Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
俺は手をポケットの中に入れていた。銀色の光がポケットの中で輝く。
俺たちは神零山まで来た。禿げた木々が地面に張り付き、虫や動物が一切見当たらない。澄んだ空気はひんやりと、冬の気温は手をかじかませる。俺は手袋をしているが、二人は裸の手。寒くはないのだろうか。
いつもの場所に来た。ここだけ土地が平らで、運動するにはもってこいの場所。俺と鈴鹿が、ここで剣術の練習をしてたから、周りの木は全て切り株くらいの高さになってしまってる。
「いやぁ、久しぶりだな。ヨウと戦うなんてな。何年ぶりだ?」
「五年ぶり」
俺は五年前までは鈴鹿には本気で頑張れば勝てると思ってた。けど、何度やっても勝てないと分かった俺は、その時から諦めた。多分、俺がこういう無気力で面倒くさがり屋になった原因は鈴鹿にあるのかもしれない。
五年ぶり。その言葉は相手の実力を
ここは初心にかえるのが一番だが、まぁ、そんなことは後ででいっか。
セイバーは審判として、俺と鈴鹿の決闘のルールに違反していないかをジャッジする。しかし、俺も鈴鹿もルールを自ら違反するようなことはしないだろう。
「おい、鈴鹿。ルールはどうするよ?」
「別にそんなものはいらない。隠れても、背を向けても、奇襲しても何をしても良い」
「自信満々だな。いいぜ、それでいい。ああ、でもセイバーは攻撃するなよ?」
「分かっている。私はヨウしか、ヨウは私しか攻撃してはならない。そうであろう?」
俺は頷いた。セイバーを人質にとるとか、そんな卑劣な方法を鈴鹿がするわけないが、一応のためにルールとして決めておく。
「あっ、そう言えば、両者の武器の数とかはどうするんですか?」
ああ、そう言えばそうだな。鈴鹿が三振りの宝剣全てを使ったら、俺は絶対に勝てない。それだけは確信できる。それに、
……あれ?っていうか、俺の武器は?俺の武器をどうしようか。
自分の武器がないことに気づいてちょっと焦る。そして、俺はセイバーに慈悲を分け与えてくれと目で訴える。しかし、彼女は気づかない。俺って意外と影薄い?
すると、鈴鹿はそんな俺の様子に気づいて、俺の目の前に三振りの宝剣を差し出した。
「ヨウ、どれを使う?」
「えっ?いいの?」
「いいも何も、武器を持っていないのでは話にならない。さぁ、選べ」
彼女は俺に三振りの宝剣を前に出すが、俺にとってこの刀全てチート級に強いので、どれを取ろうにも気が引ける。特に、顕明連なんかは取ったら、俺が鈴鹿のことを殺す気だと思われてしまう。それだけは避けたい。
「……じゃぁ、これで」
俺は
この宝剣は鈴鹿がよく使っているから、俺も何となく使い方が分かる。多分、一番扱いやすいのはこの宝剣だろう。そう思ってこの刀を選んだ。
「ヨウ、何なら私も刀は一本にするが?」
「はっ、舐めんな。一本だろうが二本だろうが変わんねぇよ」
俺は虚勢を張る。実力は確実に鈴鹿の方が上だし、闘いの流儀とかもちゃんと知っているはずである。
なぜなら、俺とセイバーが今、苦しみながらも歩んでいる聖杯戦争という道を彼女は既に踏破しているのだから。
剣術も志も、何もかも彼女に数段劣るけれど、それでも俺は勝とうではないか。
『死ぬ前に』。彼女が言ったその言葉、本当だとしたら、もう会えなくなるかもしれない。そんなのは嫌である。
それでも、彼女には彼女の運命がある。それは俺が決めてよいものでもないし、割り込んでもならない。だから、俺は自分が心残りのないようにしたい。
—————人知れず、俺の心の中には寂しさがあった。寂しさを断ち切ることは剣ではできない。それでも剣は心を示すためにあるんだ。
剣と剣で戦うことは、心を示しあうこと。悲しくても、寂しくても、辛くても、その心を示せれば前へと進める。違った方向を二人が指していても、合わさりあい新たな道へ進める。
だから、戦うんだ。
くだらない綺麗事の論理を頭の中に作って物事を正当化させる。クールにいこう。その俺のモットーは、俺の感情を押し殺した。
孤独を論理で塗り替えて、それを俺のモットーでなかったことにする。
俺と鈴鹿は向かい合う。間は10メートルほど。その真ん中にセイバーは立つ。
「両者、剣を構えてください」
セイバーがそう言うと、俺と鈴鹿も剣把を握る。俺は刀を鞘に入れたまま、彼女は刀身を出していた。俺は少し体を
