Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
ヤバイです。案外、6月までにおわんないかもです。次からの3話が曲者で……。
まぁ、頑張ることに変わりはないのですが。
作者の戯言には耳を傾けなくても結構です。勝手にベッドの上でのたうち回りながら執筆しておりますゆえ。
では、作者の戯言は無視して、本編をお楽しみくださいませ。
—————ドスッ‼︎
骨が砕けた音が聞こえた。二つの握り拳が胸の前で重なり、そこから血が大量に噴き出している。彼の手に握られているのは折れた剣。折れたと言っても、六十センチほどの長さをしており彼の厚い胸板も優に貫いていた。背中から顔を出す剣の折れた断面は血塗られていて、剣として人の命を奪うという役目をこなしてしまっている。微かにするアーチャーの息と、その息と一緒に口から血が出た。血だらけの平原で、血を流しながら膝をつくのは彼のみである。
突然だった。アーチャーがグラムを殺める、その時にこの固有結界の中に少年は侵入して来て令呪を使用した。傍にはバーサーカーを従えた状態であり、使用した令呪はバーサーカーの令呪とは別のもの。それは少年がアーチャーのマスターであったという決定的な証拠である。
だが、アーチャーもグラムもその事態を把握し理解することなどできていない。目の前で何が起こったのか、何故グラムの首が飛んでいないのか、何故アーチャーのマスターが少年なのかと色々なことが頭の中を駆け巡り、訳がわからない。
理解出来ることと言えば、アーチャーが負けたということである。いや、本当なら勝っていた。アーチャーが剣を振り、その剣がグラムの白い首筋を撥ね飛ばす。グラムの血でアーチャーの剣が赤く染まり、彼の顔には返り血が付いていたことだろう。
だが、現実はそうではない。グラムの首筋が斬りつけられそうとなった時に、令呪が発動されて、刃は方向転換した。狙うはグラムの首ではなく、アーチャーの心臓。そのままアーチャーの剣は彼の皮を千切り、筋肉を破り、肋骨を砕き、心臓を貫いた。血が口と傷口から滴り、また平原に血が降り注ぐ。
それでも何故か、紅い空は染み込んだ血が抜けていくかのように碧く風変わりし、喪失感が固有結界を包み込む。
アーチャーは動揺するグラムに目を向け、彼女も予知していなかった事態だと理解した。すると、視線を少年の方に移す。
「—————何故、俺の令呪を持っている?」
声を出すのがやっとの様に一言一言の言葉が重く間隔が空いていた。尋常じゃない痛みと、それを遥かに越す恥が彼を襲う。まるで少年が自身のマスターであることを不審に思うかのような言葉。だが、その不審は自分が令呪によって自害するという結果を見てから生まれたものであり、少年がマスターであるという過程を知らないからである。
少年は元々、彼のマスターではない。なのに、アーチャーのマスターとしての権利を得たということだ。
「君のマスターからこの令呪をもらったんだよ—————」
背の低い少年は膝を地につけたアーチャーを蔑むように見下す。少年の左手にある令呪と思わしき紅い二画の痣。
少年はアーチャーのマスターが誰だか知っている。そして、そのマスターから少年はアーチャーのマスターとしての権利を得た。それは殺して奪ったのか、脅迫か、それとも相手の合意の上なのか。
アーチャーはその言葉を聞いて、弱々しく笑い声を上げた。広大な何処までも平坦な土地が続いていそうな平原で、アーチャーの声は響き渡る。決して大きい声ではなかったが、それでも俺たちの心の中には響くような声だった。
「は……はっ。まさか、死ぬのが俺だなんてなぁ。グラム、お前を倒せると思ったんだがな……。やはり、破滅の運命か」
アーチャーの運命は破滅であり、それは絶対である。そして、彼はあまりにも不幸過ぎる。その不幸を頭の念頭に入れておいたとしても、彼に災厄が降り注ぐことに変わりはない。
グラムはアーチャーの目を見つめる。その目は今さっき、自分を殺そうとしていた目であったはず。それでも、その目は途轍もなく憐れな目をしている。そう思えた。
「やっぱり、俺は—————何も出来ねぇんだな」
憐れな目からほろりと涙が零れ落ちた。現実の辛さを目の当たりにしたかのように、そしてその現実と言う名の、不幸の未来が決定された地獄に潰されたようである。
