Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
なんか、今回の題名、アツいっすね。
さて、もうすぐでやっと第一ルートの半分くらいに行くかな?っていうところです。ちなみに、第一ルートは80〜120話ほどで終わります。意外とガッチリとしてます。
で、一応、ヨウくんと鈴鹿さんの出来事が終わったら、一旦、人物紹介回をしたいと思います。
‡セイバーサイド‡
鈴鹿は木の幹に寄りかかった。ヨウとの戦闘で相当な体力が削がれていた。息は荒く、汗が吹き出ていた。彼女の吐く息が白くなり、額から湯気のようなものまで出ていた。
けれど、その姿は異常としか言いようがなかった。さっきまで、鈴鹿はヨウに気づかれないように、強く堂々とした『鈴鹿御前』という一人の剣豪を演じていた。しかし、彼女はサーヴァントである。例え、マスターがいなくてもあれだけの戦闘でここまで体力を削がれるのはおかしいのである。しかも、彼女は日本の歴史上、女性剣士の中では五本の指に入るほどの剣豪で、前回の聖杯戦争でも生き残ることができたサーヴァント。
それほどの者があれだけの戦闘でヘトヘトになるまで体力を消耗することなんてまずないのである。
セイバーはそれを見抜いた。ヨウが置いていった大通連を拾い上げて、鈴鹿の前に差し出した。
「なぜ、そんなに疲れているんですか?」
胸を前後に動かす。物凄い量の汗をかいて、首は濡れていた。鈴鹿はセイバーに対して無理にでも笑顔を作ろうと思ったが、辛すぎてできなかった。彼女はセイバーから大通連を受け取る。しかし、今の彼女には刀一振りでも重く感じた。手を鉛直にしながら、彼女はこう聞いた。
「……グラム。そうあの剣は言うのだな?」
「えっ?」
「あの剣だ。お前から出た黒い瘴気を帯びた剣のことだ。無限に平行世界から
鈴鹿はグラムのことを知っていた。
けど、なぜ今グラムの話が出てきた?
鈴鹿は苦し紛れに笑う。笑うための声を発した。ツンとさす冷たい空気の中にその振動は伝わり遠くへと響いた。そして、セイバーにこう伝える。
「私はな……もうすぐ、消える」
その彼女の言葉はとても重かった。彼女は悔しい顔をしながら空を仰ぐ。それでも、どこか安堵の色も見せた。これでよかったという彼女の思いがそこにあった。
「グラム、あの剣はな聖杯を
グラム。彼女は生前のセイバーが得た呪いの指輪の影響によるものである。
生前にセイバーが得た呪いはセイバーのスキルとして搭載されていた。その呪いはセイバーが現界されるときに、その呪いも聖杯により再現されてしまったのである。そして、グラムはセイバーを所有者として見限った時、セイバーからこの呪いを引き剥がし、我が物としたのである。そして、その呪いのあまりに強大な力により、人の形をしているのだ。
グラムは怒りの剣である。この世全てを怒り憎しむことだってありえることであった。
グラムという負の剣は、セイバーの父であるシグムンドという男によって生まれてしまったものである。シグムンドが多くの戦場でその剣を振るい、多くの人の命を奪ってきた。その人々の怨みや、主神オーディーンによる神の加護や、セイバーが倒したドラゴンの生き血など色々な出来事が重なって生まれた剣である。多くの命を奪い過ぎた剣は、新たな殺戮を求めているのである。
「その殺戮というグラムの理想に、私の呪いの力が惹かれてしまったということですか?鈴鹿さん」
鈴鹿は頷いた。そして、彼女はまた辛そうに木の幹に寄りかかるのである。しかし、立つのが辛くなってきて座り込んでしまった。それでも、彼女は立ち上がろうと刀を地面に刺す。体重を刀にかけて膝を伸ばそうとするが、太ももの筋肉があまりの辛さに悲鳴をあげる。
その姿はサーヴァントには見えないほど衰弱していた。サーヴァントとは英霊である。しかし、今の彼女にその名は似合わない。
足掻いて、足掻いて、それでも
その時、セイバーは鈴鹿の真実を知ってしまった。鈴鹿がなぜヨウとセイバーの前にいきなり現れたか。鈴鹿がなぜヨウに早く決闘をすることを望んだのか。鈴鹿がなぜヨウにトドメを刺さなかったか。鈴鹿がなぜこんなにも衰弱しているのか。
鈴鹿の手が透けていた。その手はサーヴァントの霊体化の状態に似ていた。けど、似ているだけで全くの別だった。エーテルで構成されサーヴァントの体のエーテルが、崩壊を少しづつ起こしているように見える。
セイバーはサーヴァントだから分かる。段々と気配すらそこから消えていくような感じがするのである。鈴鹿という一人の女性が目の前から消えてゆきそうなのである。
サーヴァントの消滅である。
