Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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さぁ、段々と戦いも激化してまいります。ヨウとセイバーとアサシン、セイギはただただ傍観しており、何とも主人公のカッコよさがないなぁ。
……しょうがないか。


二人は平凡を望む

 —————彼は嘘をついている。それは周りにいる人に対しても、世界に対しても、そして自分に対しても。

 

 彼は自らを偽っているんだ。本当は彼のパラメーターはオールEXなんて事はあり得ない。だけれども、彼は自らを騙くらかす事によって、パラメーターを偽装している。

 

 オールEXではないのに、オールEXだと彼が勝手に設定しているのだ。それは生前の自らを否定している事と同義でもある。

 

 サーヴァントのパラメーターは生前にそのサーヴァントが培ってきた努力や才能などが関係している。そしてそれは英霊であるサーヴァントとしての誇りであり、そんなものを変えようとするのはセイバーのように自分に自信の無いものか、自分を嫌悪している存在ぐらいしかいないだろう。

 

 だが、彼はその英霊の誇りなどを捨てていた。英霊の誇りを捨ててまでも、自らを偽り強くしているのだ。法外とも言える手段。

 

 そして、それは実に危険な行為である。世界を騙したとしても、いつかはその嘘がバレてしまう。そしたら、その嘘をついた分だけ、世界から修正力がかかってくるのは目に見えた話。

 

 嘘とは虚空。世界を相手取っても、その虚空はアーチャーが娘を想うことへの慈悲もなく潰されてしまう。アーチャーは嘘の鎧を纏った英霊。そして、例え英霊であっても、世界には勝てないのだ。

 

 もし世界が本気で修正力をかけてきたら、アーチャーはどうなってしまうだろうか。

 

 それはもう答えに出ている。

 

 即消滅(リタイア)する。パラメーターをオールEXにするだなんて、神にもできないほどの力。それをするなら、神が耐えられないほどの修正力が来ることもまた然り。

 

 —————嘘つきなアーチャーは、嘘というものが最大の武器なんだ。そして、最大の弱点なんだ。

 

 どうやら、もうアーチャーの嘘に世界は気付いてきたらしい。生前、魔術師でもなかったアーチャーは、無理矢理魔術を使えるように嘘をついた。そして、今、その嘘がバレかけている。世界は修正力をアーチャーにかけて、彼の魔術の質が格段に落ちた。それもまだ本気の修正力ではないだろう。

 

 ただ、彼にとって修正力がかかってくるタイミングが実にアンラッキーすぎる。まるで、災難が降りかかることが当然であるかのように。

 

 いや、それももしかしたら運命の定めによって決められていたのかもしれない。バルンストックからグラムを引き抜いた時点で、彼は破滅の未来が絶対となっていた。それはもう一度サーヴァントとして召還されることで、一時的に生を得たとしても。

 

 だから、決まりきっていた最悪のはずの聖杯戦争で愛する娘に会えたことだけでもこの上ないほどの喜びだったのだろう。それこそ、絶望の淵に見えた希望が目の前にセイバーという形を伴って存在しているのだから。

 

 嘘つきはずっと愛娘(セイバー)のためだけにこの聖杯戦争を暗躍していた。自らが聖杯を取るためでもなければ、仇を討つためでもない。

 

「父親としていられるのなら、それこそ本望だ。英雄なんぞ謳われなくともよい。一人の愛する娘に父親として認められればそれでよい。だから—————」

 

 アーチャーは凛々しくそこに聳え立つ。

 

「—————娘の望みを叶えること、それこそ我が望み」

 

 王としてではなく、英雄としてでもなく、人として、そして父として、アーチャーは戦場に立つのだ。

 

 その生き様はスゲェカッケェ。富よりも名声よりも娘が彼にとって、一番大事。そんなことを命張りながら語れる男は、男として尊敬の意に値する。

 

 アーチャーから出た本気の語り口をグラムは女の子の嫉妬のような目で見つめていた。自分だけが疎外され、自分だけが苦しい想いをし、自分だけが『魔剣』などと望みもしない呼び名を付けられた。そんな彼女にとって、アーチャーの言葉は絵本に出てくるようなとてつもなく現実味のない綺麗事。

 

 アーチャーは決して相手(グラム)を見ない。見ているのは愛する愛娘(セイバー)だけ。

 

