Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回に、雪方ちゃんの過去を暗示させるような文章が出ますが、その言葉の意味がわかるのは第2ルートまでお預けとなります。すいません。出来れば、謎や疑問あっても、飲み込んでいただけたら幸いです。


己のために、誰のため

 『無慈悲な我が主の罰は(カタストロートゥディフィーム)』。彼がそう呟くと、空に雨雲が何処から湧いてくる。そして、天から降る断罪の雨を彼は自由自在に操ることができる。また、彼は雨を液体ではなく、物質のように触れることもできる。

 

 もう一つの彼の宝具『平和と残酷を隔てた壁(イートキーヅキーボゥト)』は彼の逸話から具現された宝具である。トンファーのような武器だが、セイバーに一つ破壊されてしまった。しかし、水をトンファーの形にして握ることにより破壊された武器の代わりを作り出した。

 

 これは、言ってしまえばセイバーのトンファーの破壊が無意味であるという証明でもある。武器が破壊されても、雨水で武器を作り出す。

 

 また、『無慈悲な我が主の罰は(カタストロートゥディフィーム)』の能力はそれだけでない。雨が降ることにより、足はぬかるみ、行動も遅くなる。しかし、彼はその雨の影響を受けず、むしろより速く行動をすることができるのだ。いや、それだけではなく、彼の基本的身体能力が一気に底上げされるのである。

 

 さっき、いきなり目で追えなくなってしまったのはそれが原因だった。あまりのスピード、騎兵の本気を垣間見た。

 

 そう、彼は雨の時だけ騎兵になる。つまり、彼が雨を降らせた時、それは彼が本気を出すという合図である。

 

 でも雨を降らせるのには少しばかり魔力がいる。そして、その魔力供給はマスターからであり、彼のマスターである雪方は残念ながらあまり魔力が多くない。ライダーがその状態を保つことができる時間は十分から二十分ほどであろう。

 

 土砂降りの雨の中、俺はライダーの水で作ったトンファーを見た。トンファーの外側は強い水圧をかけている。多分、その水圧で木と同じくらいの威力はあるだろう。が、別にそこは問題なのではない。問題は、身体能力である。

 

 あまりにも速い。目で追えないほどである。しかも、速さだけではなく、力も強くなっているのである。さらに、追い打ちをかけるように彼女のスタンガンから出る高圧力の電撃が俺たちを逃がそうとはしない。さながら檻の中に入れられたようだ。

 

 完璧に、俺たちは彼らの術中にはまってしまった。

 

「さて、どうする?」

 

「どうするもこうもないでしょう。まずは一旦、逃げるのが先決かと思いますけど……」

 

「あの電撃が俺たちのことをそう簡単に逃がしてくれそうもないね」

 

 でも、何もしないで負けるのは嫌だ。セイバーの望みを叶えてあげたい。『親への思い』が似た俺たちだからこそ、わかることである。未だ、いい事一つもなしのセイバーに、いい思いをさせてあげたい。そう思えるのである。昔の俺のようなセイバーを救ってあげたいのである。

 

 俺の望みがセイバーの望みを叶えること。なら、今セイバーを失うわけにはいかない。雪方は俺を殺すなと言ったけれど、その言葉はセイバーを殺せという意味。つまり、そうさせないためには雪方を、ライダーを倒さなければならない。

 

「俺は逃げないから」

 

 覚悟を決めた。セイバーはそんな俺を見ると、口元を緩めた。セイバーも剣把(けんぱ)をぎゅっと力強く握る。

 

「同じく、私も逃げません」

 

「珍しく気が合ったな」

 

「ええ、珍しく」

 

 二人の剣の先は敵である。敵を倒す、二人の思いが合わさった。

 

 俺は雪方にレイピアを振った。彼女に嫌われようと、どうなろうと、もうどうでもいい。俺はセイバーの望みを叶えてあげるんだ。その一言を胸の中に抱きながら。

 

「そうはさせるか!」

 

 ライダーは水のトンファーで俺を横から殴ろうとした。魔力の供給元である雪方が倒されてしまっては、自分も(あや)うい。そう感じたのだろう。

 

 でも、俺はライダーの方を振り向かなかった。攻撃が来るとは分かっていたが、振り向く必要はないのである。

 

 だって、信じているから。仲間を、セイバーを。

 

 ライダーは俺に向かってトンファーで殴ろうとしたが、セイバーに止められた。

 

「あなたの相手は私です」

 

「う〜ん。困ったなぁ、これじゃぁ、やられちゃうなぁ。僕」

 

「そんなの、知りませんッ‼︎」

 

 セイバーとライダー、交戦スタートである。

 

 ライダーはトンファーを振るい、セイバーを潰そうとするが、セイバーはその攻撃を難なく()わす。例え、死闘というものを今まで一回もしたことのないセイバーであっても、彼女は山の中で育ってきた。野生の勘で、彼女はライダーと戦っている。次にどう攻撃が来るかなどは考えていない。それでも、彼女の身のこなしは一流である。王の血を継ぐ者の片鱗を見せた。

 

「へぇ、あいつもやるじゃん」

 

 俺はセイバーを見て、そう呟いた。俺は雪方と対峙する。同級生と、昔からの知り合いと、でもって俺の初恋の人とやりあうのは少し気が引ける。けど、別に殺す気はないし、特に反抗しなければ傷つける気もない。

 

 まぁ、この状況で反抗しない人なんていないと思うけど。

 

「……ヨウ」

 

 雪方は俺のことをじっと見つめる。スタンガンを俺に向けているものの、手は震えている。戦いたくはない。そんなん俺だって一緒である。俺の手だって震えている。けど、爪を手に食い込ませてその震えを抑えている。

 

 決めたんだ、覚悟を。俺は引かない。

 

