Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
高さ、腕の長さを入れた幅ともに約七メートルほどのとんでもない鉄の巨体。全ての部位が剣によって構成されているとなればその総重量はトンを軽く超すのではなかろうか。
それに対して人の身一つが敵であるとは。何とも無謀なことだろう。相手はガンダム、それに対して生身の人間相手で果たして勝てるだろうか。
ここでいつもの俺だったのなら、勝てない。そう言い切る。圧倒的戦力格差、勝てる見込みがない戦いには身を置きたがる性分ではない。だから、尻尾巻いて、背中を向けて全力で逃げている。次の俺を、明日の俺を守るために今の俺を捨てていた。
しかし、ここにいる俺はいつもとは違う。それはセイバーも分かってると思う。立ち振る舞い、剣の腕、もとい利き手などいつもとは違っているのだ。まるで自分が自分でないかのようで、分からなくなる。それでも戦闘においてはいつもよりも良い動きをする。
俺は今の自分が怖い。それでも、俺はそれを許容しようと思う。しなければ、きっと目の前の敵を倒せないから。
「セイバー、お前は危ないから少し下がってろ。あと、さっきみたいに敵がお前に攻撃するかもだから」
俺はセイバーに一応のことだけは言っておく。敵との戦いはどのようなものになるか予想がつかないからだ。もしかしたら、セイバーに二次被害が出るかもしれない。
「はい。分かりました。なるべく怪我をしないように」
セイバーは何とも呑気に怪我をするなと言ってきた。その言葉には少々驚かされた。この場において彼女らしさ全開の返答をするとは思わなかった。
「まったく、調子狂うな……」
そう呟くと俺は剣を手に構えた。左足を前に出し、左手で握る剣を右腰に持っていく。幽々を放つ姿勢である。
「させるか!」
しかし、敵はそうさせまいと剣を放ってきた。どうやら幽々が怖いのだろう。実体のない刃はグラムの力には有効のようであるし、何よりさっきよりも威力の強い幽々を放つのではないかとビクビクしているのだろう。
もちろん、放とうと思えば放てるが、まだ時ではない。
放たれた剣をひらりと半身でかわす。特にそれらしい反撃はせず、飛ばされる剣から当たらぬようにしていた。
側から見れば防戦一方に見えるだろう。主立った攻撃は特にせず、かわすだけなのだから。しかし、敵は焦ってゆく。
アンドヴァリの呪いはきっと追い詰められることよりも、追い詰めることができないことに対してだと焦りが出やすいのだろう。
何度か敵は俺たちに追い詰められたら、怒りそして奮起するということがあった。焦らず、しかして素早く俺たちに反撃を喰らわせてきた。
だが、敵は俺たちを追い詰めることができないと苛立ちを感じ、焦る傾向にある。それはもうどのような理由でとかそんな小難しいことではなく、単に性格が出ているのだろうが、この性格は随分と扱いやすいと見た。
だから焦りでどれほどの攻撃まで仕掛けてくるのか観察する。そんなことしていないで、いきなり攻撃しても良いのだが、敵は上空にいる。さっきみたいにジャンプしてもいいが、それだと何度もジャンプしないといけないし、効率的ではない。
俺が這い上がるのではなく、敵の足元を崩すのが先決だろう。そのような見解で動いていた。
敵が飛ばす剣の数が段々と多くなってきた。俺の視界一面覆ってしまうほどだ。それぐらいにまで増えてしまうと対処が大変である。
しかし、それで良い。どうやら敵は俺を倒せるまでとことん剣を放つことに専念するようだ。
だが、敵はその集中はのめり込みすぎて、周りが見えなくなってしまうということを知らないようだった。
そこはグラム譲りとも言える。
「結局中身が変わってもクセは変わらねぇのか」
俺のいた所を覆うように剣のドームが形成されていた。これも敵が無意識のうちに作ってしまったのだろう。
少しは向上してほしいものである。せめてダメな所を直してほしいと思ってしまう。流石に何回も戦闘中に指摘されているのに未だにやるのかという疑問を抱いてしまうのも致し方なし。
敵は高笑いをした。俺を自身の剣で包囲させたから勝ちを確信したのだろう。
「はっはっはっ!終わりだ、死ね!」
まったく、堂々とそんなこと言われちゃうと可愛く感じてしまう。
本ッ当、可愛いほど馬鹿である。
「我・裏当て:幽々」
俺は剣を横に振った。剣は空を斬り、威力は空気を伝い鉄の巨人の脛の部分に当たった。剣と剣の結合の弱い巨人は攻撃が当たると、そこがすぐに砕けた。巨人の足が切断されてしれ、がくりと肩を下げ膝を地につけた。
「うわっ、な、なんだ?」
巨人の胸部にいる敵は地面からの高さが急に低くなり、振動に耐えながら事態を理解しようとする。敵は巨人の足元に俺がいるのを見つけた。