鈴鹿は自らが消滅しそうなのを知っていた。知っていて、彼女はヨウとセイバーの目の前に突然来て、ヨウに戦いを挑んだ。それは、本当のことを早く伝えなければならないため、そして最期は自らの子供のように見てきたヨウに一思いに殺してほしかった。だから、彼女が勝ってしまうと思うと、自分の望んだ結末ではないことに悲しんだ。
彼女はヨウと本気で勝負をする気なんて毛頭なかった。ただ、ヨウにトドメを刺してほしかったのだ。
ヨウはそこに違和感を感じていた。それでも、本気で彼女と戦うために決闘をしようとした。
そして、意識の違いを感じた。
ヨウはこのことを知っていたのだろうか。いや、知っているはずがないのである。鈴鹿は彼の目の前ではあえて強い剣豪の姿を演じていたのだから。
では、なぜ鈴鹿は消滅する?今まで約10年間、特に問題なしに生きて来れたではないか。
「……グラム、グラムが原因なんですか?グラムが原因で、鈴鹿さんは消えないといけないんですか?」
鈴鹿は笑顔で頷いた。その笑顔がどのような笑顔かなんて、すぐに分かった。
彼女はその時、自分が一番この場にいてはならないような気がした。そして、自分の存在がとても恥ずかしく思えた。
グラムを呼び寄せてしまったのはセイバー、そう彼女自身なのである。彼女がこの世界に召還されなければ、鈴鹿はまだ生きていることができたし、ヨウに迷惑を掛けることもなかった。
鈴鹿はセイバーが悪いのではない。そう笑顔で伝えるけれど、彼女はその優しさが辛く思えた。優しいと、逆にその自分の非力さを実感させられるからである。
セイバーはぎゅっと握り拳をつくる。爪が手のひらに食い込むほど強く握った。鈴鹿はグラムが今、していることを伝えた。
「グラムはな、今、聖杯に直接アクセスしている。そのアクセスから、グラムは聖杯ごと乗っ取る気なんだ。聖杯を乗っ取り、この世を地獄と化すことが、あの剣の望みなんだ」
彼女は嘘なく話した。ただ、彼女が知っていること全てをセイバーに話したのだ。
グラムはもう聖杯のほぼ全てを手に入れていた。けれど、一つだけ手に入れていないものがあったのだ。
それこそが鈴鹿という一人のサーヴァントである。そして、グラムはその鈴鹿というサーヴァントを聖杯の器からこぼそうとしていた。
鈴鹿も含め、今聖杯には7騎のサーヴァントの魂がある。それを使えば殺戮を行うことができる。しかし、その中身である鈴鹿はその望みを拒否したのだ。そう、グラムはもう聖杯のほぼ全てを乗っ取っており、グラム自身が聖杯の器である。そして、鈴鹿が聖杯の中身なのである。聖杯の器は殺戮という望みを叶えたいが、その望みを中身が拒否していた。
そして、器はその望みを叶えるために、自分に反抗する中身をこぼすことにした。つまり、鈴鹿を消滅させ彼女の魂を聖杯から消すことにより反抗はなくなり、殺戮ができるのである。
鈴鹿というサーヴァントが消える。そうすれば、グラムは聖杯の全てを手に入れてしまう。
「だから、グラムはこの数日間、ずっと姿を現さなかった。聖杯そのものになるために」
グラムはこの数日間、ずっと自らを聖杯とするために、中身である鈴鹿と戦っていた。魂の戦いをしていた。そして、鈴鹿はグラムに負けた。
消滅しそうな鈴鹿は悲しそうに涙を流した。
ヨウを怒らせてしまった。最後に見るヨウの顔が怒りに満ちた顔だなんて彼女は思いたくなかった。
その時、彼女は思ってしまった。
今まで、聖杯への望みなんて一つもなかった。私が聖杯戦争に参加する理由は自らの腕前を知るためであった。だから、望みなんてなかった。
私を召還したマスターを
けれど、今になって私は理解できた。10年もかかって理解できた。やっと理解できた。
彼女は魔術師としてはどうしようもないバカである。
けれど、母親として、愛する子供を持つ者として素晴らしい人であったと。
私は敬意を表した。
薄れゆく景色がそこにある。青い空が白く見えた。
望みなんてないはずなのに、今ではどうしても叶えたい大きな望みがここにある。
自分の胸の中にあるのだ。
自分の子ではない。自らのマスターの子であるはずなのに、どうしてこんなにもあの子が恋しいのだろうか。
ああ、死ぬ前に一度だけでも逢いたい。
嘲笑った私なんかがそんな望みなんて抱いてはいけない。
それでも、心が壊れてしまいそうなほど、胸が痛いのである。涙が頬を伝うのが分かる。
なぜ?
そんなこと、もうどうでもよかった。
ただ、これだけを思って泣いた。
大好きだから。
ヨウが、ヨウのことが大好きだから。
気づけば我が息子のように愛していたから。
私の息子は本当の息子ではない。
それでも、ダメだろうか?
