Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回は特に言うことはありません。


前哨戦
朝になって


 一階にいる爺ちゃんがうるさい。まったく、なんでこんなにうるさいんだ。

 

 俺はそう思いながら目を開けた。そして、俺は今まで見ていた夢を思い出す。やけに鮮明な夢。寝起きだからこんなにも綺麗に覚えているのだろうか。

 

「あの夢は怖かったなぁ。命狙われたからな」

 

 俺はムクッと上半身を起こす。すると、椅子の上に誰かが座っていた。俺の背中がゾワッとした。

 

「おはようございます。ヨウ」

 

 椅子に座っている女は俺に挨拶をするから、俺も面識があるように「ん。おはよう」なんて言ってしまった。

 

 ……ん?こいつ誰?どこかで見たことがあるような顔。

 

 俺はその女の顔をまじまじと見る。黒い髪に、青い綺麗な瞳。服は緑色のドイツの民族衣装みたいな感じ。

 

「……き、君誰?」

 

 俺がそう聞くと女の人は「はぁぁっ⁉︎」と驚く。あんまりにもデカイ声だから下まで聞こえてしまうのではとも思った。まぁ、爺ちゃん耳悪いから聞こえないと思うけど。

 

 女は俺に熱心に語りかけた。

 

「いいですか?私の名前はセイバーです!」

 

「セイバー?ああ、そう言えば夢の中にもそんな奴いたな。お前とすごく似ていた……」

 

「は?夢?」

 

「いや、夢の中にいたんだよ。なんか俺が聖杯戦争ってのに参加しなくちゃいけなくなって……」

 

 セイバーは寝起きの俺に(あき)れる。そしてセイバーはため息をつきながら俺にこう言い聞かせた。

 

「あの、ヨウ。それは夢ではありませんよ」

 

 俺はまさかと思う。けど、夢でないことがすぐに判明した。セイバーが俺の目の前から姿を消して見せたのである。それでも、彼女とは話せた。それは夢の中と同じで、霊体化という現象と同じなのである。

 

 それだけではない。起きて顔を洗おうと一階へ降りた俺の目に飛び込んだのは崩壊した蔵。しかも、崩壊した形、現状が夢の中とほぼ一致。さらに、夢の中という可能性を打ち消した物があった。それは、矢である。矢が木片に刺さっていた。この矢はあのアーチャーとか言う男が使っていた矢と一緒のものである。俺は、その矢を爺ちゃんに見られないようにそっと回収した。あくまで人為的な事ではないと思わせるために。

 

 一旦(いったん)、俺はトイレの便座の上に座って頭の中を整理することにした。

 

 あれ?俺が夢だと思っていたことが現実だったのか?では、セイバーがあの時説明したことは全て本当のこと?俺は命をかけてでも聖杯戦争に参加しなくちゃいけないのか?

 

 ……マジか……。

 

 俺が絶望の(ふち)に立たされている時に、セイバーは俺の頭の中に話しかけてきた。

 

「これはサーヴァントが持つ意思疎通能力です。これはサーヴァントのマスターにしか使えない能力です」

 

「じゃぁ、思うだけで喋れるの?」

 

「ええ、そうです。では今からあなたにある事を教えます」

 

 セイバーは俺に(かつ)をいれた。

 

「これは全て現実なんです。ありえない事実かもしれませんが、これが聖杯戦争です」

 

 セイバーの言葉はキツかった。けれど、薄々、聖杯戦争とは人を殺してしまうほど危険なんだと勘付いていた。人の願いを何でも叶えるんじゃない。ただの殺し合いだってことに。

 

 でも、俺はそれを否定したかった。自分の両親が殺し合いに参加したなんて思いたくない。こんな危ない儀式に参加する必要なんかなかった。なのになぜ俺の両親は参加したのか。そこがすごい辛かった。

 

 俺は便座の上で頭を抱えた。これからどうしようか。だって殺し合いなのだろう?なら外に出てはいけないのではないのか?外に出たら本当に標的とされてしまうかもしれない。

 

 家から出ないとかでもいいかな?俺がそう思う。しかし、その考えはセイバーに丸わかり。

 

「ヨウ。それはダメです。不覚ですが、アーチャーにはこの場所を知られてしまいました。なので、今この場所に居続けるのは何かと不利です。それに、聖杯戦争に参加する者は朝に攻撃を仕掛けることはまずありません」

 

「何で?」

 

「朝は関係者以外の人に見られる確率が高いのです。私たちは一般人に見られてはいけない存在です。ただでさえ、今ここにいてはいけないのですから。なので、見られてはいけない。それが、聖杯戦争の全マスター共通のルールでもあります」

 

「じゃぁ俺が命を狙われたのは……」

 

「あなたが見てしまったから」

 

 じゃぁ、もし俺があの時アーチャーのことを見なかったら今、俺はこうして悩む必要もない。普通に学校に行っている時間だ。

 