彼はたった一つの願いを叶えたかった。それは世界征服よりも、根源に至るよりも、受肉よりも叶えたく、彼にとって輝いて見えた望みだった。自分のせいで英霊になってしまったと言っても過言ではない、英雄シグルドの夢を叶えること、ただそれだけの小さな望み。
彼はその望みのためなら命など何回でも捨てられる。何回も自分が殺されてもよい。何回も拷問を受けても良い。だから、彼女の本当の幸せそうな笑顔がどうしても見たい。
彼はそのために戦っていた。
—————どうせ負けると分かっていても。
グラムは運命に抗い、アーチャーは運命に従うと言ったが、本当はそうではないのかもしれない。アーチャーも運命に抗い、勝利を手に掴まなければならなかった。聖杯を手に入れなければならないのだから。
彼だって、夢を見ていた。グラムと同じように、この地獄のような不幸続きの運命から脱却する方法を。そして、彼が考えた運命の脱却の方法は、セイバーを脱却させることだった。自分ではなく、愛する娘を不幸にさせないために、彼は動いていた。
今はアンドヴァリの呪いがグラムに付着しているが、また元に戻る可能性だってないわけじゃない。だから、そうならないためにグラムを倒さなければならないのだ。理由は幾つも有る。アーチャーとグラムの妙な繋がりは切っても切れないようなものなのだから。
だけど、セイバーのために動くアーチャーが、彼女の前で負けた姿を晒したくはなかった。盛大に娘のためにと言っていたのに、今ではこのザマである。見るに堪えない惨めな姿をしている。簡単に膝を地につけ、自害しようと胸に剣を突き刺しているのだから。プライドなんて糞もない。あるのは虚しさだけ。
セイバーはそんなアーチャーを見ているのが辛かった。自分のために戦ってくれている父親の姿がカッコよく、その姿が自分のせいで死に絶えようとしている。やっと見つけた本当の父親とまともに話したことなどない。だから、戦う父親の家族として彼女は話したかったのだ。全てを知りたい。そして、自分が悪くなかったのだと思いたい。
彼女の視線はアーチャーのみを見ていた。アーチャーが令呪によって自らの腹に剣を刺したところを、まるで事細かく記憶するように見ている。愛する父親の死ぬかもしれないという現場に彼女は小刻みに震えているだけだった。
今、声を叫んでアーチャーの所へ行ってしまっては、彼女が少年に殺されてしまうから。
グラムもアーチャーを複雑そうな目で見る。彼女も、こんな終わり方など望んでなどいない。本当は人殺しをしたくないような心優しい彼女が、同じ境遇にいた目の前の男を助けたかった。
同じ運命を共に歩み、袖を分かったような二人も同じ結末を望んでいた。だが、何故殺し合わねばならないのか。何故、勝利があり、敗北があるのか—————。
グラムは当然に疑問を抱き始めた。自分が殺そうと思っていた人が、今、目の前でもうじきに死ぬような状況で、彼女は何故こんなにも心苦しいのだろうか。
剣が人の姿をしたから、冷たい金属の胴体が温かくなったから、人の心を持ち、その心に翻弄されている。グラグラと自分の目的とは逆に方向が向いてしまう。
アーチャーはそんなグラムの心情を読みとった。心を読める彼にとって、グラム一人の心の中を読むことは造作も無きこと。彼女が何を思い、そしてまた、彼女がどの様な人物かも知っている。
そんな彼は苦し紛れに笑った。そして、夜空を仰ぐ。
「まだ、死ねない—————」
息を吐くのと同時にそう呟いた。
心臓を貫かれてもなお、彼はまた存命している。命の灯火は格段と弱くなったが、消えたわけではない。
生きている。彼はまだ生きているのだ。
なら、まだしなければならないことがある。それはグラムを倒すことよりも大事なこと。
伝えなければならない。セイバーに、自分の過去を、彼女の母のことを、彼女に関わる全てのことを。
一人ではないのだと伝えるのだ。悲劇の英雄は一人ではない。お前は一人ぼっちではないのだと。
「すまんが、俺はしぶといヤツでな。まだ死ねないらしい。だから、ここで一つ、語らせてくれ。俺の半生を—————」
アーチャーはその言葉を少年に向かって言った。だが、どうだろうか。その言葉は少年に向かっての言葉とは思えなかった。
「ふ〜ん。面白い話?」
「まぁ、聞く人によっちゃぁ、この上なく面白いだろうな」
少年は少し黙って考えていた。アーチャーの命は少年の手の中にあるようなもので、少年はアーチャーを殺すことを少しだけ躊躇した。だが、それは決して人として人を殺すことに躊躇したのではない。面白い話をしてくれるかもしれないから、少年は躊躇した。
