Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
え〜、今回は話を読んでもらう前に二つほどみなさまに謝らなければならないことがあります。
まず、一つ。え〜、更新が遅くなってしまいました。
そして、二つ目。やっぱり、この回だけでは終わらせるのは無理でした。
なので、今回は最終話ではございません!
鐘がなった。太陽が西に沈む夕暮れ時、街にサイレンから流れた音が響き渡る。赤い空の下の大地は憂い気で、寂しいものである。
俺は家の近くのスーパーに来ていた。小さないかにも地元って感じの、食品以外何も売ってないスーパーである。店の中に入るとすぐに買い物かごの隣にブロッコリーや白菜などの野菜コーナーが広がっている。スーパーに来るまでに適当に頭の中で考えた献立に必要な食材を手に取ってカゴに入れていく。
橙色の壁に眩しい明かりが当たり、店内が白く見えて清潔な印象を与えてくる。黄色い値札に赤く値段が書いてあり、ずらりと陳列する食材はまさに平穏な世の象徴だろう。きっとここいらの住民全員がこの店のスーパーに訪れなければ無くならないのではなかろうか。
大根に人参、きのこやねぎ、白菜とキャベツなどなどをカゴに入れたら、ぐっと手にかかる重力が強くなった。野菜は重い、なのにどうしてスーパーの多くは野菜を最初の方に並べるのだろうといつも考えている愚痴を考えながら先へ進む。
今日の夕食用の鶏肉や冷蔵庫になかった寝坊したときのための冷凍食品もカゴに入れる。あと乾麺とかも目にとまったので手に取る。
あとは何か必要なものはあるだろうか。台所になかったもの。……ああ、そういやポン酢なかったな。今日はアイツがくるし、確かあやつはポン酢派だったからな。買っておくか。
大体のものは買ったはずだ。あと買わなければならないものはないだろうか。……なさそうだな。
一通りのものを買ったので、レジに向かう。棚と棚の間を通り抜ける。そのとき、あるものが目に飛び込んだ。
あっ、プリン。
プリンが目に映る。ただのプリン、カスタード味の層とキャラメル味の層の二つで構成された、どこにでもあるような平凡なプリンだった。
甘いものは別に好きなわけではないが、なんとなく食べたい気分である。なので、一個カゴに入れた。そして、また一個カゴに入れようと、手を伸ばす。しかし、はたりと手を止めた。
「いらねぇか」
他にも食べ物はあるし、デザートのためだけに食費を削ぎ落としたくはない。だから、伸ばした手を引き戻した。
その後、俺はレジで会計を済ませた。あらかじめ持参していたマイバッグを広げ、買い物かごの中にあるものを詰めていく。なるべく生物や柔らかいものを下に敷かないように、形を整えた。
買ったものを袋に入れ終え、買い物かごを戻す。袋をぶら下げて外へ出る。店の前に止めていた自転車のカゴにいれて、尻ポケットに入れていた小さな親指よりも小さい鍵を取り出し、自転車に差し込んだ。ガチャリと音がなり後輪が回るようになったので、自転車のストッパーを足で蹴り上げながら車体を家路に向ける。そして、サドルにまたがり、ペダルを漕ぎだした。
見慣れた景観、嗅ぎ慣れた匂い、聞き慣れた音を風を切りながら感じて行く。それは実に爽快で、羽を広々と伸ばすというか、緊張が緩んでいる俺にとっては安堵という一種の喜びが舞い降りてくる。辛いこともあったし、後悔することもあったが、今だけは、風がそんな俺の汚れを洗い流してくれる気がするのだ。平和、平穏、安泰な生活は久しぶりで、それが逆に息苦しいとも思うが、それでも風を切っているこの瞬間だけはいい意味で頭の中が空っぽになるのだ。
前まではそんな感覚を抱かせるものではなかった家までの数分の道のりは今の俺には少し大事なものを含んでいるのだと思う。髪をかき乱し、額を晒すのは心地良い。
