Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい。実はルート名を変えました。話的にこっちの方がいいかと思ったので、変更致しました。


しがない英雄は

 アーチャーは一尺ほどの短い折れた剣を握り、敵の情報を瞬時に把握して、やれやれと難しそうな顔を浮かべる。アーチャーから見て剣の数は右に二百、左に三百、中央に百五十と言ったところであろうか。

 

 どう見たってその現状は死を表している。絶望的としか言いようのない剣の群れ。それを前にして諦めない者などいるはずもないのに、彼はそれと真っ向から渡り合おうとしている。

 

 無理な話だ。窓の外からこっそりと覗いている俺たちにそう思わせた。

 

 それもそのはず。筋力C・耐久D・敏捷C・魔力B・幸運E・宝具Cのパラメーターを持っている彼がグラムなんかに勝てるわけがない。だって、アーチャーより少し高いパラメーターを持つライダーが瞬殺されてしまったのだから、彼だってきっと同じだろう。しかも、アーチャーというクラス上、接近戦は苦手のはず。

 

 しかし、彼は臆さなかった。銷魂、失意の果てに自暴自棄になったのであろうか。彼は折れた剣を右手で握り、ただグラムの放つ無数の金属からどの様に凌ぐかをずっと考えていた。周りにある剣をざっと一瞥し作戦を立てる。戦闘の少しの間に、即座に、正確に、確実に相手を倒せる戦略を頭の中で組み立てた。

 

 その時、彼に一筋の光の道が見えた。剣と剣の間を通る光の筋が見えた。彼はその筋を見逃さない。左手で腰につけたクロスボウを握り、無数の剣の中に向けた。

 

 だが、そのクロスボウには矢がセットされていない。それでも彼はそのクロスボウの弦に右手の指をかけ、自らの方に引いた。そして、目を一旦閉じる。

 

「俺は俺を偽証する。俺は強い。

 歴戦の英雄よりも、神よりも、気高く、至高、そして孤高。

 偽証せよ、偽証せよ、偽証せよ。

 自らを偽り、全てを偽り、神を欺き、世界を欺き、自らを欺く。

 今一度、偽証せん!」

 

 彼が叫んだ。雄叫びを上げ、クロスボウを最大限まで引いた。彼の目に宿るは限りなき力への欲望。

 

 その時、俺とセイギの目にはありえないことが起こった。

 

「嘘だろ⁉︎」

 

 本当にありえないと言いたいくらいのことが目の前に起きた。マスターである俺たちにはアーチャーがありえない姿に映った。あまりの事態に目を擦ってもう一度見たが、それでも現状は変わらない。目の霞などでも、見間違いなどでもない。

 

「パラメーターオールEX⁉︎」

 

 そんなのこの世界ではありえない、サーヴァントでも数えるほどしかいないその数値。測定不能。秤に掛けるものがないというEXを全てに満たすだなんて、英雄というただでさえおかしい規格をさらに超えている。規格外のさらに規格外。

 

 いや、もう英雄なんて枠組みには収まらない。サーヴァント、ハイサーヴァント、それ以上の存在。もしかしたら、神をも卓犖するかのような超絶で、何処か脆弱なその力。

 

 その力にはセイバーもアサシンさえもたじろいだ。英霊である彼女たちにとっても彼は勝てるような顕現ではない。格が違い過ぎる。圧倒的な力の差をただ彼女たちの眼に映るだけで実感させた。到底敵わないというその敗北感を戦わずして与え、戦意そのものをボロボロに挫いた。立ち上がれないほどにまで、細かく英霊としてのプライドを砕いた。

 

 戦ってもないのに、まだ彼の宝具を見ていないのに、俺たちは勝てないと思ってしまう。いや、勝てないというよりも、自分の目を疑うような現実への不条理を感じる。パラメーターが乏しいはずのアーチャーのサーヴァントが、なぜそこまでして強くなれるのかが分からない。

 

 ただ、グラムはそんなアーチャーを目の前にしても怖気付くことなく彼の前で仁王立ちをする。彼女が掲げるは怒りの権化となり、世界の全てを彼女の怒りの八つ当たりに使うこと。これもまた不条理なほどに他の追随を許さないほどに強大な力を有する。主神オーディーンが与えた平行世界から幾億もの同じグラムを呼び出すという第二魔法を軽々と使いこなすその力。神の力。

 

 だが、今まさにその神の力が敗北する時なのかもしれない。

 

