Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
私の予想ですと、この回からアーチャーの好感度がググッとアップするはずです。
何故かですか?
そりゃぁ、もう……。
アーチャーさん、イケメンです。本当に、この作品一の男としての姿が男から見てもカッコイイ。
だって、アーチャーは……。
草薙の剣。この剣の有名なエピソードとしては、スサノオがヤマタノオロチを酒で酔わせてから倒した時にヤマタノオロチの尾の部分から出てきたという逸話や、ヤマトタケルが焼け野原の中から生き延びるために炎をぶった切ったという逸話が有名である。そのことから、草薙の剣は邪から生まれし剣であり、そして邪を祓う聖剣と呼ばれていた。
アーチャーがどんな理由あってグラムの呪いを解こうとしているのかは分からないが、彼はその草薙の剣でグラムにコベリ付いている黒い呪いの力を祓おうという気である。
グラムに付着した黒い呪いは小人アンドヴァリによってかけられた不幸、破滅を呼ぶ呪い。その呪いはかけられた者を幾度となく殺してきた。セイバーもこの一人である。
アーチャーには何かその呪いに恨みがあるように思える。同じ妖精に嫌なことをされたからセイバーに同情しているのだろうか。それとも、彼自身も呪いのような類で辛苦な人生を送った英雄なのか。
……。
っていうか、マジでそんな説明はどうでもいい。
は⁉︎何⁉︎今さっきアーチャーなんて言ってた?俺の家の蔵から勝手に持ち出した?
は?勝手にドロボーしてんじゃねーよ‼︎何処ぞの英雄か知らねぇけど、ドロボーとかやめてもらえます?フツーにダメでしょ。やっちゃいけないことと、やっていいことの区別出来んの?
許可取れよ‼︎
俺は物凄く大声で叫びたかったが、叫んでしまったらここにいる四人全員がグラムに見つかって即刻殺されてしまうので、心の中で叫んだ。
イラつきの心情を前面に顔に出していた俺の肩をセイギはちょんちょんと突ついた。セイギは悪ガキみたいに面白そうなものを見つけたような表情をしていて、その顔を見た俺はさらに苛立ちが湧いた。
「ねぇ、盗まれたらしいね。しかも、家宝が」
「家宝じゃねぇよ。爺ちゃんが勝手に集めた骨董品だ」
「じゃぁ、ヨウはその剣のことを知ってた?」
「知ってるわけねぇだろ。だって、今さっきまで家にそんなものがあったなんてことも知らなかったんだから」
俺が戦闘中の二人に聞こえない程度のガミガミとした荒々しい声でセイギの質問に答えていると、質問の所々にセイギから「怒ってる?」って聞かれることもあった。その度に俺は「怒ってねぇよ」とまるで怒っている声で質問に答えた。実際、怒っていたけど。
アーチャーはその草薙の剣と折れた剣の二刀流で構えをとる。いつでも相手の行動に対応出来るような体勢で、その体勢からは戦いに関しての熟練さが窺える。どれほどまでに命を賭けた死闘をしてきたのかと言えるくらいにまで余分な動作がなく、洗練されていた。アーチャーという一人の英霊が生前に作り上げた武としての完成系であり、どんな相手であろうとも簡単に倒せないであろうその立ち姿。偉大な姿である。
グラムはまた手を掲げた。滞空する剣の先はアーチャーであり、アーチャーにただ剣を投擲して刺し穿とうという考えであろう。
それから両者一歩も動かない。相手の出方を窺うように相手の動きに目を凝らしていた。先手必勝なのか、相手の行動に対応して攻撃した方が良いのかという考えを頭の中で張り巡らせている。
死闘の前の覚悟を決めるためなのだろうか、一時の間、不思議と静けさが二人の間に流れる。
最初に動いたのはグラムだった。アーチャーの持つ草薙の剣を見て、彼女は怒りに駆られた。妬みや嫉み、僻みがグラムの顔に浮かぶ。そして、グラムが剣を投擲しようとした。彼女が平行世界から引き出せる限りのあらゆる
「
彼女は持っている全ての剣を使ってでも、草薙の剣を壊そうとする。その彼女の顔に残酷さなどそんなものではない感情が浮き彫りになっていた。
限りなき赫怒の剣という宿命とはまた別の何か。
—————カランッ