「な、なぜお前がここにいる?」
敵が指差すのは剣がドーム状に囲む所。敵はどうやら俺を追い詰めたと本気で思っていたらしい。
「お前はバカか。剣で俺のいる場所を覆えば、標的である俺が見えなくなるだろ」
何でも数で攻めればいいというわけではない。敵は俺を仕留めようと何百もの剣で囲んだ。しかし、そうすれば、敵から俺の姿が見えなくなるのは当然のこと。あとは後ろ側からひょっこりと包囲網を出ればいいだけのこと。あいにく、ここは暗い夜の森の中なので俺が逃げようともそう簡単に分からない。
敵は悔しそうに歯を歯で噛み締めた。その姿はセイバーと瓜二つのポンコツも同然。
俺は早々に敵を殺す、いや倒す準備をした。どうせもうそろそろ終わるだろうという算段だ。敵が俺に対して何をしようにも、大体はどうにか対処できる。なら、俺の勝ちといってもいいだろう。
しかし、どうしたものか。敵は負けを実感したような表情を浮かべなかった。憤怒し、叫びながら俺に向かってくる。
それは良く言うのなら不屈の精神とでもいうのだろう。諦めきれない、世界を絶望に叩き落とすまでアンドヴァリの呪いは世界に刃を向け続けるだろう。
だが、こう言うこともできる。引き所を知らぬ者だと。どう見たってこの状況、俺の勝ちであろう。見た目的には確かに敵は剣で構成された巨人とか作り出してるし、その点俺は一身のみだ。それでも、事実俺の方が圧倒的に押している。このままいけば俺が勝てるのは明白な事実。
だが、諦めぬその目はただでさえ高い俺の殺意をさらに増やすのだ。さっさと諦めてくれればいいものを、どうしてこいつまでもそんな目をするのだ。
殺意が湧いてくると同時に段々自分が自分でなくなってくるような気がした。意識が薄れてゆく。そして、力が漲ってくる。
「かったりぃ。さっさと殺されてくれよ」
状況的に勝っている俺は攻撃の手を緩めることはせず、巨人に向かって斬りかかった。もちろん、敵は抵抗した。新たに並行世界からグラムを引き出してきて、それを俺に投げつけるのだ。しかし、やはりそれだけの攻撃では打ちのめされることはなく、ただの時間稼ぎほどにしかならず、結果的にあまり意味のないものだった。
一方的にやられている敵は、ならばと機転を利かせた。
剣の巨人を崩壊させたのだ。何千、何万という剣によって形成されていたのだが、その結合を解いてしまったのである。巨人の身体がまるで融解したかのように外側から内側へと剣が落ちてゆく。そして、崩壊のスピードは段々と速くなり、ぱらりぱらりと落ちていた鉄のかけらが、雪崩のようにどさりと落ちてゆく。その時間は僅か数秒ほどの出来事であった。
この行為が、敵が白旗を上げるというものなのならいいのだが、あいにく敵はそんな簡単に折れてはくれなかった。
一気に落ちてきた数えきれないほどの鉄の塊。それは轟々とした音を立てながら、真下にいる俺を巻き込んだのだ。敵はそれを狙っていた。
「これは流石にヤバイわな」
降り注ぐ鉄屑の下で俺は苦笑いをする。結構いいように、なるようになっていたのだが、やはり質よりも数らしい。敵の策ではないにしろ、俺はこの状況を打開することがどうやらできそうにない。
落ちてくる鉄屑相手に幽々を放つには少し時間が足りないのだ。重力に従って落ちてくる鉄屑は一、二秒でここまで辿り着くのに、力を溜めて幽々を放つには無理がある。もちろん、それ以外の方法で対処しようと思えばできるのだが、なんせ数千から数万もの剣が落ちてくるのだ。この剣一つ、いや身一つで何とかなるものではない。
ならば、逃げよう。そう思った矢先、敵は剣を投げ飛ばして逃げ場を塞いだ。
「そう簡単に逃すと思うか⁉︎」
敵の笑みが溢れた。勝ちを確信したのだろう。
ああ、そして俺は負けを実感した。
何となくだが、やっぱり無理かもしれん。
諦める。早々に、俺らしく、やっぱりこの変に湧き立つ殺意を抑えようとしたのだが、調子に乗りすぎたようだ。
いや、そうではない。
やはり
俺にはアンドヴァリの呪いに勝つための力がなかった。それだけなのだ。それだけが真実で、それだけが原因で、俺は死にゆく。
負けた。そして、死んだ。
月城陽香の人生はここで終わるのだろう。
『終わるのか—————?』
声が聞こえた。静かな部屋の中で誰かが俺に囁いてきたようだった。その声は聞いたことのない声だった。しかし、ずっと前から俺を見ていたように、動かぬ石像が動いたように、俺はその声を確かに知ってもいた。
『本当に終わっていいのか?』
その声の主は笑っていた。いや、現に目で見たわけではないが、声が笑っていたのだ。きっと、口角が上がっている。ほくそ笑むような笑みだろう。
お前は誰だ?
