Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

57 / 137
余談:今年の更新はこれが最後。



厄災の徴

 俺たちは廃工場に向かった。夜の街を歩き抜けて神零山まで向かう。誰かに見られていないかを用心しながら俺たちは足を運んだ。

 

 幸い、敵に出会すこともなく俺たちは神零山の麓まで来ることが出来た。そしたら、セイギが先頭になって一列で山を登り始める。

 

 冬の山に登るのは久しぶりであった。鈴鹿がいなくなってから一回も俺はこの山に登らなかったが、今この山を登っているのである。多分、俺はこの山に登る理由がちゃんとあるから登れるのだと思う。鈴鹿とはあまり関係のないことだからこそ登れているのだ。それに、俺たちが向かう廃工場はいつも鈴鹿と修行していた所とは反対の方なので、そのような理由が重なっている。そうでなかったら、俺は今でもこの山のにいた一人の女性のことを忘れまいとしながらも、この山に訪れなかっただろう。まだ、気持ちの整理がついていないのが現状であるから。

 

 セイギが先頭になって歩いていると、セイバーが胸のところに手を当てて下を向く。そしてその場で立ち竦んだ。

 

「おい、どうした?」

 

 セイバーの後ろを歩いていた俺は立ち竦んだセイバーにそう声をかけた。セイバーは少し辛そうに胸を右手で抑えている。

 

「やっぱり止めましょう。何故か分からないんですけど、嫌なことが起こりそうなんです。すごく恐ろしい何かが起こる気がするんです」

 

「……でもそれは勘だろ?お前の勘」

 

「はい。そうです。私の勘です。でも、前にもこういうことが起きたんです。これは私がまだ生きていた時、そして龍を倒す直前に起きたことなんです。胸がぎゅっと苦しくなるんです。まるで不吉な何かがこれから起こるっていう予兆のような」

 

 彼女はそう俺たち三人に訴えかける。俺たちは()()に及んで何を言い出すのかと半分呆れていた。だけど、彼女の真剣な表情と恐れるような震え声が俺たちの心を半分動かしていた。セイバーは嘘を吐けるようなほど器用ではないのは俺がよく知っている。

 

 セイギとアサシンは俺の方を向いた。これから先のこと、つまり進むか戻るかは俺が決めろということなのだろう。一番セイバーのことを知っている俺が。参ったな。何故、俺がこんなに大事な選択をしないといけないのだろうか。あまり、責任は持ちたくないタイプの人なのだが……。

 

 セイバーはここから引き返そうと主張している。それは根も葉もない根拠から言われたただの勘。だけど、それを言う彼女が本気で言っているのだから、信じれるほどのものである。セイギとアサシンは先に進もうと主張している。先に進み、この聖杯戦争に勝ち残るために必要なこと。この聖杯戦争でいつまでも戦いから逃げていてはダメなんだ。

 

 先に進むか、戻るのか。

 

「—————進もう」

 

 俺の口から出た苦悩混じりの言葉。セイバーの意見も俺は認める価値はあるが、それでセイギとアサシンに迷惑をかけたくなかった。セイバーは俺のサーヴァントであるから、そこだけは言うことを聞いてほしい。

 

 俺がそう言うと、セイギとアサシンは表情を変えずに頷くだけだった。セイバーは手を自分自身の胸に押し当てて、目を閉じて心臓の鼓動を感じるように息を整える。そして、彼女は目を開けた。その一瞬、暗い何かが彼女の目に映る。俺と初めて会った時のように、誰も信じない目が一瞬彼女に蘇っていた。

 

 そんな彼女の悲しそうな目を見てしまうと、俺はまた悩まなければならなくなってしまった。俺は頭をポリポリと掻き、さっきの言葉にもう一つプラスをした。

 

「だけど、そこでなんかあっても何もなくても、今日はここまでだ。廃工場で最後。それでいいか?」

 

