Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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チェックメイト

 雪方はスタンガンにまた魔力を注入し始めた。ライダーはナイフや、トンファーなどで俺に間髪入れずに攻撃してくる。俺に休む暇を与えないということなのだろうか。ライダーの隙のない攻撃に対応しつつ、雪方の動きに注意した。

 

 俺はセイバーを見た。セイバーは……うん。大丈夫そうだ。

 

 後は、雪方を待つだけだ。それまで、ライダーの攻撃を交わし続けるだけである。ライダーはまた水に向かって何かを呟いた。すると、俺の足元の水、周りにある水が高水圧水鉄砲になって俺に向かって飛んでくる。

 

「もう、いや‼︎本当、この攻撃キライ‼︎」

 

 時速110キロほどの速さで飛んでくる水鉄砲を弾くのはめんどくさいのである。少々手間がいる。しかも、さっきからライダーの攻撃を受け流してはいるものの、やっぱり俺の体の節々が悲鳴をあげている。関節が痛い。やることはわかっている。どうすればいいのかもわかる。けど、それに体がついていかない。それほどサーヴァントとは強く、普通の人間が相手にしてはいけない存在なのだ。

 

 もし、俺がこの聖杯戦争に参加していなかったのならと、何回考えたことか。聖杯戦争に参加していなかったら、試験一週間前なので、大人しく家で勉強をしている。

 

 ……あっ、今の訂正。ゲームだわ、多分。

 

 まぁ、とにかく今更(いまさら)グチグチと物事を言う気はないけれど、もしもを考えてしまうのはしょうがない。それが人の(さが)なのだから。

 

 希望を追い、追えなくとも心の中、想像の中で希望を作り、夢を遂げ、そして新たな夢を作る。この一貫の繋がりがループしている。それを人は無意識のうちにしてしまう。

 

 そう、聖杯とはその一貫した繋がりを簡単に省略したモノ。これはどんなことをしても実現できない夢さえも叶えられる。簡単に、殺し合うことで夢を手に入れられる。

 

 これを、殺し合いだけと考えられれば楽なのかも知れないけれど、そんなこと、俺にはできない。

 

 俺は雪方の動向を気にする。気にしないと、この戦いには勝てない。確かに、水で虚影を作るっていう策に嵌ったが、それでも何とかなりそうである。というより、その策を逆に用いれば勝てる。まぁ、用いることができれば……の話である。

 

 ライダーはバタフライナイフをちらつかせる。ナイフの刃はギラリと町の街灯の光を反射した。後ろの方から高水圧水鉄砲が飛んでくる。俺がその水鉄砲を弾くと、ライダーは俺にナイフを投げる。

 

「あぶねっ‼︎」

 

 俺は投げつけられたナイフも交わすけど、隙ができた。ライダーは水のトンファーで俺を叩きつける。俺は利き手じゃない左腕でそのトンファーを無理にでも受け止めようとする。

 

 俺はまた吹っ飛ばされた。左腕は多分折れた。明らかに変な方向に曲がってる。それでも俺はこれでいいんだと思った。まだ、利き手である右腕が残っている。足も特に大きな負傷はしていない。

 

 そして俺は時を待った。

 

 雪方とライダーが俺の警戒を解くために、わざと攻撃を受けて、気絶したように演技した。人生で一番本気で演技をしたと思う。

 

 ライダーは水のトンファーを作り上げる。ライダーは俺を殺す気はない。けど、聖杯戦争にも勝ち残りたいので、必然的にセイバーを殺す必要があった。ライダーはまた何かを呟きはじめた。

 

 これである。これが、ライダーの隙なのである。多分、ライダーは水を自由自在に扱うためには何かを呟かなければならない。その時だけは、あまり動くことができないのだ。

 

 俺はその隙を突いた。ライダーめがけて、全力で走り、剣を直線的に引いた。その時の俺は本気でライダーを殺す気だった。その殺意は、ライダーも察知した。ライダーすぐに口を止めて、俺への臨戦体勢をとる。

