Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
俺は目を覚ました。仮眠をとっていた俺はベッドの上から起き上がり、すぐそばに置いてある目覚まし時計を見る。夜の11時、そろそろ起きなければ。ベッドの上から降りた俺は足元に布団を敷いて寝て入るセイバーを起こす。
「おい、セイバー。起きろ。11時だ」
「んぐふふふ……、大福天国だぁ〜」
幸せそうな寝顔を浮かべながら理性の抑制が外れた謎の言葉を呟く。よだれが唇の端から布団に垂れている。きったねぇ。
大福天国。どのような夢なのであろうか。あたり一面が大福だらけで、モッチモチな世界が広がっているのだろうか。地面、建物、雲までもが大福なのだろうか。
「わぁ……大福なヨウだぁ〜」
おい、俺を大福にするなよ。っていうか、大福な俺ってどんな俺だよ。何だ、頭が大福なのか?それとも、ウルトラマンみたいに胸に大福がくっついてんのか?まぁ、どちらにせよ、歩くたびに大福の粉がボロボロと落ちて服が汚れそう。
俺は布団の上で幸せそうに寝息を立てているセイバーを見ていたら、突然セイバーは苦しそうな顔をする。
「うぅ〜、や、やめてください。ヨウ〜、私のヨモギ大福を食べないでぇ〜、あー、ヨモギ大福がぁ〜」
彼女が目を瞑りながら呻き声を上げているので、俺はそっと彼女の耳元で、大声でこう叫んだ。
「俺は苺大福派だ‼︎」
声ががセイバーの耳殻のすぐ近くで発生し、大きな振動が彼女の鼓膜を震わせる。
「ふぁぁぁッ‼︎⁉︎」
すると、彼女は心臓が止まるかというぐらいの形相を浮かべながら、飛び上がった。その後、すぐにセイバーは事態の収拾をしようと辺りを見回し、記憶を遡る。そして、なんとなく現在の状況を把握し、怒りを露わにしながら俺の方を向く。
「もう!何てことするんですかッ⁉︎」
「いや、つい弄りたくなっちゃって」
「ついじゃないですよ!ビックリしたんですから!気持ちよく寝てたら、いきなり大きな声を出すんですもん!」
「いや、だって時間だから。ほら、支度しろ」
セイバーは何処にもぶつけることの出来ない怒りを抱える。そこが彼女らしい。別にこういう場合は俺に怒りをぶつけても咎まれることはない。まぁ、起きなかったという彼女も悪いが、俺だって悪いところもある。
こういう曖昧な線の上にある時、彼女はむしゃくしゃしながらも事態を鵜呑みにする。彼女の悪い癖である。嫌なことを全て鵜呑みにして、ストレスが溜まり続ける。少しはその心の中に溜まったストレスなんかを発散することはしないのだろうか。
彼女は少しだけそういうところが危うい。ストレスを溜め込みやすい性格で、その上そのストレスの発散がド下手くそ。俺だってたまに彼女にしたことで悪かったなって思うことがあるんだから、そういう時は発散してくれたって構わない。そうじゃないと彼女がパンクする。
まぁ、今回のは、俺、悪くない(笑)。
「ヨウ、何時に集合でしたっけ?」
「ん?あぁ、12時に公園に集合」
俺とセイバーの話題はこの後のことであった。俺たちはセイギたちとある約束をした。そのため、この後セイギたちと会わねばならない。まぁ、今、爺ちゃんは帰ってきてないから容易に家を抜け出すことは可能。そこから少し歩いて公園に行く。公園でセイギたちと合流するのだ。
目的は夜の街の散策である。聖杯戦争とは本来夜に行われる。夜の誰にも見られないようなひっそりとした街の中、聖杯戦争が行われるのだ。一般人に見られないように戦う場所も制限されているらしいし、夜は魔術を行使して聖杯戦争の情報漏れを阻止しているらしい。魔術で魔術の情報漏れを止めているのだ。まぁ、詳しいことは分からないけど。
つまり、簡潔に言えば聖杯戦争のちゃんとした土俵に俺たちは立つのである。そんでもって戦いに行く。
確かに俺たちはライダーと戦った。だから、土俵に立つのが初めてではない。だけれども、自ら土俵に立ちに行くのは初めてである。
「なぁ、セイバー。どうだ?」
「どうって何がですか?」
「何がって、あれだよ。体調とか」
「あぁ……。まぁ、そこそこですかね」
嬉しくもないはずなのに笑顔を浮かばせる。偽物だってすぐに見抜けたけれど、俺はそのことについて言及することはなかった。
「まぁ、勝てるっしょ」
彼女を元気付けようと口から出た言葉なのに、そんな言葉が返って俺を不安にする。本当に大丈夫だろうかという気持ちを心の中に生じさせてしまう。それは俺だけでなくセイバーだってそうだ。彼女は生っ粋の武人でもなければ、英雄らしい英雄でもない。いや、むしろ英雄でさえもない。人々の言い伝えにより、千パーセントも割増され、現実とは程遠いほどにまで美化された英雄の本来の姿。人よりも少し剣を扱えるだけの女の子にすぎない。そんな女の子が死地に向かうのだ。自らの腕に自信も持っていないし、多分どの英霊よりも格段に弱い。
戦えない英霊が戦いに行くのだ。最悪、数秒で殺されることもあり得なくはない。
彼女の作り物の笑みを見た時、俺はそんな彼女を守らねばと思わされる。男の本能とでも言うのだろうか。か弱い女の子がいると守りたくなるというのは。
「セイバー、準備できたか?」
彼女は首を縦に振る。俺はそれを見て、自分も持ち物をチェックする。財布よし、家の鍵よし、ライダーから奪ったナイフよし、その他諸々ちゃんとある。自分の部屋を出て玄関の方まで歩いて行く。家の電源もちゃんと切ってある事を視認し、玄関の所で靴を履いた。靴紐を結び、俺はいざ戦いに行くぞという意気込みで家のドアを開けた。
