Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

そういえばアサシンちゃんの紹介してなかったかな?今、考えているので、次くらいに人物紹介しときます。



そこに親友はいない

 セイバーたちがお買い物に行っている頃、俺とセイギはそこらへんにありそうな店でマスターとしての話をしていた。

 

 親友同士のはずなのに、場は(なご)やかと言える雰囲気ではない。お互い、見られたくない光景を見られたくない相手に見られてしまったから。今は仲間としているからまだいい。けれど、今後セイギが俺の敵となることだって考えられるんだ。つまり、俺とセイギはいつでも殺し合う可能性がある。

 

 親友同士なのに。

 

 それに俺は魔術師として遥かにセイギより劣っている。俺が使える魔術は『強化』と『解析』の2つだけ。魔術師の半人前以下の俺がセイギと肩を並べられるのだろうか。体術なら確実にセイギに勝てる。けれども、それに魔術を入れてしまえばボロ負け確定コース。

 

 スタート地点はもともと同じはずだ。セイギだって魔術の師匠はいたけれど、そんなに長く教えてもらっていたってわけじゃない。けれど、セイギは魔術の修行を欠かさなかった。そこから俺とセイギの差がついてしまった。

 

 別に魔術に興味がないわけじゃなかった。けど、将来、こんなことに巻き込まれるなんて思ってもなかったからやって来なかっただけだ。やらなければ残るのは後悔だけ。やれば残るのは成果だけ。

 

 セイギは自分の水を飲んだ。その水が喉を通り、数秒後俺に一つ質問をした。その質問は俺以外の全マスターが、そして全サーヴァントが持っているものについてだった。

 

「ヨウはこの聖杯戦争では何をお願いするの?何を叶えたいの?」

 

 聖杯戦争では一つだけ叶えたい望みを叶えることができる。聞いている限りめちゃくちゃいいものだけど、使い方を間違えれば、人類滅亡なんか簡単にやってのけることもできる。それほど恐ろしいものに自分の夢を叶えて欲しくはない。

 

「俺は特に夢なんかないさ」

 

「いや、でもあるでしょ?一つぐらい」

 

「ねぇよ。それに、俺はこの聖杯戦争に参加したくて参加したわけじゃない。巻き込まれただけだ」

 

「そんなの戦っている意味がないじゃん」

 

 そのセイギの言葉は確かなことであった。俺には聖杯を得ても叶えたい望みなど一切ない。せめて言うなら今後普通に暮らしたいとかそんな望み。まぁ、でも、そんな望みは自分の手でなんとかできるから即却下。

 

 というより、今自分の望みは自分の手でやればできるようなことばっか。かっこよくなりたい。料理がもっと上手くなりたい。爺ちゃんに剣術でも勝てるようになりたい。

 

 あとは……、もう、大切な誰かを知らない何処かへ行かせたくない事ぐらいかな。

 

 だから、俺の望みは全部自分の手でなんとかできる事ばかり。俺の手でできないことならそれは多分『世界の(ことわり)』を破ることだと思う。それはやっちゃいけないんだ。何でだかは今の俺には詳しく説明できない。けれど、やっちゃったらそれは世界の歯車の一部を狂わせるんだ。その一部は日に日に大きな狂いとなり、いつか世界全てが狂うんだ。

 

「戦う意味は今の俺にはまだ何もない。聖杯に叶えてもらいたい望みもないし、誰かを阻止したいというものでもない。もしかしたら後々俺にも望みができるかもしれないけど、今の俺は降りかかる火の粉を払っているだけ。それだけだよ」

 

「でも、それだけじゃ、やられるだけじゃん」

 

「俺は正当防衛しか今の所しない」

 

 俺の綺麗事を聞くとセイギは少し俺を(にら)んだ。

 

「それってただいい言葉を並べてるだけだよね。自分にいい言葉をポンポンとただ言っているだけ」

 

「ああ、そうだ」

 

「それじゃ、何もできないよ。指をくわえて見ているだけだ。何も変われない。ねぇ、ヨウ。知っている?進化っていのは変わりたいって思うから変われるんだよ。変わろうと思わない限りいつまで経っても進化はしないさ」

 

 そう、その通りである。俺は何も言えなくなってしまった。全部当たってる。図星である。

 

 俺は結構な保守派である。というより、あまり物事の見方をコロコロと変えない。それは頑固とも言える。頑固な俺はどんなに自分が悪くても、どんなに自分が不利な状況になっても見栄と虚勢を張る。だから、俺は何も変われない。進化できない。

 

 俺は父と母が俺から離れていったあの時が未だに忘れることができない。あの時、俺が一歩踏み出していたらと思うが、俺が頑固だから今でも踏み出せないでいる。もうあの時から俺の時計の針は回ってはいない。体は変わっても心はまだあの時のままだ。

 

 足を踏み出せずに10年くらいずっとその場で立ちすくんでいる。

 

「ああ、俺は変われてねぇよ」

 

 俺もセイギを少し睨む。セイギはそんな俺の顔を見るとクスッと笑った。

 

「まただよ。僕がヨウに何と言おうと、ヨウは自分の考えを一向に変えてくれようとしない」

 