 セイバーは少し目を細くし眩い光を見るかのように期待を抱いた目で俺を見た。俺のその付け足しを聞いた彼女はまた下を俯いて心の中で何かを問いかける。そして、また俺の方を向いて、笑顔を見せた。

 

「ありがとうございます」

 

 そんな彼女の笑顔が俺には眩く見えた。そんな彼女の頭をポンポンと触り、セイギとアサシンの方を向く。二人は大筋合意といったところのようである。

 

 セイギは四人の意見がまとまるのを確認し、また山を歩き出した。

 

 セイバーがこれから何か起きるかもしれないと言うので、俺たち四人は周囲への警戒が少し過敏になっていた。風が木の葉を揺らすだけで俺たちは音のする方向を振り返り、それから周りを見渡す。そして、また誰もいないことを確認すると、一歩一歩落ちた茶色い葉を踏みしめるように廃工場へと進む。

 

 それから15分ほどして廃工場へと着いた。廃工場の周りは冬の寒さに負けている枯れた雑草や、あまり日当たりの良くない所にキノコが生えていた。長い間管理もされずに放置されていた廃工場。朱茶色になったトタン屋根がすごく古臭くて、汚らしい雰囲気を醸し出している。

 

 俺たち四人はその廃工場にそっと足音を立てないように近づいた。息を潜め、抜き足差し足忍び足を守りながら近づく。そして、俺たちは廃工場の中へと入った。

 

 中には誰もいなかった。いや、誰もというよりも、何も無かった。機械や部品など何もかもがそこには無かった。ただコンクリートの床が見えるだけで、そこが工場であった痕跡などはもう何処にもない。雨風を凌げる屋根のある小屋のようである。

 

 俺たちは工場に入り周りを見渡す。しかし、そこには人影らしきものもなければ、人がいたという感じもない。幽霊とかも出ないほど、人がいそうには見えない。

 

 けれど、ここは闘いの場所として選ぶには最適であろう。特に邪魔なものも無く、聖杯戦争に関係のない一般人がここを通ることもないし、被害などが出ても一般人の人は気付かないくらいのものであろう。

 

 ここを闘いの場所として選んでいる敵ももしかしたらいるのかもしれない。そうである可能性はゼロではない。確かにここは地元民しか知らないような場所であるけれど、別に見つけにくいというわけでもない。

 

 なら、ここにいることが、もしかしたら命取りになるのかもしれない。そう思い俺はセイギにここから早く出ることを進言した。

 

 その時であった。入口の方から声が聞こえた。それは何度か聞いたことのある男の声。

 

「—————何故ここにいる⁉︎」

 

 男が俺たちを見て声を発した。それもそのはず、だって俺たちかここに来ることなんて彼は知らなかったし、ここに来てほしくないような理由もあった。

 

「アーチャー⁉︎」

 

 俺たち四人はまさかの事態に周章狼狽であった。それはアーチャーとは別の理由で驚いていた。聖杯戦争中の夜にサーヴァントと出会すということは、戦闘になると言っても過言ではないのである。そして、今目の前にはサーヴァントがいるのだ。

 

 つまり、今から戦闘になるということを意味していた。もちろん、戦う覚悟を決めて来なかったわけではない。ただ、元々俺たちは偵察のために街に出たのであり、戦闘をするためではない。

 

 セイギたちは直ちに臨戦体勢へと切り替える。いつでもアーチャーと殺り合えるように。

 

 しかし、アーチャーも驚いていたことに変わりはなかった。何故、四人がここにいるのか、それが彼には疑問でしかなかった。

 

 いや、それよりも、彼が一番嫌なことが目の前で起きていた。

 

「待て!今は武器を収めろ!俺は戦う気なぞない!」

 

 アーチャーは俺たちに向かって叫んだ。それは今までのアーチャーではあり得ないように本心を曝け出した一言。ただ、その一言が俺たちの彼への目を変えた。

 