それでも、そんな心内をアーチャーは覗くことが出来る。そして、アーチャーは少年の心を覗けるからこそ、彼のことも知り、彼からどうすれば一分一秒と時間を稼げるかも分かる。
別にもう彼に生き残る道はない。もう心臓を貫かれていることだし、世界からの修正力の負荷もある。サーヴァントだからと言っても五分も持てばいいほうだろう。
その時間全てをセイバーに伝える時間に費やす。
それはセイバーに前を向いて生きてほしいから。その想いだけなのである。
少年はふっと笑った。
「いいよ。殺すのは止めた。どうせ、僕が殺らなくても、勝手に死ぬでしょ?でも、話は聞かない。面白そうじゃないし」
少年はそう答えると、バーサーカーの肩に乗る。バーサーカーは少年を肩に乗せたまま歩き、持っていた剣を振り回した。すると、固有結界が熱によって溶かされるように穴ができた。バーサーカーはその穴を潜り抜け、その場を後にする。
「行ったか……、同じだと思ったんだがな。違ったか……」
アーチャーは自らの胸に刺さった剣を抜き取り、投げ捨てた。平原の地の土の上に落とされた剣が鈍い金属音をたてた。そして、彼は自らの傷口を手で塞ぐが、やはりそれでも血は一滴一滴と流れる。
グラムは少年が出て行くと、我に戻ったかのようになり、アーチャーを殺そうと他の剣をまた呼び出した。安心など出来ない。やはり、アーチャーはサーヴァントであり、英雄であることは確か。そんな奴なら死に際に一矢報いることも出来なくもない。警戒すべきである。
「お前、何をする気だッ⁉︎」
「待て待て、何もしない。そう焦るな。俺はただ、昔話をするだけだ」
グラムは滞空させた剣を放とうとはしない。もう彼女が手を下さなくとも、警戒さえしていれば彼は勝手に命果てる。
なら、少しだけ彼女は聞いていようと思った。
それは彼女の昔話でもある。
セイバーに聞かせたい昔話はグラムと共有している昔話。
しかし、その昔話をグラムは嫌う。自分の過去の存在を抹消したいと思っている。もちろん、そんなことは聖杯への望みでない。聖杯への望みは破滅の未来からの脱却であり、過去のことは二の次である。
だが、変えたいと思うことに変わりはない。そして、そう思えば思うほどに、その過去への嫌悪が強くなってゆく。
「—————一人で思い出すのが辛いのなら、二人で思い出せばいい。そうだろう?」
彼はそう言いながら、グラムに優しく微笑みかけた。その微笑みは前にも一度見たことがある。
「—————お前は本当に嫌なことを思い出させるな……」
彼女は自分の胸を掴む。苦しくなった。前にも見たあの笑顔を見ると、過去のことを思い出して、心が棘に刺されたように痛い。
戻らないあの頃は、どうだったのだろうかと。
「昔、俺がまだ成人もしていなかった時の話だ—————」
これは一人の青年と一本の剣が織り成す
今回はアーチャーの第一宝具である『バルンストック』を。
ランク:C
種別:対心宝具。時に対神宝具となる。
レンジ:1〜99
最大捕捉:固有結界内に入れることの出来る人数は500人。心象風景を映し出すことのできる人数は一回につき1人。
アーチャーの固有結界。由来は彼がグラムを引き抜いた林檎の名前。林檎とは昔から禁断の実を実らす消えとして有名で、その実を食べたものは色々な知恵を得る代わりに破滅へと叩き落される。そんな林檎の木の幹からアーチャーはグラムを引き抜いたので、アーチャーはそれなりに林檎の知恵の能力を得たのである。
幹とは
固有結界の能力は『相手の心象風景を映し出す』という能力である。そのため、どのような固有結界になっても、決してアーチャー自身に有効な固有結界とは限らず、またアーチャーにとって不利な場合もある。
また固有結界としての攻撃能力や防御能力などは一切なく戦闘には何の意味もない。
だが、この固有結界の副作用のようなもので、アーチャーは人の心を読むことが出来る。そのため、サーヴァントを見た瞬間、彼の頭のデータベースの中に入っている英霊であれば真名看破を行えるという利が彼にはある。しかし、未来から来た英霊や英霊の名前に該当する霊などの類は真名看破を行えない。
実を言うと、この固有結界は
だから、映し出された本人は自らの固有結界として扱うことが出来ない。
え〜、次から3話ほどアーチャーの過去編を致します。
が、実を言うと、めちゃくちゃ作者が苦戦しております。10日以内には投稿致しますので、それまで暫しのお待ちを。