分、魔剣にされた恨みのことだろう。アーチャーはグラムに血を塗りまくった男だけど、そのグラムを魔剣に仕立て上げたのは紛れもなくセイバーである。竜殺しの剣という異名を付けて、その上、変な能力までグラムに搭載させちゃったという決定打をセイバーは決めてしまった。つまり、グラムの復讐の矛先はアーチャーだけでなくセイバーも。

 

 つまり、俺があそこでセイバーに令呪を使わずに、アサシンに手刀をお願いしていたらどうなっていたことか。多分、セイバーを庇って俺が死んでいただろう。

 

 俺は胸を撫で下ろした。だが、まだグラムの追撃は続く。

 

「二画目は何に使った?」

 

「二画目……?」

 

 再び俺に危機が訪れた。もし、ここで二画目の令呪の使用方法を嘘無く言えば、セイバーがそこに今さっきまでいたということもバレてしまい、それもそれでバッドエンドは免れまい。

 

「あ〜、二画目?そりゃぁ、あれだよ。セイバーに絶対服従させた」

 

「絶対服従?」

 

「うん。そうそう。セイバーがさ、俺の言うこと聞かないからさ、絶対服従させたわけよ」

 

 もちろん、大嘘。確かにセイバーは俺の言うことに一々とやかく文句をつけてくるが、なんだかんだ言いながらも彼女は俺に基本従ってくれる。

 

「—————楽しそうだな」

 

 また悲しそうな顔をした。手を握り締めて、遠くを見つめている。

 

「……まぁ、今日はもういい。早く帰れ。私はお前みたいな者を殺す趣味はない」

 

 彼女は後ろ姿を見せた。俺の目にはは小さく弱い背中に見えてしまった。それは初めて会った時のセイバーにすごく似ている。

 

 歩き出した彼女を呼び止めた。

 

「なぁ、お前、あの少年と手を組んでいるのか?」

 

「何故そんなことを教えなければならない?」

 

「いや、何となく。まぁ、あれよ。手を組んでるなら、その少年に聞けばいいじゃん」

 

 彼女は俺の目をじっと見つめて、笑顔を浮かべた。

 

「お前は何故私のようなやつにまで優しくしてくれる?面白いやつだな」

 

 その笑顔、やっぱりセイバーと一緒だった。これまで何度も見てきたセイバーの笑顔が敵であるはずのグラムの笑顔と一緒なのだ。確かに瓜二つだとしても、そこまで一緒であるはずはなかろう。なのに、何故こんなにも似ているのだろうか。

 

 グラムはアーチャーを殺している。その現場を見て、グラムの恐ろしさを十分知り得たはずなのに、何故か俺は彼女を恐ろしい存在と認識することが出来ない。彼女が悪い奴にはどうしても見えないのである。

 

 そして、去り際に彼女はこう言い残した。

 

「私は、私のような存在はとことん報われることはないな—————」

 

 彼女のその言葉が俺の中で木霊した。印象的で、絶望的な雰囲気のニュアンスが心の中で響き渡り、忘れることが出来ない。それを理解することはまだ高校二年の俺にとってはあまりにも重い一言だった。

 

 彼女が去った後、俺はアーチャーが横たわっていた所である物を見つけた。

 

「これは?」

 

 それは小さな巾着だった。握り拳程度の大きさ巾着で、その中には何やらゴツゴツとした硬いものが入っている。何であろうか。

 

 俺は巾着の中身を取り出した。中に入っていたのは透明な青色の綺麗な宝石。澄んだ魔力が込められている。これは確かアーチャーが戦闘で戦っていた時に使っていた物だ。

 

 俺はその巾着をポケットの中に突っ込んだ。そして、廃工場をあとにした。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 このビルは織丘(おりおか)市で一番高い建物。この建物は市役所など市民への福祉、公共事業などの施設。織丘市の土地は然程大きくはないが、それでも人口は多く、そのためこの織丘市役所ビルはとても高いビルのようになっており、織丘市の名所の一つのような存在となっている。

 

 その織丘市役所ビルの入り口は市役所などを使用する一般者の入り口と関係者入り口の二つがある。この関係者入り口から入れば最上階である二十階、そして屋上へと行くことが出来る。

 

 その市役所ビルの屋上に一人の女性がいた。強く吹き付ける風を受け、短い髪は揺れ動いている。ビルの屋上から神零山の方を眺めていた。

 

「アーチャーは死んだか……」

 

 彼女は右手の甲を眺めた。綺麗な白い肌を汚すものは特になく、そこに()()など見当たらない。

 

「おい、そこにいるのは誰だ?屋上(ここ)は職員でも危ないから立ち入りを禁止しているはずだが—————?」

 

 彼女はそう呼びかけた。その相手はさっきから彼女の後ろにいる何者かに対してである。

 