「そんな目すんなよ。俺が悪者みたいじゃん」

 

 悪者みたいな俺。悪者の気持ちが今なら分かる気がした。自分の信念を突き通すというその覚悟は、少し憧れてしまう。ただ、手段を選ばないのはどうかと思うけれど。

 

 雪方を傷つけるつもりはない。気絶させるだけでいい。それだけでいいのだが、それがどうも簡単にはいかなそうだ。

 

 俺は刃のないレイピアを彼女に振るう。彼女はそれを必死に交わすのである。さっきまでライダーを相手に剣を振っていたが、相手がただの人だと攻撃するのは容易(たやす)い。ライダーには攻撃が当たる気配が一切なかったが、雪方には当たりそうである。だからこそ、そんな自分が少しだけ憎く思える。少しでも躊躇できない自分が醜く思えるのである。

 

 サーヴァントとマスターはなんだかんだ言って、結構似ているところがあるのかもしれない。それももしかしたら触媒なのかもしれない。電撃に痺れていたセイバーは、望みのために何でもしようとした。その姿が醜かった。今、俺も醜い。セイバーのために、好きだった人に剣を振るう。その姿はどんなに見苦しい姿であろうことか。

 

 ごめん。

 

 ごめん。

 

 ゴメン。

 

 ゴメン。

 

 ごめん。

 

 ごめん。

 

 ごめん。

 

 御免。

 

 ゴメン。

 

 御免。

 

 ごめん。

 

 ごめん。

 

 ごめん。剣を向けて。俺、今日おかしいんだ、狂ってんだ。女の子に暴力だなんて。

 

 ごめん。ごめん。それでも、やらなければならないんだ。

 

 そう、懺悔(ざんげ)の言葉を言いながら彼女に剣を振るう。人の命を奪う剣には成り下がっちゃいない。でも、自分の欲望のために振るう剣に成り下がった。俺は剣を扱う者としては最悪の者である。それでもいい。そう思えた。

 

 誰かになんと言われようと、それでもいい。別にいい。というより、むしろ言われていたい。誰かに非難されていたい。そうじゃないと、俺がおかしくなりそうになる。

 

 ただ、ごめん。そう思っている。

 

 俺の攻撃は隙だらけだった。粗い攻撃、それは無駄な剣の振りを意味する。そんなこと、本当はしない。なのに、俺はしていた。心のどこかで雪方に止めてほしい。そんな思いがあったのかもしれない。でも、止まらない。

 

 セイバーを守りたいって思いは、セイバーの望みを叶えてあげたいって思いは止まらない。

 

 —————加速するこの思いは。

 

 雪方もその俺の攻撃の隙を突いてきた。スタンガンを直接、俺の体につけた。本来の使い方で、電撃なんか飛ばさないで、俺の体にスタンガンをつけてボタンを押すのである。

 

 俺の首元の所にスタンガンをつけた。その瞬間、気を失いそうになった。

 

 グラッ。

 

 俺の視界に移る夜空の星が回った。雪方は死なないし、後遺症も残らないギリギリで、さっきの電撃の何倍もの電圧を直接俺に流し込んだ。

 

 バンッ‼︎

 

 でも、俺の足は地面と垂直に立った。気を失って倒れそうになった。けど、根性でまだ立ち続けた。頭がくらくらする。それでも負ける気にはなれないのである。

 

 普通なら即気絶のはずである。が、俺はそれでも立っていた。そんな理由、俺には知る(よし)もない。もう一つの血が騒ぐ。俺の令呪には聖杯の魔力が少しだけ入っている。その聖杯の魔力が俺の隠された力を覚醒させようとしているのである。

 

 雪方は倒れない俺を見て、(おび)える。その怯えは、もう策が尽きたという表れでもある。俺は剣を振り上げた。

 

 その時、雪方は今まで聞いたこともないような声を出した。

 

「イヤァァァァァァァ‼︎」

 

 粗い息。恐怖に(さいな)まれている。その時、彼女が思い出さないようにしてきた嫌な過去が彼女を取り込もうとしているのが俺には見えた。誰にでも嫌な過去があるが、彼女のはその中でもダントツに暗い過去。最悪の過去と、目の前に俺が剣を振り上げて立っているこの状況が合致して過去を連想させてしまったのである。

 

 それでも、俺はためらわなかった。

 

「ごめん。少しの間だけ、眠っててくれ」

 

 俺は剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど、彼女はその剣を交わした。恐怖のあまり正常な判断ができなくなっていた彼女は俺に向けて電撃を放った。とにかく俺がその過去と見えていたのだろう。過去を倒そうと、俺に電撃を放つ。

 

 でも、俺もその攻撃をギリギリ交わした。まさか、来るとは思わなかったけど。

 

 その電撃は直線的に飛んで行く。俺の後ろにはライダーがいた。雪方は恐怖のあまり、適切な判断ができなかった。その結果、ライダーの方に電撃を飛ばしてしまった。

 

 ライダーはその電撃に気づくと、セイバーの攻撃を木のトンファーで受け、電撃を水のトンファーで受けた。

 

 その時である。彼は電撃を受け止めたはず、なのに一瞬動きが止まった。それは紛れもなく、電撃による痺れである。セイバーの痺れた姿を見たから分かる。今のライダーの一瞬のフリーズは、電撃による痺れ。

 

 ……ん?待てよ?ってことは……。

 

 俺はセイバーとライダーの二人の間に間合いができるように、ライダーに剣を振るう。ライダーが一歩後ろへ下がると、俺はセイバーと固まる。

 

「ヨウ、マスターの女性はあなたに任せたはずですが……」

 

「ああ、そのことなんだけどさ。ちょっといいか?いいこと思いついたような気がするんだよ」

 


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