Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
ここの場所は『鈴鹿御前』という一人の女性が生まれた場所であると彼女は言った。とても似ているらしい。ここは彼女が捨てられた場所にすごく似ていると、本人がそう言うのだ。
彼女は元々何処にでもある小さな集落の子供であった。しかし、彼女には家族という存在はいなかった。だから、貢ぎ物とするにはとても都合が良かった。
その集落ではある神のことを信じていた。山の神様であり、その神様を崇めていれば豊作になるといった言い伝えのようなものである。
ある年、その集落では神様への巫女を選定しなければならなかった。その巫女は神様がいるとされる山に残され、一生山の中から出てはならなかったのである。そして、その年、彼女はその巫女として選ばれた。身寄りのいない彼女を助けてくれる人など誰もいなく、彼女は山で一生を過ごすことになってしまった。
そこの山は鈴鹿にとってはあまりいい過去とは言えない。だから、あまり彼女にとって思い出したくない記憶の一つであった。嫌な過去であり、彼女はその過去を嫌っている。でも、そんな彼女の心象風景はそんな思いとは裏腹に、彼女の心象風景はその山と一緒であった。
山巫女『鈴鹿御前』はこの地に何を思っているのだろうか。始まりの地に何を思って彼女は俺の前にいるのだろうか。
「なぁ、お前、俺に殺してほしいのか?」
俺は何かを求めるように彼女に聞く。そんなことないと言ってほしかったのだが、彼女の返答はそんなに簡単なものではなかった。
「ああ、そうだ。お前に一思いに殺されたい」
彼女はいつも俺に見せる笑顔を崩さずに静かな声で俺にそう告げた。彼女は俺に笑いかけてくるのだが、どこか悲しそうな顔をしている。俺だって浮かない表情をしていることぐらい自分で分かった。
「ここは……」
「アーチャーの固有結界の中であろう?」
「知ってたのか?」
「ああ、これでも聖杯の元中身だ。サーヴァントの基本的な情報ぐらいは知っている。私の心の中を映し出しているのだろう?」
彼女はアーチャーの固有結界の中にいるということぐらい分かっていた。分かっていたけど、これが自らの心の中だと認めたくないのだろうか、彼女はその話を打ち止める。少しだけ現実から目を背けるように、何処か遠い場所を見るような目をする。
「死んじゃうんだよな……?」
「ああ、死ぬ」
「…………嘘じゃ……」
「嘘じゃない」
その重苦しい話は二人の空気を悪くした。別に怒りや憎しみなどの感情があるわけではない。ただ、苦しいのだ。アーチャーから聞いたことが嘘だって思いたい。だけど、それが嘘ではないと分かると胸が苦しくなるのだ。
俺と鈴鹿は全然目を合わせようとはしなかった。目を合わせて鈴鹿の方を向くと、その現実を目に入れてしまう。それが物凄く苦しくて辛い。
俺はズボンのポケットに手を突っ込んだ。冬の空気に触れていないから、少しだけ温かく感じる。そのポケットの中で、握り拳を作り、皮膚に爪を食い込ませた。痛みがあるならそれでいい。痛みがないと、心の痛みを感じそうなのである。
「何で、教えてくれなかった?」
まるで鈴鹿に尋問のように俺は問い詰める。責めているわけじゃない。だけど、真実を知りたいって思いがそのような形としてなっていた。
「……言えなかったんだ」
鈴鹿は何度も俺に真実を教えようと思っていた。だけど、彼女は俺に真実を教えることが出来ず、現在まで引き伸ばしてしまっている。そのせいで、俺は色々と覚悟とか、心の準備とか出来てない。
教えてくれたのなら最後の時まで一緒にいたかった。最後まで、俺は彼女に感謝の意も告げないでいるのは胸糞悪い。
時間がないのはもう俺にでも分かっていた。無慈悲に時は刻一刻と迫り、ゲームオーバーのように彼女は消滅してしまうのだろう。
そんなの嫌だ。
現実に反抗したけれど、今の俺にはどうすることもできないような小さな反抗。そして、反抗は他の力で押し潰されてしまう。
鈴鹿は曇りのない空を仰いだ。空は青く、そして高い。その空の中に燦々と太陽が光り輝いているのである。
「怖かったんだ」
彼女から『怖い』なんて言葉を聞きなくなかった。いつまでも強い人であり続けてほしい。俺の認識上の鈴鹿は俺のことなんかそんなに大事に思っていないような人。それでいい。それでいいのだ。
「ヨウが裏切られたと思うかもしれないから怖かった。ヨウに嫌われてしまうかもしれないから怖かった」
女性が泣くように彼女も泣いた。しくしくと涙を流し、過去の事象に対して悲しみを抱いていたのだ。
止めてくれ!
「辛かった。ヨウがまた笑わなくなってしまうのが怖くて、それを思うと辛かったんだ」
止めてくれ!