 グラムは歯痒いほどこの事態が気に食わない。アーチャーは敵である私を見ていないと思い込んでしまう。

 

「私をこんな剣にしたのは誰だと思っているッ—————‼︎⁉︎」

 

 忸怩たる思いが彼女を包み込んだ。グラムは自分が魔剣になることなど望んではいなかった。そして、人を傷つけ殺すことは以ての外。それをアーチャーの剣として生まれてしまったがために、その行為を強制された。戦場に立つアーチャーの手に握られるは血みどろの剣として、トラウマとなるほど人を殺めた。

 

 グラムは剣でありながらも、優し過ぎる。命を奪うためだけの一介の道具に過ぎないはずなのに、命を奪うことに否定的。だから、血と肉片と内臓転がる平原の光景がいつまで経っても離れない。

 

「私は—————命なんて、奪いたくなかった—————」

 

 グラムは心の底にある想いをアーチャーにぶつけた。恨み混じりの本音を鉄の雨に乗せて。冷たい金属が少しだけ温かみを増している。

 

 だが、アーチャーはそのグラムの必死の想いには応えなかった。

 

「じゃぁ、剣が、尖った鉄が何を出来た?剣を振るえば、誰かが笑顔になるのか⁉︎」

 

 彼の言うことも真っ当極まりない。彼の言葉は真実である。今、まさに、アーチャーが剣を振るい、その姿を見ているセイバーが笑顔になれているだろうか。いや、そんなはずはない。やっと出会えた本当の父親が死ぬかもしれない戦いに身を投じているのを見ているだけしかできない自分に嫌気がさしているだろう。そして、父親が死ぬという可能性に不安を煽られている。

 

 剣を振るっても笑顔なんて作れない。剣士のサーヴァントの存在意義そのものを否定する言葉。だが、そんなアーチャーも剣士のサーヴァントであろうことに変わりはない。

 

「剣が出来るのは人のことを守ることだけだ。そして、守るために、誰かを斬り捨てる。—————それこそが剣だ」

 

 アーチャーはその理念の下、戦場で剣を振るい続けてきた。彼の手は血に濡れ、剣は赤黒く輝いてゆく。それでも、いつか、彼の国の民が幸せで笑顔になれると信じて、剣で人を殺めた。

 

 そして、神に裏切られた。

 

 アーチャーの結論は彼の人生だからこそのものである。

 

 本当は人を殺めることを良しとしていない剣の目の前で、彼はその剣の出来ることを決めつけた。剣は人殺ししか出来ないのだと。

 

 もちろん、グラムだって嫌でもそれを知っている。彼女は剣なのだから。命を奪うためにある道具。

 

 それでも、グラムはその運命に抗おうとしている。アーチャーは破滅の未来を決定付けられて、グラムは人殺しの未来を決定付けられている。その運命に、グラムは抗おうとしているのだ。

 

 アーチャーは運命に抗おうとしていない。運命に勝てないと分かっているから、その運命の中で幸せを見出そうとしているのだ。その幸せこそが、セイバーの望みの成就。

 

 しかし、グラムは抗い、人殺しから、そして剣という道具から離れようとしているのだ。

 

 昔は二人で同じ運命(みち)を歩み、二人ともオーディーンに殺された。そして、今、二人は運命に抗うか抗わないかで戦うのである。

 

「私は、人殺しなんてもう嫌だ‼︎破滅の運命からの脱却、そのためには、アーチャー、お前が邪魔だ!」

 

「そうか、それは俺も同じだ。別に俺は不幸に見舞われても良い。ただ、娘の望み(オレののぞみ)を叶えることができるのなら。そのためには、グラム、お前が邪魔だ!」

 

 何故だろうか。二人が死骸だらけの平原の上で対峙しているのを見ているが、何故二人ともこんなにも悲しそうなのだろう。

 

 苦しい決断なのだろうか。

 

 前回のサーヴァント三騎分の魂が元から溜まっているとして、セイギが倒したランサー、アーチャーが倒したと自負しているキャスター、そしてグラムがトドメを刺したライダーの魂が溜まっているはず。そして、アーチャーの魂が今ここで聖杯へと戻るとき、グラムが本当の願いを叶えることが出来る。

 

 彼女は殺戮なんてことを望むと言っていたが、本当はもしかしたら、剣としての自分の存在をなくすのかもしれない。魔剣としての自分、人殺しとしての自分を捨てるのかもしれない。

 

 それこそ、本当の彼女の願いなのかも。

 

 彼女は殺戮をすると断言しているが、それこそ嘘の可能性もある。だって、剣である彼女が人の形で目の前に現れてから誰かが殺害されたなんて話を耳にしていない。ライダーを殺したのも、セイバーを殺そうとしたのもアーチャーを呼び出すためなのかもしれない。

 

 だが、アーチャーを呼び出したのは何のためだ?アーチャーを殺そうとするのは分かる。だが、何故だ?アーチャーを殺したら、破滅の運命から脱却出来る保証が何処にある?

