Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドでございます。

題名を変えました。意味はそのままの意味でございます。

アーチャーの過去は5話ほどで終わりとなりそうです。意外とこった作りとなっております。


栄枯盛衰と怒りの源流《中編》

 シゲイルを倒した俺とシンフィヨトリは自国に戻った。シンフィヨトリからしてみれば初めて見る土地である。彼は戸惑いこそあったものの、俺の生まれ故郷であり、俺が王として君臨する地でのこれからの未来に想いを馳せていた。彼にとって新しい土地に定住するのだから、反論を言われると思っていたが、何一つ口答えせずに快くこの地に住むことにしてくれた。

 

 シンフィヨトリは特に不満もなく、また新しい生活を出来るのだと思っていた。だが、その生活は思い描いていた生活とは少し違うものであった。

 

 俺たちは十数年間もこの国にいなかった。そして、王族である俺たちが長い間いなかったのだから、新たな国王が俺たちの国に生まれてしまったのである。俺はてっきり、国に戻って来たら歓迎パレードでも開かれるのではと思っていたが、そんな期待をしていた俺が馬鹿だった。

 

 いや、そんな歓迎パレードなぞ開かれるわけがない。父に兄弟、そして双子の妹さえも守れなかった男によく戻ってきたと拍手喝采が巻き起こるわけがない。

 

 つまり、俺は王などではなくただの民になってしまっているわけである。

 

 だが、そんなことが許されるわけがない。俺はシグニューに言われたのだ。王として君臨し、国は栄華を極めなければならないのだ。それが俺に課せられた使命なのだから。

 

 俺は帰国してすぐさま国を取り返す準備をした。話せばなんとかなる国の権力者たちに援助を要請し、現国王を王の座から引きずり下ろす計画を練る。正統な王の血筋を持つ俺が権力者たちに援助を頼んだら、多くの者たちが快く俺の申し出を快諾してくれた。偶に俺の人の心を読むことが出来る目に欲の深い権力者が映ることはあったものの、ほぼ大半の権力者たちから下心を窺うことは出来なかった。

 

 父が基盤を固めていたのである。父は確かに厳しい人ではあったが、民や臣下からの信頼は厚かった。そして、それ故に俺の影は権力者たちからは薄く見えるのだろう。あくまで、俺を助けるのは俺を信頼しているからではなく、俺の父を尊敬しているからである。父の子だからという理由で俺は援助をもらえており、俺自身の人柄などを評価されたのではない。

 

 しかし、それでも今はそんなことにグジグジと文句を言っている場合ではない。一刻も早く国を取り戻さなければ。

 

 俺は焦っていた。みんな俺を父と比較するのだ。そして、最後はみんな心の中でこう思うのだ。所詮父の子で、まだまだ青二才なのだと。

 

 俺は一時一時を失うのがすごく惜しい。少しでも早く俺が国王として立たなければ、国に栄光の光が差し込むなんてことも遅れてしまう。そうなれば、俺はシグニューの願いを叶えることが出来なくなってしまう。

 

 俺は急いで行動を起こした。まず簒奪者である現国王と交渉をさせろと要求する。だが、そんなことは現国王からしてみれば厄介なことであり、当然のことながらその申し出を一蹴した。そして、それを何度か繰り返し、その度に要求を踏み躙られてしまう。だが、そうなることは百も承知で、その行動を予測した上で、もう次の行動を取っていた。

 

 国へ攻めるのである。かつては俺を育んだ土地に一時的な刃を向ける。

 

 その結果、俺は国を奪還した。俺たち一族の代わりとして王となっていた者の政治はなんとも酷いものだったようで、俺が力を貸してくれと民にも援助を乞うと彼らは快く俺に命を預けた。そして、俺は権力者、民の力を得て国王としての地位を奪い返した。

 

 俺は遂に王としてこの国の頂点に立ったのだ。

 

 そのあと、俺は荒れた自国の制度などを立て直しながら、ボルグヒルドと言う女性を妻に迎えた。彼女と俺は互いに愛し合っていたわけではなく、政略結婚だった。そのため彼女との仲は悪くもなければ良くもないというような状況であった。

 

