Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
全開は何ともビックリ、いきなり登場のヨウくんのママ。ちょっとおかしい人ですけれど、とても素敵なママさんです。
えっ?肉体?
ええ、そりゃぁ、もう……。すごいですよ。母親というジャンルもありなのかも。もしかしたら、第三ヒロインはママ?(大嘘)
まぁ、今回はちょっと書こうと思っていた内容が案外分量が多かったのでコンパクトに縮小しました。前回、ふざけすぎましたからね。
不完全燃焼っぽいところはあるかもですが、それはそれ。多分ですけど、後で追加しておきます。
ここは聖杯の中である、そう彼女は言った。なんとも漠然としていて、なんとも
否、信じられるわけがない。
だが、目の前に広がる世界は真実なのだということは理解したくなくとも理解してしまう。地平線の彼方まで永遠と花のみが地を埋め尽くしていて、太陽も雲もない明るい空に覆われているこの世界は幻想などではない。即座に理解できた。この美しくも儚げのある景色も、脆く弱い風のささやきも、露骨に匂わす花の香りも嘘などではないのは確かなのだ。
私はヨウの母親の隣に座っていた。二人して広大な花畑の真ん中で小さく座りながら話をしていた。彼女を見る。彼女は私の視線に気がつくと、にっこりとした笑みを浮かべた。
私はこの女が子であるヨウと同じくらい苦手である。私はセイバーの宝具であるから、彼女の心境が少しだが伝わってくる節がある。それに感化されているのか私はヨウとは戦いたくはないと思ってしまう。そして、それと同じように私は目の前にいるこの女が苦手なタイプであると感じるのだ。子は親に似るというように、私がヨウに苦手としている何かを彼女も持っている。だから、私はこの女がとことん嫌いだ。
こんな女のことを信じたくはない。だが、あてもない。悔しいが、私は信じることにした。
「ここは聖杯の中なのか……」
独り言を呟く。聖杯の中に私が迷い込んでしまうだなんて思ってもいなかったから、ここがそうなのかと考えてしまう。
「聖杯の中と言うが、ならばこの世界には他の脱落サーヴァントはいないのか?」
私の質問に彼女は首を横に振る。
「もしそうなら、ここはきっともっと楽しい場所でしょうね」
彼女の顔はあまりにも冷たいものだった。温かい笑顔の隙間から覗いたその顔は私には少し怖くさえ感じてしまう。
「ここは聖杯の中。それは器に注がれている水みたいなことじゃなくて、器そのものの中なのよ。だから、容器に入れられた魂とは会うことなんてできないの」
彼女の横顔は冷めていた。正面から見ると笑顔に見えるその顔も、隣に座っている私から見ると冷めて見える。
「なんでお前はここにいるんだ?」
私は何も知らない。何も知らないからこそ、相手に聞いていい質問と聞いてはならない質問があることも知らない。
「それは……、宿命ってやつかな?」
彼女のぎこちない笑顔で私はしてはいけない質問をしたのだと気がついた。具体的な内容を示さず、抽象的に言葉を濁したことから事を察する。
しかし、それからというもの二人の口から言葉が出ない時間が続いた。私も彼女も何を話したら良いか分からなかったからだ。相手のことに無理に踏み込んでしまえば、相手を傷つけてしまう恐れがある。だから、私たちは無理に踏み込もうとはしなかった。
そして、少し経ってその沈黙を日和は打ち破いた。彼女は穏やかな表情で私に質問をする。
「ヨウは……元気だった?」
その表情はまさしく母親の愛が込められていた。それは我が子のことをただ純粋に案ずる無垢の愛。そして、私には知り得ぬものだった。
「ヨウは……」
彼女の質問に答えようとした。それは魔剣の私には不似合いな善の心からだった。
だが、私の口はゆっくりと塞いでしまう。喉の奥に言葉はあるのだが、何かが言葉を掴んで離さない。
それもそのはずである。だって私はそのヨウを殺そうとしていたのだ。聖杯は私の物だ、そう主張し、邪魔者を等しく殺そうとした私にとって彼も殺害対象の一人なのだ。そして、今さっきまで私はそのヨウと殺し合いをしていた。
そんな私がヨウの母親である彼女に言葉をかけるのはどうだろうか。最低なことであろう、まさに魔剣である私に相応しい。
