Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
「ねぇ、セイバーちゃん。ヨウくんさ、エロいランジェリーが好きみたいだから、私の持ってるやつあげようか?」
「そ、そんなもの、私が着けるわけないじゃないですか!」
「ん〜?本当は〜?」
「つ、着けませんからね!」
「ヨウくん喜ばせたいんでしょー?」
「そ、それは……」
セイバーとアサシンが何やら馬鹿な談話をしているのが聞こえる。ランジェリーの話で盛り上がっているみたいである。
ランジェリーか……。俺は好きだな。ランジェリー。
って、そんなこと考えている場合じゃない!俺はセイギに大事な話をしないといけないのである。まぁ、そのエロい話に入りたいっちゃ入りたいけど、流石にどうでもいい話と聖杯戦争の話だったら優先するのは必然的に決まってしまう。
俺がセイギに話を持ちかけようとした時、彼が少し深刻そうな顔をした。その口から出てくる言葉は聖杯戦争関連。別に俺がしたい話もそれなのだけれど、やっぱり少しだけ抵抗はある。幼馴染……というか腐れ縁のセイギが聖杯戦争の話をしているというこの現実には馴染めない。
「前回のセイバー、鈴鹿御前。まさか本当に生き残っていたとはね」
彼はまるで鈴鹿のことを伝説であったかのように言う。10年の時があったのに、彼女は一度としてその姿を見せなかった。そこまでして彼女は隠れる必要はなかったのではないか。
今なら分かる。彼女が隠れた原因が。
俺に彼女がサーヴァントであると知られたくなかったからだろう。サーヴァントであったのなら、俺の両親のことを知っているし、なにより俺と彼女の仲が聖杯戦争でできたと証明してしまう。
「なぁ、セイギ。お前ってさ、前回の聖杯戦争の事、知ってる?」
俺がそう彼に聞いた時、彼は一瞬何か後ろめたいことがあるように暗い顔をした。けれど、それを隠すように顔を直して、笑顔でこう答えた。
「ごめん。何にも知らないや」
俺はその時、セイギになんて言葉を言えばいいのか迷った。今の彼の後ろめたそうな顔を糺したら、今後の俺とセイギの仲がどうなるか分からない。もしかしたら、不仲となってしまうかもしれない。
だから、俺はそんなセイギに笑顔を返した。
「そっか」
何にも言えなかった。臆病者の俺には彼に問い詰めるなんて事は出来なかったのだ。
他の話に変えよう。少しだけこの話は今の俺には拒絶反応がある。それに丁度いいネタもあるから。こいつには聞いておかないと。
「なぁ、セイギ。お前さ、ランサーを倒したって本当?」
その言葉に彼は反応した。まるで聞いてほしくなかったかのようである。
俺には聞いてほしくないことがある。主に鈴鹿のことに関してである。しかし、それは俺だけの話ではない。人には誰だって聞いてほしくない話ぐらいあるものだ。
それはセイギにも言えること。彼にも教えたくないことがあるのだ。ただ、今回はたまたま俺がジャストミートしてしまっただけ。
彼の暗い顔を悟った俺は質問を変えようとした時、彼はそんな俺を止めた。
「いや、いいよ。僕に気を使わなくても。大丈夫だから」
「えっ?でも……」
彼は首を横に振る。その時、そんな彼を見ていて、自分が惨めに思えてきた。俺は彼に無理をすることを強要しているように思え、自分が自分の心に釘を刺しているかのように苦しく思えた。
「ランサーか……手強かった」
「それって……」
「うん。確かに倒したよ。ランサーは、僕たち二人で」
平静を装うように俺にそう答えた。もちろん、そんな彼の表情の細かな動きを察知した俺は何も言えなくなってしまった。
