Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

はい。本格的に3タイトルの小説を書き始めました。が、結構時間の割り振りが大変ですね。




手合わせ願いたい

「で、何なんだよ。今さら、何語るんだよ。もう今となっては意味ねぇよ」

 

「ああ、そうかもな」

 

 三日月の夜空の下で、鈴鹿に全てを告白された。だからって別に俺は鈴鹿を憎むわけじゃない。真実を教えてくれた。それだけで、今の俺は満足である。長年知らなかったことを教えてくれたことは、俺にとって思いもよらないことだった。

 

 確かに、それを聞いたときは俺もビックリした。本当のことであるのだろうか。嘘はついていないのかと思った。でも、彼女の目は本気の目だから、俺はすぐに信用した。

 

 それに、俺の両親を守れなかっただの、鈴鹿が聖杯だの、そんなことは今の俺にはどうだっていい。

 

「鈴鹿は鈴鹿だろ。鈴鹿が俺を守ろうって思ってくれて、今までずっと近くにいてくれたこと。そこんとこ、マジリスペクト。そんでもって、それに気づけなかったオレ。マジクソだわ」

 

「いや、悪いのは私だ。私は嘘をついた。言わなかったという罪はある」

 

「でも、恩だってある。お前は俺を見守っててくれた。それは令呪とかそんなん関係なしに。贖罪だとしても、俺にとってはかけがえのない恩になった。俺の剣技があるのも、全部お前の恩だよ」

 

 確かに嘘つかれたのは少し傷ついたけど、それも俺をこの聖杯戦争から遠ざけるためのことであるなら、彼女の行為は嬉しいものとして受け取ろう。

 

 まぁ、()しくも俺は聖杯戦争に参戦するはめになってしまったのだが。

 

 ……ん?ちょっと待てよ。

 

「なぁ、鈴鹿って聖杯なんだろ?なら、望みを叶えてよ」

 

「そんなに簡単に望みを叶えられるなら、とっくのとうに叶えている。でもできないんだ。今はまだサーヴァント3騎と私の魂の分。つまり、4騎分しか聖杯にたまっていないんだ。それに、その魔力を放出できるのは生きる者のみであり、我々サーヴァントはそう簡単に望みを叶えられない」

 

 聖杯はあくまで魔術師が魔術師のために作ったものであり、使い魔として召還されたサーヴァントたちに聖杯を自ら使わせないようにされている。魔術師は魔術のために情を捨てる。だから、聖杯のシステムからは魔術師たちの傲慢さが伺える。

 

 俺は写真を見ながら、鈴鹿にこう問いかけた。

 

「俺の母さんってさ、魔術師としてどうだった?」

 

「最悪だったよ。あんな魔術師は魔術師ではない。魔術師としての威厳も何もない。いくら、素晴らしい魔術を覚えていても、お前のお母さんには魔術師という人として尊敬に値するところはなかったよ。まぁ、でも、人として彼女は優れていた。お前のお母さんもお父さんも優れた魔術師・武士であると言われているが、私はそうは思わない。素晴らしい人であり、素晴らしい両親だと私は思う」

 

「そう……。そう言われたなら、嬉しいな。俺も」

 

 父さんも母さんもなんで死んでしまったのかはわからない。それでも、俺はその束縛から解放されたような気がするのである。今まで、俺を一人ぼっちにさせたという恨みが晴らせないでいたが、今ならそんな両親を尊敬できる。

 

 もちろん、鈴鹿も。

 

「なぁ、鈴鹿。俺の両親の話でもしてくんないか?セイバーが刀を鍛え直すまででいい。母さんと父さんの話を。お前から聞きたいんだ」

 

 鈴鹿は微笑みながら頷いた。

 

「ああ、私であれば喜んで。愛する子(ヨウ)

 

 彼女の髪の毛の毛先が段々と薄くなっていくのを俺は気付かなかった。それでも、彼女と今話しておかないと、絶対に後悔しそうな感じがした。

 

 もう夜の3時である。金属音が蔵から聞こえ、冬の風が吹き抜ける。俺と鈴鹿は会話が弾む。別にいつもしていたはずの会話なのに、その会話が恋しい。俺を小さい頃からずっと支えてくれた人である彼女には、感謝の思いでいっぱいだった。

 

 後悔はない。彼女はそう心の中で呟いた。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「はぁ、まったく。起きて〜、起きてくださぁ〜い!」

 

 遠くからそう声が聞こえた。

 

