Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回のラストぐらいからバトルっぽくなってきます。


忍びよる影

 放課後、俺はセイギと一緒に、また同じ道を歩く。いつもの道が物凄くだるく思えた。

 

 雨はもう降ってはいない。それでも、俺は歩かねばならないのだ。朝、雨が降っていなければ自転車で帰れたのにと考えてしまう。道の上にある水たまりを避けながら通る道。向かいの道ではランドセルを背負った子供たちが水たまりで遊んでいる。子供たちの無作為で無邪気な笑顔が水たまりに映っていた。

 

 俺はそんな子供らを見ていて、少しだけ疑問を持った。俺にもあんなに無邪気に笑う時はあったのだろうかと。

 

 でも、俺は考えるのをやめた。自分の子供の頃の記憶はあまりにも少ない。何が起きたのか、自分は何をしていたのかというような記憶が全然ないのだ。

 

 ただ、一つだけ覚えている記憶がある。それは俺が唯一覚えている父さんと母さんの記憶。でも、それは父さんと母さんが俺から離れようとしている所である。俺が泣きじゃくって母さんにしがみついて、爺ちゃんはそんな俺を母さんから引き離す。母さんも涙を流していた。そして、父さんと母さんは何処かへ行ってしまった。—————俺の知らない何処か遠くへ。

 

 これが十数年前の(わず)かに覚えている記憶の断片(だんぺん)である。

 

 俺はあの時、何で泣いてたのかも覚えてない。けど、今なら推測はできる。

 

 父さんと母さんは『聖杯戦争』へ行ったんだ。と言っても聖杯戦争がどのようなものなのかも俺は詳しくは知らない。ただ、爺ちゃんが酒を飲んだ時にその言葉をぽろっと俺に言ってしまった。その時、俺は聖杯戦争の存在を知ったのだ。何でも、人の願いを何でも叶えられるものだとか。

 

 ……まぁ、どうせ空想上の存在だとしか思っていないし、本当にあるのかという真偽(しんぎ)(さだ)かではない。

 

 ただ、本当にあるとすれば、父さんと母さんに会いたいという願いを叶えたい。一度だけでいいから。

 

 俺たち二人はトボトボといつもの帰り道を4分の1倍速で歩いていると、何となくだけど視線を感じた。まるで、自分が獲物に狙われたような気がした。恐ろしいほど、一瞬の殺気を感じたのだ。

 

 すると、セイギがこんな事を言い出した。不気味にまで思えた殺気を打ち消すかのように。

 

「—————あっ、そういえば今日は用事があったんだ。だからさ、今日は僕はこっちで帰るから」

 

「え、あぁ………。そっちって赤日山の方じゃねぇの?」

 

「まぁまぁ、いいじゃん。じゃぁね〜」

 

 セイギの返事は少し曖昧(あいまい)だった。けど、俺の考えの中にはクエスチョンマークがつくことはなかった。いつものセイギとなんら変わりはない。だから、いつもの日常が少しずつ変わり始めているのに俺は気付かなかった。

 

 セイギと別れた後、俺は家への道を寄り道せずに帰る。寄り道などしても何にも面白いものなんてない。毎日が白と黒だけで表現できる。

 

 家に帰ると爺ちゃんがいた。爺ちゃんは竹刀(しない)を持って玄関の前に立っている。こりゃ、今日もなのか。

 

 爺ちゃんは険しい顔をして俺を見た。というより、不機嫌そうな顔。多分、また道場で何かあったな。

 

「おい!ヨウ‼︎どこへ行っていた⁉︎」

 

「いや、学校だよ……」

 

「遅いじゃないか!」

 

「だって雨降ってたんだから自転車で通学できなかったの!」

 

 俺がそう言うと爺ちゃんは竹刀を地面にパンッと叩きつけた。

 

「まったく、最近の若いもんはなぜこうもダラけておるのだ⁉︎日本男児としてあるまじき醜態(しゅうたい)じゃ‼︎」

 

「まぁ、俺は今現在の日本男児だからね」

 

 そんな事言われた爺ちゃんはまた決まり悪そうな顔をした。「けしからん‼︎」って言いながら庭の方に移動する。その隙に、俺は玄関から家に入って二階にある自分の部屋に行く。

 

 そこで俺はふぅと一息をついた。

 

 爺ちゃんは自分の道場を持っていて、そこで先生をやっている。それだけあって、爺ちゃんが竹刀を持ったら俺みたいな武道を本格的にしていない俺はまず勝てない。だから、俺は爺ちゃんの機嫌を(そこ)ねないように努力している。

 

 けど、この頃爺ちゃんの道場から辞める人が続出しているらしく爺ちゃんはいつも機嫌が悪い。なんでも、爺ちゃんが厳しすぎて嫌になる程だとか。

 

 爺ちゃんが機嫌を損ねてしまうと、つけは俺に回ってくる。そういう時こそ、『相手にしない』が役に立つ。実際に、この手の方法で何回か生き延びている。

 

 俺はまた爺ちゃんが何かグチグチ言わないうちに、夕食の用意と風呂の支度をした。さて、今日は何を作ろうか。

 

 いつもの日常。

 

 そんな日常は俺の目の前で過ぎていた。

 

 でも、そんな日常の中に非日常があって、その歯車も俺の目で見えない所で確かに回っている。

 

 俺は、多分その歯車に巻き込まれたんだ。

 

 日常が日常でなくなったのはここから7時間後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————アーチャー、命令よ」

 

「何だ?またか?まったく、俺のマスターは人使いが荒いな。美人と言われても性格がこれじゃぁなぁ……。そんなに俺に命令をさせたいなら令呪でも使ってくれ」

 

「嫌よ。私、結構出し惜しみするタイプなの」

 

「…………はぁ、分かったよ。今回で最後だからな」

 

「ええ、今回あなたにやってきてもらうあの任務はもう最後よ」

 

「じゃぁ、他のサーヴァントはもう召喚されたのか?」

 

「ええ。だから、あなたには最後のサーヴァントの魔法陣を破壊してもらうわ。まぁ、できればサーヴァントを殺して欲しいのだけれど、あまり大事(おおごと)にはしたくないから」

 

「分かった。じゃぁ、決行の時刻は勝手に決めていいんだろ?」

 

「ええ。なるべく早くね。……この織丘は私の場所なの。だから、誰にも壊させないし、戦争なんて起こさない—————」

 


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