しかし、やはり数分の道のり。呆気なく終わってしまうものである。家が見えてきた。すると、また段々と何か重いものがのしかかってくるような感覚がやってくる。ズシリと目には見えない粘着質な何かはこれまでの心持ちをガラリと暗雲に変えてしまう。
玄関の扉を開けた。
「ただいま」
誰もいないのに、俺は何故か家の奥の方に向かって声をかけてしまった。もちろん、誰も返事することなどない。一人暮らしなのだから、それが当然であるのに、どうしてか日課になってしまっているのだ。
暗く長い板の廊下が目に映った。玄関から入る夕焼けの赤い光が廊下を焼く。玄関の鍵を閉め、靴を脱ぐ。食材の入ったバッグを手に持ち、玄関の隣にあるリビングに行く。そして、リビングの中央にあるテーブルに荷物を置いた。
「はぁ〜」
ため息をついた。家に帰ったら、どうしてもため息をついてしまう。飯に洗濯、それにこんな大きな家の掃除までしなければならないのだから。
こんなときにもセイバーがいればなぁと思ってしまう。現実を見ればそんな言葉はただの無駄な思考でしかないのに、どうしてもそう考えてしまう。
しかし、そんなことを考えていてはダメだ。仕事のスピードに支障をきたす。俺は伸びをし、首を二、三度横に回した。そして、頬を叩いた。
「さて、やるか……」
憂鬱だ。日課といえど、辛いものは辛いのだから。さて、今日はどのくらい遅くなってしまうのやら。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
玄関のインターホンの音が家中に鳴り響いた。風呂場にいた俺は洗面所の時計を見る。
「ああ、もうこんな時間か」
スポンジを適当な所に置いて、洗面所で手を軽く洗う。手についた水滴を振り払い玄関に向かう。
「はいはーい」
インターホンに答えるように声を出した。やっぱりここで声を出さないと相手が不安だと思うので、俺はこういうとき声を出すタイプである。
俺は靴を履かずに靴置き場に踏み入り、玄関を開けた。扉の前には客が立っていた。
「来たよ、ヨウ」
セイギである。彼は白い歯を見せつけ、にぃ〜っと深いえくぼを作るように笑っていた。
「何笑ってんだ?」
俺は上機嫌な彼に尋ねる。彼はそう聞かれることを待っていましたと言わんばかりに、さらに深いえくぼを作り、右手に持っている袋を俺に見せた。
「じゃ〜ん、見てよ、これ!ケーキ!ほら、大通りのところに美味しいケーキ屋さんがあるじゃん?そこまで行って買ってきたんだよ!」
彼のその喜び様は「乙女か!」とツッコミたくなるものだったが、そこは俺の理性で無理やり止めた。ケーキを買ってきてくれたのだ、それは嬉しいことだしありがたく思わなければならない。
「なぁ、でもそこまで遠かったんじゃないのか?だって、そのケーキ屋って市役所の近くにあるじゃねぇか。ここから自転車で三十分くらいだろ?」
「まぁね。でも、今日用事があったからね。市役所に。だから、別に心配してくれなくてもいいよ。このケーキのためだけに行ってきたわけじゃないからさ」
「いや、別に心配はしてないんだけど……」
「またまたぁ〜、素直じゃないんだから〜」
彼はそう言いながら俺の肩を軽く叩く。そして、家の中に入り、慣れた手つきで家の鍵を閉め、俺にケーキの入った袋を渡し、靴を脱いでリビングに向かった。
「そういや、その用事って市役所にだろ?それってプライベートな話か?なら、別に聞く気はないんだが……」
「ああ、もしやヨウ、聖杯戦争のことだと思ってる?」
俺は頷いた。彼は特に遠慮する様子もなく椅子に座り、足を組んでこう答えた。
「まぁ、聖杯戦争のことだよ。でも、今ここでヨウに話すべきことじゃないし、今は話さないや」
彼は話を教えてくれない。