だから、嫌なのだ。私はそれが嫌だった。今ここで何も打ち明けることなく、知らぬふりをして「元気だ」と答えるのならば、いっそのこと私は潔く身の内を教えた方がよっぽどいい。
私は最悪な存在だから。だから、どうしてもそうなりたくないと思ってしまう。
その結果、何も言えない。母親である彼女にとって自分の命よりも大事なことを聞かずにいる。果たして、言わぬ方が良いのか、言えば良いのだろうか。
分からない。どうすればいいのか、私には分からなかった。
私は俯いた。彼女に顔を見られたくなかった。彼女の顔を見たくなかった。見えたのは私の足元に咲く小さな白い花だけ。それ以外は何も見えない。
すると、その時だった。彼女はふと笑い始めたのだ。
「ウフフ、可愛いわ。やっぱりあなたは」
彼女はそう言うと、私の頭に手を置いた。そして、指先で私の深黒の細い髪を絡めて撫でる。
すごく恥ずかしかった。わけがわからない。何も言わない、無愛想な私のどこをどう可愛いと感じるのかに苛立ちを持ちながらも、そんなことされたこともない私にとってそれは初めてのことである。初めて頭を撫でられた。その初体験に対する恥ずかしさは私の耳先まで赤く染め上げる。
彼女はそれを見て、また笑う。そして、こう言った。
「ゴメンね。少し意地悪しちゃったわ。本当は私、ヨウのこともあなたのこともちゃんと知っているわ。あなたたちがこの聖杯を求めて戦っていることも」
私はその言葉を聞いて硬直した。彼女に知られている。それが私の首をぐっと締めた。
私は彼女と出会ってからグラムであるということを明かさなかった。そして、彼女の息子であるヨウと戦っていたということも何も伝えなかった。それは私が自身をグラムであると認めたくないからという理由ともう一つわけがあった。
単に嫌われたくなかったのだ。ここにきて、彼女は私のことを知らないようだった。つまり、私が魔剣であるとは分からないということ。それが私にはちょっとだけ嬉しく思えたのだ。一人の人間として、少なくとも魔剣グラムという嫌な肩書きから逃れられる時間の中で、普通に人間から怖がられることもなく見られるということが嬉しかった。だから、嫌われたくなかった。
たとえそれが今さっき会ったばかりの人だとしても、私は嫌われたくないのだ。私は彼女が嫌いだが、嫌われたくないと思ってしまうのは自分勝手すぎるだろうか。たとえそうだとしても、嫌われたくない。人殺しの剣なのだという目をどうしても向けられたくなかった。
だから、動けなかった。彼女が本当は私のことを知っていると言われたとき、どうしても事実を鵜呑みにできなかった。
それでも、彼女の言葉は本当であろう。なぜなら、ここは聖杯の中。そして、聖杯から強引に魔力を補給、もとい奪っている私。ならば、彼女はここからでも私を見ることができただろう。いや、私だけじゃない。織丘市全体を彼女はここから見ていたのだろう。
私は彼女の顔を見るのが怖かった。騙していたと思われるのだろうか。恐ろしい顔で私を睨みつけているに違いない。この聖杯の中では私の剣を呼び出す力も働かないみたいだ。だから、私は丸裸な状態であり、殺されてしまうかもしれない。
それでも、勇気を振り絞って顔を上げた。
「え?」
そして、私は驚いてしまった。そのせいで腑抜けた声が漏れてしまう。
なぜなら、彼女は私を笑顔で見つめていたからだ。それこそ、何もかもを優しく包み込む毛布のような柔らかい視線。
驚きを隠せない私に彼女はこう言った。
「別に怒ってないわ。いや、まぁ、息子を殺そうとしたのはもちろん嫌だけど、それはそれ、これはこれ」
彼女は怒っていないと言った。そして、私の頭をまた笑顔で撫でた。
私は分からなかった。なぜこの女は私に怒らないのか。私に殺意を向けないのか。私は彼女の子を殺そうとしたのに、彼女はなぜ優しい目で私を見るのか。
「……何で私にそんな優しくする?」
ふと本音が漏れる。私は彼女の手を振り払い、立ち上がった。
「何で私なんかに優しくするんだ?私はお前の子を、ヨウを殺そうとしたんだぞ⁉︎私は最低な存在だぞっ—————!」
私は必死に嫌われようと言葉を投げかける。支離滅裂だ。嫌われたくない。そう思っていたはずなのに、私は嫌われたいと思っている。もうよく分からない。私がよく分からない。
私は何なのだろう?何になりたいのだろう?どうなることを私は望んでいるのだろう?
私は、私は—————
—————お前は魔剣グラムであろう?