グラムが剣を投擲して、投げられた剣がアーチャーに届きそうな時だった。アーチャーの足元から音がした。彼の足元で海のように青く美しい宝石が彼の手から塵混じりのコンクリートの床にコロンと落ちたのだ。宝石は向こう側が透けて見えそうなほど透き通っているが、所々に濁りのような部分もある。
宝石を落としたアーチャーはニタリとほくそ笑んだ。そして、自分の勝利を確信したかのように笑みを浮かべながら、何故か目には涙を浮かべる。苦しみを紛らわすように不吉な笑みを浮かべた。
「—————宝石魔術、『
彼がそう呟くと、宝石が砕けた。そして、宝石の残骸から魔力がすうっと広がり、彼から半径10メートルほどの範囲が丸い球体の様なもので覆われた。グラムによって放たれた剣は一直線にアーチャーを蜂の巣にするために空間に容赦無く入り込む。すると、剣は空間に入り込んだ途端、時が止まったかのように動かなくなった。アーチャーの方に剣先を向けたまま、音も立てず、空も切らない。
「……なんだ?魔術……か?」
グラムはアーチャーの宝石魔術を見てピンと来ないように物珍しそうな顔をする。魔術という存在は知りつつも、その魔術を間近で感じたことがないように、彼女は魔術を全然知らない。アンドヴァリの呪いで生を受けてから、まだ十日程しか経っていないのだから、魔術を事細かく知る由はなく、動揺する姿を見せるしかなかった。
今、彼女はアーチャーの行った魔術を見極めることもできなければ、彼が次にする行動の予測も立てられず、どう行動すればいいのかの見当がつかない。
その魔術からはアーチャーとは別の魔力が感じることができた。アーチャーの魔力は途轍もなく膨大で尋常じゃない程の凄みを帯びた魔力だが、その魔力が嘘であるかのように何処か空っぽなのである。それと相対し、空間を包む魔力は力強く冴えていた。その上、アーチャーのように空っぽではなく、ちゃんとした基盤があり、それこそ魔術師としての魔力というような感じ。
だけど、そんなことをグラムは分かるはずがない。自分が平行世界から呼び出した剣がアーチャーの謎の魔術で止められたという事実しか飲み込めず、その魔術に身の毛をよだたせた。
グラムの攻撃方法は一つだけだった。それは投擲というごく簡単な攻撃。敵に向けてほぼ無限に引き出せる平行世界の自分と同じ剣を放ち穿つ事だけ。剣を滞空させたり、集め重ね合わせて壁にすることも出来るけど、主力となる攻撃方法はこれしかない。
その攻撃が止められたなら、彼女は何をすればいいのかが分からなかった。
「可哀想な剣だ。戦うことを呪いに強制させられ、それにも気付かずに怖気付くしかないとは」
アーチャーはそう言うと、また彼の目頭がキラリと光り、その光は頬を伝う。グラムの攻撃で穴が空いた屋根から月の光がアーチャーを照らし出していた。
一瞬、彼の表情が何とも温かい表情に変わる。軽蔑でもなければ怒りでもない。同情のようである。そして、彼は苦しそうにこう言い放った。
「—————いや、最初に戦うこと、殺しを強いたのは俺だよな」
その言葉を聞いた瞬間、グラムは激昂した。さっきまでの怯えが怒りの感情の起伏に払拭されたかのように顔を赤くした。まるで不安定な台にいるかのような彼女の感情は起伏が激しいというよりかは、情緒不安定でまるで心の軸が定まっていないかのように思える。
そして、心が揺れたのはグラム一人ではなかった。俺の隣にいたセイバーは茫然自失で言葉を失った。ただ、アーチャーの方を見ていた。
「貴様に何が分かるッ⁉︎私の悲しみが分かるのかッ⁉︎」
グラムが怒りに任せて、また平行世界から呼び寄せた剣をアーチャーに放つ。アーチャーは飛ばされた剣が空間内に侵入した瞬間に止め、悉く粉砕した。一歩一歩、グラムの方に歩み寄りながら、彼は人とは思えないほど冷徹な目と人の優しさが詰まったような暖かい目をしながらグラムを見た。目頭は涙が溜まりながら。
「分からないさ。生前、俺は国の民、そして何より家族のために命を尽くすことを誓った男だ。だから、剣の気持ちなぞ分かるわけがない。それに、お前は元々心なんて持ってなどいない。呪いを受け入れることで、一時的に肉体を得て、心を得ているだけだ。動揺しているのだろう?ただ、目の前のことを考えなくてはならぬ肉体という枷に囚われて」
「そんなことない!動揺などしているわけがない!私はお前を殺すことだけが目的であり、そのことに動揺などしていない‼︎」
