Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
冗談キツいわ
「おいおい、嘘だろ……?これはちょっと冗談キツイって。マジで」
洞窟から少し離れた俺たちが後ろを振り返っての最初の発言はそんなものだった。それは目の前に広がる光景があまりにも異常だったから。
「あ、あれ……、何なのですか……?」
隣にいるセイバーは冷や汗をかきながら指をさした。
彼女が指をさした方向にあるもの、それは剣の群れだった。無限大の剣の群れが洞窟の入り口から飛び出てくる。それも一本や二本じゃない。何百、何千本の剣を弾としてマシンガンのように一秒間に放っているのだ。豪速で直線的に飛び出てくる剣の群れが異常な光景だった。
しかし、それだけではない。今度は剣を放ち足りないのか洞窟内部から剣の波が現れた。飛び出てくるのではなく、流れてくるのである。無数の剣がガラクタのゴミのように地面を這いずりながら洞窟から出てくるのだ。
「洞窟の中で何が起きているんだ?」
目の前の光景に唖然しかできない状況で俺はセイバーの手をとった。
「えっ、あっ、ちょっと、何ですか?」
「おい!ここから逃げるぞ!そんなところ突っ立ってんな!剣の波に潰されるぞ!」
「えっ?」
セイバーは振り向く。すると、すぐ後ろから高さ二メートルほどあろうかというくらい大きな剣の波が押し寄せてくるのである。山を下る激流が俺たちを襲ってきた。
「イギャァァァッ!死ぬッ!死ぬッ‼︎」
臆病なセイバーは泣きべそをかきながら全速力で洞窟の入り口から離れる。山の中を少し走って洞窟の入り口から遠ざかり、冷静になれそうな場所を見つけた俺は後ろを向いた。そこは入り口から二百メートルほど離れた多くの禿げた木が根を張る森の中。剣の津波に押し潰されないようにと死にものぐるいで走ってきたものだから、二人の息は長く続かず途切れ途切れである。
金属と金属が擦れる音と雪崩のような剣が山の表面を削る音が近づいて、そして遠ざかった。どうやら剣の波は過ぎ去ったらしい。俺たちは二人して胸をそっと撫で下ろした。
だが、それでしまいではなかった。地上にばかり目がくれていたが、異変は他にも起きていた。
見ると、異常なほど大量の剣の群れがまるで塔のように高く天へと伸びている。地上を、そして空を覆い尽くさんとばかりの勢いだった。木々を倒し、星を隠そうとしている。
「本当にあれは何なんだ?グラムってあんな力あったのか?」
「分かりません。確かにグラムは神の力を持っていますし、竜の血にも濡れています。だから、あんな力が出せたのではないのですか?」
本当にそうであろうか。なら、なぜグラムはアーチャーとの戦いでこの力を出さなかったのか。グラムは本気でアーチャーを殺す気だったし、ならこの力を使っても良かったはずだ。なのに、使わなかった。
ただの気まぐれであろうか。いや、あそこまで執念に近い願望を抱く彼女が気まぐれでアーチャー相手に手を抜くわけがない。
つまり、きっといまの彼女はこの凄まじい以前とは比較にならない剣の量を呼び寄せる理由があるはずだ。
「あの時はできなかったけど、今はできる?それって、つまり……」
俺はすぐさま携帯の画面をつけた。
「うっわ、あいつから着信めっちゃ来てた。洞窟のなか電波通らなかったのか?」
俺はセイギに電話をする。ピッピッと規則的な機械音が数回鳴ったあと、彼が電話に出た。
「うん。僕だよ……」
電話越しに聞こえるセイギの声。その声に俺は少しホッとした。もしかしたら、セイギが死んでしまっているのかと心の何処かで思っていたが、その疑念が晴れたことは喜ばしい。
だが、どうしたのだろうか。彼の声が少しガラガラとしているような気がする。
「お前、声ヘンだぞ。喉を痛めたか?」
俺が指摘すると、セイギは鼻水をすすりながらこう答える。
「そう?そんなことは……ヒッ」
「ヒッ?どうした?」