心の奥深くで響いた。誰かが言った言葉。私は災いを呼ぶ、不幸をもたらすのだと。
ああ、そうだ。
私は—————血塗られた魔剣グラムだ。
そのときだ。私の首回りが温かくなった。耳元で聞こえる涙声。座った姿勢から急に立ち上がり、彼女は私に抱きついた。
「—————そんなことない!あなたは悪い子なんかじゃないわ。だから、もうそんなこと言わないで!」
彼女は泣きじゃくりながら大声で叫んだ。花園の真ん中で大粒の涙をぽろぽろと流しながら、私に彼女はそう伝えたのだ。
「だってあなたは、優しい子じゃない」
その言葉は私の心にぐさりと釘を刺した。そんなことは言われたことはなかったからだ。それが凄く痛かった。
だが、その一方で、なぜ彼女は私の目の前で、私のことでこんな涙を流すのだろうかと疑問を持った。私と彼女は初対面で、そもそも私は彼女の子を殺そうとした人殺し。私のために涙を流す意味もなければ価値も無い。
私などのために泣いてなんの意味になる?
「馬鹿じゃないのか?」
そう言いながら、私の視界がぼやけてきた。後ろに広がる花々が一本から二本に増えてきて、そして混ざりあった。目尻からつぅっと何かが頰を伝いながら落ちてゆく。
私はその何かが何なのかよく分からなかった。手で拭って確かめてみる。そしてそれは—————
「涙?」
私が涙を流していることに実感すると、途端に胸が苦しくなった。胸が脈を打つごとに痛みが全身を駆け巡る。
なぜ、私は涙を流しているのか。疑問の上にまた疑問が生じる。それが頭の中をこんがらせて、分かることも分からなくなってゆく。
ただ、温かい。それだけは分かった。彼女の涙が私の身体にこびりついた赤黒い血の塊を洗い流し、彼女の言葉が私に意味を与え、彼女の存在が私を抱きしめる。
抱きつかれて、涙を流されて、言葉をかけられて、私は頰が緩んでしまった。
私は優しい。そう言われたのは初めてだった。今まで人殺しの剣として、不幸を呼ぶ剣として敬遠されてきた私にそんなことを言ってくれたのは彼女だけだ。私の罪を赦してくれたのは彼女だけなのだ。
私は涙を流しながら考えた。何で私は涙を流しているのかと。そして、気づいた。
ああ、私はその言葉が欲しかったのだ。
救われた気がした。
私はろくでもない存在だと。黒く錆びた私は存在する価値も無いのだと。
だから、価値がほしかった。それも魔剣グラムとしてではない、新たな存在としての価値が。それでも、魔剣グラムとしての運命は私につきまとい、決して離れようとしない。
最後にしようと思っていた。この聖杯戦争で人を殺すのは最後にしようと。だから、どんなことをしても私は魔剣グラムという運命から脱却したかったのだ。
だけど、そんな大変なことをしなくても良かったのだ。聖杯など使わなくとも、私の願いは何もしなくとも良かった。
すぐ近くに落ちていた。私の願い。
自然と涙が溢れてくる。その涙は止まることなく、滝のように流れてゆく。
「ウッ、ウゥゥ……」
声をあげる。弱々しい生まれたての子犬が産声をあげるように、私は彼女に呼応してしまった。
辛かった。魔剣という名が辛かった。
私はグラムだから。
だけど、彼女の言葉はどれも温かくて、私を救ってくれたような気がした。
変な人である、彼女は。私のために笑い、喜び、泣き、悲しむ。頭のネジが何本か足りないのではなかろうか。
しかし、それこそヨウと似ている。
彼女と彼は温かい。太陽の光のようだ。全ての人を明るく照らしてくれる。
もっともヨウはそこまで温かな光などではないが。今のヨウはきっと、その光を反射する仄かな朧月。
それでも、いつかはきっと彼女のように温かな存在へと変わるのだろう。
シグルドはヨウに救われた。アーチャーに救われた。
ならば、私は?
「う〜、可哀想よぉ〜」
鼻水をヨーヨーのように垂らしながら、目を真っ赤にして咽び泣く彼女。私なんかのために惨めな顔を晒していた。
ああ、知性のかけらもない。そこには高潔さも、華麗さもない。
それでも、私はそんな彼女に—————
—————救われた。
この少しの、たった一時。
少しぐらいは魔剣グラムとしての強さを持つ私ではなく
弱い私でいてもいいだろうか。
私も彼女と同じように大声をあげて泣いた。今まで溜まりに溜まった重荷、悪声、鬱憤全てを流し出すように。苦しさを忘れ、魔剣としての私でない時間を少しだけでも過ごしていたいのだ。
ああ、温かい。彼女の優しさは私の冷たい赤黒い鋼の心を癒してくれる。
それは私が感じたことのない母親の香りというもののだろうか。
そうか、これが母親の愛というものなのだろうか。
少し、ズルい気がする。ヨウもシグルドも母親という存在がいるのだから。
それはきっと誰よりも温かく、優しく、大らかで、愛すべき人なのだろう。絶対の心の拠り所。
私はその母親という存在を知らないけれど、少しだけこの時間だけ、味わってみてもいいだろうか。
全てを忘れて泣いてもいいだろうか。
頑張ってきたのだ。
ちょっとだけ、誰かに甘えたいのだ。
私は一人のか弱い少女—————
何を言っている—————?