アサシンとセイギの二人でランサーを倒した。アーチャーから聞いたことは本当のことであったのだ。その事実の中にいるセイギはどんなセイギなのだろうか。残忍な奴なのか、慈悲深い奴なのか。
じゃぁ、やっぱり今、聖杯には六騎のサーヴァントの魔力が溜まっており、あと少しで満杯になる。前回の分の三騎と、今回のライダー、ランサー、キャスターが聖杯にある。鈴鹿の分の魂は顕明連が斬り捨てた。だから、災害が起きるには至っていないが、このままグジグジしていられない。
グラムを倒さなければならない。いや、グラムを倒さなくても、とにかく聖杯をグラムに与えてはならないのである。
ランサーが倒されているという決定的な事実は、グラムを倒さねばならないという行動を急かす。そして、セイギがランサーを倒したということは、殺したということである。
セイギのサーヴァントはアサシンであり、マスターを殺すことに長けている。なら、普通考えられるのは『ランサーのマスターをアサシンが殺した』ということではなかろうか。バーサーカーとの戦い方を見ている限り、セイギたちの戦い方はそうとしか思えない。セイギたちは迷うことなくバーサーカーのマスターである少年を狙っていた。そこからするに、ランサーのマスターを殺したという可能性が高い。
つまり、殺したのである。この聖杯戦争という状況下において、ランサーのマスターを殺したのである。
もちろん、これは憶測であり、根拠はない。だけど、そう思えてしまう。そして、友達であるのにそんなことを考えてしまった俺がどうかしている。
本当に聖杯戦争はどうかしている。人殺しを簡単に行ってしまうのだから。そして友達を簡単に疑ってしまうのだから。
セイギはそのランサーの話に少しだけある疑問を持ったようで、顔を顰めがら俺にこう聞いた。
「ねぇ、それってアーチャーから聞いたの?」
彼の推測はズバリ的中していた。ランサーの話はアーチャーから聞いた話である。
俺が頷くと、彼は忠告のようにボソッと小言で話した。
「アーチャーは、危ないよ。何を考えているのかが僕にはわからない」
俺もそれは実感していた。アーチャーは何を考えているのかが全くと言っていいほど分からない。多分、彼にとってみれば理に適っているのだろうが、その彼の理念や理屈を俺たちは分からない。だから、彼がどのような意図で行動しているのかも分からないし、彼が何をしたいのかも分からない。
まぁ、そこを掘り下げてしまえば、彼の聖杯に叶えて欲しい願望まで行き着く。そしたら、必然的に彼の真の名が分かるのではないだろうか?分かりたいとは思わないけれど、彼の意味不明な行動の真意を知りたいとは思う。
嘘なのか、嘘じゃないのかが分からない。今回のランサーの事は本当であったけれど、彼は狂人であると嘘をついた。
分からない。彼という存在が分からない。
「なぁ、アーチャーのマスターって誰だか知ってるか?」
俺はセイギにそう聞いた。案外身の回りに他のマスターはいるのかもしれない。セイギや雪方がマスターであったように、アーチャーのマスターは俺の知り合いかもしれない。
「ごめん。僕も分からないや」
「ああ、そう」
俺はセイギの呆気ない返事に少しため息を吐いた。何か有益な情報が出てくるかと思ったのだが、そうでもなかった。
……いや、待てよ。そう言えば、アーチャーが前にこんな事を言っていた。
マスターが魔法陣を特定していると。
「なぁ、セイギ。魔術について詳しいだろ?」
「えっ?まぁ、ヨウよりかは……」
「そのさ、魔法陣を特定できる魔術って何だ?」
「えっ?魔法陣を特定できる魔術⁉︎う〜ん。……あっ、召還や使役の魔術を使用する人とか?」
使役の魔術⁉︎
俺は頭の中にバーサーカーの少年を思い出す。あいつがアーチャーのマスターなの⁉︎