「えっ?ああ、いや、こっちのこと……ヒッ」
彼が度々しゃっくりのようなことをする。それをひたむきに隠そうとするので、何となく事を察した。
喉の調子が悪いなどと言っているし、止まらぬしゃっくりから大体想像はついた。
「そうか。じゃあ、聖杯に魂は七つ溜まったんだな?」
「えっ?何で分かるの?アサシンとバーサーカーのこと何にも言ってないのに」
「ん?あ〜、いや、ちょっとこっちでもヤバイこと起きてんのよ。ほら、神零山の方を向いてみ」
「ヤバイこと……?えっ⁉︎なにあれ⁉︎ちょっと、空に向かって何かが伸びてるじゃん。あれって何?」
「何もかにも、お前さ何となく察しがつくだろ?」
「えっ?剣?」
「正解だ。んじゃ、電話切るわ。とりあえず助けてくれるとありがたいんだけど、おまえのところからじゃ遠いいわな。結構ヤバイ状況なんだけど、別に来なくてもいいっすわ。っていうか、逃げた方がいいかも」
「えっ?ヤバイ?何が起きてんの?」
「俺も詳しくは分からん!」
時間がない俺はもうめんどくさいので雑にセイギとの電話を切った。訊きたいことは訊いたつとりだし、言いたいことは言ったつもりである。グラムがどうなっているのかは何となくだが分かったし、セイギに逃げた方がよいとも言ったから別にもう話さなくてもいいだろうという判断だ。
俺は天へと伸びる剣の柱に目を向けた。
「ヨウ?何か分かったのですか?」
「んぁ、まあ、何となくだがな。その……、あれだ、聖杯が満たされたんだよ。七つ分の魂がさ」
「満たされた?それって……」
「ああ、そうだ。アサシンとバーサーカーが死んだ」
セイバーは俺から真実を伝えられると顔を曇らせた。他人の死に過敏な彼女は右指と左指をかけて擦り合わせながら目を細める。
「そうですか。アサシンは、もう……」
「ああ。今は聖杯、もといグラムの腹のなかっつーうこった」
聖杯と同調しているグラムは中身が満たされた影響できっと暴走してしまったのだ。あの時、俺とセイバーはグラムを追い詰めた。しかし、それが彼女にとって精神的負荷となりより強い力を欲した。だから、こうなってしまった。
「聖杯が満ちたんだよ」
その結果は何とも悲惨な姿だ。剣の柱の中に金色の眩い光を放つ杯が見えた。空高く、渦巻く剣の中に異質な光があるので一目で分かった。
「あれが聖杯……なのですか?」
聖杯のためだけにこの世に呼ばれたサーヴァントという存在である彼女が初めて依頼主を目にした。そして、同時に彼女の最大目標でもある。
俺はポケットの中に手を入れた。硬くザラザラとした角張ったものが入っている。それを手で触り、そして決意した。
「セイバー、お前はここに残れ。あれは俺がどうにかする」
俺がそう言い残して立ち去ろうとするとセイバーが引き止める。
「ちょ、ちょっと、勝手に話を進めないでください!何でヨウ一人でグラムのところに行くのですか?」
「は?そりゃ、お前が足手まといだからだよ」
率直に俺の本心を言う。嘘偽りはもちろんなく、本気の表情でそれを本人の前で言った。
「お前がいると俺はお前の分までカバーしなくちゃなんねぇ。だけど、今はそんなことしてたら俺が死んじまう。俺はお前のために死にたくなんざねぇし、そもそも俺が死んだらお前はあいつを倒せない」
人のことを考えない、しかし的を射ている辛辣な言葉にセイバーは歯を噛み締めた。
「ちょっと待ってくださいよ!だからって私が行っちゃいけないのですか?足手まといにはなりませんから!」
「いや、無理だ。もう今の時点で足手まといだ。さっさと行きたいんだが」
俺は彼女から離れようと歩き出した。しかし、彼女も付いてくる。胸を張って、俺に遅れまいと。
「おい、付いてくんなって言ったろ?お前はここで待ってんだ」
「いやです。私だってやればできます」
「無理だ。できん」
「いや、できます!」
「できねぇよ‼︎お前がいても何の役にもたたねぇよ!」