 俺と彼女の間には二人の子が生まれた。そして、特に変なことが起こるわけもなくこのまま国に栄華という綺麗な花を咲かせるのだと思っていた矢先に事件は起きた。

 

 シンフィヨトリがボルグヒルドによって毒殺されたのである。

 

 以前、シンフィヨトリは継母であるボルグヒルドの弟と一人の女性を賭けて争い、その弟を殺してしまったのである。それにボルグヒルドは怒り、シンフィヨトリを殺してしまった。

 

 俺はそんな彼女の行動に怒りを見せた。確かに俺はシンフィヨトリに対して息子という感覚は無かったが、人として彼のことが好きだった。親としての愛ではないにしても、仲間としての愛があり、今回はその愛が怒りとなってボルグヒルドに向けられた。

 

 だが、俺は彼女を殺すようなことだけは出来なかった。彼女は確かにシンフィヨトリを殺したような女ではあるが、彼女だって弟をシンフィヨトリに殺されたのである。

 

 それはつまり俺が殺したというようなものでもあった。

 

 何故なら、俺はシンフィヨトリに殺しのことしか教えてこなかったのである。物心ついた頃から、シゲイルの復讐のために人殺しの方法だけを教えてきた。逆に言えば、俺は人殺しの方法しか教えてなどいない。だから、彼は人を殺すことしか出来ないような人になってしまったのである。

 

 だから、シンフィヨトリには殺ししかすることは出来ず、そのシンフィヨトリの責任は俺にあった。だから俺はボルグヒルドを殺すようなことは出来なかった。

 

 結局、俺はボルグヒルドを追放という形で俺の視界から消した。つまり、それ以外のことは何も出来なかったということである。俺が彼女へ罰を与えるような権限は本来持ち合わせてなどいないのだから。

 

 俺の側にいたはずの者が一人減った。いつも俺の隣にいて、よく笑いながら、全然場の空気を読まない俺の子が普段の生活から消えた。ああ、なんとも悲しきことである。例え我が子だからと言い、我が子としての愛情を与えなかったにせよ、人としての愛情は与えていたつもりだった。だから、寂しい。俺の隣には空しかないのだ。

 

 王としてこの国の民を纏め上げ栄光に導こうとしているが、それでもまた俺の隣にいたはずの人を守れなかった。あれも俺が人として、復讐の道具ではないように彼を育てれば良かったのである。ただそれだけなのだ。なのに、俺はそれをしなかった。

 

 守れたはずの命だったのではないかと、俺は自らに語りかける。だが、自分からの返答は一度もなかった。答えなど見つからないのである。四十にもなって、未だ守れるはずの命を守れなかった理由を見つけられないのだ。

 

 だが、国は安定していた。シンフィヨトリがいなくなっても、国は彼が必要ではなかったかのように安定して、民の暮らしは実に豊かになっていく。父が王であった時代と比べても、国は大きく成長していた。

 

 父がいなくとも、兄弟がいなくとも、妹がいなくとも、子がいなくとも、俺の力だけで国は遥かに大きくなっている。彼らが亡くなったのに、国が栄華を誇るという現実に納得出来ない。いや、納得などしたくない。

 

 彼らが亡くなったのに、何故国は豊かなのか。

 

 亡くなってしまったから良くなったと考えながらも、亡くなってしまったのに良くなったと考えてしまう自分がいる。

 

 だがそんなことは俺の心の問題である。過去を見るのではなく、未来を見なければならない。

 

 大事なものは過去ではない。未来なんだ、と。

 

 俺はその頃からあまり人を自分の周りに近付けなくなった。もう大事な人を作りたくないのである。大事な人を作っても、どうせ守ること出来ずにその人は死んでゆく。そんな未来が分かるのである。

 

 人の心を読むことが出来る目は、いつしか俺にとって未来を決定する目になってしまった。

 

 大事な人を作りたくない、だがそれでもシグニューとの約束を守ろうと思った。栄光なる国に育て上げるという彼女との約束は俺をいつまでも縛り続けるのだ。

 