 彼にとってその一言はあり得ない。何を考えているのかを悟らせないようにしていた彼にとって、その一言はまずあり得ないのである。つまり、今、俺たちに姿を見られたことは思わぬ事態であり、見られたくない理由がある。

 

「……戦わない?どういうこと?」

 

 セイギはアーチャーに疑問を呈した。聖杯戦争でサーヴァントでありながら、戦わないなどということはまずあり得ない話である。他のサーヴァントと戦うことが目的でない限り、ほぼ全てのサーヴァントが叶えたい願いを持ち合わせており、そうなるとやっぱり、その願いのために聖杯戦争という名の殺し合いが行われてしまう。だから、アーチャーの言うことは少し疑問が残る。

 

 ただ、アーチャーが嘘をついているのかそうでないかは誰も疑問には思わなかった。それはもう誰しもが分かっていたからである。

 

 アーチャーは本当に俺たちと戦う気など持ち合わせていない。だって彼ほど平然と嘘を吐く男が、今になって気を取り乱す様なことをするだろうか。そうである。そんなはずない。

 

「アーチャー。取り敢えず、戦意が無いのは分かった。だから……」

「取り敢えずじゃない‼︎さっさとここから出て行け‼︎」

 

 何か彼には特別な理由があるのだろうか。まるで時間がないかのように急いでいる。刻一刻と迫る時に彼は急かされていた。

 

「何故お前たちを見つけるまで、俺はお前たちに気付かなかったのだ⁉︎」

 

 彼はこの状況になってしまったことを苦しみ、そしてその罪を自分のせいにした。しかし、気付かないのも当然である。俺たち四人はアサシンの気配遮断の能力を一時的に会得しているのだから。

 

 しかし、そんなことを知らないアーチャーはこれ以上ないというほど忸怩し、そして頭を抱えた。今、俺たちと鉢合わせるのは彼にとって最悪の状況なのであった。でも、その理由を知らない俺たちはただ首を傾げるしか出来ない。

 

 暗い夜の森の中にある廃工場で頼りになるのは月と星と懐中電灯の光だけ。それでも、屋根の中に入ってしまえば月と星の光は全然入ってこないから、彼の手元がどうなっているのかなんて気づくこともなかった。ただ、何故か水滴がポタポタと滴り落ちる音が不気味に、そして不吉に聞こえた。

 

 アーチャーが頭を抱え、俺たちはそんな彼にどう声をかけたらよいか分からずに沈黙が続いていた時であった。突然、アーチャーは何かを察知したようであり、彼は悔しそうにチッと舌打ちをした。

 

「まったく、何でこうも不運が俺に降りかかる?最悪だ。タイミングが悪すぎるぞ」

 

 彼はそう怒鳴り散らしながらセイバーとアサシンの腕をふいに掴み、そしてそのまま二人を窓の外に投げ飛ばした。その時、アサシンは違和感を感じた。

 

(—————何故、サーヴァント二人の腕を簡単に掴めた?)

 

 セイバーとアサシンはサーヴァントであり、英雄である。セイバーはともかく、アサシンは歴とした英雄であり、暗殺者のクラスでありながらもサーヴァントと戦えるほどの戦闘実力を持っている。

 

 そんな彼女に彼は危機感持たせずして普通に肌に触れた。殺気こそ無かったものの、それでもサーヴァントである彼女なら少しは警戒したり抵抗したりするはず。なのに、出来なかった。

 

 いや、抵抗などする間もなかった。いつの間にか彼女の腕を掴んでいたのだ。抵抗する間など与えず、自然に彼女の警戒網から外れた。

 

 サーヴァントにそんな芸当をやってのけるサーヴァントなどそう多くいるはすがない。アサシンは英雄であるからこそ分かった。アーチャーは英雄離れした英雄。

 

 神霊?それほどまでに逸脱していた。

 

「おい、 マスター共。お前らに忠告しておく。今すぐこの山から降りろ。何故かは分からんが、お前たちは気配遮断のスキルの補助を得ているようだ。これから先は、俺的にあまり見られては困る……」