「私はヨウのことを愛しているから!」
「止めてくれよ!」
俺は心から叫んだ。
そんな結末、望んでなんかない。
そう思いながら叫んだ。
「そんなこと、言うなよ。そんな風に、言わないでくれよ!お前は、もっと強い奴じゃなかったのか⁉︎日本最強の女剣豪、鈴鹿御前だろ⁉︎そんな風に言わないでくれよ!別れを惜しむみたいに言わないでくれよ!お前は、お前は……」
思い思いの言葉を鈴鹿に向かって叫んだ。叫んで、俺は鈴鹿に自分の思いを伝える。そんなつもりでいた。
だけど、なぜかその後の言葉が続かなかった。その後、俺は何と彼女に言えばいいのか、何を言葉にすればいいのかが分からず、口に出せなかった。
『お前は』、その後の言葉が俺の心の中にないのだ。
「ヨウ‼︎」
俺が言葉に詰まっていた時、彼女は俺の名を呼んだ。
「私は鈴鹿さんをそうは思いません。鈴鹿さんは確かに剣術でとても秀でた技術をお持ちです。彼女は英霊として、剣士として素晴らしい。でも、それだけじゃない!彼女は英霊である前に一人の女性なんです!」
まるで、アーチャーが俺に説いたように、彼女も俺に事を説く。アーチャーが目の前にいるかのように思えた。ただ、セイバーは自分の思うことをただ俺に言っているのだろう。だけど、性格の違う二人にまで同じことを言われたことは凄く屈辱的に思えてしまった。
だから、俺は反抗するんだ。
「でも、英霊と俺たち庶民は違うんだよ!だから、第二の人生を与えられてるんだろ⁉︎俺たちはそんなものない!人生は一度きりだ!お前たちと俺は違う!俺は人だ‼︎」
「私たちも人です‼︎意思ある人だ‼︎」
「違う‼︎お前たちは幽霊だ‼︎また、新たに聖杯戦争に呼ばれるかもしれない!新たな人生があるかもしれない!だから、人生を軽く見てる‼︎」
「そんなことない!鈴鹿さんは死ぬことを怖がっている!それはあなたと離れたくないからだ!それのどこが、軽く見てるんですか⁉︎あなたは、どうしてそう、いつも自分の気持ちに気付かない⁉︎何で、現実と向き合わない⁉︎」
セイバーは何かに取り憑かれたように、物凄い形相で俺を見る。
「楽なことなんて人生に一度もありはしない‼︎」
彼女は多分、俺たちの誰よりも大きなものを失った。だから、彼女は凄く過敏に反応した。
しかし、それだけではない。彼女は同じ
そして、失った者として、自分のような悲しい経験を他の人にさせたくないから彼女は俺に異議を唱えている。彼女自身、自分と同じような人をもう見たくないと思っているから。大事な人を失う辛さを知っているからである。
「ヨウ、あなたは両親を失ったんですよね?その辛さをもう一度、味わいたいかッ⁉︎」
「鈴鹿は俺の親じゃねぇよ‼︎」
「嘘だ‼︎じゃぁ、なぜ、あなたはここにいる⁉︎なぜ、あなたは彼女の前に現れた⁉︎それは、彼女があなたにとって大事な人だという証だからではないのかッ⁉︎」
その言葉に、ついに俺は何も言えなくなった。頭の中から言葉を絞り出そうとしても、出せる言葉はゴミ屑ばかり。
「彼女のことを心の底から愛しているからここに来たんでしょう⁉︎あなたはそのことに関しても嘘をつくほど、落ちぶれた人間かァッ⁉︎」
俺は鈴鹿を愛しているのか。本当に?
鈴鹿に関する記憶を掘り起こす。嫌な記憶ばかりである。鈴鹿と俺の笑顔が眩しく映るほど、嫌な記憶なのである。
「あなたは彼女のことを愛しているから、愛しているからこそ、嫌いになろうとした。嫌いになって、辛さや苦しみから逃げようとした。そうすればあなたは悲しまなくて済む」
アーチャーに言われたことと似ていた。愛する人を嫌いになろうとしていた。きっぱりと別れをして、鈴鹿のことをもう見ないために、俺は鈴鹿に酷い言葉を吐いた。
けど、やっぱり無理なのである。何度鈴鹿を罵倒しようと、俺は鈴鹿に背を向けることなんて出来ない。
なぜ?
それは、俺が鈴鹿のことを愛しているから。
嫌われて、楽になろうと思ったけど、心にもない言葉を何個も言えるわけがない。
離れてほしくない。その心は未だに俺の心の中にあり続けているのである。
鈴鹿は俺の目の前に刀を投げる。刀はカランッと音を立てて地面に落ちた。その刀は顕明連であった。彼女は朗らかな笑顔を俺に見せた。そして、その笑顔に似つかわしくない言葉を彼女は口にする。
「私を殺してくれないか」
泣き崩れそうな顔を無理して整えた彼女の顔は現実を直視する羽目になる。俺は彼女から目を背けようと、地面を向いた。それでも地面には刀があるんだ。現実はもう目の前に迫っていた。
俺は刀に手を伸ばした。
はい!じゃぁ、前回の聖杯戦争のサーヴァントを、ざっくりと。詳しいのは次回で。
セイバー:鈴鹿・最強の女剣豪
ランサー:前田慶次・戦馬鹿
アサシン:マシューホプキンス・残忍な人殺し
ライダー:スキールニル・忠実な僕、楽観者
キャスター:人魚(
バーサーカー:クリームヒルト・病んでる
アーチャー:ベリサリウス・悲観的
こいつら全員狂ってる。