 ……あっ、学校。学校に行かなきゃ。完璧、忘れてたわ。

 

 俺はトイレから出て急いで制服に着替える。食卓に無愛想(ぶあいそう)に置かれているトーストを口にくわえて家を出た。

 

 俺が急いで家から出て、玄関の近くに置いてある自転車に小さな鍵を挿してガチャッと回しロックを解く。俺の電動ママチャリの荷物入れに学校指定のカバンをドスッと入れた。口に入れたトーストを押し込んで飲み込む。自転車にまたいで学校への道のりを進もうとした。

 

 セイバーは学校を知らないらしい。彼女の時代には学校がなかったのだろうか。それとも彼女自身が学校に行けない身分だったのか。まぁ、昔のことは全然知らないから憶測(おくそく)でしかないのだけれど。

 

「学校ですか……。そこはどのくらい人がいるのですか?」

 

「全校生徒で500人弱。一つのクラスで30〜40人くらい」

 

「そこは面白いですか?」

 

「う〜ん、微妙。面白い所は面白いけど、つまらないところはとことんつまらん。まぁ、勉強とか、勉強とか、勉強とか」

 

「ほとんど勉強じゃないですか」

 

「現代の子は勉強いっぱいさせられてるの」

 

 俺がそういうとセイバーは何も言わなかった。俺のこの言葉は少しセイバーにはキツイ言葉だったであろうか?

 

 二人とも何も言わない。風の音とタイヤが回る音しか聞こえなかった。時代の差がそんな空気を作ってしまう。

 

 すると、セイバーがボソッとこう言った。

 

「時代が変わるとここまで世界は変わるのですね……少し、寂しい感じがします」

 

 セイバーは霊体になっているから姿は見えない。でも、顔をうつむけているのだとわかった。彼女は今、時が過ぎて変わり果てた世界にいる。何もかも新しい。懐かしさは微塵も感じないような見知らぬ場所で、いきなり過ごすのは辛いだろう。

 

「まぁ、変わんねぇもんもあるけどな」

 

「えっ……?あるんですか……」

 

「ああ。あるぞ。でも、教えてやんね。自分で探せよ」

 

 俺は自転車目的地に着いたので自転車をとめた。鍵をかけずに、道の端っこに置く。俺が来たのは学校ではない。今、俺の目の前にあるのはただの一軒家。

 

 セイバーは姿を見せた。そして物珍しそうにその一軒家を見る。

 

「これが学校ですか?」

 

「なわけねぇだろ。これが学校だったらどんだけ人がこの建物の中にいるんだよ」

 

「ち、違うのですか……。で、ではここは?」

 

「セイギの家。俺の友達の家。いつも一緒に学校に行っているけど、今日はそいつに会わなかったからここに来たんだ」

 

 セイギは遅れることはあっても来ないことなんて絶対にない。それに、今日は休むという連絡もセイギからは来ていない。セイギにしては珍しく寝坊であろうか?

 

 セイバーは友を心配する俺を見てプスッと笑った。

 

「ヨウみたいな人でも友達っているんですね」

 

「いや、俺みたいなのでも一人くらいはいるわ」

 

「一人だけなのでは?」

 

「うっせぇ、黙ってろ。これ以上喋ると令呪使うぞ」

 

「…………」

 

「いや、マジで黙んなよ。張り合いねぇだろ」

 

「そんなに友達が少ないんですか?私が友達になりましょうか?」

 

 嫌味ったらしいわ!なんかスゲェイラつく!

 

「ああッ‼︎もう、とにかく姿を消せ。関係者以外の人に見られるぞ!」

 

 俺がそう言うとセイバーは霊体になって姿を消した。それを確認した俺はセイギの家のインターホンを押す。

 

 すると、中からセイギの母さんが出てきた。

 

「あっ、ヨウちゃんじゃないの」

 

「おばさんこんにちは。その、正義はまだ家で寝てますか……?」

 

 俺がそう聞くとおばさんは目をキョトンとさせた。

 

「え?正義はヨウちゃんの家に寝泊まりしているんじゃないの?」

 

 ……え?何それ?セイギは俺の家に来てないぞ。

 

「じゃ、じゃぁ、家にはいない?」

 

「え、ええ。そうね」

 

 セイギがいない事をおばさんから聞いた俺はおばさんに嘘をついた。「夜遅くに用事があるから家に戻った。そして、早朝にどこかへ出かけた」と。普通、こんなことを信じる親はいない。けど、長年友達の関係である俺とセイギだからこそ、信じてもらえた。

 

 俺は少し嫌な予感がした。自転車の鍵を解除して、山に向かう。

 

 昨日、セイギは山に用事があると言っていた。もしかしたら、山で何かあったのではないのか。

 

 俺はペダルをなるべく早く()ぐ。

 

 何かあったのかもしれない。その焦燥感に俺は駆られた。

 


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