グラムはさらに多くの剣を平行世界から呼び出した。そして、その全てをアーチャーに向かって放つ。しかし、それでもアーチャーはその剣の雨を凌いだ。
「じゃぁ、私を殺した後はどうする?」
二つの剣を振りながら歩み寄るアーチャーがグラムにそう問いた。
「お前は何をするんだ?聖杯を奪ったお前は殺戮を始めるのか?それとも神の力を持つお前は元々の主人であるオーディーンの元へ帰るか?」
「……そ、それは……。うる、うるさいッ‼︎」
グラムは返答が出来なかった。俺の目の前に現れた時の余裕そうな表情は一切そこには無く、怒りや憎しみ、戸惑いがあった。
「お前は何も出来ないさ」
アーチャーがグラムに言った言葉はあまりにも予想外な言葉だった。赫怒の権化たるグラムが何もしないわけがない。そう俺は思わされた。
「何も出来ない⁉︎嘘をほざくな!私はお前を殺した後、人々を殺し尽くしてやる‼︎私をこんなにもしたのはお前らだろう⁉︎なら、私はその望み通り、人殺しの剣になってやる‼︎」
「そうか。まぁ、別に俺はこの時代の人間ではないからな。やりたきゃ勝手にやってくれ。どうせ、その内お前を止める誰かが出てくるだろ」
他人任せなその言葉。人々を救い、憧れの対象となる英雄とは何とも対照的だ。だけど、彼からはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
嘘つきな英雄のどの言葉が本当で、どの言葉が嘘なのかを全て知ることなんて出来ないかもしれない。
だけど、これだけは言える。
彼は他の英雄たちとは違った英雄で、だけれど本質的には一緒なんだ。人を守る存在であり、人を導く存在。
そして、人を救う存在なんだ。
「だけど、お前をそんな風にしてしまったのは正真正銘、俺だ。グラムを魔剣に仕立て上げたのも、セイバーを生前男の真似をさせなきゃならなかったのも、英霊にしてしまったのも—————全て俺の責任だ」
セイバーはアーチャーを見て、涙を流した。
「嘘だ。途切れたと思っていたのに。会うことの出来ない存在だと思っていたのに——————」
「今は無き亡国の王であるこの俺は過去の自分の罪滅ぼしのために、民のために、そして愛する娘のためにこの身を賭してでも、グラム、いやアンドヴァリの呪いを打ち払おうぞ。グラム、せめてもの手向けだ。あの戦場でお前を殺してやろう。終わりの場所でな」
彼の身体中を巡る魔力が解き放たれた。光が俺たちを襲い視界が眩しくなり、そこにいる者は皆、目を閉じた。
そして、目を開くとそこには人々の死体が辺り一面に広がっていた。広大な平原に矢の刺さった死体や腹部を真っ二つに斬られた死体、転がる肉片に血の池。壊された鎧、割られた兜に血塗られた剣。空も、空に浮かぶ雲も血で染められたかのように赤黒い。あまりにも衝撃的で、あまりにも心を痛みつけられる光景である。
生前、アーチャーとグラムが戦場で殺した人がこの荒野に死体として転がっている。グラムの心に刻まれた彼女の心象風景は何とも無惨な光景なのだろうか。
「———固有結界『
「お前が単に私に押し付けただけの世界だ‼︎」
「ああ、俺の愛する者のためにお前に全てを押し付けた。だから、責任は俺が取る。お前を殺すのは俺だ。お前に俺が終止符を打つ」
「身勝手なッ!」
「身勝手だとも。愛する国と民と家族のために国の先頭に立ち、正しく導くために嘘をついてきた俺は、この世で一番身勝手な英霊だ。だから、笑いたければ大いに笑え」
アーチャーは腰を落とし、次の攻撃のモーションに入るため、右腕を下げて左腕を肩の後ろまで動かした。初めてのはずの二刀流に戸惑うことなく順応する姿はまさに武の極み。
まるで獅子をも脅すかの如く、獲物を見るような眼でグラムを睨んだ。
「だがな、娘だけは笑うな。そんなお前は、死に処してやろう。選定の王、シグムンドの名にかけて」
国と民と家族のためだけに命を捧げて世界を欺き続けたことにより命を落とし、国を滅ぼす原因となった王。魔剣であり、選定の剣グラムを最初に手にした大英雄。
————彼の名はシグムンド。セイバーと血の繋がった実の父である。
アーチャーの人物紹介はまた今度、行います。