私は母親としていれたであろうか?
彼を怒らせてしまったが、それでも母親として見てもらえるだろうか?
私は今でも固有結界の中にいる自分のマスターにこう聞いた。
これで私は役目を果たしたよな?
そして、胸に溜まっていて、溜まりすぎて張り裂けそうな思いを声に出した。
「もう一度、もう一度だけでいいから……。ヨウに、ヨウに会いたい……。会いたいよ……」
泣き叫んだ。冬の空に向かって泣き叫んだ。
冬は冷たい。何にも答えてはくれない。
涙が視界をぼかす。そして、段々と目の前も見えなくなってしまった。
死ぬ。死ぬのである。
死ぬのは二回目のはず。なのに、なぜこんなにも死ぬのが恐ろしいのだろうか。悲しいのだろうか。怖いのだろうか。
ああ、もう一度だけ、会いたいよ……。
ヨゥ……。
彼女は段々と眠気を感じた。見える視界が段々と狭くなってきた。彼女は声も出せなくなってきた。意識が段々と遠のいて行く。目の前にいるセイバーが声をかけても、彼女は何も聞こえなかった。
セイバーはそんな彼女を見て、めっちゃパニックになってた。このままでは鈴鹿は消滅してしまう。
その時、彼女は一つだけ方法を考えついた。まるで、神様がその方法を頭の中にポッと出現させたかのようである。
が、その方法をためらった。どうしようか、本当にそれでいいのだろうか。いや、その方法が適切であったとしても、セイバーの生理的に無理な話。
彼女はそう思いながら鈴鹿を見た。鈴鹿はもう今にでも消えそうなほど弱体化している。目の焦点がブレ始め、唇が青い。肌は冷たく、手の先からサーヴァントを構成するエーテルの結合が崩壊してきている。
見るからにもう打つ手はない。
どうする?やる?やらない?
成功できる保証はない。というより、多分成功しない。いや、わからない。成功するかもしれない。
セイバーがどうこう考えている間にも、鈴鹿は消滅しようとしていた。
「あぁ‼︎もう‼︎」
セイバーはやけくそで、その方法を試した。
チュッ。
唇と唇が合わさり、舌と舌が交わる。ぷるっとしたやわらか唇が当たる。相手の吐息が口の中に感じる。セイバーは鈴鹿の口の中を舐め回す。互いの唾液が混じり合う。
—————そう、セイバーは鈴鹿にキスをした。
すると、どうであろうか。エーテルの崩壊の速度が格段に遅くなったのである。
サーヴァントは魂喰いという行為を行うことができる。魂を喰らうことにより、サーヴァントが使用する魔力を補うというものである。
今、鈴鹿はその魔力がなかった。現界するために必要な魔力がなかったのだ。聖杯の器と6騎分の魔力をグラムに奪われてしまい、彼女は魔力を補給する方法がなく、消滅しようとしていた。
だから、セイバーが鈴鹿にその魂を喰らわせた。これはアサシンを参考にしたものである。アサシンは魔力を蓄えやすく、また魔力を他人に流したりすることができる能力を有する。
魔力を他人に流すという行為はとてつもなく危険な行為。流された側と流した側の魔力の質や魔術回路の違いで、流された側は死に至ることもあるからだ。
でも、セイバーはそんな悠長に方法を選ぶ暇などなかった。しかし、その結果は成功であった。同じ聖杯から作られた、同じセイバーというクラスであるなどの共通点があったことなどから、成功する結果となった。
今、この状況では最善の策と言えた。けれど、やはり与えた魔力量はそれほど多くない。セイバーもマスターであるヨウが近くにいないため、魔力供給を行うことができないのである。
ただ、もう贅沢は言えない。動ける。それだけで鈴鹿は満足であった。
意識が戻った鈴鹿は、ふらつきながらも立ち上がった。
「鈴鹿さん……。まだ、体が……」
「いいや、大丈夫だ……」
彼女はそう言うけれども、やっぱり弱っている。それでも、彼女はヨウの家へと向かうのだ。何がそんなにも彼女を動かすのか。それはセイバーにも思い当たる人はいるはずである。
会いたい。
鈴鹿の悲痛な叫びを聞いたセイバーはそんな鈴鹿を放ってはおけなかった。彼女は鈴鹿に肩を貸す。
「……羨ましいです。そんな風に愛する人がいて、愛される人がいて……」
裏切りの人生しか送れなかったセイバーにとって鈴鹿の思いは素晴らしく、自分の理想であった。だから、鈴鹿を自分と重ね合わせて見ることによって、少しの間だけ自分も温かな気持ちになれるのではないかと思った。それに、単にこう思っただけなのかもしれない。
愛のために生きる女性はカッコよく、美しいと。そんな女性に彼女はなりたいと思ったのかもしれない。
鈴鹿はセイバーにまた笑いかけた。涙を流しながら、ありがとうと伝えた。
「行きましょう。ヨウの所へ」