Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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二人に空いた溝

 アーチャー陣営からの誘い。俺はまだ決断できないでいた。決断するまでの猶予(ゆうよ)は一週間。一週間だからと決断するのを先延ばしに、先延ばしにしていたら、もう残り二日となってしまった。

 

 俺は事あるごとにセイバーとぶつかる。セイバーの意見とぶち当たり、いつもそれは心の中にわだかまりを作る。口喧嘩をした後、セイバーはいつも霊体化に戻る。俺と顔を合わせたくないのだろうか。

 

 本当はちゃんとセイバーと話をしないといけない。彼女が誰なのかっていうこともそうだし、アーチャー陣営からの誘いをどうするかということもきちんと話さないと。

 

 でも、俺は彼女を見ているとすごくぶつかりたくなる。彼女が、昔の俺みたいに似ていていると、心の中でどこかそう思えてしまう。俺は大人になって客観的に昔の自分を見ているように思えてしまうし、そうなると「こんなの俺じゃない」って思ってしまうのが本音。でも、そんな私情をセイバーに話したくないから、それを塗り潰そうとしてセイバーを傷つけてしまっているのかもしれない。

 

 で、今日なんかは、全然話していない。というより、彼女はずっと霊体化している。彼女と俺は合わないのかと思う時もある。合わないと思いたい。そうすれば俺は悪くない。けど、やっぱりそう思えない。自分が強く当たっていて、合わなくしているだけなんだ。

 

 だから、今日は助っ人を呼んだ。

 

「ピンポーン」

 

 午後11時。家のインターホンが鳴る。居間にいた俺は玄関まで行く。

 

「よく来たな」

 

 そこにいるのはセイギとアサシンである。

 

「よく来たなって、そんな遠くないじゃん」

 

「いや、まぁ、そうだけどさ。こんな夜中によく来たなって意味でさ」

 

「そう?聖杯戦争はこの時間帯は普通だよ」

 

 セイギはそう言うと家の中に入る。アサシンも家の中に入ろうとした。そんなアサシンが何か変わったような気がした。

 

「お前、少し髪染めた?」

 

 アサシンの髪は少しだけ金髪がかっていた。ほんの()っすらとだが、前見た時よりは違うことに気付いた。

 

「あら?それは私を口説いているの?」

 

「いや、そうじゃないけどさ。何となく変わったなって思って。あと、なんか嗅ぎ慣れた匂いもするんだよ。なんか、お前から」

 

「やっぱり口説いてる?まぁ、セイギのお友達なら夜の愛人としてでも……」

 

「いや、嬉しいけど違うから‼︎」

 

 アサシンは俺を夜の誘惑に誘う。それに誘われそうになったけれど、何とか俺の理性がそれを阻止した。アサシンも靴を脱いで家の中に入る。

 

 その時、やっぱり嗅ぎ慣れた匂いが俺の前を通る。甘い洗剤のいい匂い。それに、アサシンの後ろ姿がスゲェ誰かに似ているように思えてしまう。この前会った時には気付かなかったのだが。でも、誰に似ているのかが思い出せない。

 

 セイギとアサシンは居間にいた。ソファに座ってテレビを見てる。人の家に来たのにくつろぎすぎだろ。少しは他人の家だってこと自覚しろよ。

 

「わぁ、ヨウの家のソファ、柔らか〜い。うちのよりも全っ然‼︎」

 

「そりゃ有難うございます」

 

「あっ、月城家秘伝の麦茶ね」

 

「秘伝じゃねぇよ!コンビニで買ってきた麦茶だわ。あと、俺を店員みたいに扱うな!」

 

 とまぁ、言ったものの、呼び出したのは俺だし仕方なく麦茶を入れてやる。で、二人の前にポンっと差し出す。

 

 俺はソファの後ろにある椅子に座り二人を見ていた。アサシンをじぃっと見てみる。その姿は確かに誰かに似ているのがわかる。が、誰だかの見当がつかない。誰だっけ?で終わってしまう。

 

「そう言えばさ、ヨウ」

 

「ん?どした?」

 

「おじさんは?」

 

「ああ、爺ちゃんなら今日は修行デーだよ。毎月ゼロのつく日は修行に行ってて帰ってこない」

 

「だから、こんな夜遅くに僕を呼べたのか」

 

「まぁな」

 

 セイギはテーブルの上に置いてあるミカンを勝手に取って食べる。まぁ、別にミカンはそこまで高価なものではないからいいのだけれど。

 

「このミカンおいしいね」

 

「了承も得ず、勝手にミカン食ってるお前は頭おかしいね」

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ。そういえばセイバーは?いないみたいだけど」

 

「えっ?ああ、あいつなら今庭で素振りをしてる」

 

 俺の声が少しだけ暗かったのか、アサシンは疑問を感じた。アサシンはソファから立ち上がり、セイバーに会いに行くと言って庭へ向かう。

 

 庭では、セイバーが素振りをしていた。カカシを敵だと仮定して、竹刀を振っている。

 

