Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

次回更新が17日まで更新できないかもしれません。


嫌いだよ、何もかも

 道に落ちた葉を踏み、山を登る。葉は色々な音を立てながら俺の足によって砕かれて、土へと還る。

 

「ズボンが汚れるなぁ」

 

 あんまり俺は制服でこういう所に来たくはなかった。

 

 家の家事は何でもできる俺だが、別にしたくてしてるわけじゃない。ズボンが汚れた時洗うのは自分だし、アイロンがけも自分。ただ爺ちゃんはガサツなため、結局のところ俺が家事をしなければならないのだ。もし、爺ちゃんに家事を任せたらどうなることやら。

 

 俺は鈴鹿を見る。鈴鹿は変なところで『ヤマトナデシコ力』を発揮するから、そういう家事などの類はできるであろう。が、しかし彼女には問題が何点かある。

 

 一つは、彼女がこの山から出られないこと。彼女の遺骨はこの山の中にあるという。だからこの山から出ることはできない、いわば地縛霊である。

 

 小さい頃、彼女をこの山から出してあげようとこの山に埋まっているという遺骨を探したが、出て来なかった。鈴鹿によると、彼女が死んだのは1000年前のことだから遺骨は結構下の方にあるんだとか。もしかしたら、もう骨は砂となってしまったかもしれない。

 

 もう一つは彼女は現代人ではないということ。彼女は現代人じゃないから現代の家事なんて到底出来そうにもない。

 

「こりゃ、セイバーにお願いするしかないか」

 

「自分でやってください!それに、私が劣ってるみたいな言い方しないでください」

 

 いや、そう言われてもねぇ。外見的に、鈴鹿はヤマトナデシコだからなんでもできそうなんだよなぁ。そういう家事全般。それに対して、セイバーは剣しかできない女の子っぽそうだし。家事なんか一回もしたことないだろうし。

 

 はぁ、セイバーが家事をすることができたなら、生活が楽になるんだけどなぁ。多分、セイバーはお遣いもできないだろうし。

 

「ねぇ、セイバー。お遣いしたことある?」

 

「さすがにありますよ!それぐらい!主に鉄とか、動物の皮とか……」

 

「おい、どうした、セイバー。口が止まっているぞ。まさか、それだけ?」

 

「いっ、いや、待ってください。い、今言ったのはお金を使う方のお遣いです」

 

 お金を使う方のお遣い?何を言っているの、この子は?それ以外に何がある?

 

「さ、採取とか、狩猟とかはお手の物です!」

 

「何、そのサバイバルスキル。お前一人暮らしできるんじゃね?」

 

「いや、実際暮らしてましたし……」

 

「へぇ……」

 

 ……あれっ?待てよ。この流れって……。

 

 セイバーの名前聞きだせるパターンかっ⁉︎

 

 俺の心の中にあったモヤモヤ。セイバーの名前を聞きだせないから、気になって気になって。でも聞けないから心の中がモヤモヤし出す。そのモヤモヤを解消しようと巧妙な作戦を練ろうとした時、鈴鹿は「着いたぞ」と言った。バットタイミングである。もう少し時間があればセイバーの名前を聞き出せそうだったのに。

 

 俺たちが来た場所は一面木々が無く、山の中なのにそこだけ地面が傾いておらず、平らな土地。そこには小さな丸太が(ひも)で吊るされていたり、木がバラバラに切られて切り株がそこらかしこにある。

 

 その場所を初めて見るセイバーは「ここは?」と訊いてきた。

 

「ここは私とヨウの特訓場所だ。元々、ここはただ平らなだけだったが、特訓をしているうちに木を次々と切ってしまってな。気づいたらこのようになっていた」

 

「そゆこと」

 

 俺は鞄の中にあるセイバーから借りた剣を出す。

 

「ヨウ、それは真剣か?」

 

「ああ、セイバーから借りた」

 

 俺は鈴鹿にその剣を渡す。けれど、鈴鹿は幽霊なので触ることはできない。茶色い葉の上にポフッと落ちる。山の土が落ちた衝撃を吸収して、音は鳴らない。

 

「ああ、すまない。そういえば幽霊だったな。私は」

 

 鈴鹿はそう言うと自分の体を見る。悲しそうな顔で見るから、俺は目をそらした。心にヒビが入る音が聞こえた。

 

 たまに鈴鹿は自分が幽霊であることを忘れて物に触ろうとする。けれど、触れないから物を落とす。その度に彼女はぽろっと大事なものを落としているようにも感じる。幽霊は死なない。けれど、それは辛いことなんだ。人間として生きるよりも辛いという。多くの人に怖がられて、触りたいものには触れず、時は過ぎ周りの人は次々と死んでゆく。

 

 昔、夜中に家を飛び出してきたことがあった。爺ちゃんがあまりにもひどくて。そんな時に俺は神零山を寄った。俺は鈴鹿に会おうとここまで来た。その時、鈴鹿は泣いていた。ここで、なぜ幽霊なのかと泣いていた。俺はその時鈴鹿に「大丈夫」なんて言葉をかけた。けど、今思えばそれは無慈悲な言葉とも言えるのだ。何も知らぬ者が慰めの言葉をかけてもそれは邪魔でしかないだろう。