「そりゃどうもすいませんでした」

 

「『頑固』‼︎」

 

 おいおい、これじゃ普通に幼馴染としての会話になってるだろうが。二人になった意味がなくなっちまうだろ。

 

 その時のセイギの笑顔はいつも見慣れた笑顔だった。いつもの笑顔、それがすごく怖かった。そのいつもの笑顔をする人が殺し合いをする人だと思うと俺は怖くなる。たとえそれが親友であったとしても怖くなる。そして、親友を怖く思える自分が嫌いになる。

 

 俺は心の中で「いつものセイギの笑顔じゃないか」って言い聞かせてホッとする自分と足を引く自分がいる。だからまた悔しく思える。

 

「なぁ、セイギ」

 

「ん?何?」

 

「お前はさ、聖杯を手に入れたらどんな願いを叶えるんだ?」

 

 俺に質問したなら、質問を返してもいいだろうと思った。そんな俺はバカだった。

 

 俺の知っているセイギはここにはいない。俺の知っているセイギは『親友』としてのセイギであり、『魔術師(マスター)』としてのセイギじゃない。

 

 セイギはニタァっと笑ってこう言った。

 

「全ての魔術を会得し、最強の魔術師となる」

 

 俺の目の前にはセイギがいる。俺の知らないセイギがいる。俺は頑固だから自分の知らないセイギはセイギでないと思い込もうとする。けど、これはセイギなんだ。俺が今まで見てこなかったもう一人のセイギ。

 

 俺はセイギを見たとき、魔術が怖いと思った。魔術はここまで人の心を変えてしまうものなのかの思い知らされた気がした。

 

 俺は『親友』としてのセイギとしていてほしかった。だから、今、目の間開けにいるセイギは俺の知っているセイギだって思い込んで記憶をそう塗り替えている途中。

 

「なぁ、セイギ。お前の思う『最強の魔術師』って何だ?」

 

 セイギは俺の質問にまた笑った。

 

「面白い質問をするね。別に答えてもいいけど、そしたら僕もヨウに質問していいんだよね?」

 

 俺は首を縦にふる。

 

「じゃぁ、僕の思う『最強の魔術師』を教えてあげる。それはね……」

 

 また、セイギはくちびるの端を上げて、不気味な笑みを浮かべる。

 

「全ての人を服従させるような力を持つ魔術師だよ」

 

 力に溺れた者の笑みはとても不気味である。セイギはもしかしたらもう俺の手の届かない所までいるのかもしれない。目の前にいるはずのセイギに俺は手が届かない気がする。

 

「ヨウ」

 

「ん?」

 

「もし、ヨウにもどうしても叶えたい望みができて、その時、僕が死にそうだったとする。そしたらヨウはどうする?僕を助ける?それとも、僕を見捨てて望みを叶える?」

 

 その質問は少し(むご)いものだった。普通、セイギを助けるという。けれど、もしセイギの命以上に大切なものを手に入れられそうな時、俺はそれを捨ててセイギを助けることができるのだろうか?いいや、多分無理だ。俺はそういう人間だ。

 

 少なくとも自分のことは自分がよくわかっているつもりだ。

 

 けど、俺はこう言ってしまった。

 

「俺はお前を救って、そんでもって望みも叶える。それが俺の答えだ」

 

 できるはずもない答えを俺は言ってしまった。だから、すごく胸が痛い。

 

「ズルイよ。ヨウは両方だなんて。ちなみに僕は…………」

 

 セイギが言おうとした時、二人が帰ってきた。手には多くの袋。どれだけ買ってきたのだろうか?

 

「ごめんねぇ。遅くなった?」

 

「いや、別にそんなことはない」

 

「ちょっと、セイバーちゃんの下着を選ぶのに手間取っちゃって。セイバーちゃん、すごくワガママなの。この下着は嫌だの、他の下着は嫌だのと。選ぶのに苦労しちゃった。まぁ、でも、相当大きいものをお持ちだったし……」

 

 アサシンが余計なことを言うとセイバーは顔を赤くしながらアサシンを怒鳴る。なんだかんだ言って仲良くなっているようだ。

 

 セイギは二人が戻ってくると席を立った。

 

「さてと、それではこれでお開きとしましょうか。僕たちは少し助けてあげたし、ヨウからもアーチャーの情報を聞けたし。まぁ、これで僕は満足だよ」

 

 セイギはそう言うとレジの方まで行き、俺たちも含めた四人分のお金を払った。

 

「今回はおごりだよ」

 

「あっ、ああ。ありがとう」

 

 いつもなら嬉しすぎて発狂するはずなのに、なぜだかしなかった。ただ、セイギの姿がやっぱりいつものあいつじゃないように思えた。

 

 帰り際、セイギはあることを思い出したようである。何かを思い出すと、俺の耳元でこう(ささや)いた。

 

「僕は多分、ヨウか望みだったら、迷わず望みを取っちゃうな。まぁ、そうなった時は許してね」

 

 セイギはまた笑顔で俺たちに手を振った。セイバーはその時のセイギは変には見えなかったと言う。けれど、あの時のセイギはいつものセイギには見えなかった。


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