 俺が目を覚ますと、目の前にはセイバーがいた。手を腰に置き、俺の方を見てくる。彼女は俺が目を覚ましているのに気づいていないらしく、ニヤリと不吉な笑みを浮かべて蔵へと戻って行く。

 

 俺は顔を上げた。蔵の外に置いてあったベンチにちょこんと座っていた。まぶたが重い。どうやら、話をしていたら寝てしまったのだろうか。あんまり、記憶がない。

 

 手のひらを天高く上げ、俺は口を大きく開いてあくびをする。太陽は蔵の反対側から登っていたため、俺は朝日を浴びなかった。太陽が登っているといっても、まだ6時半。もう少し寝ていたいものだ。

 

 写真は俺の手に握られたままだった。俺はその写真を元々あった場所に戻そうと思い、そのベンチから立った。ずっと座っていたからか、少し腰が固いような気がする。

 

 小さな歩幅で俺は蔵の扉まで歩く。そして扉に手をかけ、その扉を左から右へとずらす。

 

 俺が蔵の中に入ろうとすると、目の前にはセイバーがいた。

 

「あっ、セイバー」

 

 俺はそう独り言のように呟いた。セイバーは俺を見ると、少し気まずそうな顔をした。

 

「ん?どうした?」

 

 俺は彼女にそう問いかけたが、彼女は特にないも答えない。というより、あやふやで曖昧な返事だけであった。俺の方を見ていない。彼女は両手を後ろで組んでいて、何かを持っているように見えた。

 

「何か隠してないか?」

 

 俺はセイバーにそう聞くと、セイバーは一瞬嫌そうな顔をして俺に持っているものを見せようとはしなかった。しかし、彼女はふと何かを(ひら)いたように、突然態度を変えて俺にその物を見せてくれた。

 

「これです」

 

 セイバーは俺の前に手を出した。手のひらは真っ黒であった。真っ黒の粉が彼女の手のひらに乗っかっていた。なんであろうか?これは……(すす)?煤であろうか。でも、少し埃臭いように匂いもするしなぁ。

 

「煤か?」

 

「はい。煤です」

 

 ……煤。なんで、セイバーは煤なんかを持っているのだろうか。

 

 その時である。セイバーはニヤリと怪しい笑顔を浮かべた。その笑顔を俺は見逃さなかった。

 

 セイバーは勢いよくその煤が乗っている手を俺の方に振り上げたのである。俺はその時彼女が何をしたかったのかが十分わかった。

 

 さっき、俺がセイバーの怪しい笑顔を見ていなかったら、きっと俺の顔は真っ黒になっていただろう。しかし、その笑顔を見ていたから、とっさに対応することができた。俺は急いで数歩後ろへ急いで下がる。その時、足がつっかえてしまった。俺はドンッと尻餅をつく。

 

「イッタッ!」

 

 俺は打った尻を右手で触る。ぐぬぬぬ。めちゃめちゃ痛い。悶絶し、地面をのたうち回り、苦渋に満ちた顔をする。

 セイバーはそんな俺を見て、フフフと笑う。

 

 煤こそ顔につかなかったが、すごく悔しい。敗北感がある。なんか、無性にイラついてきた。

 

 そのあと、蔵の周りを数分間死に物狂いで追いかけっこをした。俺が鬼で、セイバーが逃げる人。捕まったらできること。『復讐』。

 

「オラァァァァ!マテェェ!」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 俺がセイバーを全速力で追いかけていたら、鈴鹿が刀の鞘で俺の頭をポンッと叩く。

 

「ヨウ、こんな朝早い時間に女の子の叫び声はアウトだろう」

 

「……いや、そうなんだけどさ……。なんか、その……」

 

「出来心か?」

 

「な訳ないじゃん。冗談キツイよ」

 

 俺がきっちり言い返すと、鈴鹿は俺を見て笑う。そして、俺の頭をポンポンと触る。さっきは叩いて、次は触る。

 

 鈴鹿は俺に注意すると、蔵の中に戻ろうと彼女は背中を見せた。その時、あることに気づいた。

 

 足音がないのである。不思議に思った俺は鈴鹿の足を見る。すると、彼女は足が透けていた。

 

「……あっ、そういやさ、鈴鹿。今、気になったことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「そのさ、お前って幽霊だって宣言していた時さ、どうやって透けてたの?」

 

「ん?ああ、あれは簡単なことだ。霊体化と実体化の中間状態をキープするだけだ。意外と楽だぞ」

 

「へぇ、じゃぁ、その魔力節約術で、今まで現界することができたんだ」

 