ふと俺の気の迷いが怒号を生み出した。それが事もあろうに彼女に向かって、言ってしまった。俺は怒鳴ったあと、少しだけ冷静になる。
「……すまん。強く言いすぎた。でも、分かってくれ。お前が死んだらどうにもならねぇから」
俺は彼女にそう告げると彼女を置いたままその場を離れた。
トゲトゲとした空気が俺の頰を突き刺してくる。悴む指を拳の中にしまい込み、少しでも温めようとする。
「ああ、さみィ」
脇がブルブルと震えた。足先は冷たいけれど靴底越しに枯葉を踏み、前へと進む。彼女を置き去りにしたこの足は後ろを振り返えらなかった。
「ッチ、コンチクショーが……」
自分に向けて罵倒をする。クールにいこうと決めているのに、どうしも彼女に強く当たってしまう。それが何故だかは薄々勘付いてはいるけれどそれを知らないふりしようとすると、彼女に強く当たってしまう結果になってしまう。
じゃあ、知らないふりをしなければいいのではないか。確かにその考えももちろんあるが、ダメだ。それはまだなのだ、今ではない。時が経って、俺がジジイになって振り返って、あんな事があったと思い返す。それが俺の目標なのだ。
分かっている。彼女は一人にされるのが辛いと。一人が彼女にとっては苦痛なのだと。だが、俺にとって彼女と一緒にいることが苦痛なのだ。俺は卑怯でクソな人間だから彼女と俺とを天秤ではかるとブッチギリで俺の方が価値がある。だから、彼女のことを考えない。
それに今、俺が彼女に強く言ってもどうせもう今夜限りの付き合いだ。死ねだの、ウザいだの、消えろだの言っても今夜限り。だから、俺がどう言おうが勝手だ。どうせ聖杯に願いを叶えてもらったら彼女は俺のことを忘れて、過去の愛する義父と幸せに暮らすのだろう。
俺は聖杯が現れたのを見て内心ホッとした。それはもうこんな辛い気持ちなんて感じなくてもいいのだということにだ。彼女といるのが辛い。だから、彼女がさっさと消えれば俺は楽になるのだろう。
アーチャーに娘を守ってくれた頼まれたから聖杯を追い求める。もちろんそれもある。だが、第一に俺は彼女に離れてほしいのだ。彼女が消えてくれれば俺はこんな聖杯戦争などしなくてもいいのだから。殺し合いなど死んでもゴメンだ。
「さっさと終えて帰って寝てぇわ」
そう言う俺の手は悴んで全然動かなかった。
剣の柱が近づくにつれて俺はどう倒そうかと考えていた。突発的に彼女を引き離そうと言ったものの、実はどう倒そうかと決めていたわけではない。いや、何となくのビジョンは一応ついてはいる。だが、決め手がないのだ。どうやってグラムを倒すのか、そこがどうも決まらない。
彼女は今、柱の中にいる。上空二十メートルほどのところでうずくまっている。特に何かをしているというわけでもなく、ただうずくまっている。しいていうなら、この万ほどありそうな剣にさらに新たな剣を足している。つまり、彼女を囲う剣の柱が徐々に広がりつつあるということだ。規模を拡大し、この山を飲み込もうとしている。きっとこれも聖杯が彼女の殺されたくないという意思に呼応した結果なのだろう。
彼女は言ってしまえばもう一人の悲劇のヒロイン。セイバーとグラムはそもそも二人とも悲劇に揉みくちゃにされた可哀想な奴らなのだ。だから、グラムを殺そうとする俺は慈悲のない男だ。自らの目的のために悲しみに暮れる彼女を殺めようとしているのだから。
だからと言って歩く足を止めることはない。俺だって理由がある。セイバーにとっととどっかに行ってほしい。それだけなのだ。
本当、そう思うと自分はなんて惨めな男なのだろうと思い知らされる。意気地なしで、サイテーな男だ。
セイバーといてつくづく思ってしまう。こんな自分が嫌いだと。
もっと俺が太陽のように輝けたら、きっとセイバーもグラムも救えるのに。
剣の柱の近くまで来た。俺は上空を見上げる。柱の頂点は俺の視線の届かないはるかに遠くまであった。
「おい、グラム。これをさっさとやめてくんねーか?」