すると、俺はその場で硬直した。それは実体化していたセイバーも同じことであり、足を一歩も動かすことができない事態に陥った。
まさかの事態である。こんなことになるなんて俺もセイバーも思わなかった。ツメが甘かったのだろうか。
「何をしているんじゃ?ヨウ?」
「爺……ちゃん?」
そこにいたのは爺ちゃんである。爺ちゃんはきょとんとした目で俺とセイバーを見ている。そして、俺の足元を見た。俺の靴紐がきちんと結んであることが外に出る証拠である。それに、家の廊下の電気も消えてあった。
不測の事態である。一般人である爺ちゃんにセイバーの姿を見られてしまった。いや、それだけではない。これから夜の織丘市に出かけようとするところも見られてしまったのである。
やばい。実にやばい。
俺の頭の中でグルグルと脳の思考がフル回転し、この不測の事態からどう免れようかと考える。
もう、靴と家の電気のことはどうだっていい。矛盾してでも説得させれば何とかなる。
だが、セイバーだけはどう説明すればいいのかが分からない。セイバーの姿を見られてしまったのは弁解のしようがない。
「あっ、いや、これは……その……」
考えても答えが出なかった。だから、考えるよりも先に行動せよ的な考えで、俺は言葉を出そうとしたが、なんと言えばいいのか分からない。対処法だけでなく、言葉さえも出ないのだ。それはセイバーもである。彼女もこの不測の事態に対処出来ずにいた。
言葉が見つからない……。
その時であった。困惑している俺たちを前に、爺ちゃんはふと笑い出した。
「フハハッ、なんだ、そんな顔をして」
爺ちゃんが笑った。俺にはその事実が衝撃的だった。全然笑ったことのない爺ちゃんの笑い声を聞いたのだ。俺が今まで聞いてきた爺ちゃんの笑い声なんて数えられるくらいしかないのに。
爺ちゃんは笑うと、そのまま俺のセイバーを素通りして家の中に入った。
「えっ?」
俺とセイバーはその爺ちゃんの行動に新たな困惑を持った。何故、爺ちゃんは俺たちに疑問の一つも生じないのか。
俺たちの疑問を他所に、爺ちゃんは履いていた下駄を玄関に置くと、家の中へ上がる。そして、後ろ向き様に俺たちにこう聞いた。
「別に儂はお前たちには何も言わん。お前たちがどうしようがお前たちが決めることじゃ。だが、
「えっ?今、なんて?」
「何処へ行くのかと聞いたのじゃ」
「それは……せ、せ……」
俺は爺ちゃんになんて言えばいいのかが分からなかった。聖杯戦争と言ってしまえば、その時点で爺ちゃんは処分の対象になる。だけど、俺は爺ちゃんを殺せない。ただでさえ、人を殺すのに抵抗がある俺は、また周りの人を殺したくないのだ。
だけども、嘘をつくのも嫌だった。爺ちゃんに嘘はつきたくない。
そんな時、俺はナイスな言い訳を頭の中から見つけ出した。それは真夜中に俺たちが外に出ることや、セイバーがここにいることも説明できることだった。
「セックス」
「は?」
「セックスだよ。こいつ、俺の彼女で、今からラブホ行くの」
「え?」
もちろんこの言い訳は嘘八百。俺ぐらいの歳の男子の頭の中にポッと現れた用語であり、その言葉が今の状況に意外と使えたため、何となく使ってみた。そんなことを知らないセイバーと爺ちゃんは頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えた。俺の言葉を理解するのに時間がかかるようである。
先に理解したのはセイバーだった。セイバーは俺の言っている言葉を理解すると、一瞬にして顔を真っ赤にかえて全否定する。ただでさえエロには耐性がないセイバーが、堂々と人前で俺と嘘のいかがわしい関係を暴露されたら、彼女はさぞや恥ずかしいだろう。
が、しかし、よもや躊躇にそんな手段を選んでいる暇などない。爺ちゃんを殺したくないがため、セイバーの面目を丸潰れにさせるつもりである。
そして、爺ちゃんも理解したようで、何やら険しい顔を俺に向ける。
「避妊具は持ったか?」
「バッチグー」
親指を立てて大丈夫であると示すと、爺ちゃんはまた俺たちに背を向ける。
「まぁ、楽しんでこい」
その言葉を残し、爺ちゃんは家の奥の方に進んでいった。ゆっくりと木の床を歩き、歩く度にヒシヒシと床が音を鳴らしていた。
「……よし、セイバー。行くか!」
「行くかじゃありませんよ!どうするんですか⁉︎嘘ついちゃいましたよ⁉︎というより、私の面目丸潰れじゃないですか!」
「まぁ、そう嘆くな。元々面目なんてないんだから」
「ありますよ!これでも英霊ですからね!私」
「『これでも』な」
「ぐぬぅ〜」
セイバーは何にも俺にものを言い返せない俺に怒りをぶつけられずにいる。心の中のモヤモヤがさらに増えている。それに、実際俺のあの嘘がなかったら、最悪殺さなければならなかったから、俺の嘘はあながち悪くはない。だからこそ、怒りをさらにぶつけられなくなる。
いや、それよりも何か他の思いもあるように思える。セイバーが俺に向けての思いも。それは多分、俺にもある。俺がセイバーに向けている思いの一種かもしれない。
色々な感情が詰まったモヤモヤを俺たちは抱えたまま、織丘市の夜の聖杯戦争に足を踏み出した。死地に赴くのである。
「ちなみに、何処のラブホ行く?」
「ラブホなんて行きません‼︎」