 アーチャーは引いていた弦を勢い良く離した。すると、その瞬間、魔術のようなもので精製した光る矢が具現し、クロスボウの弦によって飛ばされた。

 

 光の矢はアーチャーに見えた一筋の道を寸分違わずに通り抜ける。一瞬の狂いも躊躇も許されない状況で、彼は正確にその筋に矢を射たのだ。矢は幾つも重なる剣の群れを通り、ただ狙うはグラムの胸の心の臓のみ。何百もある剣の群れに矢は飛び込みながらも、剣に一度も当たることなく矢は弧を描く。

 

「言っただろう?認識出来ないとお前は剣をどの様に振れば良いのかが分からないと」

 

 アーチャーの言う通り、グラムの弱点、それは司令塔である彼女が目で認識することのできないという点が挙げられる。司令塔という役割上、敵の攻撃には目を配らないといけないのだが、それはグラムの能力的に無理な話である。グラムは数で押しきる様な戦術を取り、それは彼女の能力的に一番効率よく確実に敵を倒せるが、そうなると司令塔であるグラム自身は自分の剣で敵を認識することが出来ないのだ。

 

 必ずと言ってもいいほど、最強と呼ばれるものにも何かしらの弱点がある。そうでなかったら、それこそ神の域。

 

 そして、英霊として召還されているアーチャーも、神でないということは何かしらの弱点があるのだ。絶大な力を持っていても、神になれないその決定的な弱点があるはずである。

 

 もちろん、例外はあるが……。

 

 グラムはアーチャーの矢をその位置から認識することなんて出来なかった。まず、アーチャーの尋常じゃない膂力により引かれた弦で飛ばした光の矢を視認することなんてまず不可能。その上、剣と剣の小さな隙間から高速の矢を見ることなど無理なのである。

 

 しかし、彼女は自身の周りに剣を呼び出し、その剣をまるで壁のように構築した。剣で出来た金属の壁。でこぼこで、硬い強固な壁を作り上げたのだ。

 

 アーチャーから飛ばされた光の矢は硬い壁に当たり、呆気なく地面へと落ちて、その後、すぐに消滅した。だが、もしその矢がグラムに当たっていたなら、矢は確実にグラムの心臓を射抜いていたほど正確な位置であった。およそ二十メートルほどの少し遠い距離、そして大量の剣の群れがある中で、正確に打てるアーチャーの弓の技量は英霊としても申し分ない。

 

 だが、何故だろうか。俺には彼がまだ本気を出しているようには思えない。パラメーターオールEXまでもの英霊のあの一撃が本気だったなんて言われたら期待外れである。本当はもっと、強い力があるのではないのか。そう考えさせられた。

 

 グラムはアーチャーの矢から容易に身を守ると、アーチャーを見ようと中央に滞空しているグラムを左右に寄せるように移動させる。すると、アーチャーの姿が見えた。

 

 まだクロスボウを構えてグラムを狙っているアーチャーが。

 

 アーチャーの持つクロスボウはまたもや正確にグラムの額を狙っていた。アーチャーはグラムが気を緩ませるのを見計らって、クロスボウを構えていた。

 

 そして、中央に滞空していた剣が左右に分かれた時、アーチャーはグラムの額に向けて矢をまた射た。だが、グラムはまたも安々と矢を剣で薙ぎ払った。

 

「チッ‼︎そんな簡単に倒れてはくれないか」

 

 アーチャーはクロスボウを構えて、グラムを狙う。しかし、グラムはそんな彼をまるで軽蔑するかのように彼を見下した。

 

「アーチャー、貴様は英霊である誇りがないのか?そんな遊び道具ごときで私の首を取ろうというのか?確かにさっきの攻撃は隙を突かれたけれど、そんな攻撃では私を殺せない」

 

「……そうか?俺にはこの宝具が使い易くてたまらないんだが……」

 

「宝具⁉︎はったりを抜かすな!そんな弩が貴様の宝具だとでも言うのか⁉︎私と対等に戦え‼︎宝具を出せ‼︎」

 

 まるでアーチャーの持つクロスボウがただの武器であるかのようにグラムは嘯く。だが、それはどういうことなのろうか。

 

 見ている俺たちには分からなかった。グラムは凄惨な世界を作り出すことを目的としているはずなのに、今、俺たちの目の前にいるグラムは辛い現実を目にして悲しみ嘆くようである。

 