いきなり攻撃してもあれなので、一応説得という手段を用いてみた。しかし、結果は予想通りのガン無視である。いや、無視というより気づいていないといった方が正しいだろう。彼女は気を失ってしまっているのか空中でピクリとも動かない。
聞こえていない、なんてそんな甘っちょろい理由ではないはずだ。剣の壁が邪魔をしているから少し離れてはいるけれど、それでも大きな声で話しかけたつもりだ。
意識のない彼女。ならば、彼女に近づくのは容易なのでは、と考えてしまった。
俺がさらにより近づこうと一歩足を動かした途端、剣が飛んできた。突然、機関銃のように容赦なく連続で放たれた剣に俺は回避に徹するしかできなかった。
「ぬわっ⁉︎」
大きな木の後ろに隠れた。木にはダーツのように十本ほどの剣が刺さっており、どれも根元まで深く突き刺さっている。
「おいおい、完璧に俺を殺す気だったぞ!」
木の陰に隠れている俺はちらりとグラムを見る。しかし、彼女はさっきと同じようにうずくまったままである。目は閉じ、頰は固まり、彼女の肉体が時の制限にかけられてしまったようであった。
その姿を見て、この柱は彼女の自由意志が作り上げたものではないと知る。きっとこの柱は彼女の無意識、死にたくないという願いが力の暴走と繋がった。
そもそも、グラム自身が自分の力を上手く扱えていないのだろう。神の力、竜の力、次元を捻じ曲げる力、あまりにも強大な自身の力に彼女が振り回されている。
その結果が目の前の彼女のような姿だ。剣に囲まれて、他を拒絶し、最強の引きこもりになれたのだ。
「これは倒せんわ。マジで俺一人じゃ倒せなかったわ」
ポケットの中に手を突っ込み、中から石を取り出した。青い石である。反対側を透かしてしまうほど透明な、青い宝石のような石だ。
これはアーチャーの落し物である。アーチャーがグラムとの戦いで使わなかった石ころ。彼が死んだ後、この石ころだけが転がっていた。それを俺が拾ったというわけだ。
この石の使い方は分かっているつもりである。使用すれば自分を中心とした小さな結界が張られ、その結界の中であれば攻撃を捻じ曲げることができるというグラムにとっては天敵ともなりうる魔術である。
これを使えばグラムに近づくことは簡単であろう。彼女の剣の攻撃は全ていなすことができ、倒せる。そういう算段を俺はつけた。
そしてその石を握りしめ胸の前に置いた。あとは軽い詠唱を唱えるだけである。
だが、口が動かない。とても簡単なことであるはずなのに、俺にはそれができなかった。
これはアーチャーの置き土産。そして、これはセイバーのものではないだろうか。そう考えてしまう。とすると、それを勝手に使用しようとすることはダメではないのかと。もちろんこんな状況だ。勝手に使用してもしょうがないと言えばしょうがない。しかし、それでもこの石は彼女にとってはとても大事なものなのではないのか。
アーチャーを父親と認識してからまともに話せなかった彼女にとって、この石は何よりも大事なものではなかろうか。
俺はしゃがみこんだ。木の根元に座り、膝にひじを乗せて嘆いた。
「カァ〜、こんな時でもあいつのせいでできねぇじゃねぇか」
あいつとはアーチャーのことだろうか、セイバーのことだろうか。それが詳しくはよく分からなかったが、どちらにせよ詳しく追及していったら、自分のせいになりそうな気もしたからヤメた。
石は使えない。とすると、もう物理的、地道に近づくしかないようだ。
俺は剣を両手に持つ。
「はぁ〜、結局はこうなんのかよ」
大きくため息をついた。
剣が飛んでくる。
「アァッ‼︎もう、どこからでもかかって来いヤァ!」
ヤケクソだ。大声で叫ぷ。むしゃくしゃしたこの気持ちを紛らわすように。
俺は剣を叩き斬った。
はい!Gヘッドです!
えー、久しぶりに一人称で物語を書いているため、結構ヒドイかと思います。実際、書いている自分も「あっ。ヤベェw」なんて思いながら書きました。
直したいときに直しますm(_ _)m