 

 そう、それでいい。

 

 俺はライダーに剣を突き刺そうとする。

 

 ライダーもそれに応じて、近づく俺を撃退しようとした。

 

 しかし、これも予想通りである。殺せるなら殺し、殺せないなら次の行動に移るのみ。

 

「なんてねっ☆‼︎」

 

 俺は、ライダーに剣を突き刺そうとする素振りを見せて、足の方向をくるっと変えた。ライダーは俺の攻撃がフェイクだとは気づかなかった。後ろからいきなり近づいて来られたから、そこまで判断する余裕がなかった。

 

 俺の剣の先の方向は雪方であった。俺は雪方に剣を向ける。もちろん、彼女もライダーへの攻撃がフェイクだとは思わなかった。彼女は全然戦いなんてしたことのない人だから、俺のそんなに上手くないフェイクでも騙せた。

 

 ライダーは雪方に向かう俺を止めようとする。けど、俺は本気のダッシュであり、水を操るために呟いていたら雪方は刺されてしまうだろう。水を操る時間などなく、かといって雪方を見殺しにできない。すると、ライダーは俺を追いかけるしかない。俺はそのライダーの前を走る。例え、身体能力がアップしているライダーでも、魔術でスピードをアップしている俺には簡単に追いつくということはない。

 

 雪方は多分、剣についてあまりいい思い出を持たないようである。だから、その思い出も利用させてもらう。俺がレイピアの剣先を雪方に見せると、雪方は怖気付く。剣が脅威だと思っている雪方は、何とかしてでもその脅威を退(しりぞ)けようとする。だから、スタンガンを前へ向けて、俺の方に向けて、電撃を放つ。

 

 それも予想通りであった。

 

 今、ここで言えることは一つ。

 

 —————俺は勝てる。そう確信したこと。

 

 雪方の攻撃である、何十万ボルト、いやそれ以上に達する稲妻が俺に届くギリギリまで俺は二人の間に立った。そして、雪方が俺に向けて放とうとした。その時、俺はレイピアを地面へと突き刺したのだ。

 

 思いっきりそのレイピアをしならせて、俺は地面を蹴った。

 

「飛べェェッ‼︎」

 

 一か八かである。

 

 棒高跳。それは陸上競技の一種で、棒を使ってどれ程高く飛べるかを競う競技である。棒にはよくしなり、強度の高いものが用いられる。地面に垂直に立てて、体の筋肉を使い高く高く飛ぶのである。

 

 俺が棒として用いたのはレイピアだった。競技用の棒ではないし、棒としてはとても短い。けれど、一応宝具である。サーヴァントとしての加護もあろうし、俺が強化の魔術で耐久性などを少し底上げした。つまり、競技用の棒と同じくらいと考えてもいいだろう。

 

 競技者はプロでなくても、2・3メートルは飛べる。俺は凡人であるから、そんなには飛べない。けれど、別にそんなに飛ぶ必要が俺にはない。俺は雪方の身長分だけ飛べればいいのである。

 

 雪方は女性であるし、女性の中では少しだけ背が小さい方である。1メートル50センチほど。それを競技用の棒並みにしたレイピアで飛ぶのは、凡人でもできなくはない。

 

 そして、さらに成功率を上げるために、足にも強化の魔術を少しだけ付与した。レイピアの方に結構な魔力を注いでいるから、そんなにちゃんとした強化は行えないけれど、やらないよりはマシ。

 

 俺は雪方の頭の上を飛んだ。雪方は俺が彼女の上を飛ぶとは予想もつかない。それはライダーも同じだった。ライダーは俺が空へ飛び、雪方と鉢合わせした瞬間、ヤバイと即座に感じた。しかし、時既に遅し。鉢合わせした時はもう稲妻は彼の方に放たれていた。

 

 そして、その雷撃はライダーに喰らい付く。

 

「グァッ‼︎」

 