「—————いやはや、気付かれていたとは。やはり、こういう隠れごとはアサシンではない余には難しいものですな」

 

 その者は姿を現した。まるで霊体から実体化したように、エーテルで構成されたその身体。サーヴァントである。白い髭を生やした中年くらいの男性で、黄金の鎧を着ている。屋上へと唯一上がれる階段の扉の所に立っている。

 

「—————貴方は誰?」

 

 女性はそう聞いた。すると謎のサーヴァントは自分の顎髭を触りながら腕を組む。

 

「余ですかな?余はただのはぐれ者で御座います。おや?何です?余と()()()でも為さるおつもりですかな?()()()()()()()()()()()よ」

 

 そのサーヴァントは女性のことをアーチャーの元マスターと言った。それはつまり、アーチャーの令呪を所持していたということである。

 

「貴方、何故それを知っているの?」

 

「余はアーチャーを殺すために聖杯に用意されたアーチャーです。そのため、アーチャーに関する事情は聖杯に知識として頭の中に詰め込まれました」

 

「……そう。世界はやっとアーチャーに騙されていたことに気づいたのね。もう、彼を召還してから一ヶ月半。やっと世界が修正力をかけたのね。まぁ、でも、もう遅いわよ。アーチャーは彼の望んだように死んだから」

 

 アーチャーは死んだ。グラムの復讐の矛先となり、過去の業を背負ったのだ。

 

「言っておくけど、私はもう聖杯戦争には参加しないわよ」

 

「ええ、余もそのつもりで御座います。誰とも契約をせず、文明が発展した現代を観光するつもりです。なので、殺し合いを行う気はありませんよ。運良く、余はアーチャーのサーヴァントとして召還されたので、魔力供給は無くとも、神の加護がありますし、三日四日ほどは現界できます」

 

 彼は手の平を上に向けた。すると、彼の手の中に弓が現れた。金色の弓で、太陽のように眩い光を放つ。

 

「そうですねぇ。殺し合いもしませんし、この弓は必要ありませんねぇ」

 

 男は頭を抱え、本気で悩んでいる。戦う気のないサーヴァント、聖杯を必要とせず、ただ観光をするためだけに現界した。何とも馬鹿馬鹿しい男だと女性はため息を吐き、屋上をあとにしようと、階段の扉に触れた。隣にいるサーヴァントはそんな女性を引き止める。

 

「あのですね。そこで一つお願いがあるのです」

 

「契約はしないわよ」

 

「ええ、余もするつもりありませんよ」

 

 男は彼女の目の前に手を差し出した。

 

「お金を貢いでください?」

 

「……は?」

 

「いや、この現代、余のためと言い、貢ぐ人がいないじゃないですか。税金や貢ぎのない国で王族が生きていけないのと同じように、貢ぐ人がいないと余、生きていけません。ですから、是非貢いでください。出来れば、お金を」

 

「貴方、そのために来たの?脅迫とか、冷やかしとかじゃなくて?」

 

「もちろんです。余、貢いでもらうためだけにここまで来ました」

 

 女性はまた大きなため息を吐いた。親バカなアーチャーの次は、金欠なピカピカアーチャーだとは。

 

 だが、女性は優しく、千円をアーチャーの手に置いた。

 

「はい。これでいいでしょ?」

 

「……え?余に貢ぐ金がたったの千円ですかなっ⁉︎少なくない?」

 

「全力で奮発して千円だけど……」

 

 金欠ピカピカアーチャーは叫んだ。

 

「千円じゃ、観光も出来ないではないかっ!北海道の美味も、箱根の温泉も、京都の神殿も、沖縄の綺麗な海も、何にも観光出来ないではないかっ!」

 

「そうね。まぁ、静かに魔力切れまで待つのね」

 

「何ですとッ⁉︎」

 

 金欠ピカピカアーチャーの馬鹿な交渉に呆れた女性は下の階へと降りる。

 

「あっ、ちょっと、待って!余に貢いで!お願いですからぁ〜‼︎」

 

 結局、金欠ピカピカアーチャーは千五百円を女性から得た。





アーチャー、死にました。娘のために信念を貫き通す。カッコイイ死に様です。

そして、新たに現れた謎のサーヴァント。黄金の弓を持ち、自らをアーチャーと名乗る男。その男は一体何者なのか。

ちなみに、男はヴラド三世とエドワードティーチを足して二で割ったような人です。ちなみに、王であり、多分、グラムよりも強いかもしれません。それこそ、この聖杯戦争一の力を持つサーヴァントと言えるかもしれないこの男。さて、誰なのか。(ギルガメッシュではありません)

まぁ、第一ルートではこの男はほぼモブみたいなものです。出てくるのは、もっと後ですが……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。