Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回と次回は『ヨウと鈴鹿の愛』的な言葉がよく出ます。
が、もちろんこれは親子愛的な愛情でございます。


理由を知った

 ‡ヨウサイド‡

 

 俺は家に帰って来て縁側に座っていた。まだ爺ちゃんは帰ってきてない。まぁ、あの人の放浪癖にはもう慣れてる。

 

 昼食の支度をしないと。

 

 そう思いながらも体が動かなかった。頭と体は違うみたいに感じた。

 

 いつもならこのぐらいの時間に、セイバーがお腹空いたと俺に言い、飯を作らせようとするのだが、今はそのセイバーがいない。

 

 まだお腹は空いてない。冷蔵庫には昨日の残りもあるし、今日は昼食を作らなくてもいいかなと考えた。

 

 庭の方をじいっと見ていた。特に何にも変わりはない庭をただじいっと見ていた。疲れが出て行くわけじゃないけど、俺の視線が庭から離れなかった。庭の中にある壊れかけた蔵の地面から穴が見えた。その穴の中は暗くて遠くからじゃ、よく見えないけれど、そこからセイバーと鈴鹿はこの世に現界したんだ。実感はわかない。でも、それが本当のことであろうことが俺には分かった。

 

 鈴鹿は何に嘘をついたのだろうか。彼女は決闘など、真剣な試合に関してはそんなことはしないような人である。なのに、さっき、俺に彼女は刃を向けたのに、それを振り下ろすことはなかった。

 

 まぁ、彼女と鍔迫り合いをしている時だって、何となく違和感を感じていた。彼女は本気ではない。というより、本気を出せないんだと。彼女が本気なら、俺なんか即倒されているのがオチなのである。なのに、彼女の息は少し乱れていた。俺に見せないようにしていたのだろうが、気付いてしまった。そりゃ、何年も鈴鹿の技量を見ているんだから、異常には気付いた。

 

 でも、鈴鹿がどんな理由であれ、俺は鈴鹿と戦いたかった。本気で戦って、そんで鈴鹿の本気を受け止めて、俺は鈴鹿に認めてほしいんだ。

 

 一人前な一人の人間として、認めてほしい。今までずっと俺のことをガキ扱いしてきた鈴鹿に俺は見せつけたかった。

 

「もうオツムするようなガキじゃねーんだよ」

 

 成長したってことを俺は鈴鹿に見せてやりたかった。悔いのないように。

 

 やっぱり息遣いとか手の動きからしていつもの鈴鹿でないのは分かった。いつもの鈴鹿ならもっと強い。だから、さっきまで俺の目の前にいた鈴鹿は俺の知っている鈴鹿でないし、そんな鈴鹿には用はないのである。いつもの鈴鹿に見てほしいのだ。笑いながら、あったかい空気で俺は鈴鹿と話し合って、語り合って、認められたい。

 

 だからって、俺は鈴鹿との決闘を簡単にポイッてする必要は俺にはなかった。どうせ、あれこれと言い訳を言ったって、負けから逃げたことに変わりはないし、それを否定する気は毛頭ない。

 

 俺はポケットに入っているバタフライナイフを取り出した。クルクルと光を反射しながら刃は現れる。俺はナイフの刃の所を見た。刃にはヒビが入り、少し欠けている。鈴鹿の顕明連のたった一撃を防いだだけでこんなにも刃がボロボロになってしまっているのである。

 

 もし、俺がこのナイフで守っていなかったら、鈴鹿は俺に刀を振っていただろうか。顕明連は確か当たったら即死だったような気がする。だとすると、俺に刀を振れば剣士としての自分を貫き、俺の命も貫く。振らなければ剣士としての自分を捨てて、俺の願いも捨てる。難しい採択である。俺だったら、そんなすぐには答えられない。

 

 けれど、彼女が刀を振るのは遅かった。だから、俺はナイフで防ぐことができた。俺の命、未来を大事にしたのだろう。そう考えれば嬉しいとも思える。

 

