Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

24 / 137
嘘か真か、全てを疑い全てを信じよ《前編》

—————これはある英雄譚である—————

 

 

 

 

 

 

 まだ文明というものがあまりなく、科学も、ましてや魔術もあまり発展していない時代。その時、ある王国がありました。

 

 その王国はとても戦で強く、負けという言葉を知らぬ王国でした。そこには王と(きさき)がいて、二人はとても愛しあっていました。しかし、ある日、戦で王は大敗を記したのです。それはつまり王国の崩壊にも繋がります。敵の軍が王国を襲いました。

 

 妃は追っ手が来る前に森へと逃げました。その頃、王と妃の間には子が生まれていました。なので、妃はその子を抱えて逃げていました。が、しかしその子を抱えて逃げていたら追っ手に追いつかれてしまいます。なので、妃はある提案を思いつきました。

 

 森の中でひっそりと鍛冶屋をしている男の所へ訪ねたのです。その男はとても武芸に(ひい)でていて、すごい人でありながらもひっそりと森の中で暮らしている。そんな人でした。

 

 そんな人に妃は自分の子を預けたのです。妃はその男にこれまでの事情を話し、その子を託すことにしました。そして、妃はまた森の中に消えました。

 

 男の腕の中にいる生まれて間もない子は可愛い女の子でした。男は女の子を大切に育てよう。そう心に誓いました。

 

 しかし、少し日が経ち、ある話をその男は聞きました。妃が消えたと。妃の行方が分からないと。男はその瞬間、あることを考えました。妃は自分に子を託し、敵に殺されたのではないかと。

 

 その時から、子を女の子として育てようとしませんでした。男は、女の子を男の子として育てようとしたのです。いつか、国の王に立ってもらうためにも、男の子として生きてもらわねばと思ったのです。

 

 男はその女の子を見ました。女の子はその男の顔を見て笑いました。何とも恋しい笑顔なのでしょうか。男は胸が痛くなりました。女の子なのに男の子として育てるという行為に対して。

 

「ごめんな。私は君をそうよくは育てられない。それでも、君はいつか王国を救う。そんな存在になってくれ。あぁ、君の未来にどんなことがあろうと、私は君を(とが)めない—————私の可愛い養子(こども)よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから年月が経ち、その女の子はとても勇ましく成長しました。一人で森の動物を狩猟し、食べられる植物を採取し、川の魚を釣り、木は一人で切り倒せる。それほど成長していました。その頃には男は年老いて、鍛冶屋としての仕事しかできませんでした。食料の調達は主に女の子がしていたのです。

 

 しかし、女の子は鍛冶ができないわけではありません。いや、むしろ鍛冶の仕事の方ができるのです。剣の扱いはあまり得意ではなく、狩猟など専用の剣の振るいでしたが、鍛冶の腕前はとても素晴らしいものでした。しかし男は女の子に鍛冶の仕事をやらせませんでした。いつか、国の頂点に立つ者は剣を鍛え上げるよりも、剣を振る方が大事だと考えていたからです。

 

 男は女の子に剣の扱いを教えていましたが、女の子はそれほど扱いは上手くありませんでした。男は落胆しながらも、特に不自由なく過ごしていました。

 

 表面上は。

 

 やはり、女の子を男の子として育てるのには無理がありました。女の子は男の子だと言われ続けていましたが、だんだんとその発言を疑うようになりました。男と女の身体的違いは明らかであるのに、男だと言われ続ける。やがて、それが疑心というものを生みました。

 

 女の子は仕事の合間、狩猟の最中に街に降りるようになりました。目的は本でした。その頃、本は珍しいものでした。が、その国は時代にしては文明が栄えている方で、本が少しばかりあったのです。

 

 女の子は自分が何なのかをよく本で調べていました。それから色々なことを知りました。少しばかりの魔術を覚え、いい狩猟方法も知りました。

 

