Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回はいつもよりも少しだけ長いです。5000文字……。


マスターとサーヴァント

 雪方はライダーのマスターである。それは突然知ることとなった。多分、俺が雪方の令呪を見てしまったからだろう。だから、ライダーは俺たちに襲いかかった。

 

 ……いや、でも、それだと一つだけ疑問がある。なぜ、令呪を見たら襲いかかる?だって、令呪を見たのが普通の人だったのなら、令呪なんかただのアザに思えてしまう。つまり、攻撃してくるということは、俺がマスターであると知っていたということになる。

 

「……一体、いつから?いつからだ?」

 

 情報が漏れているのだろうか?確かに、なんだかんだ言って、アーチャーとバーサーカーの陣営には顔を知られてしまっている。考えたくはないが、アサシンが、セイギが漏らしたという可能性だってある。

 

 しかし、漏れたということは誰かと繋がっていたということになる。つまり、アーチャーか、バーサーカーか、アサシンか。もし、アーチャーだったら、今夜の誘いは罠として捉えるのが妥当(だとう)となる。

 

 わかんない。わかんないけど、俺は今、すごく怖い。同級生相手に、殺し合いをしないといけないから。

 

 アーチャーの言っていた言葉を思い出す。

 

『聖杯戦争は殺し合いだ』

 

 その言葉が嫌だから、嫌だから、俺は逃げようとする。覚悟も決めていない弱虫(チキン)な俺は今、その最悪の状況を避けようとばかり努力する。

 

「なぁ、何で殺し合わないといけないんだよ。雪方」

 

 俺の弱々しい言葉は雪方には届かず、彼女は「ごめん」と呟くだけだった。辛かった。知り合い、いや友達と殺し合いなんてしたくない、なのにしないといけない。それが胸を抉るような痛みを生じさせる。

 

「ヨウ‼︎しっかり前を向いて‼︎」

 

 セイバーはライダーと交戦していた。それを俺はただ見ていただけだった。ぼぉっとセイバーが押されているのを見ていた。

 

 例え、彼女の剣技はセイバーのクラスの恩恵があったとしても、人に向けるために剣を磨いたのではない。だから、俺にも遅れをとっている。生まれてから少ししか剣を振ったことのない俺に遅れをとっているのである。

 

 このままではセイバーは負ける。それは明白な事実であった。それはセイバーもわかっていた。だから、セイバーは俺に助けを求めた。この時、初めて彼女に求められた。

 

 でも、俺は抱いてはならない邪念を抱いていた。もし、このままセイバーが倒されれば、俺は聖杯戦争とは無関係の人となる。そうすれば、もう殺し合いをしなくていいし、辛い現実から目を(そむ)けたまま生きていける。そう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲間に出会えた……」

 

 自分で言った言葉が俺の頭の中を駆け巡る。友達と殺し合いをしたくないから、仲間を裏切る?

 

 

 

 

 

 

 

 自然と足は動いた。大声を出し、学校の通学カバンを大きく振り回して、ライダーに向かっていた。

 

 ライダーは驚いたように俺を見る。その時、ライダーの視線は俺の方に向かっていた。予想外のことだったのだろうか?ライダーは丸太みたいなトンファーを俺に向ける。

 

 が、全てが予想通りである。

 

「セイバー!剣を!」

 

 剣を持ってなどいない。なら、セイバーから借りるまでである。ライダーの視線は俺に向いていたため、セイバーは死角にいた。ライダーは死角にいるセイバーを攻撃する。この時セイバーが攻撃しようとしていたら、彼女の剣が届く前に彼女の脇腹にトンファーが当たっている。だから、前へ詰め寄らずに、剣を俺に投げた。

 

 セイバーが投げた剣を俺が掴んだ。ライダーは俺たちに攻撃を仕掛けるが、俺たちは後方に回避する。

 

「ごめん、セイバー。遅くなった」

 

 俺はセイバーに謝った。けど、セイバーは笑ったのである。ニコッとした笑み。そんな彼女の笑みを見たのも初めてだった。

 

「嬉しいです。本当は、もう来てくれないんじゃないかと思ってしまいました。この聖杯戦争に巻き込まれたのですから、抜けるのも自由です。それでも、私を助けてくれたたことが嬉しいです」

 

 その笑顔はとても恋しいものであった。ああ、そんな笑顔、失いたくない。そう思ってしまう。(はかな)く消えた彼女の笑顔が、今、目の前で笑っている。俺がセイギや鈴鹿に会った時のように、彼女にとって俺は笑顔の種でありたい。そうふと願ってしまった。

 

「さぁ、聖杯戦争をはじめようか」

 

 俺はライダーと雪方の方を向いた。めちゃめちゃカッコよく決めたつもりだった。背景にキラキラをつけたいぐらい。

 