 その結果、俺は段々と嘘を吐くようになっていた。シグニューとの約束であり、彼女の望みを叶えようとしても、簡単に国が大きくなるわけではない。だが、俺は国を大きくしたかった。周辺諸国がこの国の名を聞いただけで怯え、冷や汗を流すようなほどにまでの強国にしたかった。彼女の望みと俺の欲望がそう思わせるのだ。そのため、ゆっくりと力を蓄える国ではなく、手早く力を蓄える国として成り上がらせたかった。そのために嘘をついた。

 

 俺の目は人の心を読むという芸当が出来たため、嘘を吐くには持って来いだった。相手にはバレないような嘘を選び抜き、嘘を吐く。そうした上で、俺の国は利益をバッコバッコと得るのである。

 

 俺はその嘘を駆使し、国は父の代よりも遥かに大きく成長した。その現実を目で見て、それが俺にとっての心の安らぎともなっていた。元より騙す相手に情などもない。大切な人を作らないように、人を遠ざけてきた結果、俺は人に非情になりつつあった。たが、俺はそんな自分を認めてしまう。

 

 国が大きくなったからいいじゃないかと。

 

 そう、俺は間違っていた。誰でも気付くようなことに俺は気付いていなかった。過去(後ろ)を見て歩いていては転んでしまう。だから未来()を見ようと思っていたのに、結局見ていたのは現在()だった。下ばっかり見ていたら落ちているものは交わせるが、前にある障害物は交わせない。そんなこと、誰でも知っているのに、俺は気付かなかった。

 

 時は俺に大事なことを気付かせずにそのまま過ぎてゆく。

 

 そして、ある時俺はある女性と会った。他国の宴に参加していた時である。その宴には多くの貴族やら何やらが参加し、何とも天上爛漫豪華の如く、盛大な宴だった。俺は強国の王としてその場に出席していたので、ずっとみんなの視線が俺の方を向いていた。俺のことをすごいと思っている者もいれば、ただの金持ちだろうと思う者もいた。その好奇の視線が俺にはあまり快く思えない。あまりこういう派手な宴など好きではないし、第一、人を遠ざけているような俺はみんなの視線の的となるなんて真っ平御免だった。だから、俺はこっそりと宴の席を抜け、宴が行われている館を見て回ることにした。

 

 静かな夜、俺は庭園内を歩いていたら、一人の女性を見つけた。彼女は木の根元で座り、うたた寝をしている。手に持っているのは酒の杯であり、ただの呑んだくれかと思いながらも、俺は彼女を起こすことにした。夜なので気温は寒く、こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまう。

 

「おい、起きろ。風邪を引くぞ」

 

 彼女の肩を揺さぶる。彼女はそれでも起きない。

 

 ……置いていくか。起こすのも面倒だし、それに俺は酔っ払いを起こすためにこの宴に来たわけでもない。

 

 そう思い、俺はこの女を置いていこうとすると、女は俺のズボンの裾を掴んだ。

 

「むふぅ〜、まだまだ飲み足りないよぉ〜」

 

 呑んだくれが呑んだくれらしく酒が足りないと叫んでいる。だが、そんなことを初対面の俺に言われても困るし、ましてや彼女は俺を誰かと認識してもいないだろう。

 

「おい、俺は酒を持っていないぞ」

 

 だが彼女はズボンの裾を離してくれそうにない。しょうがなく俺は無理矢理引き離そうと彼女の手を握った。そして、ズボンの裾から引き離すと、彼女はコロンと寝転がってしまった。何ともぐうたらで情けない姿なのか。そんな場所で寝転がってしまっては風邪を引くが、面倒くさくなることに変わりはなく、彼女をそこに置いたままにして、戻ろうとした。

 

 が、戻れない。人にはある程度の良心が備わっていて、その良心を隠していたつもりだったが、何故か弾んで出てきてしまった。

 

 俺は彼女の顔を覗き込む。間抜けな面だ。そんな彼女をおんぶして館のベッドルームまで連れて行き、彼女をそこに寝せた。

 

 静かな寝息を立てて、胸を上下に動かしている。気持ち良さそうに瞼を閉じている彼女を見ていて、何処か心で安らぐものを感じた。

 

 久しぶりだった。こんなに、俺に無防備で弱い面を見せる人が。俺は人に弱い所を見せないでいた。それは誰も俺に近づけないように、表の強い自分を見せているからである。だから、俺は誰かの弱い部分なんてここ最近見たこともない。