 俺の固定観念では、グラムという存在は非人道的で、嗜虐的な存在。なのに、俺の固定観念が変わろうとしていた。

 

 何かを求めるように叫んでいる。心の奥底から。

 

 そして、それが何処か初めて会ったときのセイバーに似ているような気がしてならない。

 

 グラムは滞空させていた他の剣をアーチャーへと放った。

 

全剣一斉発射、破壊せよ(アーリダッザ・サチューホング)!」

 

 空中に浮いていた何百もの剣が一斉にアーチャーに向かって降り注いだ。鉄の雨の如く、アーチャーを串刺しにしようと剣を放出したグラムはただじっと彼の手を見ていた。クロスボウを放る時を。

 

「お前は何なんだ?殺戮をし始めると言いだしたり、宝具を出せと言いだしたり……。何がしたいんだ?」

 

 彼は独り言のようにそう呟くと、手に持ったクロスボウを投げ捨てた。そして、空いた手で何やら武器を取り出した。古びた剣を取り出した。その剣は柊の葉のように所々が尖っており、扁平な形状。その形状の剣は何処かで見たことがあるような気がする。

 

「お望み通り、正真正銘俺の宝具を使ってやるよ。だからちっと手を抜いてくれ。今度は俺がお前を折ってやるから」

 

 何百もの剣の群れを、彼は二本の剣だけで凌ごうとしていた。折れた剣と少し古びた剣を手に持ち、腕に力を入れる。そして、グラムが放った剣が彼の剣の間合いに入った瞬間、目にも留まらぬ速さで飛んできた剣を振り落とす。次から次へとただひたすら剣を振り落とし、彼の持つ剣に当たった剣は瞬時に砕かれた。

 

 砕かれた剣はパラパラとコンクリートの床にばらけ散る。どうやら砕かれた剣をグラムは操ることは出来ないようで、どんどんと剣の残骸がアーチャーの周りに生じる。

 

 何十、何百もの剣がアーチャーに飛ばされている。剣が廃工場のコンクリートを削り、屋根に穴を開けてしまうほどにまで激しい攻撃だった。なのに、アーチャーはおかしなことにまだ存命である。彼は休みなく発射される剣を、彼の持つ二つの宝具のみで凌いでいるのだ。彼の宝具は壊れることなく、飛ばされた剣のみが呆気なく砕け散る。

 

 そして、アーチャーはグラムが飛ばした剣全てを砕いた。もちろん無傷とは言わないが、大した傷はしていない。軽い切り傷程度の怪我であり、戦闘には支障はないだろう。

 

 アーチャーは新しく取り出した柊の葉のような扁平な形状の剣を眺めた。グラムは呑気な顔をして剣を眺めている彼を見て、顔色を変えた。

 

「何故、他の武器まで使う?私が殺したいのは本当の宝具を持つお前だけだ」

 

 グラムはアーチャーに相手にしてもらえないようである。子供が大人に本気で突っかかる時みたいに、グラムは本気なのだろう。だけれども、アーチャーはまだ本気なんて出してはいない。

 

 アーチャーが本気を出すのを躊躇しているようにも思える。

 

 アーチャーはグラムに扁平な剣を捨てろと言われるが、彼は言う通りにしない。

 

「おい、グラム。この剣の名前、知ってるか?」

 

「……」

 

「無言か……。まぁ、一応教えておくが、この剣は神代のジャパンソード」

 

「それがなんだ?」

 

 彼は扁平な剣を自らの指に当てた。そして、スッと剣を引くと、指から少量の血が出る。すると、どうであろうか。その血が剣につくと、剣についた血は跡形もなく蒸発して消えてしまったのだ。

 

「この剣の元の形は日本では名の知れた剣の二代目らしい。その剣の名は草薙の剣。なんか、日本の頭が8個ある巨大な蛇の中から出てきた剣そうだ。邪を祓う聖剣であり、邪の力を持つ魔剣、そしてこの国の王になることができる選定の剣。これはな、その剣の欠片を含有している日本の剣だ。ヨウの家の蔵の中から勝手に持ち出した」

 

 アーチャーはその剣をグラムに向ける。

 

「この剣でお前の呪いを解いてやる。これは俺の八つ当たりであり、お前への慈悲だ。有難く受け取れ」

 

 アーチャーはそう告げると、グラムへと向かって刃を向けた。俺たちにはさっきのほんの僅かな攻防でさえも、遥かに遠い次元のように感じる。俺たちとはあまりにも違う二人の力量。神の力を持つ魔剣と、謎の英雄アーチャーの戦いはまだ始まったばかりであった。