「え?マジで?教えてくれると思ったんだけど」
「あはは、ムリムリ。それはダメだよ。まぁ、コッチの話だから」
コッチと彼は言った。それは魔術師としての話ということだろうか。同じ魔術師である市長とその手の話をしていたということか。
彼はまるで自宅のようにくつろぎながらお茶を出すよう催促した。面倒くさい奴だと思いながらも、一応彼は客なので、仕方なく冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を取り出して彼の前に置いた。彼は麦茶の入ったコップを見て不機嫌そうな顔つきをする。
「ねぇ、ヨウ。今、真冬なんだけど」
「すまねぇけど、今ポットにお湯入ってねぇんだわ。ヤカンで温めるのめんどいから、とりあえず冷たい麦茶」
「いや、冷たい」
「いけるいける、お前ならできるって。男だろ」
俺は彼の肩に手を置く。彼は俺に笑顔でじっと俺を見る。その笑顔はとても怖いものだが、それでも臆せず俺も笑顔で返すと、彼は深くため息をいた。席を立ち、俺に場所を聞かずとも食器棚のところへ行き陶器のコップを取り出した。そして、それを手に席に戻り、陶器のコップに麦茶を入れて、コップに両手を添えた。そして魔術回路を開く。
すると、麦茶から湯気が出てきた。
「えいっ!」
彼の黒い腹からはいかにも出そうにない可愛い声を出した。一体どこから出た声なのか、心底恐ろしい男である。
魔術で麦茶を温めるという荒技をした目の前の彼はしてやったり顔をしてくる。
その顔を見た俺は今日、こいつにとことん嫌がらせをしてやろうと心に決めた。
「あ〜、こんな茶番に付き合ってたら時間がなくなる。まだ夕食の準備ができてねぇから邪魔すんなよな」
「え?まだできてないの?珍しいね?いつもならできてそうなのに」
「ん?まぁな。いつもだったらこれくらいの家事なら全部これくらいにはできてたはずなんだけどな、なんか人手が足りないって感じなんだよな」
「何それ、怖っ、一人暮らしなのに?」
「いやそうなんだけどさ、一人なんだけど……、なんか違うんだよなぁ〜」
違和感がある。どうしてもこの家の中に入ると何かが違うと感じてしまう。家の電気は全て消してあるし、テーブルの上には何もないし、洗濯物も干されていない。それが普通のはずなのに、どうしてもおかしいと思ってしまう。
その時、セイギがポツリと一言を投じた。
「セイバーがいなくなったからじゃない?」
その一言は俺の心の芯の根っこの方までじわじわと刺激を伝せた。俺の心はすっと一瞬にして冷たくなって霜焼けができているんだなと理解できた。そして、彼に対して特にこれといった返事はできず、
「ああ、そうだな」
と、言っただけだった。
彼はそんな俺を見て、何かを悟る。
「ごめん、悪かった」
彼は今俺たちの間を流れる空気を悪いものにしてしまったことに謝りを入れた。その笑みは作り笑顔だと分かった。慌ててこの場を取り直そうとしていた。その言葉に俺は「ああ」とだけ答えた。
しかし、どうしてだろうか。彼は何かを悟ったあの一瞬、ふと本気で微笑んだかのように見えた。あの瞬間だけ、彼の唇はふと緩み、そしてすぐに唇をぎゅっと締めて作り笑顔を作ったようであった。
ああ、いや、そんなことはないか。この男がそんなことをするはずはない。セイバーがいないことに、俺が返事を上手く返せないことに喜びを抱くなどあり得ない。
……そう、思いたい。
彼は息苦しい空気にまごつき、一旦手元にある麦茶を一口飲んで口を潤した。そして、椅子を若干後ろに倒し、自分の足と椅子の後ろ足でバランスをとりながらこんなことを言い出した。
「あっ、そう言えば、今日さ、もう一人来るから」
「ああ、うん。オッケー」
なんだ、そんなことか。もう一人誰かやって来るのか。あ〜、でも、夕食は二人分だしなぁ〜。
……ん?
