Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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素直に仲直り

 アサシンとセイバー。二人は縁側に座って星を見ていた。晴天の空、雲ひとつない。星が輝き、人が星と星を結び、運命を作る。運命が数々の物語を生み、その物語が星に命を与える。星は北極星を中心に円を描いて動くらしいが、その動きは少しスロー過ぎて目が乾く。

 

「セイバーちゃんは仲直りしようとしたの?」

 

 アサシンはセイバーに優しく話しかける。でもセイバーはアサシンの顔を見ようとしない。

 

「まだ……していません」

 

「なら、仲直りしなさいな。ヨウ君だってきっと許してくれるから」

 

 アサシンはそう言ってくれるが、セイバーはそうだとは思えないのだ。ヨウがいい人だと知っている。けれど、自分はヨウに強く当たってしまったし、何より自分はヨウの身を守ることができないような弱いサーヴァントであると自覚している。だから、ヨウとはあまり顔を合わせたくないのだ。

 

 ヨウは自ら聖杯戦争に参戦したわけではない。だから、本当だったら、彼は聖杯戦争に参戦しない一般人だった。そんなヨウが自分をセイバーとして呼び出してくれた。それはセイバーにとって望みを叶えるチャンスである。なら、セイバーがすることは、ヨウを全力で守ること。それがセイバーのすることである。

 

 なのに、セイバーは何もできない。それが、すごく悔しかった。いくら剣を振ってもそれは人を守るための剣術でもなければ、人を殺すための剣技でもない。ヨウを守る剣には遠い存在であった。

 

 セイバーは自分が何もできないということが辛いのだ。だから、その辛さをヨウに与えてしまっている。悪いのはわかっている。全て自分が悪いと。

 

 アサシンはセイバーにこう助言した。

 

「あのね、セイバーちゃん。まずは身近な問題に対して真剣に向き合うの。そんな根本をどうしようとか考えたって無理な問題は無理なの。なら、まずは手の届くところから。そうすれば少しはすっきりするから」

 

「本当に上手くいくでしょうか……」

 

「さぁ、セイバーちゃん次第だから。まぁ、無理そうな時は股を開くしかないわね」

 

「んなっ⁉︎そ、そんな、け、結婚してもないのに‼︎」

 

「セイバーちゃんは奥手すぎよ〜。少しはガバッと積極的にいかないと」

 

「ア、アサシン!か!からかわないでください」

 

「うん。からかってる」

 

 アサシンはニコッと皮肉と言われてもいいような笑みである。でも、確かにセイバーは奥手すぎる。人と接するということをあまりしてこなかったからどう人と話せば良いのか分からない。それが枷になってしまっているとしても、今、彼女は変わらねばならない。そうしなければ、ヨウとの溝はさらに深まり、それが原因で命を落とす可能性だってある。

 

 聖杯戦争は一人でしているのではない。魔術師(マスター)英霊(サーヴァント)の二人で一つである。聖杯戦争とは殺し合いかもしれない。それでも生き残る。それは一人だと寂しいから、そうではないのだろうか。辛い思いを二人で分け合えば、前に進むことができる。そういうものだとセイバーは感じた。

 

「あと、どんな時もヨウ君と一緒にいるといい。そうすれば彼のことがわかるから。彼は優しい。きっとあなたのこともわかってくれる」

 

 アサシンは居間に戻ろうとする。そんなアサシンにセイバーは一つ聞いた。

 

「私が、私が剣士(セイバー)などと名乗ってもいいのですか?」

 

「ん?さぁ、どうだろうね。まぁ、こっち的にはセイバーなんかじゃなくて、真名を教えて欲しいけど、それはフェアじゃない」

 

 アサシンは腕を組み考えた。が、特にいい答えが出てこないので、テキトーに答えた。

 

「半人前の剣士(セイバー)でいいんじゃない?」

 

 事は時に難しく考えるから難しくなる。なら、簡単に考えればカンタンになるんじゃないだろうか?