 ライダーはその電撃をまともに受けた。ライダーは手先が痺れて、満足に動けなさそうだ。本当だったら失神ぐらいして欲しかったのだが、それでも、彼は電撃が当たる直前に水の障壁を張って、電撃の威力を軽減させた。だから、逃げるくらいの力はまだ彼にはあった。もし、ここで逃げられてしまっては、もうライダーを仕留めるチャンスはない。

 

 俺は飛んでもレイピアを手離さなかった。つまり、レイピアを持ったまま宙を飛んでいるということ。ライダーたちがこのままだと逃げるかもしれないというのと、仕留めるチャンスはこの一回しかないことを悟っていた。

 

 つまり、この瞬間、ライダーを殺さなければならないのである。俺は手離さずに持っていたレイピアをライダーに投げつけた。

 

「剣よ‼︎貫け‼︎月城流、投擲の型『点剣(てんけん):(きっさき)刖罪(げつざい)』‼︎」

 

 月城の歴史には何人もの武術者がいる。その中で、13代目月城流師範のおっさんは、なんかやたらに投擲術がスゴくて月城の歴史の中でもトップに出るほどの投擲術の天才で投擲の一時代を築いたほどらしい。

 

 この技はその人が考案した技の一つである。剣とは本来投げるものではないが、戦いにおいて例外や非常事態は(つね)に存在する。そんな時のために考えた技である。

 

 月城の武術とは敵を殺すことではない。敵の武を(くじ)き、無力化することである。この技はその意思を受け継いだ技であり、人の胸には刺さない。あえて、ほかの部位に刺すのである。

 

 刖罪とは足を斬る刑罰のこと。この技は相手の足を狙うのである。敵を歩けなくさせて、無力化させるのである。

 

 俺が放った剣は見事にライダーのふくらはぎを貫いて、コンクリートの地面へと突き刺さった。

 

 しかし、それだけで終わりではない。殺さなければならないのである。ライダーを。でも、月城の者である俺は人をむやみに殺してはならない。なら、殺すとすれば……、

 

「セイバー‼︎今だ‼︎」

 

 俺の掛け声とともにセイバーが出てきた。セイバーは物の陰から出てきたのである。そのまさかの事態に、ライダーと雪方は驚きを隠せないでいる。

 

「ナゼだ⁉︎セイバーは、確かに水の檻の中にいたはずだ!」

 

 そう、ここから見ても水の檻の中は黄金の色が輝いて見えるのである。

 

 でも、見えるだけである。

 

 さっき、ライダーたちは水の障壁を使って俺たちを策に嵌めた。水でボケて見える。それに、生きるか死ぬかの聖杯戦争はまともな判断も出来なくさせてしまう。だから、俺たちはまんまと罠に引っかかった。

 

 なので、今度は俺たちがその策を応用した。確かに、さっき俺は罠だとも知らずにセイバーを蹴飛ばした。つまり、セイバーは水の障壁によって一人にされていた。だからできたのである。

 

 水の障壁で区切られた空間で、セイバーは防具を脱いだ。黄金の鎧を脱ぎ、青銅色の兜をその上に乗せた。もちろん普通に見れば、脱ぎ捨てられた防具である。しかし、障壁越しに見ると、それがぼやけて見えるのだ。しかも、黄金色は眩しく、さらに見分けにくくする。

 

「なぜだ⁉︎例え、防具を置き去りにしていたとしても、障壁で区切られた空間からどうやって出れる⁉︎」

 

 ライダーは防具を置き去りにしたのは分かった。けれど、もう一つのトリックには気付けてはいないようである。まぁ、それもしょうがないのかもしれない。ライダーが科学という概念が存在していない時代の人なら、このトリックには気付かない。

 

 でも、ライダーのマスターである雪方は気付いた。

 

「電気……分解?」

 

「お見事‼︎そうだ。電気分解を使わせてもらったわ。お前の電撃を利用してな」

 