 

 まぁ、別にそれも苦ではない。それはそれで俺にあっているんだと実感している。だから、その俺の行動に不満や悔いはない。

 

 だが、やはり、こう人の弱い部分を見ると、自分だけではないのだと思うのである。弱い所を見せないようにしていたが、人には弱い部分や知られたくない所があるのだと。

 

 俺は結局、ずっとその部屋にいた。宴に戻っても良かったのだが、宴に戻っても楽しくはないだろう。だから、俺はずっとその部屋で一人公務をこなしていた。公務と言っても、椅子の上で部屋の中から夜空を見上げながら他国との問題に頭を悩ませているだけのこと。

 

 ちなみに性的な行為については一切していない。俺は寝ている女に猥褻な事をするほどに飢えてもないし、野蛮でもない。ましてや、呑んだくれと肉体関係を持つのはなんか嫌だ。名も知らぬ初対面の女を俺は犯せない。

 

 それから少し経った。俺はずっと椅子の上に座っていて、瞼が重くなってきた。頭がぼぉっとして、首が上下に揺れる。欠伸をかいても、未だに睡魔が俺を支配しようとしている。最初こそ、その睡魔に抵抗をしていたものの、段々とその抵抗さえも虚ろ虚ろとなってきてしまい、そしていつしかその睡魔に負けた。

 

 こくりこくりと頷いていたのも、下の方をずっと向いていたら、突然大声が部屋の中で響いた。気持ち良くなっていたという時にまるで俺を驚かすかのように甲高い叫び声。俺はその声に叩き起こされた。すると、女は起きていた。

 

「だ、誰ッ⁉︎」

 

 Ohー、it'sテンプレート。誰もが一番言いそうなことを彼女は言ってくれる。

 

 だが、そんなこと言われるなんてことは最初から知っている。いきなり起きたら、男と同じ部屋にいるなんてそりゃぁ、サイッアクの状況である。まず、自分が服を脱がされていないかを確認して、その後自分が何かされていないかを調べる。そして、また俺の方を向くなど、結構前に予想していたことである。

 

 そう、だから彼女が起きる前に俺はこの部屋から出て行こうかと思っていたのだが……。

 

「……クソッ。寝てしまった」

 

 あの時睡魔に負けてなどいなかったら、この面倒くさい展開から逃げられたはずなのに。

 

 自分の不覚のミスに落ち込んでいると彼女がそおっと俺の顔を覗き込んできた。

 

「え?何で落ち込んでるの?」

 

「疑われた後は慰められるのか……。なんか悔しい」

 

「慰めてないから」

 

 何故か悔しがっている俺と、変態と呼ぼうと思っていたのに目の前で落ち込まれて動揺している彼女。変な雰囲気になってしまった。

 

「って、そうじゃないわよ!あなた、誰なの?私を寝かせて、その上で犯そうっていう算段なら容赦しないわよ!どうせ、私が寝ている間にこの体をベトベトと触って、舐め回して、弄りまくってたんでしょ?」

 

 何と酷い言いがかりなのだろうか。自分の寝ている姿を見られたというだけで、初対面の男にそう堂々と被害妄想をぶつけることが出来るというのはある意味凄いと思う。才能だろう。

 

 別に褒めてはないが。

 

「それは誤解だ。俺は変態ではないし、アブノーマルでニッチな性癖を持っているわけでもない。それに、本国に帰ってから、そんなことやろうと思えばいつでもやれる(やる気は甚だないけど)」

 

 俺はため息を吐きながら、椅子から立ち上がった。

 

「俺の名はシグムンド。王だ」

 

 俺は自信満々に彼女そう告げた。すると彼女は馬鹿でアホらしい顔を見せつけてくる。

 

「……ふぇ?シグムンド?」

 

「……え?あっ、いや、その、俺はだな……」

 

 彼女の口から発せられた一言が俺の額に一気に汗を拭き上がらせた。俺の目には見える。彼女の心が俺のことなど一切知らないと言っているのが。

 

 彼女はアホらしそうで本当はただのアホであった。そしてそんなアホに堂々と胸を張って言ったことが馬鹿みたいに思えてきた。

 