「ヨウが考えてそうなことは大体分かるけど、あの少年はアーチャーのマスターじゃないよ。だって、魔法陣だけで居場所を特定するなんて、まずそうできないよ。その道のスペシャリストだよ。あんな少年が出来るとは思えない」
「じゃぁ、誰だ?」
「さぁ、分からない。ただ、アーチャーのマスターも少年のような魔術を使うことが考えられる。まぁ、あくまで予想だし、あの少年の何倍も魔術はすごいと思うよ」
つまり、アーチャーと彼のマスターはすごいコンビだということか。
……うわっ、お腹痛くなってきた。
そんな奴が聖杯戦争に参戦しているのは多分ごく普通のことなんだ。命を賭した殺し合いに身を投じるなんて、ちゃんと魔術の腕を上げてからではないとやりたくなんてない。奇しくも、俺は聖杯戦争に参戦してしまったが、今回の聖杯戦争はある意味さほど強敵はいないのかもしれない。
だって、俺やセイギ、雪方に少年はまだ未成年であり、ちゃんとした魔術の修行も得ていないはず。だから、勝ち残れる可能性は多分低くはないだろう。
そう言って俺は油断した。ダメである。油断大敵、誰がいつ俺を殺しに来るかもわからない。もしかしたら、セイギだって俺を殺すかもしれないのだから……。
油断はしないで行かねばならない。そうしないと、願望機には到底辿り着けない。願望機に辿り着き、セイバーの願いを叶えるためにも俺は聖杯戦争で勝ち抜かねばならないのだ。セイバーの願いは俺の願いであるのだから。
とりあえず俺はそう心の中で念じる。それが俺の本当の願いをであるとかどうとか関係なく、俺が聖杯戦争に参戦する意味を作っておく。そうでないと、俺が聖杯戦争に参戦する意味がなくなってしまい、俺は聖杯戦争に参戦する気にもならない。
いわば、今の状態は俺が無理やり願いがあると思い込んでいるのである。本当に願いがあるかと言われてしまえば、俺は何も言えなくなってしまう。だから、セイバーの願いを借りているだけだ。
「ねぇ、ヨウはグラムをどうする気だい?」
セイバーから生まれた殺人マシーンのグラム。彼女をどうにかして倒さねばならない。というより、セイバーがグラムを倒さねばならないと言っていた。だから、俺は今、そう思っている。
ほとんど、今の俺はセイバーの受け売りで聖杯戦争の舞台に立っている。それは聖杯戦争の舞台に立つ理由にしてはあまりにも脆い。自分で何かやりたいことを決めねばならないのに、俺は決められずにいる。
確かに鈴鹿が死んでしまったというグラムに対しての怒りはある。でも、だからと言ってグラムをただ叩くのはどうかとも思う。確かに彼女のしようとしている行為は非人道的であるが、そんな彼女が出来る原因は彼女にはない。グラムという魔剣が、数々の辛い思いをしてできた結果が彼女である。そう思うと、感情移入をしてしまい、そう憎むこともできないのだ。
俺が難しい顔をしていると、彼はそんな俺を見て笑った。
「ヨウは優しいね。うん。ヨウはそのまんまでいいと思う。それが、ヨウだから」
セイギは俺を優しいという。けれど、俺はどんな奴なのだろうか。
俺は俺という存在がわからないでいた。
はい!Gヘッドです!
今回は人物紹介のための技名などを考えていなかったため、紹介は次回に。
なので、この作品でボツになったサーヴァント候補を……。
コンモドゥス
スキピオ・アフリカヌス
オジェ・ル・ダノワ
ルノー・ド・モントーバン
アルフレッド大王
エイリーク・ハーコナルソン
フードリヒ大王
アレクサンドル・スヴォーロフ
ユダ・マカバイ
ゴトフロワ・ド・ブイヨン
モーガン・ル・フェイ
オリヴィエ
アマディス・デ・ガウラ
エル・シッド
ドン・キホーテ
いや〜、いいですねぇ。こいつらのも作ってみたい( ̄▽ ̄)