Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
学校から下校する。俺は靴音をたてながら、朝通った道を歩いている。長い長い登下校の時間。
いつもなら自転車で登下校しているのだが、その自転車はこの前のライダーとの戦いにて使い物にならなくなってしまった。ライダーの攻撃により、ぺちゃんこに潰されて、グラムの剣勢に当たり、そしてライダーがみんなを逃がすための濁流に押し流された。あの後、道の真ん中で見つかったらしいのだが、もう乗れるような原形をとどめていなかったらしい。
大変である。いつも自転車で通っている道を徒歩で行くとなると、道のりがとても長く感じる。
俺がとぼとぼ歩いていると、セイバーは周りに誰もいないのを確認してから実体化する。服は現代風で、一見普通の人でありサーヴァントと分かることもないだろう。セイバーはウキウキしながら歩く。快い気持ちでスキップの音を刻む。まるで遊園地に行く子供のようである。それに対して俺の吐く息からはどよどよとしたマイナスな気分がうかがえる。とぼとぼと革靴の音が低い音を出す。
「今日は街へお買い物〜♪お買い物〜♪」
セイバーは鼻歌を歌いながら、いかにも幸せそうな顔をしている。やっぱり男のように育てられても、根は女の子である。いや、というよりすごく可愛らしい。車に目を輝かせ、スマホのタッチパネルに驚くというように、彼女とこの世界との間には文明のギャップが非常に大きい。だから、彼女はこの世界では普通のことが、彼女にとっては楽しくて楽しくてしょうがないのだ。それに、生前もあまり森から出たことはなかったから、街というものに興味があるらしい。
殺し合いのために召還されたサーヴァント。それが今、俺の目の前で
まぁ、たまにはこういうのもいいんじゃないか。セイバーは女の子だし、女の子らしいことをしてほしい。戦いなんかよりも、もっと他のことを。
「おい、セイバー。わかっているな?買い物の一番の目的は俺の自転車を買うことと、今日の夕食の食材だからな」
「わかってますよ〜」
セイバーはクルクルと回り、陽気である。街へ向かう道のりが、彼女を楽しくさせている。はしゃぎ過ぎである。彼女は笑いながら俺にこう言った。
「ほら、ヨウ!行きましょう!早く街へ!」
「こらこら、勝手に行くなよ。迷子になるだろ?お前にはここの土地勘なんてないんだから」
俺がそう言っている間にも、彼女はウキウキとした足踏みで前へ進む。俺との距離が大きく開いてしまう。
「あっ、おい!勝手に行くなって……」
「先に行ってますよ〜」
セイバーは俺に手を振った。まったく、手のかかる人である。
……やれやれ。
俺は彼女に駆け寄った。革靴の軽快な音が響いた。
それから少し歩いたところに商店街みたいなところがある。俺とセイバーはそこに行った。セイバーは辺り一面を見回して感動である。
「スゴい!お魚屋さんに、お肉屋さん、八百屋さんもある!ここにいれば、何でも買えますね!」
「全部メシじゃねぇか!」
俺はヨダレを垂らしまくってるセイバーの後ろ襟を掴んで、自転車屋のところまで引きずる。自転車屋の前のベンチに座らせて、そこら辺で買って来た、たい焼きを3つセイバーに渡しておく。
「おい、お前にそれやるからちょっと待ってろ」
俺はセイバーにたい焼き3つを渡すと、店の中に入る。店の中は多くの自転車があった。ロードバイクにマウンテンバイクもある。色んな色の車体があり、部品も数多く兼ね備えている。そんな中、俺は迷わず店員にこう言った。
「あの、すいません。ママチャリはありますか?」
ーー30分後ーー
俺はそこら辺にありそうなごく普通の自転車を買った。シルバー色の荷物がいっぱい入りそうなママチャリ。結構な出費である。今日のお夕食は少し少なめ、またはオール特価品になるかであろう。
俺は店を出て、ベンチを見た。ベンチのところにはセイバーが座っていた。目を
パチンッ‼︎
俺はセイバーのおでこの真ん中にデコピンのめっちゃ痛いのを食らわせた。その瞬間、セイバーは両手でその箇所を覆い苦い顔をしながら悶絶している。
「ひどい‼︎なんてことするんですか!」
泣きべそをかいて、俺の方を向く。俺は終始知らんぷりである。彼女の手にはたい焼きがない。まぁ、夕食前によく3つも食べられるものである。
俺は買ったばっかりのママチャリのネットに学校のカバンを入れる。そして、スーパーに向かってそのママチャリを押す。
「おい、セイバー。メシ買いに行くぞ」
セイバーはまだおでこを両手でおさえている。それでも、セイバーはトコトコと付いてくる。涙目になりながら、いじけていても、メシという言葉に誘われたのであろう。が、やはり俺を睨んでくる。
「そう怒んなって」
「怒りますよ。私なんにもしてないのに」
「出来心だから。なっ?」
「痛かったんですよ!結構!」
と、俺に文句を散々言い続けても、俺に付いてくる。まぁ、軽いいたずらだとはセイバーもわかっていると思う。
「許すってこともさ、時には大事だろ?」
その俺の言葉は少し彼女には棘のあるものであった。彼女はまだ自分の養父を許してはいない。許しを与えないと、彼女もその報復のために何かをしてしまう。けど、それはセイバーにとっての幸福じゃない。セイバーの幸福はもっと他のものだ。
セイバーは歩きながら、こんなことを聞いてきた。
「ヨウも親に裏切られたと言っていましたね。私と少しだけ似ている。……ヨウはご両親を恨んではないのですか?」
俺はセイバーに許すことは大切だと言った。なら、言った本人がそれをできてないといけない。
俺は多分、許しているとか許していないとか関係なく、もう諦めている。もう俺の両親は死んでいるだろう。死んでいるから、許そうが、許さまいが、特にそれでどうなるってわけでもない。だから、俺は諦めている。恨んじゃないない。
けど、やっぱり納得はしていない。納得できない。理由なく、俺の目の前から消えた両親を俺は許せない。せめて、理由でも何か遺書みたいなのに書いてくれればよかったのだが、そんなのは10年以上探しても見つからなかった。
セイバーは俺を見て笑った。
「同じ、同じじゃないですか」
俺もそんな彼女に微笑みかけた。
俺は新しく買った自転車を前へと押す。買い物かごは大きい。色々ものが入りそうである。
「さて、夕食の準備のために食材を買いに行くぞ」
二人の影は並んで歩く。