 恥ッズッカッシー‼︎顔から火が出るほどに赤面し、あまりの恥ずかしさに俺は壁に頭突きでもしていたいと思った。

 

 それから俺は彼女に自分のこと、そして何故彼女が寝ていて、その部屋に俺がいるのかということを。馬鹿でも分かるように懇切丁寧に細かいところまで教えてやった。

 

「……だから、お前はここで寝ていたのだ」

 

「じゃぁ、あなたは……」

 

「酒を飲みまくってべろんべろんのお前を親切に介抱してやっただけだ」

 

 彼女は真実を知ると、すぐに俺に頭を下げた。

 

「すいません!つい、てっきりそういう変態なのかと」

 

「いや、別にいい。そう思われることを予想しておきながら睡魔に負けた俺が悪いのだ」

 

「いやいやいや、そんなことありませんって!」

 

「……おい、どうして急に敬語で話す?」

 

「そ、そりゃぁそうですよ。だ、だって、あの大国の王様ですから、私のような一人の女がエラソーなことを言ってしまっては……」

 

 さっきまで散々人のことを変態呼ばわりしておきながら、今となっては敬語である。すぐ人を疑い、すぐに謝る。潔いことはいいことなのだが、何か俺はそんな彼女に落胆してしまった。

 

 彼女も他の者と同じなのか。

 

「別に怒ってなどいない」

 

 俺はそう彼女に応えると、宴の場に戻ろうと部屋を出て行こうとした。そろそろ戻らないと宴の場で俺がいないと騒ぎになってしまうかもしれない。

 

 その時だった。

 

「待って下さい!」

 

 さっきの叫び声よりも大きな声で彼女は俺を呼び止めた。俺は彼女の方を振り返る。すると、彼女は涙を目頭に溜めながらこう言った。

 

「わ、私の体をつ、使ってください」

 

 彼女は歯を食いしばりながらも服を脱ぎ始めた。震える手を服と肌の間に入れてゆっくりと生肌を俺に見せてゆく。

 

 そんな彼女の姿に今度は俺の方が状況把握出来なくなってしまっていた。何故、彼女は肌を俺に見せてくるのかが分からない。いきなり俺を引き止めて服を脱ぎだしたのだから、困惑してしまう。

 

「え?何?露出狂?」

 

「違います!」

 

 彼女はそう言ったあと、すぐに自らの手で口を塞いだ。それでも、言った言葉は口に戻ることはなく、彼女の表情は青ざめていた。

 

 彼女の行動がよく分からなかった。なので、とにかく彼女を置いて俺はこの部屋から逃げようと思った。そうでないと、何かヤバそうな展開になってしまいそうだと悟ったからである。

 

 すると彼女は後ろから俺の腰に抱きついてきた。服を着ていない。裸で、俺に行くなと言わんばかりに必死に力一杯俺を引き止める。

 

「行かないでください、行かないでください。私が悪かったです。だから、許してくださいお願いです。何でもしますから、許してください」

 

 彼女は涙を流していた。

 

 そういうことか。彼女は多分、俺が怒ったと思っていたのだろう。彼女に変態呼ばわりされ、俺は素っ気なく出て行こうとしたから、彼女は勘違いしたのだ。だから、彼女は服を脱いで肌を見せた。それで俺の怒りが収まるのならと思ったのだろう。

 

 彼女はまるで命乞いのように俺にしがみつく。

 

「たわけ、何を勘違いしている?別に俺は怒ってなどいない」

 

「いや、でも……、部屋から出て行こうと……」

 

「そりゃぁ、宴に参加しているのだ。早く戻らねば他のみんなに失礼だろう」

 

 それでも彼女は申し訳なさそうな顔をしている。そんな顔をされると、俺の方が悪いことをしているみたいではないか。

 

「まったく、お前は何なのだ?」

 

「えっ?私ですか?私は……」

 

「いや、別にそういう名前とかを聞こうと思っているのではない」

 

「まだ一言も言ってないんですが……」

 

「言わずとも分かるわ。力を使わなくてもな」

 

「力?」

 

「あっ、すまない。それは別の話だ」

 

 俺はため息を吐く。彼女と話していると、話がてんで進まない。やはり馬鹿を相手にしているとこうなるのだろうか。

 

