Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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※ 今回は(かたな)(やいば)という紛らわしい言葉が多々出てきます。


ここは全ての始まり

 鈴鹿御前。それが鈴鹿の真名である。別に隠すつもりもなければ、ばらすつもりもなかった。彼女にとって真名などはどうでもいいのである。

 

 実際、俺は彼女が鈴鹿御前であることは前々から予想付いていた。剣捌きが達人並みに上手く、そして女性である。また、鈴鹿と名乗るので、大方予想はついていた。

 

 鈴鹿御前は切り崩した瓦礫をどかそうとした。が、しかし彼女はあくまでも霊体である。人に見えたとしても、物に触れることは許されてはいなかった。彼女は瓦礫に触れられず、通り抜けてしまった。

 

 また、彼女は少しだけ悲しい顔をする。その顔はやめてほしいものである。俺だって見たくない顔だ。彼女は俺の方を振り向いた。長年の付き合いで、俺は鈴鹿御前が何をしろなど等の命令は言われなくとも理解できた。さっきまで怒っていたはずの俺は、さっきの彼女の顔を見て少しだけ思いが変わっていた。俺はため息をつきながらも、瓦礫を退()け始めた。

 

「なんで、瓦礫を退けないといけないんだ?」

 

「まぁ、見てろ」

 

 見てろと言われても、瓦礫を退けるのは俺なんだが……。

 

 怒り半分興味半分で、興味が勝った。俺は鈴鹿の言われた通り、瓦礫を退ける。鈴鹿が瓦礫を切ったため、少なからず運びやすい。ただ、冬の時期にかじかんだ手で、力仕事をするのは辛いものである。途中からは足も使って瓦礫を動かす。師走の上旬の夜中には、もう白い息がでる。汗が額に出てきた、背中に服がくっつく。

 

 作業を始めてから10分くらい経った。俺はまた瓦礫を持ち上げる。すると、そこの下には大きな穴があった。下へと行ける階段が、瓦礫の下に隠れていた。

 

「なんだ?これ」

 

 俺がその空洞を見つけると、鈴鹿はその空洞に向かって、何やら鋭い目つきをする。俺は瓦礫を邪魔にならないところに置く。そして、鈴鹿にこれはなんなのかと聞くが、鈴鹿は気になるなら来いと言うのである。

 

 そりゃ、気になってしまう。何かわからないけれど、鈴鹿がなんで今、ここに来たのかとかが知ることができるかもしれない。それに、多分、この穴が色々なこと全てに繋がっているような気がする。根拠はないけれど、そう思うのである。

 

 鈴鹿はその空洞を降りてゆく。俺も覚悟を決めた。足を前へと進めるのである。セイバーも、俺についていくようにその穴の中へと入ってゆく。

 

 穴の中は少しだけ暗かった。通路みたいだった。鈴鹿はその先へと進む。俺とセイバーも鈴鹿に続いて、穴の奥へと進む。

 

 暗い。明かりがないから、少しだけ怖い。鈴鹿とセイバーがいるけれど、さすがにこの暗さは恐怖心を覚える。セイバーは俺の腕にぴったりとくっついて歩くのである。

 

 歩いていたら、鈴鹿がいきなりピタリと止まった。

 

「ヨウ、横にあるスイッチを入れてくれ」

 

 暗闇の中、スイッチなんか見つかるかよと思っていたが、手を伸ばして手探りで何かのスイッチ的なのを見つけた。俺はそのスイッチをつけた。

 

 すると、上に光が灯された。電球が上に取り付けてあった。少しだけ頭の部分が暖かく感じる。電球の出す熱が伝わる。昔の頃の電球であった。

 

 俺は暗闇だったのに、いきなり明るくなるから目が(くら)んでしまった。一旦、目を閉じた。そして、もう一度、ゆっくりと目を開ける。すると、そこにあるのは刀であった。刀が大切に飾られていたのだ。

 

 いや、刀だけではない。槍に弓に扇子、兜に鎧、古書に巻物などがそこにはあった。見栄えが良い置き方である。飾ってあるのだろうか。

 

「ここは?」

 

 俺がそう聞くのは必然的であった。今まで十何年もこの家に住んでいるのに、こんな場所があるということを一切知らなかった。今までずっと近くにいたのに気づかなかった。驚きである。

 

「ここは、歴史的物品が飾られてある場所だ。ヨウ、お前のお爺さんは蔵によく出入りしていなかったのか?」

 

「よく出入りしてたけど……。頻繁に」

 

「それで気づかなかったのか?少しは何があるかぐらい気にならないのか?」

 

 全ッ然気にならなかった。というより、普通に蔵の存在自体を忘れている時だってあったわ。

 

「月城家が今まで集めた、歴史的物品なんだ。特に、お前のお爺さんはこういう骨董には目がないようだからな」

 

 は⁉︎何だと?骨董⁉︎

 

 俺はその事実を知って辺り一面を見回す。これ一つ一つが物凄いお値段なんだろう。と、すると、爺ちゃんはその物凄いお金を骨董に費やしていたということか?