 

 しかし、彼がまだその志のままでは本気を出すことなんて出来ない。

 

 実は彼にはグラムに本気を出せない理由がもう一つあるのだが、その理由を知る者はまだ誰一人としていない。




今回の人物紹介は前回の聖杯戦争のバーサーカー

クリームヒルト

ある錬金術師によって召還されたバーサーカー。黒い喪服のようなドレスを着飾り、いつもニタニタと不気味な笑みを浮かべている。バーサーカーというクラス上、彼女のマスターは魔力消費量が膨大だが、彼女のマスターはバーサーカーのクラスとは相性が良い魔術であり、魔力切れで敗退はしなかった。

彼女は狂化スキルがEXであり、普通なら理性などないはずなのだが、彼女は精神汚染のスキルA+も持ち合わせており、そのためマイナスとマイナスを掛ければプラスになるように、理性もあり意思疎通もできる。が、やっぱり狂ってるため、意思疎通は困難。

戦闘スタイルは夫であり英雄のジークフリートの武器『バルムンク』を使う。バルムンクを振り回し、あわよくば敵の首を落とそうとするものである。生前、戦闘そのものをしたことはないため、バーサーカーでパラメーターを底上げしても戦闘は強くはないものの、バーサーカーとしては珍しい戦略や策で敵を落とす。

生前の彼女は正直言ってどの英霊よりも頭がずば抜けているほど狂っており、他のバーサーカーの追随を許さない。最初の頃の彼女は狂っているわけではなく、普通の女の人だった。しかし、ジークフリートと結婚し、夫であるジークフリートを溺愛し、異常と言えるほどにまで愛を抱いた。が、彼は彼女の方を振り向くことはなかった。
それでも、彼女はジークフリートの隣にいるだけで良いと思っていたのだが、ジークフリートはハーゲンに殺されてしまう。
ここから、彼女は尋常じゃないほど狂ってゆく。ハーゲンはジークフリートから頼まれて殺めたということをクリームヒルトは知っていてもなお、ハーゲンを斬首の刑に処した。しかも、その時の剣はバルムンクであり、剣を振り下ろしたのは彼女自身。
それから、彼女は愛する夫がいない世界に絶望し、世界が無価値であると考えた。
そして、彼女は無価値な世界を壊そうとした。それから、彼女はただ誰かが苦しみ嘆き果てるのをニタニタと不吉な笑みを浮かべながら見ていた。それは親類であったとしても、血の繋がった家族であっても—————
しかし、彼女の喉の渇きが潤されることはなかった。
『やっぱり、あの人がいなければ意味がない』
それは死した今でもずっと抱き続けている。歪み狂いまくったジークフリートへの愛情。
その愛情はジークフリートへの殺意と同義であることを彼女は心嬉しく思いながら、聖杯戦争に参戦した。


歪愛大剣・炎邪崩壊(バルムンク)』ランクB+・対城宝具
夫の愛剣であり龍殺しの剣。しかし、彼女が持つと惨殺剣となる。彼女が真名解放すると、彼女の歪んだ愛の分だけ炎が世界を焼き尽くすが如く放出される。しかし、使い手が戦闘を得意としないし、バーサーカーであってもパラメーターが低いためランクがB+にまで下がってしまっている。

聖杯への望みは『ジークフリートといつまでもずっと二人きりで暮らすこと』。ジークフリートが何処にも行かないように手錠を掛けてでも、手足をもいででも彼を隣に居させるつもり。ちなみに、愛しすぎて、殺したいほどらしく、ジークフリートは背中以外なら何回でも殺せるようなので、ズッタズタに切り刻みたいらしい。これも愛の形と彼女は自負しているが、もうここまでくるとドン引きの一言。

彼女が言いそうなこと:
「私はもうあの人以外、何にも要らないの。私はあの人が欲しい。いつまでも、永遠にあの人が隣に居て欲しいし、あの人は私を見ているだけで良いの!それだけが望みなの。だから、あの人が他のものを見なくなるように、他のもの全てを私が壊すの!壊して、壊して、私だけを見てくれればいいの‼︎これが愛よ!これが恋よ!人の心は破壊をもたらすのッ‼︎それが、人である証なのッ‼︎あははははッ‼︎死になさい—————『歪愛大剣・炎邪崩壊(バルムンク)』!」

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