 

 他のサーヴァントを殺しても良いんじゃないか?聖杯が目的なら、セイバーを殺した方がよっぽど楽だし効率的。なのに、何故だ?何故、アーチャーを殺すことにそこまでこだわる?

 

 人殺しの魔剣にされた憂さ晴らしだろうか。

 

 分からない。俺はアーチャーじゃないから、グラムの心の中なんて覗けない。分かるのは、人殺しをした剣である自分を悔いる彼女と生々しい死体が転がる平原の光景のことだけ。

 

 グラムは怒りの剣である。アーチャーへの限りない憤怒は俺たちの想像を絶するほどのものなのは確かだ。

 

 アーチャーは永遠と鉄の雨に当たらないように両腕を鞭の如くしなやかに伸ばし、両手の剣で弾いている。グラムはアーチャーに近付かれたら一歩足を退き、また間合いを取ろうとしている。流石のアーチャーも、間合いを直ぐに詰めることは不可能らしく、一歩一歩と徐々に詰めるしかなかった。

 

 だけど、アーチャーにはもうそんな時間がないのではないか。そう感じた。彼は今も、世界からの修正力の負担がかかっている。それに彼の近くに彼のマスターらしき人陰はいない。つまり、彼はマスターからの魔力供給も受けられないのである。

 

 アーチャーの能力はあまりにもハイリスク過ぎる。そして、そのハイリスクを賭してでもグラムの首を落とすことが出来ないように思える。グラムを押してはいるものの、彼女は持久戦にも強いだろう。だが、アーチャーはその点で言うと壊滅的である。持久戦にもならないくらい、彼は段々と衰弱していく。

 

 俺の脳裏には彼のパラメーターが嫌でも浮かんでくる。彼のパラメーターが突然オールEXになってから四〜五分経って、今の彼のパラメーターは平均的にAになっている。まだ、全然強いが、さっきのパラメーターと比べたら弱く見えてしまう。

 

 そして、時は訪れてしまった。

 

 グラムの後背から姿を現した剣がアーチャーに向かって突き進んだ。アーチャーはその飛んできた剣への対応が遅れてしまい、剣が彼の頭をかすった。

 

 グラムはアーチャーの頭を、額のど真ん中を狙っていた。そして、アーチャーの頭に傷をつけることに成功した。額に突き刺すことこそ失敗したものの、アーチャーに遂に傷をつけたという目の前の現状はグラムに自信を持たせた。

 

 それは敗北という可能性がゼロになったと告げる勝利の報せ。勝利することが決まったかのようである。

 

 でも、戦闘で敵に傷を与えるということは勝てるかもしれないという思いを齎す。その結果、不安がなくなり、戦いの時にミスがなくなるという点がある。

 

 アンラッキーの連続である。セイバーといいアーチャーといい、何故この一族の話は不幸が途絶えないのか。もう、呪いとかよりも宿命のようなものである。ただでさえ、アーチャーが弱くなってきたのに、グラムが心に余裕を持ってしまってはアーチャーに支障が出かねない。

 

 グラムは自身の魔力をほんの少し使ってアーチャーを攻めているが、アーチャーのエネルギー消費量は膨大だろう。ただでさえ何百もの飛んできた剣を一心不乱に破壊しているのに、理の数式(ドゥーム)という魔術まで切れてしまっては分が悪い。

 

 サーヴァントにしか出来ないだろう激しい戦闘、世界からかかる修正力、そして魔力供給もないという三つの不幸が同時に彼を襲い、彼の流す汗は不条理の塊と化していた。吐く息は段々と荒く、回数が増えてきた。

 