「おい、セイバー。もう少し離れていてくれないか?巻き添い喰らうぞ」
俺はセイバーにそう告げる。その言葉は俺の初手を明かしているも同然だった。俺の持つ刀は
剣術も戦闘技術も何もかもが俺より上の鈴鹿に勝つには一撃で終わらせなければならない。
鈴鹿は俺の発言に気づく。そして、口角が上がりふっと笑う。
「面白い、やれるものならやってみろ。ヨウ」
そして時が訪れた。
「始めッ‼︎」
セイバーが声を上げた。冬の乾いた空気の中にその言葉の震度が俺たちに届く。その瞬間、俺たちは互いの本気を確認し合う。
俺は刀を鞘から引き抜こうとした。しかし、鈴鹿はその間に俺と彼女との長く空いた距離を一瞬にして詰めた。セイバーの声が聞こえたと同時に、彼女の足は間合いを詰め、剣が届かない距離を届かせた。
大通連は中距離に一番の力を発揮する。しかし、至近戦になるとただの刀となんら変わりはない。だから、彼女はわざと至近戦に持ち込もうとしていた。
「距離が近づいては鞘から刀も抜けまい‼︎」
容赦なかった。セイバーの声が聞こえたかと思えば、もう目の前には鈴鹿がいるんだから。それほど彼女が本気なのは分かってた。だからってこんなに本気出されたら、強いだなんて知ったら……。
やる気になっちゃうだろ。
「バ〜カ」
俺は刀を鞘から出さずに彼女の腹を突いた。刀の鞘を手で持って、
俺は
彼女が本気で来いと言った。なら、俺は本気で倒しに行く。無理だと分かっていても、やるんだ。どんな手を使ってでも。ルール違反じゃないしね。
「どうよ、俺の本気の不意打ちは」
「ああ、少し予想外だった。けど、お前らしい」
鈴鹿は特にそんなに苦しんでなさそうだ。ダメージを与えることが出来なかった。みぞおちをちゃんと狙ったはずだったんだけど、多分俺の攻撃を後ろへのステップで交わしたのだろうか。……いや、流石だわ。本当に。あの一瞬でよく見極めたな。
俺も鞘から刀を取り出す。やっぱり
二人は互いの距離をキープする。攻撃を仕掛けることはできないが、仕掛けられない距離。けれど、大通連なら遠く離れていなければ距離なんて関係ない。刀身が届かぬとも、その剣撃は放出され相手を斬りつける。
本気だから、いきなり最初から全力で技を仕掛けた。
「無心乱刃!
俺は刀を振り回す。刀をただただひたすら振り回すだけの技である。無心で刀を振り回し、振り回せば振り回すほど剣の斬撃は蓮華の如く綺麗に咲くのである。
これは鈴鹿の技である。俺が初めて見た、初めての剣豪の技。そりゃぁ、もうバカなほど練習したよ。出せない斬撃を無理に出そうとして、
少しくらい、上手くできたんじゃない?数年ぶりに。
俺が放つ斬撃は鈴鹿の方に飛んでゆく。しかし、鈴鹿は逃げようとしない。
「なんだ、そんなものか?勝手に人の技を盗んでおいて、完成度はイマイチだな。失礼だぞ」
鈴鹿は
「大地を壊せ、小通連。
小通連が大地に当たる。すると、大地が刀の当たった部分を中心としてズドンと一気にへこんだ。まるで隕石が落ちたかのようである。大地はヒビ割れて亀裂が走る。刀が地面に当たった衝撃波は俺の放った斬撃をたった一撃で全て打ち消した。
小通連。この剣は自由自在に重量を変化させることができる。振り回す時は少し軽くしたり、叩きつけたり鍔迫り合いの時なんかは重くする。地味な能力だけど、すごく強い。いつも大通連の陰にいるから、あまりスポットライトを浴びないけれど本当は結構強い。変な能力とかではなく、シンプルな能力だからこそ嫌なのである。
日本刀とは本来あまり重量とかに任せて戦うようなものではない。どちらかっていうと力よりも技量で戦う。だから、同じ日本刀だとしても、その刀は刀殺しの刀である。もし、俺が顕明連を選んでいたら、彼女に折られていたところである。
鈴鹿は俺の攻撃を全て無効化し、大地につま先をトントンと当てる。
「また随分と派手にやってしまったな。あまりこの刀の調整は得意ではなくてな」
セイバーは俺と鈴鹿との決闘に見入っていた。彼女は
「あの、ヨウ。私に攻撃をしないっていうルールを忘れてません?バリバリこっちにも斬撃が来てたんですけど……。反則負けにさせますよ?」
「あっ、はい。すいません」
あれ?今のムード的に二人が軽く技を出して、『二人とも互角だ‼︎』みたいな雰囲気を作ってたけど……。ダメだった?俺、即座に負けたほうが良かった?