「おい、立ち上がれ」

 

「……私の体を嬲るようないやらしい視線で私を見るんですか?」

 

「違うわ、ボケ!」

 

 この女は自分が言っていることが俺に対して失礼極まりないと心得ているのだろうか。彼女の言動は一国の王である俺を動かすかもしれないのだと分かっているようには思えない。

 

 彼女が立ち上がると、俺は下に落ちていた服を拾い上げて服を着ろと命じる。彼女は俺の行動を不審に思いながらも、自らの服を着た。

 

「その……私は何をすれば……?」

 

「いや、別に何もしなくても良い」

 

「……ぬ、脱がせるのですね⁉︎」

 

「するか、この馬鹿者。そのままでいいんだよ」

 

「ち、着衣ッ⁉︎」

 

 あ〜、もう本当に面倒くさい。この女、呑んだくれで馬鹿でアホだけでなく、被害妄想も凄い。このまま話し続けていたら、俺は変態に仕立て上げられてしまうに違いない。

 

 俺は彼女のほっぺたを摘んだ。

 

「あのな、俺は何にもする気はない。それとも何だ?俺に犯されたいのか?」

 

「ち、違います!」

 

「じゃぁ、それでいいだろ?俺はさっさと戻らないといけないんだ。戻らせてくれ」

 

「……その」

 

「何だ?まだ何か言いたいことがあるのか?」

 

「……本当に怒っておりませんか?」

 

「怒ってなどいない!はい、これでおしまい!じゃぁな」

 

 俺はもうアホ女に引き止められないように全力でそこから走り去った。

 

 ああ、もう本当に何なのだ?時間を無駄にしてしまったではないか。それなら、宴の方に出ていた方がマシであった。

 

 それから俺は宴の方に戻った。予想通り、宴の会場では騒ぎになっていた。主役の俺が宴の場にいないとなると、多くの人が俺の姿を探していた。

 

 それでも、特に変なことが起きたということもなく宴はお開きとなった。

 

 それから俺は自国へと戻り、またいつものように公務を続けていた。そして、半年後。俺はまた別の宴に呼ばれることとなった。その宴は俺の国と友好関係を結ぼうとしている国の王の娘の結婚式らしい。いつもの俺なら断っているのだが、流石にここで断ってしまっては、友好関係を結べなくなってしまう恐れもある。味方は多い方が良いので、ここは参加するしか手がないようだ。

 

 仕方なく俺は宴に参加するため、馬に乗った。そして、数日経ち、俺は宴が行われる国に無事着いた。二十年前は俺も山賊紛いの生活をしていたから、山賊が出てきそうな場所ぐらいはわかるようにはなっていた。それでも、やはり襲われる側となると、不安はある。二十年来経ってやっと気づいたことだった。

 

 国に着いてすぐに俺はその国の王と顔を合わせることとなった。ハードなスケジュールだが、それも国のためを思えば頑張れる。だが、やはりこう予定が詰め込んであると心身ともに溜まる疲労が結構多い。

 

 欠伸をしながら俺は城の廊下を歩く。目頭を指で押さえ、目を少し圧迫させる。この国との友好関係も俺が吐いた嘘によって無事に結ばれそうなのだ。だから、嘘を吐くためには目が必要で、無理に目の力を使用してはならない。特にこういう疲労困憊の時には。

 

 確かに俺のこの目の力は常時発動してはいるものの、目の力を使い過ぎた時は稀に人の心の中を覗き込むことが出来なくなる。そのため、定期的に目の疲れを癒してはいるのだが、そう簡単に取れるものではない。

 

 っていうか、普通に眠い。

 

 俺の瞼が今にも閉じそうである時、突然背後から衝撃がきた。誰かに押されたようである。振り返ってみると、そこにいたのはいつぞやの呑んだくれ女であった。

 

「……お前、何をしている」

 

「開口一番の言葉がそれですか?普通、久しぶりとか言いません?」

 

 この女、年齢的にも地位的にも上である俺に何と舐めた態度を取るのだろうか。彼女の言動には俺の後をついていた臣下たちも口をあんぐりと開け、唖然していた。

 

「女、何だ、その言葉遣いは⁉︎このお方を誰だと心得るか?このお方は……」

 