 俺はバタフライナイフを振った。風を切り裂く音が聞こえた。庭を見ながら、ナイフを特に意思なく振っていた。曇り空、()の光が地には当たらない。だからだろうか、少しだけ肌寒く感じた。手袋をつけて、また何を思ってか庭をボーッと見る。

 

 縁側に座ってしまったのが悪いのだろうか。尻と縁側が引っ付いて離れない。ゆえに、俺は立ち上がることができないのである。俺は庭の方を見ていた。

 

「なぁ、どう思う?」

 

 俺はそう聞いた。俺の後ろにいる男にそう聞いた。男は壁に寄っかかりながら俺を見ていた。

 

「さぁな。別に前回の聖杯戦争のセイバーがどうのこうのは関係ない。私が話したいのは今の聖杯戦争のことだ。過去のことはどうだっていいだろう?」

 

 男はずっと俺と鈴鹿の決闘を見ていた。山の中で決闘している時に、俺は気付いた。そのあと、俺が鈴鹿やセイバーと別れた時、その男は俺に着いて来た。

 

「お前は俺のストーカーか?アーチャー」

 

 アーチャーは俺の冗談に言った質問にクスリと笑う。

 

「すまないが俺は妻子持ちだ。それに男に興味はないのでな」

 

「いや、俺だって男好きじゃねぇし……。冗談だよ、冗談」

 

 妻子持ちか。こんな奴でも結婚って案外出来るものなのかな。結婚って意外とチョロい?いや、でも昔だから男性の方が権力あるのか。

 

 ……って、俺、なんでこんなこと考えてんだ?違う違う。そんなこと考えるべきじゃない。

 

「知っているか?セイバーはな、俺の娘だ」

 

「えっ⁉︎そうなの⁉︎」

 

「嘘だ」

 

 何っだよ‼︎イラつくわ‼︎一々どうでもいい嘘ばかりつきやがって‼︎

 

「……って、そうじゃなぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!そんなこと考えてる場合じゃないんだよ!分かる、アーチャー⁉︎」

 

「あ?」

 

 アーチャーは耳の穴をほじりながら曖昧な返事しかしない。多分、俺の考えていることなど全然心配してない。

 

 めっちゃイラつく!

 

 ……まぁ、いい。無視しよう。

 

「なぁ、今、俺が置かれてる状況をさ、分かってる?」

 

「義理の母親とも言えるべき人に酷いことを言ったことだろう?」

 

「そう!それよ!……いや、でも、鈴鹿はそこまでじゃ……」

 

「はぁ、全くもって判断力のない奴だな」

 

 俺が考えていると、アーチャーはつまらなそうに俺を見る。その目がとてつもなく憎たらしい!

 

「ったく!うっせぇなぁ!つーか、何なんだよ!さっきから俺のことばっかり見やがって!やっぱり……」

「いや、それだけは断じてない。心に誓ってそれはあり得ないと断言する」

 

「じゃぁ、なんだよ?」

 

 俺は彼の青い目を見た。彼はそんな俺を見た。何かを見定めるようにジッと見て、そして視線をずらす。

 

「まぁ、約束を守っているのかと気になって来た。それだけだ」

 

「ふ〜ん。あっそ」

 

 俺はそう言いながらアーチャーに背を向け、また庭の方を見る。俺が呆気ない返事をすると、アーチャーはまた俺の方を見る。

 

「呆気ない返事だな」

 

「それが俺ですから」

 

「ほう、そうか。やはり面白いな。敵のサーヴァントである俺に背を向けるとは。お前、変わり者だな」

 

「お前に言われたくねぇよ。似非(エセ)の狂者さん」

 

 アーチャーはその言葉を聞くと、目尻が少しだけピクッと動いた。さっきまで俺のことを舐めた目で見ていたが、その一言を聞いた瞬間、目が本気になった。背中の後ろから感じる殺気はとてつもないものだった。

 

「ははは。なぜ、そう思った?」

 