 

 ……許さん!貴重な生活費を骨董なんぞに使いおって!今、俺、鈴鹿への怒りよりも爺ちゃんへの怒りの方が断然デカイかも。今までの生活費のやりくりをしていた俺の苦労が儚いものであったと思えてきた。

 

 しかし、骨董といっても、あまり芸術的な物はない。ほぼ武器や、軍需的な物である。まぁ、そこら辺は武士としての家系的に集める物を、そういうものだけに限定していたのだろう。

 

 鈴鹿はある箱に近づいた。そしてその箱のフタを開けようとしたが、触ることができない。なので、俺を呼び、この箱のフタを開けろと命じた。俺は言われた通り、箱のフタを開ける。そこに入っていたのは刃であった。刀の刃であり、その刃には血抜きがあった。その血抜きはまるで妖々しい緑色の光を放っている。俺はその刃を触ろうとした時、鈴鹿が大声を出した。

 

「やめろ、ヨウ!触るな!」

 

 俺がその刃に触る前に、彼女は大声でそう言うのである。その時の彼女の声はまるで今まで聞いたことのないような声であった。大げさに大声を出して、俺の心臓が止まってしまうかと思うくらいびっくりさせた。

 

 その妖々しい光を放つ刃は綺麗なものであった。刃がちゃんと手入れされていた。素晴らしい刀であったのだろう。

 

「おい、なんで触っちゃダメなんだ?」

 

「別に触ってもいいぞ。ただ、お前の命は無くなるがな」

 

「えっ?」

 

「それは顕明連(けんみょうれん)の刃だ。命を吸い取る貪欲な刃」

 

 顕明連とは、鈴鹿御前が生前使っていた宝剣の中の一つ。生前、彼女がこの宝剣を手に負うことができずに自ら刃を折ったのである。その理由は彼女の言う通り、命を吸い取る貪欲な刃で、この刃が生命体に触れた瞬間、その生命体の命という概念そのものを斬る。つまり、この宝剣は魂を斬ることができる剣であり、恐ろしい力を秘めている。

 

 鈴鹿はその宝剣の担い手とされるが、実際彼女でさえも扱いきれなかったのである。だから、彼女は自らの刀を折り、刀として殺そうとした。しかし、その刃は未だに妖々しい光を放ち続けている。

 

 鈴鹿はセイバーの方を向いた。

 

「確か、真名はシグルドと言ったな?」

 

「え、ええ」

 

「なら、鍛治は出来るかな?」

 

 鈴鹿はそう言うと、背中に背負ってある3本の中の1本を抜いた。その、刀を抜いている姿は俺も見たことがないので、前まではどんな刀だろうと思っていた。けど、今なら分かる気がする。

 

 彼女が抜いた刀は(つか)しかなかった。しかし、その柄に少しだけ残っている刀身と、妖々しい光を放つ刃の割れ目の形が同じである。つまり、その刃は鈴鹿御前が生前所持していた顕明連の刃であるのだ。

 

 つまり、今、鈴鹿はセイバーに顕明連の修復を依頼しているのだ。命という概念そのものを切る顕明連という禍々しい力を持つこの剣を。

 

 しかし、俺には幾つか疑問があった。

 

「おい、待ってくれよ、訳わかんねぇよ。なんで鈴鹿がここにいるんだ?それに、なんで鈴鹿がここの場所の事を知ってるんだよ。あと、セイバーに修復してもらおうにも、その柄はあんたと一緒でこの世には存在しない!だってあんたは—————幽霊だろ?」

 

 俺の言っていることはもっともな事であった。俺は別に間違ったことは一切言っていない。全て、鈴鹿の言われたことを信用して言っているだけであって……。

 

 ……信用?

 

 俺はさっき、蔵の前で鈴鹿に言ったことを思い出す。

 

「あんた、俺を騙したのか?」

 

 騙した?

 

 確かに彼女は言っていた。全て嘘だと。なら、もしかして……。

 

「—————鈴鹿、お前、幽霊なのか?」

 

 核心につく一言であった。俺はある可能性を思いついてしまったのである。

 

 俺の親は聖杯戦争に参加していた。彼女はここの場所を知っていた。セイバーはここから召喚された。ここには聖遺物となるものが多数ある。そして、アーチャーが蔵を、いや蔵にある何かを破壊しようとしていた。その理由は聖杯戦争の被害を小さくするため。

 

 まさか‼︎

 

 俺はこの部屋の中で、あるものを探した。必死になって、息を切らして、俺のもしかしたらの仮説を証明させるために探した。部屋の中のものをどかして、箱の中のものをいちいち確認した。

 

 すると、ある箱の中に見つけてしまったのである。

 

「……これか?」

 

 それは黄金色に輝く指輪であった。俺はその指輪をセイバーに見せた。そしたら、セイバーは驚いていた。彼女はその指輪を見て不快な表情に変わった。

 

 確か、シグルドの伝説には指輪があった。物語を破滅へと導く指輪があった。これが聖遺物としていたのなら、この近くにあるはずである。

 

 俺はその箱の周りを(くま)なく探した。見逃しがないように、かつ素早く。血眼で、聖遺物の近くにあるものを探した。

 

「……あった」

 

 箱の近くに、床に描かれていた赤い魔法陣。その魔法陣が、俺には何を意味しているのかが分かった。

 

「こいつの仕業なのか?全ては」

 

 この魔法陣は、サーヴァントを召喚するためのものである。それは、ここから俺の聖杯戦争が始まったことを意味し、もしかしたら、前回の俺の両親が参加した聖杯戦争もここから始まったのかもしれない。

 

—————ここは全ての始まりの場所である。




はい!Gヘッドです!今回は色々とすごいことがわかりましたね。はい、これは多分全てのルートに繋がる大事な回です。ちなみに、ヨウくんのお父さんとお母さんの聖杯戦争は、今のところ書く気はありません。回想ぐらいです。

多分、次の回には鈴鹿が大暴露しちゃいます。まぁ、でも第一ルートの最大の驚きはそんなところじゃありませんけどね……( ̄▽ ̄)。という期待をばら撒いておきます。( ̄ー ̄)


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