 鈴鹿はその俺の考えに難色を示した。そして決まり悪そうな顔をする。

 

 俺の見立ては間違っていた。いや、間違っていたと言うより、本質を貫いてはいない。俺はあくまで、その周りを射抜いただけであり、本質を見抜くことはできなかった。

 

 俺の中の鈴鹿は、現実とは全然違う。俺の中では彼女は俺を支えてくれた存在であった。しかし、現実の彼女はとてつもないバケモノなのである。

 

「いや、それは違う。私は少し禁忌を犯した」

 

 そう彼女は禁忌を犯していた。やってはいけないこと。それは世界という(ことわり)を敵にすること。彼女は二つの禁忌を犯していた。

 

 彼女はサーヴァントの身でありながら、現世界に干渉した。まず、聖杯戦争は一般人に知られてはならない。知られてしまっては願望機の存在が明らかになり、魔術協会の存在も明らかになってしまう。サーヴァントである鈴鹿は俺だけでなく、山に立ち入った他のものを脅かしていた。聖杯戦争に深い関係のない人たちに知られてはならないのに、彼女はそれを無視した。

 

 しかし、別にそんなことはまだ修正が効く。聖杯戦争を知ってしまった一般人を秘密裏に処理すればいいだけのこと。別にそんなに大きな問題ではない。

 

 しかし、もう一つの禁忌を犯した彼女は世界を敵にした。

 

 彼女は俺の母親から聖杯の中身の半分を得た。それによって彼女は聖杯という存在そのものにアクセスすることができるようになった。彼女はその聖杯から大量の魔力を吸い取り受肉していた。

 

 聖杯は神零山にある。だから、彼女は神零山から動くことができなくなったのだ。アクセスの可能範囲はその山の中でしか行えない。だから、彼女はずっと山に篭っていた。

 

 サーヴァントは受肉をしてはならない。死んだはずの魂が、また新しく生を受けるのは世界の理に反している。しかし、それを犯してまでも彼女は俺を守らねばと思っていた。それは俺の両親を救えなかったからか、令呪通りに彼女は動こうとしているのか。いかなる理由であれ、彼女はもう人でも英霊でもない存在になってしまった。バケモノとなってしまった。

 

 しかし、なぜ今、彼女は山を出たのだろうか?今まで、約10年間山から下りたことはなかった。聖杯とアクセスできなくなってしまうからである。なのに、彼女は山から出てきて、今俺の目の前にいる。その目的は何か?

 

 俺と鈴鹿が話していると、セイバーがひょこっと顔を出す。

 

「なんだか、和やかですね」

 

「うっせぇ。つーか、お前、マジでふざけんなよ」

 

「あれぐらいで怒っているんですか?男としてみすぼらしいですよ」

 

「んだと⁉︎」

 

「まぁまぁ、二人とも。落ち着け」

 

 俺とセイバーの間に再び火花が散る。その間に立つ鈴鹿は迷惑そうである。

 

 鈴鹿は俺とセイバーの争いを無視して、蔵の中に入ってゆく。彼女は蔵に入って、セイバーが鍛え直した刀を見た。

 

「これは素晴らしい」

 

 その声を聞いて、俺とセイバーも蔵に入る。鈴鹿は窯の前にいた。刀を手に持ち、その刀身をまじまじと見ている。

 

「素晴らしいな。継ぎ接ぎの跡が一つも見当たらない。さすが、鍛冶のスキルが高いだけはある」

 

 鈴鹿がセイバーの腕を褒めた。それは決してお世辞とかなどではない。セイバーの刀鍛冶の腕が非常に立っている。彼女はセイバーである。それは剣を扱う者ではなく、剣を鍛える者である。剣の技量はセイバーのクラスでは最弱と言っても過言ではない。それでも、彼女の個性は秀でている。

 

 折れた刀を元通り、いやそれ以上の代物にするという技術は彼女の力である。

 

「鍛冶は昔から得意だったんです!」

 

 セイバーの養父であるレギンから受け継いだ鍛冶の技術は神代の技術である。彼女はその技術を幼くしてマスターした。

 

 戦えぬサーヴァントではない。それが目の前で証明された。

 

 セイバーが鼻を高くしていると、鈴鹿はそっと柔らかい笑顔を俺に見せた。そして、こう彼女は俺に願い出た。

 

「ヨウ、一つだけ頼んでもいいか?」

 

「別に、めんどくさいの以外なら」

 

「そうか…」

 