 水の電気分解。水とは化学記号で言うと『H₂O』。水素原子が2つと酸素原子が1つが結合してあり、常温時では液体状である。その水に電圧を通すことで、水素と酸素に分けることができるのである。

 

 さっき俺がライダーと雪方からリンチにあっていた際、雪方の攻撃を交わした。その時、後ろには障壁があった。その電撃が水の障壁を分解して、セイバーは出ることができたのだ。後は、セイバーが隠れて、反撃のチャンスを待つのみである。

 

「じゃぁ、まさか……」

 

「そう。チェックメイトだ!」

 

 セイバーは古びた剣を空高く振り上げる。身動きできないライダーの目の前で。雪方はさっき電撃を放ったばかりで、攻撃手段はない。だから、もう剣を振り下ろす、ただそれだけなのである。

 

 剣を振り下ろす。それだけで命は(はかな)く散る。

 

「いけぇ‼︎セイバァァァー‼︎」

 

 俺はそう叫んだ。もう、勝利を確信したからである。いや、もう誰もが俺たちの勝利だと思った。俺は目前の確定した勝利に若干の安堵を抱き、雪方は聖杯戦争で勝てなかったという悔しさを感じ、ライダーは終わりが来たと悟った。セイバーは剣を強く握り、歯を食いしばり、剣を振り下ろした。

 

「—————永劫の赫怒(グラム)‼︎‼︎」

 

 その時、剣が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 そう心の中から声が出た。それは、俺が目の前の状況を理解できないでいるからである。

 

「……セイバー、お前……」

 

 見ると、セイバーは固まっていた。剣を振り下ろせずに、ただライダーの前で立っていた。見ると、彼女の手は震えている。歯を食いしばり、あとちょっと剣を振り下ろせばライダーを倒せた。

 

 けど、彼女には無理だった。

 

 彼女は人を殺すことなんてまだ無理なのである。彼女の目には未だに映るあの光景。龍が笑いながら死に、養父を憎んで殺した。彼女にとって『死』というものは理解できないものである。そして、人を、命を奪うという行為は彼女を(さいな)ませる。彼女の手にはたった二人分の血しかついていない。けれど、その血は彼女にとってはとてつもないほどの重荷なのである。

 

 その重荷が邪魔をした。

 

 セイバーはライダーを殺せないと分かると、自分でもどうすればいいのかが分からなかった。せっかく、自分のパートナーが命がけで与えてくれたチャンスを台無しにしたのだから。

 

 彼女はもう剣も握れなくなってしまった。そして、その古びた剣(グラム)を地面へと落とした。

 

 コンッ‼︎

 

 コンクリートの道路に剣が落ちた。金属音が響く。その時、剣からある声が聞こえた。

 

「つまらん‼︎それでも、我の担い手か‼︎⁉︎」

 

 その声はセイバーだけではない。俺にも、ライダーにも雪方にも聞こえた。声はとても低く何かとてつもなく恐ろしく聞こえた。

 

 セイバーの落とした剣から何やら黒い瘴気(しょうき)のようなものが出ている。とてつもなく禍々(まがまが)しく、暗い何かがそこから湧き出ていた。その黒い瘴気が無尽蔵に果てしなく剣一つに詰まっているのは、直感的に感じた。それがヤバイということも感じ取ることができた。

 

 そして、黒い瘴気が段々と立ち込めて、やがてその瘴気が人の形となった。その剣は四肢のついた人の形をとる。しかも、黒髪のもう一人のセイバーの形で現れた。でも、そのセイバーの形をした剣はまるで血に飢えた猛獣のような目をしていた。

 

「おい、セイバー、あれは……って……えっ⁉︎」

 

 俺はセイバーの方を見た。そしたら、なんとセイバーが、セイバーじゃ無くなっていた。

 

 セイバーの髪は黒かったはず。

 

 なのに、セイバーの髪はキレイに光っているのである。白銀の髪が風になびく。セイバーの髪はさっきまで黒色であったのに、変わっていたのだ。

 

「……どういうことだ?」


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