 それから、女の子はまるで本に、勉強というものに恋をしたように本を探しに行きました。が、しかしそれが男にバレないわけがありません。男は女の子が街に降りていることをしり、遊びに行っているのだと勘違いをしてしまいました。

 

 男は女の子に言いました。

 

「遊びに行くのか?まだ仕事があるぞ」

 

 男は険しい顔で女の子にそう言いました。女の子はすぐさま反論しました。

 

「遊びに行くのではありません。私は自分が何なのかを知りたいのです。男なのか、女なのか」

 

 女の子は必死でした。自分のことですから、知りたいに決まっています。もちろん、男も必死でした。今、本当のことを言うべきか、そうでないか迷いました。本当のことを言ってしまったら王国はどうなってしまうのか。嘘を言ったら彼女に嫌われてしまうのではないかと。

 

 しかし結局、男は嘘をつきました。女の子に、お前は男だと言ったのです。けれど、女の子はそれが嘘だとわかりました。男の悔しそうな顔を見たら、分からないわけがありません。本当のことを言えずにすまないと、表情からその言葉が浮かんでいたのです。

 

 女の子は自分が男ではないと悟りました。けど、それを心の中の隅っこの方に押しのけて見ないふりをしていました。知らない、私は知らないと無視をし続けていました。

 

 けれども、やはりそんなもの無視し続けることなんてできません。なので、女の子は街へ出かけ、服を編むということを知りました。街の女性たちの服が羨ましかったのです。

 

 それは、いつの時代も同じ事です。周りがみんなしているのに、自分はしていないとしたくなる。そんなものです。

 

 そして彼女は何度も街の服屋に通いつめて、女性ような服を得ました。そして、女性は剣を振らないと知りました。

 

 彼女は自分が女性であると知りながら、男の言われた通り男の行動をする。それがおかしく思えてきました。もちろん、まだ彼女はなぜ男の行動をさせられているのかなんて知りません。自分が王族の血を継ぐ者だとは思ってもしないでしょう。

 

 彼女は言いたいことはきっぱりと言うような性格の人でした。だから、男に面と向かって言ってしまったのです。

 

「なぜ、私は男として生きていかなければならないのか?」

 

 男は女の子に何度もお前は男だと言い聞かせましたが、もう女の子が折れることはありませんでした。芯の強い彼女は折れなかった。そんな彼女を見て男はため息をつきました。

 

「お前は王族の血を継ぐ者だ。王となるためなら、お前は男として生きていかなければならない」

 

 しかし、女の子はそんなことをいきなり言われても、意味がさっぱりわかりませんでした。自分が王族の血を継いでいると言われて、すぐにでも信用できるでしょうか。いいや、そんな人は誰一人としておりません。

 

 彼女もそうでした。男が本当のことを話しているのは彼女にも分かることでした。顔からして本当なのだと理解できました。でも、やっぱりそんなわけがないと思ってしまうのです。私はあなたの子であり、王族の血を継いではいないと。

 

 だから、男は本当のことを彼女に話してしまいました。なぜ、彼女がここにいるのか。彼女が何なのか。そして、自分は女の子に嘘をついていたのだと。

 

 女の子にはその言葉全てを信じることはできませんでした。(ひとみ)から流れた一粒の涙は心を穿(うが)ちました。嘘だと心の底から思いました。しかし、男の顔は、表情は本気そのものでした。だからこそ、嘘だと思いたかったのです。でも、やっぱり嘘ではない。そう心から認めざるを得なくなりました。

 

 まだ16歳ぐらいの彼女にとってその真実はあまりにも辛すぎるものでした。現実が彼女を突き刺すのです。今までの男との家族としての愛がまるで嘘であるかのように思えてきてしまうのです。私を育てていたのは、私への愛情は国のためだったのか。彼女はそう思ってしまいました。

 

 そして、この事実がたとえ、嘘でも(まこと)であっても、彼女を英雄へとするのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————悲劇の英雄へと。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。