「え?ちょっと待って。今なんて言った?」
「いや、だから、もう一人僕が呼んでおいたから」
「ええええっ?何それ!聞いてないんだけど!」
「まぁ、言ってないし」
「言ってないし、じゃねぇだろ、オイ!」
なんということであろうか。唐突に切り出された実はもう一人来客がくるという言葉。そんなことがあってたまるか、そう叫びたい。
え?っていうか、その……え?マジで?本当に?嘘でしょ?その人の分の夕食の準備とかできてないんですけど。
「……え?本当に?」
俺はもう一度、最後の確認をする。それはきっとセイギが俺をからかっているのだろうという望みからだ。そして、俺はセイギが笑いながら、冗談だという姿を……
「え?本当だよ」
……冗談だという姿を期待していた。
のだがっ⁉︎
「……はぁ、マジでか。お前本当ありえねぇ。普通さ、俺に了解なくして人を連れてくるか?」
「えへへ、ごめん」
「ごめんじゃねぇよ。本当に、マジでさぁ……」
彼の思いがけない行動に俺は苛立ちを隠せない。それはもう当然、なんたって今回は百パーセイギが悪い。
「いや、言ったつもりだったんだけどね」
「聞いてねぇよ、本当」
しかし、どうしたものか。この集まりはこの頃の心身に溜まった疲れを癒してただただダベる会なのだが、それに伴い夕食も用意してある。もちろん、二人分。つまり、三人この会に出席するのに対し、飯は二人分のみ。
「え〜、まじか、冷蔵庫になんか他のもんあったか」
とりあえずここでうだうだと考えても仕方がないので、冷蔵庫の中身を開けた。しかし、そこには昨日の残りや僅かな食材に味噌などの調味料しかない。
「全然ねぇじゃん」
だよな、やっぱ。少しだけ希望を抱いて覗いた自分がバカだった。俺は冷蔵庫の中とかちゃんときっちりと管理するタイプであるから、冷蔵庫にあるものだけでもう一人分の夕食を作るなんて無理である。この時だけはこんな性格の自分を恨んだ。
しかし、冷蔵庫を見て焦っている俺とは反対にセイギはなんとも思ってなさそうであった。もしかしたら、こいつは人間性を疑うほど無神経なのではなかろうか。
「おい、どーすんだよ、そいつの分の食料とか用意してないんですけど」
軽く怒りの念を込めて彼にあたる。しかし彼は余裕を持った態度を崩さない。
「ああ、いいんだよ。彼女、食べてから来るってさ」
「食べてから来るのかよ、ならそれを先に言えよ。心配したじゃねーか」
まったく人に冷や汗をかかせやがって。またスーパーまで食材を買いに行くのかと思わされた俺の気持ちにもなってほしい。
「で、その人って誰?彼女ってことは女か?」
「いや、女でしょ。少なくとも僕たちの知り合いにアッチの人はいないよ」
「ん、じゃあ、雪方とかか?」
「うん、まあ、そんなとこ」
雪方が来る。そう聞いたとき、何となくだけどホッとした。この会はそもそも聖杯戦争での疲れをねぎらうためであり、そこに参加者ではない人がやって来るのだと考えてしまった。別にそれはそれでいいのだが、やはり俺にはどうもそれでは抵抗がある。
何故か。そんなことを考えてもどうせ明確な答えは出ないのだろうが、多分セイギや雪方とかじゃないと俺のこの心の軋みは治せないんだと思う。
「はぁ〜、んだよ、驚かせんなよ」
安堵のため息を漏らした。セイギはそんな様子を見て指をさして笑った。うん、こいつにはいつか痛い目にあってもらわないと困るな。
安心した俺は夕食の準備に取り掛かった。鍋を取り出して、買ってきたネギや白菜、人参に鶏肉を適当な大きさに刻み、鍋の中に入れる。水と酒を少々加えて、火をつけた。
「まぁ、あいつなら特に気を配る必要もないし、まぁ、楽だな」
「え?だって彼女、ヨウの元カノでしょ?」
彼はあんまり話題にしてほしくないところを突いてきた。まったく、俺はセイギにこの話は一度もしたことないのだが、どこでどうやって知ったのか。
「おい、お前、どこでその話を聞いた?」
「ん?ああ、二人と同じ中学校にいた人たちから噂でね。でも、別にそんな大したことは聞いてないよ。ただ、付き合ってたって噂だけだよ」