 

 だから、俺は鈴鹿に何も言わない。見てるのが辛くなるから目をそらす。それしかないのだ。

 

「あはは、私はバカだな。幽霊なのに」

 

 鈴鹿は笑いながらそんなことを言った。でも、それがふりだってことは俺には分かる。8年、9年くらいの付き合いである。セイギと同じくらい。だから、分かるんだ。どんなことを思ってるかぐらい。けれど、何もできないからそれが悔しい。

 

 俺は人間で鈴鹿は幽霊。別れている二つが共にいてはダメなことぐらい知っている。

 

 この聖杯戦争もそうだ。自らの望みのために血を流しあう。人と幽霊が一緒にいちゃいけないんだ。過去と現在の者が一緒にいることはできない。この世の理である。それを破るのはいけないことなんだ。

 

 風が吹く。けれど、もうざわざわと音を立てる葉はもうない。葉はもう地に落ちている。風が禿げた木々の間を通り抜けた。

 

 その風を向かい風とするかのようにセイバーは実体化し俺の前に立った。そして、レイピアのように細い剣を持つ。

 

「ヨウ、ここならあなたの腕を試すことができそうです」

 

 セイバーは俺を魔術師(マスター)としては見ていない。俺はセイバーと同じ剣士として見られている。けれど、俺は週一で鈴鹿のところに来て剣を学ぶ程度であって、剣を生業(なりわい)としてはいない。だから、セイバーと戦えるほどの腕を俺は持っていないのだ。

 

 それに、俺は勝てない戦いは絶対にしない主義。

 

「無理、勝てない」

 

 俺がセイバーの誘いを簡単に断るとセイバーは呆気(あっけ)にとられた。

 

 真剣の戦いに背を向ける者は剣士ではない。それは剣を遊びとして扱っているものの証である。剣を振るのがいくら上手くてもそれを誰かに向けることができなければ意味がない。人を斬ることができなければ意味がない。

 

 しかし、『真剣の戦い』・『人を斬る』といっても物理的に人を斬るということではない。相手と向き合い、その相手と自分の信念をぶつける。これは鈴鹿の教えも『月城流剣術』の教えにもあった信念である。

 

 

 

 剣、人の(たい)を斬るものべからず

 剣、人の(こころ)斬るものなり

 剣、打ち砕けし時は心(じゃく)にてあらん

 

 

 

 この信念は俺には合わないような気がする。心を斬った所で自分が斬られては意味がない。だから、俺はこの信念を信じてなんかない。でも、もしこの信念で言えば、今の俺は心が弱い者である。

 

「別にそれでいい。弱くったって別にいい。俺は剣の道を極める気は(はなは)だない」

 

 俺は腕を伸ばし剣先を地面へと向ける。鈴鹿は俺に「戦え」と言う。けれど俺がそれでも戦わない意思を見せるともう何も言わない。

 

 鈴鹿は俺にあまり強くものを言わない。何故かは知らないけどいつもそうだ。別に愚痴愚痴と物事を言って欲しいわけじゃない。ただ、たまになぜ言わないのかが気になってしまう。

 

 爺ちゃんは俺にしつこく物事を言い、よく(しか)る。それに対して、鈴鹿は正反対。何処と無く俺に甘い。だから、そんな鈴鹿が何も言わないのが気になって仕方がないのだ。

 

 セイバーは俺が戦う意思がないとわかっていても俺に剣先を向ける。多分、セイバーが一気に間合いを詰めて、その剣で一刺しすれば俺は死ぬ。けど、不思議と勇気がわくのだ。根拠もない暗示を自分にかける。

 

 俺は死なない。

 

 悪いクセである。自分に暗示をかけて大丈夫だと思い込もうとするのは。けど、そうしないと自分が折れてしまいそうで嫌なのだ。

 

 俺は俺。やる気ないオーラを出しながら日々を過ごす俺。なるべくめんどくさいことに首を突っ込みたくない俺。俺はそんな奴。だから、自分で決めた俺を誰かに折られたくない。今まで頑張って作った俺は誰かに折られるようなものではないと思いたい。

 

 もしかしたら俺にも信念はあるのかもしれない。『自分は自分である』という信念が。ただ、誰かに折られたくないから、折られそうな事を避けているのかもしれない。

 

 本当の事は分からない。ただ、自分にも分からない事は他人にも分からないはず。この世で誰も分からないことを考えても時間の無駄である。

 

 俺は自分のことを考えるのをやめた。心なんて、信念なんて考え詰めたところで答えは出ない。

 

 めんどくさいのは嫌いだ。だけど結果の出ないことの方がもっと嫌いだ。結果の出ないものは絶対にしたくない。

 

「負けて何になる?」

 

 俺はボソッと本音を吐いた。父さんと母さんが帰って来なかったのも、きっと聖杯戦争で負けたからだ。負けて残るのは『孤独』しかないじゃないか。

 

 めんどくさいのは嫌い。結果の出ないことは嫌い。一人残されるのも嫌い。

 

 全部、嫌いだ。

 

 


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