俺の頭上に無数の剣が落ちてくる。その一、二秒の刹那の時の中での会話。俺はその声の主に質問をした。空気を振動させる声ではなく、心の中で現実には出さない声だった。
しかし、相手は答えなかった。
『力を貸してやろう』
声の主はどうやら俺の質問に答える気がないのか、そもそも質問が聞こえていないのか。どちらにせよ性格が悪いらしい。質問に答えないのはどうかと思うし、質問が聞こえていないのなら相手は俺に話す気しかないのだから。
しかし、それはいいとして、声の主は言った。力を貸してやろうと。
それはどのような力だ?
俺はもう一度問いかけた。すると、今度は返答をした。
『教えられぬ。力を与える、それだけ知っていればいい』
その言葉は何とも胡散臭い言葉だった。何処の誰だか知らないが、いきなり力を与えようと言われても、そう簡単に信じられるものではない。
しかし、この状況、藁をも掴みたいときのその言葉は卑怯すぎた。どうみたって詐欺師みたいだ。なのに、それでも俺はその言葉に縋りたかった。その言葉に希望を抱いてしまった。
力をくれるのか?
俺の質問に相手は無言で答えた。その静寂はOKの意味なのだろう。ならば、俺はその言葉を信じたい。
いや、待て。こんな胡散臭い誘いに簡単に乗っていいのだろうか。そもそも誰だか分からぬ相手であり、しかもこの状況において俺に力を貸すなどそんな大層なことができる奴などいるはずもない。そんな小学生の誘拐手口みたいなことに乗るほど俺も馬鹿ではない。俺に親はいないが、それくらいは知っているつもりだ。
ああ、だけどこの湧き立つ殺意が俺の腹を突き破って出てきそうなのだ。煮え立つ油が胃に収まりきらないのだ。この感情をどうにかしたい。この感情は何なのか分からないが、どうにかして取り除きたい。
もう今となってはセイバーのことなどあまり考えられない。セイバーが過去に戻らなかったからとか、アーチャーの思いを無駄にされたとかそんなことが俺を奮い立たせているのではないのだ。単純に謎の殺意でアンドヴァリの呪いに剣を向けていた。
今、この誘いを断れば俺はきっとこのまま鉄の瓦礫の下敷きにされて、生き埋め状態で死ぬのだろう。それは嫌だな。そんな風に死にたくはない。もっとマシな死に方がしたい。
もし、この誘いを受け入れれば俺はどうなるのだろうか。ただ単に悪霊の空言に誑かされたのだろうか。そうだ、それもある。
だがしかし、もしもだ。もしも、仮に俺が謎の声の呼びかけに応じて力を手に入れたのならどうなるだろうか。
分からない。力を手に入れたところで俺が勝てるという絶対の保証は何処にもないのだから。
それでも、俺は勝ちたい。そう願ってしまった。
この殺意に埋め尽くされそうな心の気晴らしに勝利を手に入れたいのだ。
『力が欲しいか—————?』
声の主は重々しい口調でそう尋ねた。これがきっと最後の誘いなのだろう。雰囲気的にそう感じ取ってしまった。
こいつに勝てるのか?目の前の敵に勝てるのか?
俺は確認をした。すると、声の主はフフフと不気味に笑った。
『勝てるとも、屠るように勝てるとも』
何とも甘美なその言葉に俺はとうとう折れてしまった。勝ちたい、殺したい。その意志だけが今の俺を構成していて、他にはもう何もなかったのだ。
—————力が欲しい、俺に力をくれ。
その言葉を聞くと、謎の声の主は今度は高らかに笑った。その笑い声は段々と近づいてきて、それと同時に俺の身体がじわじわと熱くなっていった。
『ああ、いいとも。存分に、力という力を与えてやろう。さぁ、あとは思う存分、その力を誇示するがいい』
はい!Gヘッドです!
今回はヨウくんが悪魔だか何だかよく分からない存在から力を分け与えてもらうという謎の回でした。
もちろん、意味はあるんですけど、現段階では「はぁ?なんじゃこら?」って感想を抱くと思います。(稚拙な文章のせいで、理由が分かっても、そんな感想を抱くかもしれないですが……。まぁ、文章力はもうどうにもならないのでそこは割愛!)
次回はそんな謎の力を手に入れたヨウくんがなんか色々します。