彼の話ぶりは嘘をついているようには見えなかった。話を聞く限り、彼も詳しくは知らないようだからこのことは不問にしたが、その手の話はあまりいい気分にはなれない。セイギは人の感情を読み取るのが上手いから、そういう俺の気持ちも何となく察したのだろう。「ごめん」とだけ言うと、彼は話題をすぐ他のものに変えた。
それから少し経って鍋の中身が丁度いい具合になったので、火を段々と弱くしていき、そして止めた。鍋の横の取ってを握り、テーブルまで運んで真ん中に置く。
「おお、今日は鍋?」
「おう、そうだ。鍋だ、鍋。この寒い冬に一番ぴったりなのは鍋だろ」
鍋の蓋を開けた。すると、目の前が鍋から飛び出た白い湯気でかき消され、そして湯気がなくなると鍋の全貌が現れる。
「おおおお!美味しそう!」
彼は目を輝かせながら叫んだ。いくらヒョロい彼でも年頃の男の子であることには変わりない。目の前に飯があれば喜ぶのは当然のこと。それがさらに俺のメシときた。これに喜ばないことなどありえるわけがない。
「はい、こちらは月城陽香特製の『ぶっちゃけ入れた具材は普通の寄せ鍋』でぇ〜す。どや、美味そうだろ?」
「うん、やっぱりヨウのメシは美味そうだよ。ヨダレ出てきた」
「まぁ、俺のメシはこの町で一番だからな」
「現実的だね」
「いや、世界一とか言えない言えない。料理でメシを食うような人たちに失礼だからな」
そこは謙虚に、満足できる程度の大きさで良い。実際、俺のメシは美味いからな。
俺も彼と向き合うかたちで椅子に座った。彼は俺が用意した小皿に鍋の中の具をお玉で掬っていた。
「うわ、ほんと美味しそうだね。鍋の具を掬うだけでいい匂いが漂ってくる」
それは俺も感じてる。うん、今日のは我ながら良い出来である。俺も腹が減っているし、ヨダレが止まらん。
「さて、俺も食おう」
俺も皿によそう。湯気に混じった匂いの粒子が鼻を突き上げて、食欲を誘う。
「いただきます」
彼はぴっちりと綺麗に手を合わせて
「ぐ、美味い……」
味のない感想を口にした。ただ舌をガツンと殴る鶏肉とネギの味に悶絶しながら、目を閉じて幸福を味わっている。まぁ、俺の料理に絶句はつきものだが。
さて、では俺も食おう。じゃあ、まずはこの白菜からだ。このしなった白菜は鍋の旨味成分をたらふく含んでいるに違いない。
……うん、予想通り。ヤバい、美味い。にやけてしまう。白菜本来の旨味と他の食材の旨味が鍋という舞台で合わさり、それをぐっと凝縮しているかのようだ。噛めば出る白菜の水分はまたその旨味をいい感じに際立たせ、舌全体に広がる。
では、次はこの餅をいただくとしよう。一口サイズの小さな餅はとろりと熱に柔らかくなっているが、しっかりとした粘り気が箸によくくっつく。それを口に運んだ。
……くっ、これも美味いか。やはり、これも美味いのかっ!恐るべし、俺っ!鍋のただただ旨さを引き出す旨味成分がもち米ともち米の間に浸透している。しかも、噛めば噛むほどにその旨さがじゅわ〜っと溢れ出て、モチモチとした食感とよく合う。うん、鍋の中に餅を入れるとは我ながらナイスなチョイスである。まぁ、冬だし、餅は必須だよね。
って、なんだよ、俺の料理。最高じゃねーか。やっぱ、俺って世界最高の男子高校生だわ。
目の前にいる彼は俺の作った料理に今でも頰を落としそうである。
「ねぇ、ヨウさ僕の嫁に来てよ」
と、毎度俺の家にて恒例のプロポーズが行われる。
「いや、それ何回目だよ。つーか、きもいわ」
もちろん、軽くあしらう。
「いや、だってあまりに美味しいから。せめて僕の専属シェフ……」
「だるいわ」
まったく、こいつはうるさい。何度目のプロポーズか。さすがに飽きたわ。まぁ、しつこいと言ったところで、こいつが聞き入れることはないということは誰よりも俺がよく知っているのだが。
小皿の中のものを全て完食した俺はまた鍋からよそう。
「おら、さっさと食わねぇと全部食うぞ」
そう言うと、彼は慌てて自分の皿の中を空にした。
いや、ほんと、すいません。終わりませんでした。
ということなので、次回こそ、次回こそ、次回こそ本当に終わらせるつもりです!つもりです!
多分‼︎次回こそ最終回となります。
なので、ぜひゆっくりと気長に待っていただければ嬉しいです。