Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回は少し短め。でも、次の回は長くするつもりです。


もう答えは出ていた

 今、俺がいるこの現状を作る原因となった部屋に俺はいると確信したけれど、自然と怒りは起きなかった。別に、この部屋はいい場所だとは思っていない。けど、怒りは起きない。

 

 鈴鹿はセイバーに自分の持っている顕明連を渡そうとした。

 

「おい、それ、セイバーは触れないんじゃないか?だって、それも霊体なんだろう?」

 

 昔、俺はある疑問を抱いた。『何故、鈴鹿の持つ刀も霊体なのか?』と。そしたら、鈴鹿はこう答えた。

 

「この刀は私の体の一部でもあるくらい馴染んでいる。刀に血脈が通っているのだ。だからこの刀は私と同じで霊体なんだ」

 

 その話からいけば、俺がそう考えるのは別におかしくはなかった。(げん)に、彼女は物に触れようとしても彼女は触れることができず、刀が物質であったのなら、そもそも彼女がその物質である刀に触れる事ができること自体がまずおかしい。だとすると、彼女は霊体であり、その刀も霊体であると考えることができ、それぐらいしか考えは思い浮かばない。

 

 けれど、彼女はさっきこう言った。全て、嘘をついていたと。これも嘘ならば、どういうことであろうか?

 

 鈴鹿はセイバーに手袋をはめさせた。顕明連は(じか)に触れていなければ大丈夫だという。そして、セイバーは手のひらを上に向けた。鈴鹿はセイバーの手のひらの上に(つか)のついた方の折れた顕明連を置いた。その顕明連は何事もないかのように、セイバーの手のひらに乗った。それは、乗るはずがないと考えていた俺への否定となり、鈴鹿が言っていたことが段々とぐちゃぐちゃになってきた。何が何だか分からない。素直に言えば、それが今、俺の頭の中の状況である。

 

 鈴鹿は俺にこう聞いてきた。

 

「ヨウ、確かこの家には刀を鍛え直す蔵もあったはずだが……どこだ?」

 

「ああ、ここにはねぇよ。この家から100メートル離れたところに、この家が所有してる蔵がある」

 

 月城家は代々、日本の猛者(もさ)ともなる武士(もののふ)を育ててきた。ならば、必然的に刀を使うものも出てくるし、刀は刃に(ほころ)びができたら戦うことさえできやしない。だから、刀を鍛え直す場所を所有している。今日は0のつく日であり、爺ちゃんは修行に行っているから、勝手に使ってもバレやしないだろうし、爺ちゃんは鍛冶なんてできない。だから、まぁ、大丈夫だろう。

 

 ……けど、何故鈴鹿は月城が鍛冶の蔵を持っているということを知っているのだろうか?

 

 鈴鹿は俺にそこまで連れて行けと言う。しかし、今、現在夜中である。もし外に出た時、あのバーサーカーみたいなのに会ったらどうするんだよ!

 

 いや、大丈夫か。今は鈴鹿がいるし。

 

 いやいや!でもダメだ!だって夜中だろう?夜中に鉄を伸ばすために出る打つ音なんて近所迷惑でしかないから!それに、今までセイバーは『西洋の剣』を鍛冶してきたが、『日本の刀』は初めてであろう?そんなことができるわけがないじゃないか!

 

 が、一応なのでセイバーに聞いてみた。そしたら、頼もしい返答が返ってきた。

 

「ああ、私の手にかかれば、音を出さずとも接合くらいは簡単にできますよ。それに、刀だからどうとかっていうのはありませんら。基本的に剣、刀、槍、またその他の大抵の武器は簡単にできますよ」

 

 その時のセイバーはまるで後光がさしているように、とても神々しかった。戦いとなると、怖気(おじけ)付いて何もできない彼女にまさかこんな特技があったなんて!

 

 俺はセイバーの話を信じて、俺たち3人は鍛冶をすることができる蔵まで移動する。街の街灯が光を灯し、その街灯には蛾が群がる。夜のこの街には静寂が広がり、時々流れる冬の風は鼻と耳を赤くさせる。歩く足音は静寂の街には似合わない。無音の中に響く音は敵を呼び寄せるかもしれない。首を回して視界を広げた。たった100メートル弱の距離でも、敵が襲ってくるかもしれないという恐怖がある。

 

 鍛冶場に着いた。俺は木でできた蔵の扉を開ける。木が擦れる音が響く。扉を開けると、夜の街の(かす)かな光が真っ暗な蔵の中に差し込んだ。蔵の中は(ほこり)くさくて、人が手入れしていなかったことが一目瞭然であった。俺の父さんは鍛冶をすることができたらしい。だから、多分父さんが死んでから、今までずっとここは使われていなかった。10年前のままである。

 

 蔵に明かりを灯す。俺は蔵の中を見渡した。鍛冶の道具には埃がかぶり、隅にはクモの巣が張ってある。虫が地面を這う。

 

「きったねぇ〜」

 

「まぁ、そうですね。虫はどうってことないのですが、埃はイヤですね」

 

 セイバーは鈴鹿の刀を鍛え直すのに使えそうな道具をそこら辺から集めてきた。トングや金槌に砥石。そんな拾い集めみたいな道具で大丈夫なのだろうか。

 

 セイバーは早速、刀を鍛え直すために、窯に火をつけた。木材を投下して温度が上がるのを待つ。いきなり、本格的な鍛冶なんて無理だろうけれど、それでも時間をかければ何とかなるだろう。まぁ、そこはセイバーを信用するしか他にない。

 

 俺はふとあるものを見つけた。それは入り口の棚のところに置いてあった写真である。俺はその写真を手にする。そこには俺が映り込んでいた。俺と母さんと父さんの3人が映っていた。みんな笑顔で、幸せそうである。俺はこの10年でこの笑顔を失ってしまったのだろう。

 

 鈴鹿はその写真を見て、顔を暗くした。その写真から目を背けた。まるでこの幸せな光景を映したこの写真に後ろめたい気持ちを持っているかのようだった。

 

「ヨウ、少しいいか?」

 

 鈴鹿は扉を開けた。その行為は彼女が今、霊体ではないという証拠である。けど、霊体でもある。そんな二つの存在になれるなんて……。

 

 もう答えは出ていた。彼女が俺の方を振り向いた。三日月の光は彼女を悲しさで包み込んだ。

 

 

 

 


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