 彼の持つ草薙の剣と折れた剣(グラム)も切れ味が悪くなってきたようである。飛んでくる剣を打ち払っているのだから、剣の刃は綻びていた。

 

「クッ……!」

 

 辛さ苦しさが混じった彼の息だった。だがそれでも彼は諦めようとはせず、目には闘志が滾っていた。その姿を見ている俺には彼が弱い存在とは思えない。

 

 だって、負けることが誰の目にも見えているのだから。

 

 だから、カッコイイと思える。負ける闘いに身を投じていた彼は誰のためなのか。

 

 アーチャー自身のため、セイバーのため。でも、それだけじゃないように思えるのは俺だけなのだろうか。

 

 何故、少し嬉しそうなのだ?彼は、娘の目の前で負けるかもしれないのに。それこそ、彼にとっては恥ではないのか?剣に負けるのは、剣を愚弄する彼の流儀に反するのではないのか?

 

 不気味なほどに、今の彼の表情は朗らかに見えた。まるで、何かから解放されたかのように。

 

 そして、彼は驚くべき行動に出た。

 

「クソ……。しょうがねぇか」

 

 彼はそう言うと、草薙の剣を投げ捨てた。折れた剣を右手で持ち、左手には何も無かった。

 

 片手であの剣の雨を相手しようと言うのであろうか。片手は二刀流に比べて身軽になった分、手数が劣る。確かに、アーチャーは元々二刀流ではなかったが、今、手数が必要なこの状況で手数を減らすのは愚策であった。もちろん、アーチャーにも考えはあるのだろうが、それでも彼のとった行動は理解しがたいものだった。

 

 その行動にグラムは顔を顰めた。そして、少しだけ嬉しそうな表情を見せる。

 

「どうした?血迷ったのか?」

 

「まぁ、そんなもんだ。というか、お前、散々この剣だけで勝負しろって言ってたんだから、もう少し嬉しそうな顔をしてほしいが」

 

 彼は剣を逆手で持った。折れている分、剣の尺が短いが軽いため扱いやすいのだろう。溢れた刃が月の光を反射している。

 

 若干前かがみの姿勢になり、右腕を曲げ、左腕は捨てられたようにだらんと力が抜けていた。

 

 彼はゆっくりと目を閉じた。目の前の儚い血みどろの平原に立つ五体満足の自身の体とグラムを瞼の裏に焼き付けるように。そして、またゆっくりと目を開いた。一瞬、ためらいの色を見せたが、覚悟を決めたようで、また真っ直ぐにグラムを見つめる。

 

 グラムは剣を放った。アーチャーもそれに反応し、また次々と剣を剣で叩き落す。しかし、やはり手数がさっきまでとは圧倒的に違っていた。それでも、彼の目は負けたと語ってなどいない。

 

 勝利が目先に見えてきた。手を伸ばせば届きそうな所まで。




アーチャーの自己紹介を致します。
が、今回は少しずつ分けて自己紹介してゆきます。

アーチャー

本当のパラメーター:筋力C・耐久D・敏捷C・魔力B・幸運E・宝具C
スキル:嘘EX

このスキルはチョー特殊なスキル。自分にのみ関することを嘘で塗り固め、その嘘を一定時間だけ本当のことにしてしまう能力である。
作中で、アーチャーのパラメーターがオールEXになったのもこのせいである。『自分のパラメーターはオールEXである』と強制的に仮定を真実へとしたのである。しかし、それは世界の理に反することであり、嘘が段々とバレるに連れて、効果が薄れてきて修正力がかかってくる。
修正力の強さはまちまちだが、ほぼ大抵は吐いた嘘と同等ほどの修正力がかかる。

実は彼自身にアーチャーとしての適性はなく、本来ならセイバーかアヴェンジャーのクラスとして召還されるはず。しかし、アーチャーのマスターが、アーチャーを召還しようとした時、特定の人物をアーチャーとして召還できるような触媒を使用していた。
しかし、アーチャーが自分の真名を偽り聖杯に召還させようとし、彼はアーチャーとして召還された。
だが、やはりアーチャーとしての適性がないためか、クラススキルはない。また、聖杯にもこの嘘がバレかけてきたため、耐毒などのスキルも剥奪されている。

ちなみに、彼の持っているクロスボウは彼以外の全ての人を、自分がアーチャーでると思い込ませるための道具であり宝具ではない。現代に召還された際にお店で買ったもの。

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