 が、ライダーの様子がおかしい。ライダーは頭をぽりぽりとかいて、困った顔をする。

 

「う〜ん、やっぱり倒さないとダメかな?」

 

「ダメよ!私だって覚悟したの。倒すのはセイバーだけでいいの」

 

「でもなぁ〜、サーヴァントだとしても、人の形をしていることに変わりはないからなぁ〜。殺せないよ〜」

 

 ライダーは俺たちと戦うことを躊躇(ちゅうちょ)している。それは多分、俺たちが強いというわけではない。アーチャーからも言われた通り、俺たちは最弱コンビである。

 

 今、俺たちの目の前にいるライダーのサーヴァントはあまり戦闘を好むような人じゃないらしい。多分、アーチャーとは反対の人。

 

「ライダー!セイバーだけでいいの。相手のマスターは攻撃しなくていいから」

 

「ん?マスター、何で相手のマスターを(かば)うのかい?」

 

「べ、別にいいじゃない……」

 

「好きなのかい?」

 

「な、なわけないじゃない……」

 

 ライダーは特に悪心(あくしん)を抱いて、雪方にそう言ったわけではないのだろう。が、その言葉は結構エグい。年頃の少年少女たちはそのような事に敏感なのである。

 

 少女は顔を赤らめ、少年は下を向く。騎士は剣を強く握る。

 

「ライダー、戦いなさい。さもないと、令呪を使うから」

 

「ええっ?嘘?それはあまりお勧めしないんだよなぁ」

 

「じゃぁ、セイバーを倒して」

 

 ライダーは「やれやれ」と言うと、力を抜く。目を閉じ、深呼吸する。そして、彼は目を開けた。その時の目は覇気を帯びており、少し怖気付いてしまった。ライダーはセイバーには持っていない何かを持っていた。

 

 バンッ‼︎ライダーのコンクリートの地面を踏みしめる音が響いた。

 

 ライダーはたった一歩。たった一歩でセイバーとの間合いを一気に詰めた。トンファーは間合いを詰めて戦う、だから(ふところ)に入られたら、多分剣は不利。しかも、対人用の剣技を習得してないセイバーにとってこの状況は絶対絶命である。

 

 ライダーはセイバーの方しか向いていなかった。だから、俺は攻撃を仕掛けやすかった。ライダーに向かって俺は縦に剣を振った。

 

「何ッ⁉︎」

 

 剣は見事にライダーの懐に入った。ライダーは俺が攻撃をしないと思っていたらしい。

 

 決まった。そう思っていた。

 

 けど、俺の振った剣はよくしなることに気づいた。その剣は両方に刃のない突くということに特化した剣、レイピア。

 

 もちろん、その時、何でライダーの体が傷つかないのか、俺は全然わからなかった。いや、それは俺だけじゃない。セイバーも、ライダーも、雪方も。その場の全員がわからなかった。

 

 が、よく考えてみたらあることに気づいた。そのことについて聞き出したかった。なので、ライダーと交戦中であるセイバーに話しかけた。

 

「おい、セイバー」

 

「何ッ、ですかっ?今、話せないんですッ!」

 

 そうだよな。そう思って、俺は彼女に話しかけるのをやめる。そうである。さすがに、ドジで天然なセイバーであっても、自身の剣ぐらいは間違えるはずがない。

 

 そう心の中で念じて、剣を見る。

 

 変わらず、レイピアである。

 

「セイバァァァァ‼︎なんで自分の剣、間違えとんじゃぁぁぁ‼︎」

 

 一応、俺が使う剣は短剣、セイバーが使う剣はレイピアと古びた剣という風に決めていた。だから、俺に短剣を渡してくれればよかったものの、セイバーはそれを間違えた。

 

 しかも、セイバーのレイピアは刃のないタイプのレイピア。完全に突くという攻撃に特化しているものであり、軽量ではあるものの、突くという攻撃技術をあまり取らないのが月城流剣術、並びに鈴鹿の剣術。

 

 つまり、簡単に言えば、セイバーはやっちゃいけないことを大事な時にやらかしてくれたのである。本当に、セイバー様様(さまさま)である。

 

 最初、セイバーは俺の言っていることがまったくと言っていいほどわかっていなかったが、言っていることがわかると彼女は俺に笑いかけてこう言う。

 

「まぁ、それで頑張ってください」

 

 できないから言っているんでしょうがぁぁ!何なの?俺、人生で初めてレイピア触ったんだから!初めてで、サーヴァントを倒す?無理無理!

 

 俺とセイバーが困った顔をしていると、ライダーの手が止まった。そして、セイバーの肩をポンポンと叩いて、心配そうな顔でこう言う。

 

「大丈夫ですか……?」

 

 あんたが心配してどうするッ⁉︎お前は敵だよ‼︎心配するなよ‼︎攻撃しろよ‼︎優しすぎて、やる気失せるわ‼︎

 

「ライダー、攻撃して‼︎」

 

 そうだ、そうだ。攻撃しろ!調子狂うだろ!