「あ〜、はいはい。シグムンドですよね。知ってますよ」

 

 あっ、呼び捨てにした。この女、俺のことを呼び捨てにしたぞ。

 

 ……度胸があるなぁ〜。

 

 そう思いながら、怒りを露わにする臣下を宥めた。

 

「おい、お前、よく俺の部下の目の前で俺のことを呼び捨てに出来たな。あと、よく覚えて入られたな、俺の名前。てっきり忘れているかと思っていたのだが」

 

「そんなに馬鹿じゃありません!」

 

 いや、馬鹿だろ。否定なんて出来ん。

 

 だが、そんなことを言ってしまったら、俺はこいつの面倒くさ〜い被害妄想に付き合う羽目になりそうだから、そっと心の中で叫んだ。

 

「って、何でお前がここにいるんだ?」

「って、何で貴方がここにいるのです?」

 

 二人の考えは一緒だった。普通に話してはいたが、俺は何故この馬鹿女がここにいるのかを知っていない。ましてや、俺はこいつの名前を知らない。

 

「じゃぁ、俺から話そう。俺は……」

 

 その後の言葉を口にしようとした時、この国の王が俺の前に現れた。

 

「おお!これはこれは、シグムンド様。ようこそお越しいただきました!」

 

 エイリミ王である。明日の夜、エイリミ王の娘が結婚式を挙げるというので、俺はこの国に来た。しかし、俺はエイリミ王の娘とは面識もなく、また誰と結婚するのかも分からない。まぁ、それでもエイリミ王と仲良くして、友好関係を結ぶために来たのではあるのだが、やはり少し気が引けなくもない。

 

 俺はエイリミ王に丁寧に挨拶をした。

 

「娘さんのご結婚を祝福いたします」

 

「貴方のような偉大なる王にそのようなお言葉を頂けるとは光栄でございます。オーディーン神に認められし王たる王、そのようなお方に祝福される娘も喜んでおります」

 

 エイリミ王の隣にいる女は彼の言葉に驚きを隠せない。彼女は俺のことを指差しながら、こう言った。

 

「か、神様に認められた王⁉︎そ、そんな凄い人だったのですか?」

 

 彼女が俺のことを指差すと、俺の後ろにいる臣下たちが殺気立った雰囲気を出した。そして、そんな彼女にエイリミ王は軽く注意する。

 

「これ、ヒョルディース、シグムンド様に何と失礼なことを」

 

 ん?やけにエイリミ王と仲良く話すな、この女。っていうか、この女、ヒョルディースって言うんだ。初めて知ったわ。この女の名前。

 

 ……あれ?ヒョルディース?

 

「ああ、シグムンド様。申し遅れました。こちら、私の娘、ヒョルディースでございます」

 

「どうも〜、ヒョルディースでーす」

 

「……ああ、明日結婚式を挙げるのはお前か。

 

 

 ……ええええええええ‼︎⁉︎お前のような女でも結婚出来んの⁉︎」

 

「驚く所そこですかッ⁉︎」

 

 エイリミ王の娘、ヒョルディース。明日彼女は結婚式を挙げるのであるが、どうしたことか、彼女は俺の妻となる運命の人。

 

 呑んだくれで馬鹿でアホで被害妄想好きで礼儀知らずな彼女が俺の妻となるなんて、まだ誰も想像していなかった。




アーチャーのもう一つの宝具である『摧破の赫怒(グラム)』について紹介致します。

摧破の赫怒(グラム)
ランク・D
種別・対人宝具
レンジ・1
最大捕捉・1人

選定の剣グラム。この剣はオーディーンによって折られたため、普通のグラムよりも幾分か短く、また特殊な力や神の加護を失っている。そのため、ランクは低い。

しかし、アーチャーが長年愛用の剣のため、色々と強く見える。というか、強い。

この剣が誰によって鍛えられたかは謎だが、この剣を譲り受けたセイバーはある理由により、平行世界から何本も同銘の剣を呼び出せるという力を得た。もちろん、アーチャーが使っていたころのグラムにそんな力はない。

では、アーチャーが使っていたころのグラムにはどんな力があったのか。

それは物語を読んでのお楽しみ。

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