 

 セイバーは笑った。

 

「そうですね」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一方、ヨウとセイギはリビングでぐうたらしていた。

 

「ねぇ、喧嘩?」

 

「……まぁ、そうだけど……」

 

 セイギは俺の顔を覗き込むように聞いてくる。ちょっとウザったい。けど、こんな事態を招いたのは俺のせいでもある。セイギとアサシンを呼んだのも俺。呼んだからには、俺は仲直りしなくちゃならない。

 

「ヨウは何でセイバーと喧嘩したの?」

 

「いや、なんかあいつ見てると、そのイライラするっていうか、なんというか……」

 

「それは恋だよ」

 

「お前はもうちょっと本気で考えてよ」

 

 セイギは笑う。もちろん、多分本気で考えてくれているんだ。ただ、ジョークを混ぜて俺を安心させてる。

 

 セイギはなんだかんだ言って最後は人のために何かをするタイプの人。だから、俺のこともちゃんと考えてくれている。ただ、それをヘラヘラした皮で覆っているだけ。何年も腐れ縁の仲だからわかってしまう。

 

 ……いや、でもこれは俺の問題である。セイギに頼ってばかりではいけないのだ。

 

「ヨウはさ、こんなこと知ってる?」

 

「ん?」

 

 セイギはミカンを俺に見せた。

 

「あのさ、ミカンってのは腐りやすいんだ。だから、出荷の際に一つでも腐ったミカンがあったら箱に入ったミカンは全部腐ってしまう。そしたら売れる売れないとかより前提の問題」

 

「それがなんだって言うんだよ」

 

「あのさ、今、ヨウは腐ってるんだよ。腐ってしまったら、それが周りの他の人にも迷惑をかけてしまう。その結果、全滅(ジ・エンド)もあり得るわけ」

 

「じゃぁ、その、俺、今迷惑かけてる?」

 

「あったりまえじゃーん。僕は夜の魔術の修行を(おこた)ってまでここに来たんだ。で、来てみたら仲直りの手助け?ハッ!小学生じゃないんだからさ、そこらへんは自分らでやってよ」

 

「いや、その……ごめん……」

 

 俺はセイギに頭を下げて謝った。セイギは剥いたミカンの皮を俺の頭に()せる。

 

「僕に謝らないでよ。謝るならセイバーに謝りなよ。セイバーはもっと迷惑がかかっているんだからさ」

 

「その……ごめん」

 

 俺は頭が上がらなかった。小さい頃から、俺は一人では何もできなかった。セイギがいたから問題を解決することができた。聖杯戦争でも、何もできない自分が悔しい。

 

 バーサーカーと対峙した時、セイバーは女の子なのに俺を守ろうとした。剣を持ち、俺の前に立った。俺にはない勇気があったんだ。

 

 自分一人じゃ何もできない。それが悔しい。

 

「まぁ、本当は僕も何もできないよ。言葉は並べることができても、結局僕は何もできない。アサシンがそういう問題ごとを起こさないようにしてるんだ。アサシンはいつも僕に合わせてくれるし、僕に従ってくれる。だから、本当は僕なんかのアドバイスをあてにしちゃダメなんだけどね」

 

「いや、ありがとう。自信ついた気がする」

 

 俺はセイギに笑ってグーサインを送る。セイギも笑ってグーサインを返す。

 

「じゃ、謝ってくるわ」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

 で、俺が庭に向かおうとした時、セイバーとアサシンが戻ってきた。

 

 セイバーはもじもじしながら、俺の前に立った。彼女の顔は赤い。もちろん、分かってる。これ以上、俺とセイバーの溝を深くしてはならない。

 

「その……」

 

「あっ、は……」

 

 セイギとアサシンは俺たち二人を見る。すごく恥ずかしいけど、謝らないと。が、なんかアサシンの顔が少しだけニタニタしているような気がするのだが……。いや、まぁ、気のせいだ。

 

 俺とセイバーは同時にものを申した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その、セイバーごめん。今まで強く当たって……」

 

 

「ヨ、ヨウ!わ、私を、は、伴侶にしてくださいッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ん?今、なんか聞こえなかったか?

 

 いや、気のせいだ。

 

 ……。

 

 おい、ちょっと待て。今なんて言った⁉︎

 

 下げた頭を勝手に上げて、セイバーを見る。見ると、彼女はまさに顔面夕照(せきしょう)。で、俺の頭は疑問の嵐が巻き起こる。

 

 俺はセイギを見た。が、セイギも目を点にして、硬直している。

 

 ……ああ、お前か。

 

「おい、アサシン。ちょっと待て、これはどういうことだ?説明してもらおうか」

 

「いや、簡単なことよ。二人仲良く夫婦になれば団結できるって。それに女は股を開けばナンボよ」

 

 何て変な事をセイバーに吹き込んだんだんダァァァァァ‼︎

 


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