 

 彼はそう俺たちに伝えると、俺たち二人も窓の外に投げ飛ばされた。窓のガラスがパリンと割れ、破片が月やら星やらの光を浴びて儚くも美しく輝く。セイバーとアサシンは飛ばされた俺とセイギを空中でキャッチした。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、うん。セイバーのおっぱい(クッション)に当たって衝撃は和らいだ」

 

「……相変わらずですね」

 

 彼女は俺に呆れながらため息をつき下を向く。その時、俺の腕を見て、彼女は目を疑った。その腕はさっき俺がアーチャーに掴まれた腕の方。その腕は月の光を浴びて美しい色を放っていた。

 

「—————ヨウ……その腕は⁉︎」

 

 セイバーに言われて、俺もその腕を見る。そして、俺も事態の重大さに気づいた。そして、最悪の状況に俺は足を突っ込んでいたのを知る。

 

 血が付いていた。しかし、俺は痛くも痒くも無い。俺の血ではない誰かの血が俺の腕にべっとりと付いているのである。それはもう誰の血だかは分かった。

 

 アーチャーの血である。その血は俺だけではなく他のみんなも付いていた。

 

 工場の中は暗くてしっかりと彼を見ることは出来なかったが、彼は血を流している。しかも両腕。

 

 その事実を目にした俺はアーチャーに大声を出して声をかけようとしたその時、アサシンが俺の口を全力で塞ぐ。

 

「なんだよ⁉︎」

 

「ちょっと静かにしてて。ほら、耳を澄まして。何か聞こえない?」

 

 そこにいた全員が謎の音を聞こうと耳を澄ます。すると、そこにいる誰もが聞こえた。それはまるで金属と金属が擦れたり打ちつけたりする音。その音は以前にも聞いたことのある嫌な音。

 

 工場の入り口に人影が見えた。その髪型はセイバーとまったく一緒で、その後ろには幾万もの剣が宙に浮いていた。見たことある姿だった。ライダーとの戦いの最中に突如として現れた殺戮者(スレイヤー)

 

「—————グラムッ⁉︎」

 

 そうグラムである。グラムが工場に現れたのだ。

 

 彼女はアーチャーを見ると、ニタリといやらしい笑顔を浮かべ、手を翳した。すると、彼女の後ろにある幾万もの剣が一斉に剣先の方向をアーチャーへと変える。

 

 アーチャーは悔しそうな顔をしたが、最終的に彼も笑った。折れた剣を手に持ち臨戦態勢に入る。

 

「少しぐらい休ませてほしかったものだが……」

 

「休ませたじゃない」

 

「出来れば一日欲しいものだが……」

 

「そう?じゃぁ、死という永遠の休みをあげるわ。死になさい。命を乞いながらね」

 

 

 

 

 

 

 

 過去に残した忌まわしき遺物を彼は回収しに来たわけではない。

 

 でも、理由が変わった。

 

 今、彼がすべきことは英雄としてではない。

 

 ある一人の男としてなさねばならないことがある。

 

 望みはもう彼にはない。

 

 あるとすれば、平穏を作ること。

 

 誰のために?

 

 そんなの決まっている。

 

 彼のエゴだ。

 

 ただ、今一度彼は運命に逆らおうとする。

 

 逆らい、そして掴み取るのだ。

 

 勝利を。

 

 生前の彼が願ったことは国の平和。

 

 今の願いは—————




はい!Gヘッドです!

いやぁ〜、今年までに第一ルート終わらせたかったんですけど、無理でした。全然無理ですね。まぁ、来年の6月くらいまでには絶対に終わりますけど。

えー、年末年始は色々あって更新するのが大変ですので、今年の更新はこれが最後となります。次に更新するのは新年の7〜8日ぐらいです。

今回はいやらしいところで終わりましたが、次回からはちゃんとバトルがあります。

……ルート名を変えようかなぁと思っているこの頃。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。