Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

すいません。前回、いっぱい書くとか言っておきながら、そんなに多く書けませんでした。前回と同じくらいです。


その距離は近く、そして遠い

 セイバーの邪魔にならないように、鈴鹿は外で話したいらしい。別に外でも中でも寒いことに変わりはないから、別にどっちでも良かった。けれど、鈴鹿の表情からして、多分俺と鈴鹿の問題であるような気がした。2人の問題にセイバーは立ち入ってほしくないのだろう。

 

 蔵の外で、彼女は壁に寄っかかった。そして夜空を(あお)いだ。そして、決心したのか、ふぅと息を吐いた。

 

「ヨウ、今まで悪かった」

 

 鈴鹿は俺に頭を下げた。俺の目の前で、俺の師ともあろう鈴鹿が頭を下げている姿は実に滑稽(こっけい)で、やめてほしかった。俺に頭を下げるような人になってほしくなかった。()()り返って、偉そうにしていてほしかった。偉そうにしているのに強い鈴鹿が俺の中での鈴鹿であり、今目の前にいるのは鈴鹿じゃないような気がした。

 

「なんだよ、嘘をついてきたことか?」

 

 さっきまで俺は嘘をついてた鈴鹿に対して怒りを持っていた。けれど、鈴鹿と接していると自然と怒りはどこかへ消えていった。いつもの鈴鹿だ。いつもの鈴鹿じゃないけれど、いつもの鈴鹿である。俺の知らない鈴鹿と知っている鈴鹿がそこにいたから、俺の怒りは怒りではなくなった。

 

 鈴鹿は目を閉じた。そしてゆっくりとうなづいた。彼女の長い後ろ髪に当たる光が少しだけ動いて戻る。

 

「お前には話す必要がある。そう思うんだ」

 

 今日の彼女の口調は少し淡々としていた。いつもなら俺に対して、少し元気よく馬鹿っぽく俺に話しかけるのに、今の俺に彼女は大人のように重苦しい声で俺に語りかける。

 

 そんな彼女を見ていると苦しい。まるで何かを我慢しているかのようである。それは俺も同じで、俺も我慢していた。二人とも我慢しているってことは知っているけど、それをさらけ出せるほど俺たちは器用じゃない。

 

 俺が我慢していること。それはこの聖杯戦争に巻き込まれたということである。命の危険が伴う聖杯戦争という階段を上っている俺。その階段は柵のない高い階段で、落ちたら重症、または即死。そんな辛いところに俺は立たされていることを我慢している。

 

 なんで俺だけ?

 

 よく考える。多分、セイギや雪方は自らこの危ない階段わ上ろうとしたけれど、俺は違う。だから、その運命を恨んでいた。けれど、この頃少しだけそう思わなくなってきた。俺はその運命を受け入れてきているのだと思っている。それだけの器量を持ったのだと。だから、悲しみに暮れるよりも、悲しみの中から幸せを見つけるようになった。

 

 蔵の中から金属を叩く音がした。

 

「おい!セイバー!音、聞こえてんぞ!」

 

「ちょっと腕、鈍っちゃったみたいです!」

 

 はぁ、まったく。セイバーが音を出さずに鍛冶できると言っていたから信じたのに……。とんだ食わせ物である。

 

 俺とセイバーの言い合いを見ていた鈴鹿はクスッと笑う。

 

「面白いな。お前たちは」

 

 面白いことをしようとしたわけじゃない。なんかすげぇイラッときた。ちょっと一発ぶん殴ろうか。……いや、殴る前に斬られそうな気が……。

 

 鈴鹿は俺の持っていた写真を見る。懐かしそうに見るその目は俺の両親を知っているんだろうと、直感で分かってしまった。

 

「あの2人も、お前たちみたいにこういつも騒いでいたな」

 

「それって俺の両親か?」

 

「ああ、そうだ」

 

「……そう。ふ〜ん」

 

 俺の呆気(あっけ)ない返事に鈴鹿は少し驚いた。

 

「もう少し驚くと思っていたのだが」

 

「いや、驚いてるよ、内心は。でも、それ、予想してたし。お前が俺の両親を知っているってことぐらいは、何となく予想できた」

 

 俺は他のサーヴァント(主にあのバーサーカー)に襲われた時のために持っておいた木刀の先を鈴鹿の首筋へと伸ばした。

 

「で、どうですか?今回の聖杯戦争は。お前の時よりも悲惨か?—————前回の聖杯戦争のセイバーさんよぉ」

 

「……」

 

 俺と鈴鹿の間に静寂という無の時間が流れた。彼女は一瞬、目をパッと開いたが、またすぐ目を閉じた。彼女の唇がゆっくりと開く。

 

 とその時、

 

「えぇぇぇぇぇぇッ⁉︎鈴鹿さんって前回のサーヴァントだったんですか⁉︎私の先輩だったの⁉︎嘘〜⁉︎」

 

 セイバーが蔵の中で大声を出して驚いている。金属を打ち付ける音も一緒である。外からでもバリバリ聞こえた。

 

「おい!うっせぇぞ!なんでお前がここで入ってくんだよ!折角、カッコよくキマッたと思ったのに……。台無しじゃねぇか!」

 

「えー、私のせいですか?私はただ驚いただけですよ〜。それより、さっきのはなんですか?なんか、少しダサかったんですけど。……あっ、あれってもしかして決めゼリフでした?」

 

 セイバーはまるで俺を舐めているかのような口調で俺と話す。俺が決めたちょっとカッコイイシーンを台無しにしやがった。

 

 チッキショー‼︎‼︎セイバーめ、あいつのせいで俺のカッコイイシーンをどうしてくれるんだよ!普通、ああいう時は黙ってるんだよ!っていうか、さっきからガンガンと金属音が聞こえるし、絶対アウトだからね。これ、敵に絶対に見つかってるわ。本当、もう最悪としか言いようがないよ。

 

 壁越しにまた喧嘩している俺とセイバーを見て、また鈴鹿は笑った。

 

「やっぱり、お前たちは似ているな」

「似てねぇよ!」

 

 俺が必死に反論すると、鈴鹿はそんな俺を見てまた笑った。そんな笑顔は初めて見たし、そんな風に笑えるんだなって思えた。でも、初めてだからこその笑顔がどういうものであるかも何となく推測できたし、その推測の結果を俺は見て見ぬフリをした。

 

「何故、私が前回の聖杯戦争のサーヴァントだとわかった?」

 

「……別に、わかったっていうか、そう感づいたっていうか……」

 

 わかっていたわけじゃない。そうかもしれないと思っただけである。ただ、そのそうかもしれないという可能性が確定したのが、セイバーに刀を渡した時と、蔵の扉を開けた時である。あの時に、ああそうなんだと思った。

 

 お前が俺の目の前に現れたのは偶然ではなく、必然なんだと。

 

 お前は俺の両親のサーヴァントなんだろ?

 

「なぁ、鈴鹿。お前さ、俺を守るために俺の目の前に現れたのか?」

 

「ああ、そうだ」

 

 俺はその鈴鹿の言葉を聞いた時、少し心の奥底で絶望した。俺は今まで鈴鹿は本当に信用できる奴で、俺の数少ない支えの一人だった。だから、肯定ではなく、否定してほしかった。俺と出会ったのは偶然であり、俺と鈴鹿との長い関係は誰かからの指示で作られたものではないと。

 

 今、俺と鈴鹿との間には刀一本分の間があった。二人の間の(へだ)たりは近いか?遠いか?

 

 


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