 が、見ていてわかる。彼女は剣士としてあまり強くない。それは多分剣を振るったことのある俺だからこそわかることなのかもしれない。

 

 まず、彼女の剣の振りは大きすぎる。それではどこに当たるかわからないし、腕を振り下ろすまでに斬られてしまうかもしれない。

 

 また彼女はよく動く。それはステップをよく踏むということである。間合いが狭く、攻撃があまり届かない。だから、届かせようとするために敵の周りを動くのである。この戦法は一対一の時は強いかもしれないが、敵が複数、または味方が複数の時は不利である。それに、スタミナの消費が激しい。

 

 つまり、ムダな動きが多いということである。それは時に彼女が負ける原因の一つともなり得る。多分、彼女は人を殺すために剣を振っていたのではない。多分、あれは獲物を狩るための剣。すなわち彼女は人を殺すことに特化していない—————狩猟者(ハンター)である。

 

 図体(ずうたい)がデカイ敵なら、彼女は本気を出せるのかもしれない。または、パワーのないがスピードの速い敵などなら彼女は勝てる。彼女はパワーはないがスピードは結構速い。だからあとはスタミナがどうかという問題。

 

 でも、それでいいのかと言うとそういうわけではない。今のままではダメなのである。俺がさっきの述べたように図体のデカイ敵とパワーのない敵なら勝てるが、そんなのはまぁ多分ない。

 

 だって、今俺たちがやっていることは聖杯戦争。戦うのは魔術師と英霊である。英霊は人の中でも最高ランクに強い奴らである。つまり、そもそも剣術がそんなに上手くないセイバーは倒すことは難しいだろう。

 

 だから、今のセイバーだったら、他のサーヴァントの誰にも勝てない。

 

 アーチャーが俺たちのことを弱小コンビと言っていたが、それはあながち間違いではない。人を殺すことに躊躇(ちゅうちょ)して、ろくに魔術もできない俺。人を殺す技術を全然習得していないサーヴァント。このままでは、聖杯戦争に参加していても殺されるのがオチである。

 

 俺らは本当に弱い。多分、一番弱いんだ。今のままだと逃げ回るしか出来ないただのザコ。だから、アーチャーのマスターは俺たちを仲間にしようとしたんだ。

 

 簡単に切り捨てられる使い捨ての道具として。

 

 そんなに弱い俺たちがこの聖杯戦争で生き残るには強くなるしかない。なのに喧嘩なんかしてる。そんな場合じゃないということは考えてわかるけど、どうしてもそれを実行に移せなかった。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 アサシンは庭でセイバーの剣技を見ていた。竹刀をカカシに当てている、ただそれだけに見えてしまう。アサシンの目からしてもそれが雑な剣技であるのがわかる。それにアサシンはセイバーがバーサーカーと闘うところを見ていた。それからしてみてもセイバーがどのような剣士であるかがわかっているのだ。

 

「雑ね、そんな剣技じゃ」

 

 アサシンはセイバーに話しかけた。セイバーはニコッと優しい笑顔を振りまくアサシンが皮を被っているように感じた。

 

「ああ、いらっしゃったのですか」

 

「ええ、見てたわよ。あなたの剣」

 

「は、恥ずかしいですね。誰かに剣を……」

「単刀直入に言うけど、下手くそね。本当にそれでも剣士(セイバー)なの?」

 

 アサシンは同情なんて一切しない。だから相手に合わせて言葉を選ぶこともない。けれど、それがセイバーにしては嬉しかった。セイバーも本当は気づいていた。だから、聖杯戦争に勝てるか不安だった。どうしても叶えたい望みがある。けど、このままいけば望みどころかマスターとサーヴァントの二人とも死んでしまう。

 

 その不安が、マスターであるヨウと溝を生むこととなってしまった。

 

 彼女も本当は謝りたい。けど、どう謝ればいいのかが分からない。セイバーだってヨウに対して酷いことを随分言った。悪いと思ってる。けど、謝れないでいる。

 

 他人と話したことはあまりない。生前の失態である。だから、誰かと話すときも、どう話せば良いのかが分からないでいるのだ。

 

 アサシンはセイバーを抱きしめた。セイバーはその出来事に驚いてしまった。彼女は生まれて初めて誰かに抱きしめられたのだから。それが、女性であり、まるで母のようにも感じた。けど、彼女は自分の母親を知らない。母の(ぬく)もりを知らないのだ。

 

 アサシンは不安そうなセイバーを見て思わず抱きしめてしまった。人のことを考えることができない彼女が、なぜかそんなことをしてしまった。それは母性本能でのことである。

 

 セイバーは泣き出した。アサシンを母親だと思ったのだろうか?今まで聖杯戦争に生き残れるかという不安から解放されてつい泣いてしまった。その涙がアサシンにも変化を与えた。

 

 渇ききった、水分が抜けてミイラとなった死体の心が潤されていくのであった。


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