 彼女はその刀『顕明連(けんみょうれん)』の刃を俺に向けた。その刃は窓から差し込む朝日の微かな光を浴びて、妖々と光を放つ。

 

 剣士は剣でしか語れない。

 

(なんじ)に請う。死ぬ前に、一度手合わせ願いたい」

 

 予期せぬその言葉は、また俺を深く悩ませた。頭の中で巡る彼女の言葉。疑問が減ったと思ったら、新たにまた大きな疑問が俺の頭の中に入り込んできた。

 

 その言葉に何の意味があるのか。

 

 その意味はこの聖杯戦争を大きく変える、

 

 

 鈴鹿が向けた刃。それは俺の首を狙うものであった。その刀筋(かたなすじ)からして、彼女は本気であった。その言葉は俺に決闘を願い出た。

 

 いつもの俺ならそんな願い出は考えることなく蹴っている。面倒くさいことには巻き込まれたくないし、怪我だってしたくない。痛いのは嫌いだし、疲れるのも嫌い。ましてや、死ぬかもしれないことなんて俺は絶対にイヤだ。

 

 けど、今回ばかりは少しだけ違った。俺には鈴鹿の願い出を拒否するという選択肢がなかった。 別に誰かに強制されたわけではない。ただ、自分からその拒否するという選択肢を排除した。

 

 彼女が俺に刀を向けた時、彼女がさっきこう言った。

(なんじ)に請う。死ぬ前に、一度手合わせ願いたい」

 

 死ぬ前。俺はその言葉を簡単に飲み込むことができなかった。死ぬ前とは、つまりこの後鈴鹿は死ぬといっているようなものである。しかし、彼女はそんな不確定なことを堂々と言うような人じゃない。

 

 だから、俺にはその言葉は確定事項だと思えた。100パーセント絶対である。

 

 なぜ、死ぬと言ったのかはわからない。けど、俺は彼女が死ぬ前に、一度俺と刀と刀で語り合いたいのだと理解した。彼女は女であっても武士であり、三振りの宝剣の所持者、(けん)英雄である。彼女のプライドとして、俺と戦いたいのだろう。

 

「一応聞いておく。『死ぬ前に』とはどういうことだ?」

 

 俺がそう聞くと、鈴鹿は刀の刃をちらつかせた。彼女の目は変わらない。堂々と俺を見ている。

 

「……口で語るな、刀剣を振るえ。それで語れってか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「オーケー、わかった。受けて立つ。けど、今、この時間、この場所はダメだ。建物を傷つけてしまうし、迷惑だ。それに今はもう日が昇っている。今日の夜中だ。それならいい……」

「いや、それはダメだ!」

 

 鈴鹿は俺の提案を即刻却下した。その様子は少し焦りが見えた。彼女には時間がないのだろう。彼女がこの世から、俺の目の前から消えるまでの時間が、もうあと少しなんだ。

 

 それを察した俺は少し物寂しくなった。今まで、いることが普通であった鈴鹿が、もうすぐ会えなくなるのは辛く感じた。今まで、両親のいない俺に優しく接してくれて、今の俺がいるのも彼女のおかげなのに。

 

 鳥肌がたった。周りにあるものがなくなって、少し外気にさらされて寒いのだ。

 

 考えすぎなだけであろうか。鈴鹿はどこにも行かないし、死ぬわけではないのかもしれない。そうであれば別にいい。今までの何も変わらない彼女を見れるなら、俺はそれだけで満足である。

 

 けど、いつまでもずっと一緒なんて綺麗事はこの世には存在しない。そんな綺麗事は神様がなくしていて、時は無慈悲に通り過ぎてゆくのだから。

 

 鈴鹿は俺の成長を見たいのだ。剣士である彼女が今までずっと我が子のように愛してきた俺を感じるには剣しかない。

 

 なら、せめて最高の場所で語り合おうじゃないか。

 

「山にしよう。神零山で」

 

 俺はそう提案した。鈴鹿は頷いた。

 

 埃臭い蔵の中、朝日が東側から差し込んだ。蔵から出るとき、俺は写真を見た。俺と両親が映り込んだこの写真。いい笑顔だな。

 

 本気の笑顔、作らないとな。

 

 強張った顔を俺は両手で叩く。

 

 俺は蔵の外へ出た。蔵の中が埃臭かったせいか、冷たい空気が少し気持ちよく感じる。それでも冬の空気は俺の吐いた息を白くする。俺は神零山に向かって、足を運んだ。

 

 




鈴鹿さんの自己紹介は進行度的に次回に先延ばしにさせていただきます。

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