Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回は鈴鹿さんの過去をざっくりと簡単に、そして次のお話に続くようにしております。一人称は鈴鹿さんですね。


ああ、守らねば。

 10年ほど前のことであろうか。私はある魔術師によって召還された。

 

 名は(なつめ)日和(ひより)。彼女は優秀な魔術師であった。『凶祓(まがばら)いの巫女』、それが彼女の一族の別称であり、彼女はその一族の中でもとても優れた魔術師として名を()せていた。

 

 そんな彼女には二人の家族がいた。夫と子供であった。夫は武士の武家の師範であり、剣術や剣技だけならその男の方が高かった。その上、弓矢、乗馬、槍、体術と何をとっても出来る男であり、サーヴァントである私よりも一段と強かった。

 

 しかし、その夫は平和的な男であり、武を振るうことを良しとはしなかった。宝の持ち腐れであり、そんな男を私のマスターは愛していた。

 

 子は月城陽香という男の子であった。しかし、私はその子については何も知らなかった。私は聖杯戦争の間は彼と直接会ったことはなかったのだ。私のマスターは自分の子には聖杯戦争な参戦してほしくないという理由で、令呪の最初の一画を使い私と子を会わせなくさせた。

 

「たった一人の子供のためだけに、令呪を使うとは」

 

 その頃、私は貴重な令呪をバカなことに使うマスターだと罵った。しかし、彼女は笑いながら私を(さと)すようにこう言った。

 

「あなたにも、愛する子ができたらわかるわ」

 

 私はその言葉を嘲笑った。その言葉は私にとって無用な言葉であったのだ。もう私は死んだ者であり、また愛する子を産むわけでもない。また、そのようなことを聖杯に望んでもいない。私はただ、自らの技がどこまで他の英雄たちに通じるかを知りたかっただけなのだ。

 

 だから、私はその言葉の意味を一生理解できないと思っていた。

 

 そう。聖杯戦争さえ終わってしまえば、私という存在はこの世から消えてなくなるものだと思っていた。

 

 でも、私は消えなかった。今もなお、10年も経つのに私は今、その子の前にいる。

 

 いや、正確に言うと消えなかったというより、消えさせてもらえなかった。私のマスターはとある事情で、聖杯の半分を私の体の中に埋め込んだ。そして、彼女はもう半分を持って何処か別の場所に消えていった。

 

 他のサーヴァント7人分の魔力のうちの4人分の膨大な魔力が私の中には埋め込まれており、私の体は聖杯の魔力(ナカミ)である。だから、私は10年間、マスターがいないのに現界し続けることができた。

 

 私のマスターは聖杯の半分と一緒に何処かへ消えてしまう際、私に最後の令呪を使ってこう託した。

 

「私の可愛いあの子を、どうかよろしく。お願い、鈴鹿‼︎」

 

 今もなおその光景が鮮明に思い出せる。涙を流しながら、私に全てを託した彼女はどこまでも尊敬できる人であったと私は思えた。

 

 それでも、最初は子供の世話なんかする気なんてなかった。聖杯戦争が終わってもなお、聖杯の膨大な魔力を持っていた私は、サーヴァントであるにも関わらず現界し続けていたが、令呪の効果はもう私にかかってはいなかった。それは私とマスターとの間の関係が切れたことを意味した。だから、私は静かに山の中で暮らそうと思った。また、生前のように山に篭り、ただ刀の技を磨くだけでよいと思っていた。私に与えられたサーヴァント3人分の魔力が尽きるまで、気ままに生きていこうと思った。前回の聖杯戦争のような面倒事に巻き込まれるのは御免だった。

 

 しかし、お前は来た。私が一人、人気のない山の中で刀を振っていたら、泣きべそをかきながら私のところに来た。そして、お前は私を見て、目を輝かせてこう言った。

 

「おばけぇっ!」

 

 私はヨウの顔を知っていたが、ヨウは私のことは何一つ知らなかった。私のせいで両親は何処かへ行ってしまったのに、そんな私を見てヨウは無邪気な笑顔を見せた。

 

 子供は苦手である。あまりにも唐突に笑い、唐突に泣く。その上、何を考えているのかわからないし、実に怖い。生前、人との関わりはあまりなかったし、子供との関わりなんて一切なかった。だから、私はヨウがまともに話した初めての子供であった。

 

 第一印象は、予想通り『面倒くさい』という言葉しか思い浮かばなかった。馬鹿みたいに元気が有り余っていて、サーヴァントである私でさえも振り回された。それに、幽霊である私に物怖じせずに、むしろ私と遊んで笑うのである。

 

 本当に面倒くさかった。けど、楽しかった。まるでその姿はマスターのように思えた。でも、やっぱり子供で、少し私も彼といたいと思ってしまった。

 

 でも、時は待ってはくれないのだ。ヨウが家に帰る時、彼の後ろ姿はとても(もろ)く見えた。

 

「ぼくね、おとーさんとおかーさんがいないの」

 

 彼のその言葉は私にはとても痛かった。全ての元凶は私であるとも考えることはできるのだ。彼は泣いてはいないものの、すごく寂しそうな顔をした。胸が苦しくなった。まだ大人の言っていることが理解できない子供に対して、私は許しを()いたかった。

 

 小さな子供のお父さんとお母さんを奪ってしまった罪はとてつもなく大きく、それは大人の私には計り知れないことだとわかった。

 

 だから、私は悲しく帰るヨウにこう言った。

 

「いつでもここに来ていいぞ」

 

 その時、私は彼女の言っていた言葉を思い出した。私にも愛する子ができたらわかる……か。

 

 子供とはとても純粋なんだな。

 

 それが自らの子であるなら、なおさら守りたくなるだろう。

 

 彼女の言葉がわかった時、私は後悔した。前回起きた、聖杯戦争という名の惨劇を私はもう忘れない。そして、聖杯の魔力(ナカミ)となった私は、いわば聖杯自身である。もう、あんな惨劇は起こさない。

 

 こんな子供の未来を潰すなんて、私にはもうできない。たった二人でも、この子にとっては大きな存在だった。

 

「私は、私は、なんてことをしてしまったんだッ‼︎」

 

 私がもっと強ければ彼女たちは死なずに済んだのかもしれない。私が死んでも、彼女たちを守れれば良かった。それさえもできない自分を憎み、自分が愚かに思えた。

 

 私はあるたった二人の命でさえも守れなかった。

 

「人の命守れずして、何が英雄だ!」

 

 自らを侮辱した。

 

 この街は守られても、一人の子供を孤独にはしたくない。

 

 私は誓った。

 

 その誓いはもしかしたら令呪が働いたのかもしれない。令呪の仕業なのかもしれない。

 

 ああ、私はこの子を守ろうと。

 

 聖杯は私だ。聖杯がこの子を守ろう。

 

 聖杯はたった一人の小さな男の子を守ろうと誓った。

 

 —————守れなかった男の子の両親への償いとして。

 

 その償いは今、集大成を迎える。




はい!鈴鹿さん。まさか、聖杯の魔力は鈴鹿さんなんですよ。なので、約10年後でも聖杯戦争ができたんですねぇ〜。

じゃぁ、なんで今、鈴鹿さんがその話をするのか、そして鈴鹿は何を考えているのかが謎ですねぇ〜。

次回くらいには鈴鹿の自己紹介を致します。

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