 

「えー、だって困ってる人のこと放っておけないよ」

 

 お前が一番困らせてんだよ!一番俺たちを困らせてんのはお前みたいな存在だよ‼︎攻撃しずらいわ!雪方の言ってることが悪いように聞こえるけど、彼女の言っていることが正論である。

 

 ……えっ?これって本当に殺し合い?

 

 聖杯戦争って殺し合いじゃないの?なんか俺の覚悟が無駄なようにも思えるんだけど。

 

 そう思っていたら、雪方が「準備完了」と(つぶや)いた。その言葉を俺は見逃さなかった。

 

 セイバーはライダーの方しか見ていなかった。雪方はノーマークである。雪方はスタンガンを俺たちの方に向けていた。ヤバイ予感がした。

 

「ライダー!逃げて!」

「セイバー!気をつけろ!」

 

 みんなが雪方の方を向いた。雪方はスタンガンを前に向けて、ポチッとボタンを押した。

 

暴走電圧機(バースト)‼︎‼︎」

 

 その瞬間、前に向けて電撃が目にも留まらぬ速さで俺たちを襲う。稲妻が横から来るかの如く、(まばゆ)い光を残して扇型に広がる。

 

 反射神経である。反射神経で、受け止めようと左手を前に伸ばした。

 

 ビヂンッ‼︎

 

 一瞬だが、体に激痛がはしる。痛い。痛い。けど、なぜか気絶しなかった。痛いだけである。謎である。けど、今そんなのはどうだっていい。まだ、剣を振れる。それに越した事はない。

 

 セイバーを見た。すると、セイバーは剣を構えたまま動いていない。

 

 が、しかし、彼女は前に倒れていく。その光景が俺にはスローモーションに見えた。

 

 セイバーは防御体勢をとるのが遅かった。だから、電撃の速さに負けたのだろう。

 

 倒れ行くセイバー、その姿を見たとき俺は呆然とした。時が止まったかのように思えて、(まばた)きなんてできやしなかった。

 

 誰もがセイバーは負けた。そう思った。

 

 が、彼女は倒れ行く最後の時に、地面にバンッと手をついた。根性である。剣を地面に突き刺し、歯を食いしばり、立とうとする。が、しかし立つことはできない。死ぬことはなくとも、痺れていてまともに動けなかった。

 

 雪方はしょうがない。そう思ったのだろう。右手を天に向けた。自ら手を下す、誰かを傷つけることを嫌うライダーにセイバーを片付けさせるためにはこの手しかない。

 

「令呪をもって命ず!ライダー、セイバーを今すぐ殺しなさい!」

 

 雪方のその判断は実に正しかった。セイバーは動けないし、俺は使い慣れてない武器で戦うことになる。ライダーは令呪の力のせいで、容赦なくセイバーに攻撃する。まぁ、この状況だったら、確実にセイバーを殺せる。

 

 ライダーは嫌そうは顔をしながらも、体はセイバーを殺しにいく。彼専用のトンファーを振りかざし、セイバーに向ける。セイバーは歯を食いしばりながらも、まだ動くことさえできやしない。

 

 セイバーは死んだと思った。もう、自分は願いを叶えることができないのだと。自分が人殺しの剣術を知らないばかりになってしまった結末。悔しく思った。

 

 さっき言ったように、雪方の判断は正しかった。素晴らしいものである。

 

 が、しかし彼女はあることを頭の中に入れていないのである。

 

 彼女はサーヴァントを元人間だと思っていても、人間とは思っていなくて、あくまで幽霊だと考えている。それに、彼女はサーヴァントのことを軽く見すぎていた。だから、ライダーの考えを一方的に令呪で潰した。だから、彼女にはわからないことがある。

 

 俺にはそれが何だか知っている。

 

 それはサーヴァントが心を持つということ。そしてサーヴァントは使役するものではない。共に肩を並べて生きるものであると、彼女は知らない。

 

 誤算である。

 

「我・身体強化(パワーエフェクト)‼︎」

 

 俺は地面がへこむほど強く、強く蹴った。ライダーのトンファーがセイバーに当たるよりも早く俺がセイバーに着く。

 

 鈍い金属音が町中に響いた。

 

 俺の持っていたレイピアと、セイバーが地面に刺した短剣を手にライダーの攻撃を受け止めた。腕の筋肉が盛り上がる。力強い一撃を防げた。重い衝撃は骨に響く。

 

「言ったろ……。仲間に、出会えたんだッ‼︎初めて、似た境遇のヤツと一緒にいられる。嬉しいんだよ‼︎だから、ここでくたばってもらってもなんの意味もねぇじゃねぇか‼︎」


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