「いや、だってさ、普通に考えればそう思うぜ。だって、自ら自分のことを狂者っていう人がセイバーなんかのことを気にするのか?なんで、セイバーをグラムから助けた?」

 

「まぁ、戦場に咲いてしまった弱き花を守りたいと思ったのでな」

 

「じゃぁ、なんであんたは俺を撃たない?あんたのお得意のクロスボウで俺を殺すことだってできるだろう?」

 

 セイバーを殺したくなくとも、アーチャーには叶えたい望みがある。なら、俺を殺すのが妥当なはず。アーチャーが狂者だったのなら、その行動を間違いなく起こしているはずである。

 

 アーチャーは俺の横を通って庭へと出た。その時に気付いた。

 

「おい、アーチャー!てめぇ、なんで土足で家ん中入ってんだよ!マジ死ね!」

 

 アーチャーが俺の横を通る時、家の中にいたはずのアーチャーの足に靴が履かれているのを見て、俺はキレた。結局、掃除するのは俺であり、その掃除する俺の身にもなってほしいものだ!

 

 アーチャーは笑いながらすまないと言うが、俺は許せなかった。だって、後で雑巾で拭かねばならないのである。冬場の掃除は辛く、雑巾なんかは水に浸す時、手がかじかんでしまう。だから、あまり掃除したくはないのだが……。

 

 俺はアーチャーを見た。アーチャーを見てると殴りたくなってきた。殴りかかろうとする右手を、俺の理性を司る左手で押さえていると、アーチャーは話し出した。

 

「俺はお前たちの決闘を最初から見ていた。だが、やはりあれは手を抜いていたか、力を出せないのかのどちらかだろう」

 

「じゃぁ、手を抜いていたとか?……いや、それはないな。わざと手を抜くような奴じゃないしな。……じゃぁ、まさか……⁉︎」

 

「ああ、そうだ。彼女は力を出せなかったんだ。それに、もうすぐあの女は死ぬだろう」

 

 俺はアーチャーの言葉に耳を疑った。けれど、アーチャーが嘘を言っているようには思えなかった。それに、俺自身、何となくそんなことを薄っすらと感じ取っていた。だから、驚きはするけれど、否定はしない。

 

 それに、もうすぐ鈴鹿が死ぬなら色々と説明がつく。俺の目の前に現れたことも、戦いを願い出たことも、俺にトドメを刺そうとしなかったことも。

 

「……やっぱ、鈴鹿、本気で戦う気なんかなかったんだな」

 

 俺はバタフライナイフを庭へと投げた。何となくムシャクシャしてた気持ちを八つ当たりとして投げた。理由が分かったからこそ、またイラつく。そうだったのかという理解をして、何でそうなったんだっていう怒りが生じてしまう。

 

「……だから来たのか?アーチャー」

 

「んな訳ないだろう。俺はお前が約束を守っているかを見に来ただけだ。……まぁ、教えてやらんこともない」

 

 アーチャーは腕を組んだ。そして、少し深刻そうな顔をしながら語り出した。

 

「グラムだ。セイバーにかけられていた強大な呪いの力をグラムが引き剥がしたのだ。その強大な呪いの力のせいで、グラムはサーヴァント以上の力をつけてしまった。そして、グラムはあろうことか聖杯にまで手を出してきた。鈴鹿はその聖杯を守ろうとしたが、やられてしまったのだ」

 

 グラムの強大な力は確かに俺もこの目で見た。あれは鈴鹿でも相手にするのは困難であろう。主神オーディーンの力を宿している剣であり、それに妖精がかけた最強の呪いの力も所持しているという現状が、恐ろしいことであると嫌でも理解した。

 

 俺は冬の空気を握りしめた。手のひらには爪の跡が残り、少しだけ痛い。舌打ちをした。何にも知らずに鈴鹿との決闘を放棄した自分に対して。

 

 鈴鹿は俺の知らない所で必死に戦っていた。死ぬかもしれないのに、それでも戦っていた。なのに、俺はそんな鈴鹿を侮辱してしまった。

 

 最低なことをしてしまったのである。

 

 


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