Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです。

このほぼ説明文みたいなやつは三部構成で、今回は中間ですね。ちなみに、この説明文みたいな話はセイバーちゃんが語っているわけではないっす。


嘘か真か、全てを疑い全てを信じよ《中編》

 女の子はもう自分の育ての親である男を信じることは無理でした。今までずっと自分の父親だと思って接してきましたが、彼は本当の父親ではなかった。だから、親として接しにくくなってしまいました。

 

 彼女はこう考えておりました。男は金や名誉目当てで自分のことを育てていたんだと。愛情だと思っていたものが、本当は愛情でも何でもなかったのだと。

 

 段々と二人の関係は悪化していきました。しかし、それは誰しもが予想のつくことでした。本当の親子ではないのに、親子であると(いつわ)っていたのですから。もちろん、それは女の子ではなく男の責任。

 

 男はそれでもまだ、女の子を王にすることを諦めてはおりませんでした。どうすれば女の子が王に、元の王国を統べる者になれるかを真剣に考えていました。

 

 その頃、王国は先の戦いで前国王に勝った敵に占領されていて、多額の借金も持っていました。王国にいるものは皆、貧困に困っていました。

 

 そこに男は目をつけたのです。多額のお金を使いみんなを解放することで、みんなの信頼度を上げ、さらに血の繋がりさえあれば彼女が王になれると考えました。だから、男は女の子にある提案を持ちかけたのです

 

「龍を倒してはみないか?」

 

 男が言った龍は財宝を持っているらしいのです。多額の金になる財宝です。

 

 しかし、いきなりそう言われても、女の子は何のことだかさっぱりわかりません。いきなり龍討伐の話を持ちかけられてもどうすればいいのかまったくもって知りません。それに、彼女は何で龍を殺さなければならないのかという根本が知りたくなりました。

 

 彼女は男に訊きました。なぜ私は龍を殺さねばならないのだと。男は迷いました。今一度、真実を嘘で塗り固めるか、本心を言うかです。嘘をついたことがばれてしまえば、もう父親と見てくれないことでしょう。しかし、本当の事を言えば彼女は龍を殺しに行くでしょうか。王になろうとするでしょうか。

 

 迷いました。男は黙って迷いました。迷いました。迷った(すえ)に男は女の子に何も言うことはできませんでした。下を向いて、無言を貫くだけでした。その姿を見た女の子は何かを察したのでしょうか、「考えさせてくれないか」と言い残し、外へと出てゆきました。

 

 女の子は空を見上げました。空はどこまでも(あお)く、どこまでも遠い。どんなところでも上にあるのは広大な空でした。空に(たけ)の短い剣を突き刺しました

 

 彼女は男が言いたいことぐらい分かっていました。どうせ、王になるために龍を倒せと言っているのだろう。龍を倒し、財宝を得て、財宝を民のために使えと、そういうことなのだろうと考えました。

 

 その時、女の子はぶるっと震えました。鳥肌がたちました。もしかしたら、と思ってしまったのです。

 

 もしかしたら、男はその財宝を得て私を見捨てるのでは?

 

 女の子はまさかと思いました。まさか、自分をここまで育ててくれた男がそんなことするはずがないと。そう思いたかったのです。けれど、もし今までの話が全て嘘だったら?そうも思い始めてしまいました。

 

 今までの話が全て嘘、というのもあり得る話です。全て、私を龍討伐に行かせるための罠だったらと。王の子ということも嘘だとしたら合点がいくのです。

 

 男に対して彼女は疑心暗鬼でした。男の言うこと全てが信じられなくなってきてしまったのです。今まで、十数年間も一緒にいたのに、男の一言で全てがひっくり返されたのですから。

 

 でも、それでも男のことを家族として見ておりました。愛しておりました。だから、また信じようと誓うのです。壊れかけの心に自分でまた釘を打つのでした。

 

 そうでもしないと彼女は狂ってしまいます。今までの人生を全て否定されることを一言で表現することはできないほど、悲痛なものですから。

 

 彼女は森の中へ入って行きました。茂みの中を進み、倒れた朽木を(また)ぎ、小鳥のさえずりを聞きながら森を歩く。

 

 そして、 森の中にある泉の所まで来ました。彼女は近くにあった岩に腰掛けてまた空を眺めました。空を眺めて、(むな)しい気持ちになりました。

 

 晴天の空。でも雨が降り始めました。数滴の雨がぽろぽろと岩に落ちるのです。木の葉の間をくぐり抜ける風のように声を出しました。彼女の潰れてしまいそうな心は森に無視され、森はいつものようにただ平然としています。

 

 彼女は泉の水面に自分の顔を映すように下を向きました。そして、自分の顔を見て彼女はこう言いました。

 

「醜い顔だ」

 

 風が吹きました。その風が泉に波をつくり、彼女の顔がぐにゃぐにゃと曲がりました。手を水の中に入れて、水を手で(すく)い、自分の顔を洗うと、彼女はこう叫びました。

 

「よし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は森から戻ってきました。森から戻ってきた彼女は男にこう言ったのです。

 

「私は龍を殺しに行く」

 

 女の子はもう一度だけ男を信じてみようと決めました。もう一度だけ男を信じようと決めて、男に笑いかけたました。男も彼女に笑いかけたました。

 

 男はただ単に嬉しかったのです。自分のことを信じてくれている。それがただ単純に嬉しかったのです。

 

 女の子は龍を殺そうと覚悟を決めました。しかし、龍は硬い(うろこ)を持っており、並大抵の剣では傷をつけることすらできません。だから男は蔵からあるものを持ってきました。

 

 折れた剣です。しかも、剣は()び、見苦しいほど古びた剣。その剣を男は鍛えなおしたのでした。

 

 その剣は何も、神様がくださった物凄い剣だそうで、その剣は女の子の父である前の王からもらったものでした。前の王はその剣で幾多(いくた)の戦場を駆け抜けたのです。その剣を女の子に渡すために男はその剣を鍛えたのでした。

 

 そして、剣はその男の手により直されました。が、しかし鍛冶の技術が全然発展していない時代だったので、男には剣を繋げることだけで精一杯でした。それでも、錆びは少ししか残っておらず、これなら十分斬ることは可能でした。

 

 そして女の子はその古びた剣と愛用の短剣を手に家のドアを閉めました。龍を殺しに、男の願いを叶えに————


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