俺は鈴鹿の方を振り向いた。が、鈴鹿がそこにはいない。
「よそ見をするな、バカ者!」
背後から恐ろしいほどの殺気を感じる。俺は急いで振り返る。するとそこには鈴鹿が刀を構えていた。そして彼女はまた小通連の重量をマックスに重くしながら俺に刃を向ける。
「あぶねっ!」
ギリギリ交わすけどその攻撃には隙がない。俺の体勢が良かったとしても、今の攻撃の後に彼女に刀を振るのは代償が大きすぎる。多分、振ったら片腕を持っていかれる。
しかし、別にそんなことには対応できる。隙がなかったら隙を作ればいいだけのこと。なんら難しいことはない。
けれど、振り向いたときに、彼女の姿を見たら、少しやる気を失せてしまった、
「おい、それってありか?」
「別にいいだろう?ルール違反ではないしな」
彼女の両手には二振りの刀が握られていた。顕明連と小通連の刀の刃が俺に向けられる。二刀流で俺に刀を振る彼女の姿は俺にとっては新鮮なものであった。今まで彼女が二刀流で刀を扱っていたところなんて見たことがない。初めてである。
さっきまでは俺は今まで見てきた鈴鹿だから対処できた。けれど、今俺の目の前には新しい鈴鹿がいる。それは対策法がないということ。
「二刀流、お前には初めてだな」
「へぇ。鈴鹿、二刀流出来たんだ」
「まぁそこそこな。なんだ、やる気失せたか?」
「いいや、全然。むしろやる気出てきちゃった☆」
俺も刀を構えた。鈴鹿は両手に刀を持ち腰を入れる。
「いくぞ、ヨウ!」
「おうよ、来やがれ!」
—————
すいません。遅れました。鈴鹿さんの紹介です。
鈴鹿御前
パラメーター:(マスター所在時)筋力C・耐久D・敏捷B・魔力E・幸運A・宝具A+
(マスター不在時)筋力D・耐久D・敏捷C・魔力E・幸運A・宝具A
スキル:対魔力A・騎乗C・縮地A・単独行動B・三振りの宝剣ー。
三振りの宝剣……彼女が持つ三本の宝剣を同時に自由自在に操ることができるというチートなスキル。しかし、今現在、彼女のマスターは不在なのでそのスキルが使えない。
前回の聖杯戦争のセイバーのサーヴァント。ヨウの母である棗日和によって召還された。触媒は自ら折った顕明連の刃。
容姿端麗で見た目からしてヤマトナデシコのようにおしとやかそうなタイプの人。しかし、実際はガサツで、男勝りで、男口調で、芯のしっかりしている……っていうかもうほぼ男。おっぱいのついたイケメンって感じ。
一応、ヨウが子供の頃からヨウのことを知っているが、彼自身が彼女の存在を知ったのはもう少し後で、小学生低学年くらい。ヨウに剣術を教えた張本人であり、捻くれた性格を作ってしまった元?の人。
剣術のことに関しては絶対の嘘を許さず、剣術のことだけには人一倍の強い思いがある。だが、やっぱり、その剣術よりもヨウのことの方が大事だった模様。
生前、山に祀られている神様へのお供え物として、身寄りのいなかった彼女が選ばれた。そして、彼女の意志関係なく、勝手に巫女として決められて、山から一生出てはならなかった。しかし、ある時、三振りの宝剣をゲットして、そこから独学で剣術を学ぶが、ずっと山の中で過ごしていたため、特に戦いや殺しなどはしてこなかった。
聖杯には望みはなく、ただ自分の技量を見比べたいという望みを持って聖杯戦争に参戦。
彼女自身が聖杯の魔力、つまり中身であり彼女には(前回の聖杯戦争の時のサーヴァント三体分の魂+彼女の魂)4体分の魂がある。そのため、第一ルートで、彼女がヨウに全てを打ち明けた時には聖杯の中身はもうすでに七つの魂が揃っていた。しかし、彼女自身は望みを叶えられず、また器がない。また、ヨウがいるこの現実から消滅することを恐れているために彼女はずっと現界している。
ちなみに、現界方法は、魔力がたくさんある神零山の土地から魔力を吸い取っていた。
宝具:大通連・ランクB+・対人宝具・レンジ5・斬撃を作る。
小通連・ランクB+・対人宝具・レンジ3・重量を変化させる。数ミリグラムから、トンの値まで変化させることができる。
顕明連・ランクA・対人宝具・レンジ1・刀身に触れた者の魂を根こそぎ奪い取るというチートな能力を持つ刀。しかし、見るからにして妖々しい緑色の光を放つので、ソッコー見破られる。