—————お前は何だ?
赦されるはずもない。忘れることなどできない。お前は最悪の存在だ。人を殺し、血にまみれ、死を平然と嘲り、高笑いをしながら戦場を駆ける男の愛剣。
まさしく魔剣の名にふさわしい。それ以上それ以下でもない、お前はれっきとした悪名高き—————魔剣グラムだ。
誰かが私の心の中でそう言った。嗄れた男の低い声。その声は段々と私の頭の中を駆け巡り、反響し、酷いめまいを起こさせた。
私の目の前にいるのはヨウの母親だけなのに、耳元で囁かれているようで、気持ちが悪い。
「やめろ……、やめろ……」
頭が痛い。何かが私の中から這い出ようとしてくる。
「どうしたの?グラムちゃん?」
彼女は急に体調を崩した私を心配する。だが、どうすればいいのか分からずに、おどおどと慌てて、私の頭を撫でるというよく分からない暴挙に出た。
だが、頭が痛いときに頭を触られたら誰でも怒るのは必然。
「やめろっ、触るなっ!」
私は彼女の手を強く叩いた。力の制御がきかない。叩いた後、彼女の寂しそうな顔を目にして胸が痛くなったが、それどころではない。
ヤバい。頭がハンマーで叩き割られているかのようで、言葉にできない悶絶級の痛みが襲ってくる。
痛い、痛い、イタイ、痛い、痛イ、痛い、イタい、痛いぃ、いたい、痛い、イタイ、痛い、痛いぃ、痛イ、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたぁい、痛い、イタい、痛いい、イッタイ、痛い、イタイ、痛イ、痛い、痛い、痛い、痛い、イタい痛い、痛い、痛いぃ、イタイ、いたい、痛い、いたぁい、痛ぃ、痛i、いた、いっつい、痛い、イタい、イタイ、痛イ、痛イ、痛イ、いたい、痛い、痛い、痛い、痛痛痛、イタい、痛い、イッタイ、痛い、イッタイ、いた、痛いぃ、痛い、イタ、いたいいたい、痛い、痛い、痛い、痛イ、いたい、イタイ、いたい、イタい、イたい、痛い、痛いぃ、痛痛い、痛i、イッタイ、痛い、いったい、痛い、イタい、イタイ痛い、痛い、痛ぃ、痛い、痛イ、いたい、痛i、痛、痛い、イタイ、い、痛い痛い、痛い、
「ヤメロォッ‼︎私の頭の中で喋るなぁっ‼︎」
頭の中が蝕まれてゆく感覚だった。私の頭の中で反響する声は段々と私の命令を無視して私を壊してゆく。
そして、最後に謎の声はこう言ったのだ。
「—————さぁ、世界を壊せ」
「どうしちゃったの?グラムちゃん?」
彼女が私にまた触れようとした。
その時だった。私の身体から急にドス黒いオーラが大量に吹き出したのだ。そのオーラはまるで竜巻のように渦を巻きながら段々と大きくなってゆく。血に咲く花々をむしり取り、赤い空を黒く染め上げる。
「えっ?ちょっ、これ何ッ⁉︎きゃぁっ」
彼女は私の身体から吹き出るオーラに彼女は吹き飛ばされた。
私は意識こそあるものの、自身の身体を自由に動かせない。まるで剣であったころに戻ってしまったようである。
「何なのだこれは?誰なのだ、お前は!」
私が謎の声に問いかけた。すると、謎の声は不敵な笑い声を上げてこう答えた。
—————アンドヴァリの呪いだと。
ぬぬぬ?
アンドヴァリの呪い?
イェース!アンドヴァリの呪いでェーす!
アンドヴァリの呪いとは簡単に言っちゃえばセイバーちゃんが生前に持っていた指輪にかけられた呪いのことです。この呪いのせいで生前は大変なことになっちゃったんですよ。あらまぁ。
この呪いは作中でグラムの能力向上とかそんなところをいろいろ底上げしてくれてるけど、理由はめんどくさいので分割!
とりあえず、チョー強力な呪いに身体を奪われちゃったョってことっすわ。
これは触手エッチルートがあるのか?
まぁ、ないんですけど。
次回はなんか、またヨウ視点に戻ったり戻らなかったり……。コロコロと変わってスイマセーン。m(_ _)m
あっ、そういえば、ママんがなんて聖杯の中にいるのかって理由なんですけど、それは過去とか過去とか過去が理由なんですよ。
えっ?わけがわからない?説明になってない?
それは今後お話中にいる説明されますよ。乞うご期待!d( ̄  ̄)