Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

そろそろ、アサシン陣営VSバーサーカー陣営の戦いも終わりに近づいてきました。まぁ、まだ、セイバーちゃんたちの戦いもあるんですけど……。

暗い話はさておき、今回は久々にあの子登場です。


黒灰舞ひ炎は揺らめく

 暴走したアサシン。これは本来の真名の純粋な殺人鬼としての側面を強調した結果であった。アサシンは人を殺すことにより色々な人間らしさを得ていて、現に今までの彼女はぼぼ人間であった。そのため、こんな醜い姿になることもなく、人間らしい行動しかしなかった。

 

 しかし、セイギはアサシンからその『人間らしい』というものを令呪によって剥奪したのだ。

 

 アサシンから『人間らしい』を奪った。つまり、アサシンがまだ人間ではなかった頃の、理性も、知性も、感情もない獣以下であった姿になるということ。純粋に人殺しを欲し、人を殺すということでのみ快楽を得られた狂った獣の時の彼女がそこにいた。

 

 それは今さっきまでの美しく妖艶でありながらも所々垣間見える優しさのあった彼女の面影など一切ない。そして、あれがセイギの呼び出した本当のサーヴァントなのだ。

 

 夜の森で二匹の獣が吠えた。一匹は熱気を身体から発しながら剣を振るう。もう一匹は人の身体から機械の部品のようなものが突き出ていて、醜悪な姿をしている。

 

 暴走したアサシンは突き出た金属の内臓を腕のように伸ばし、バーサーカーに振り回した。十メートルほどあるショベルカーのような巨大な腕が木々をシャーペンの芯のように容易く折ってゆく。バーサーカーはその腕を両手で押し止めた。足腰に力を入れて踏ん張りながら攻撃をせき止めた。

 

 しかし、そんな攻撃はアサシンにしてみれば片腕を一振りしただけに過ぎない。絶えずアサシンはもう一方の腕を振りバーサーカーを攻撃する。

 

 しかし、やられっぱなしなバーサーカーではない。彼は剣を両手で強く握った。そして、腕を切り落とした。

 

「あぁアあァァぁアァアああっ‼︎イぃぃいイイダただダだィぃぃイいいいイッ‼︎」

 

 腕を切断された彼女は悲鳴をあげて泣き叫ぶ。しかし、彼女が今感じている痛みは朦朧とした意識の中で感じる人間らしかったさっきまでの彼女が感じる痛みであり、いわば幻肢痛に似たような状況だ。さっきまでの彼女ならきっと痛がっていたであろう攻撃に今の彼女があわせてしまっているのだ。本当は痛みなど感じることはありえない。だって、彼女は人を殺すことに長けたただの機械にすぎないのだから。

 

 機械を纏った獣は赤子のように大声で叫びながら、腕の再生行動を始めた。周りにある木に彼女の体から出てきた触手のようなものが絡みつく。そして、見る見るうちにその木は枯れた花のように萎れてゆく。それとともに、彼女の切断された金属の腕はあのおぞましい形を取り戻す。

 

 彼女の腕が再生しきったら、またバーサーカーに向けて攻撃を行う。そして、時間が経つにつれ、アサシンの腕の数は二本、三本と増えてゆく。身体から出た突起物が魔力を得て、金属の腕となる。

 

 その禍々しい腕を単純に、しかし強烈にバーサーカーの燃える肉塊へと叩き込む。彼の筋肉は徐々にダメージを蓄えてしまう。

 

 そのせいか、バーサーカーは攻撃に対処しきれなくなってゆく。一撃一撃が身に深く堪えるほど重い。金属の瓦礫を集合したような腕は一振りだけで数トンの重さもある。その攻撃を休む間も無く次々と身体に打ち込まれるのは流石のバーサーカーでも苦しかった。そもそも、今のアサシンはサーヴァントという補正効果、さらに令呪の力でリミッターが強制解除されて数倍の力にまで跳ね上がっている。それに比べてバーサーカーは魔力の補給源であるマスターが近くにいない。そのため、バーサーカーは圧倒的な不利に陥っていた。

 

 多分、準備万端な状態のバーサーカーでも相手にするのは難しいのに、こんな退路を絶たれた状態で暴走したアサシンを相手にするのは無謀に等しかった。

 

 だが、バーサーカーは逃げようとはしなかった。剣を手にとり、構えた。

 

 きっとそれは巨人族の戦士としての矜持のようなものなのだろう。例えここでアサシンに負けるとしても、戦士は敵に背を向けない。剣が折れても、四肢が千切れても、腹が割れても命あり限り戦うのだ。気高き戦士の意地である。

 

 そして、バーサーカーはアサシンに負け戦を挑もうとした。

 

 その時である。彼の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「—————おい、バーサーカー!何やってんだよ!負けるなよ!」

 

 幼い子供の声ながらも芯のある声。その声の主はバーサーカーを応援する。負けを許さず、こんな状況なのにバーサーカーに勝てと言ってのけた。

 

 背後を振り向く。そこにいたのは達斗だった—————

 

 バーサーカーはその光景に面食らった。それも当然であった。バーサーカーはもう自分のマスターがここには来ないと思っていたから。二度と会うことはないだろうと悟っていたから。

 

 だから、予想外の事実にバーサーカーは一、二秒時が止まった。

 

「お、おい、バーサーカー!お前、俺じゃなくて前、前を見ろ!」

 

 少年はあまりの驚きに自分の肉体の体を止めてしまったバーサーカーに注意をする。バーサーカーは喝を入れられると我に戻り、アサシンの方を向いた。アサシンはまた金属の鞭のような長い腕を振り下ろす。

 

「うっわッ⁉︎こ、こいつ何?えっ、まさかアサシン⁉︎嘘でしょ?」

 

 いたって正常なリアクション。その様子からバーサーカーとの間にあった鬱憤を晴らしたようである。

 

 バーサーカーは振り下ろされた腕を剣で受け止めた。交わすこともできたが、そうすると後ろにいる少年はアサシンの餌食になる。

 

 だが、どうやらアサシンは少年がここに来たということを知らないようだ。バーサーカーの大きな身体が幸いしたのか、少年の姿が見えアサシンには見えないのだ。

 

 しかし、達斗がアサシンに目でもつけられたりしたら、きっと即座に殺されてしまうだろう。なので、バーサーカーは少年の前から移動できない。そうすると、アサシンを攻撃することも不可能だし、防戦一方になってしまう。バーサーカーとしては少し達斗にはここから離れていてほしい。

 

 バーサーカーは達斗の方をチラリと見る。

 

「なっ、何だよ……」

 

 どうやら達斗はアサシンが彼に気づいていないということに気づいていないらしい。

 

 少年はバーサーカーを睨みつけた。バーサーカーは言葉を発せないから、とりあえず目でメッセージを送るしかない。

 

「じゃ、邪魔だって言いたいのかよ?」

 

 バーサーカーはコクリと頷く。達斗はその思わぬ返答に顔を赤く染め上げた。まさか、あのデクノボーなバーサーカーが主人である少年に対して邪魔だと言うだなんて、と少年は歯を食いしばった。

 

「なっ、ぼ、僕に対してそんなことを言うのか⁉︎マスターだぞ!僕はお前を召還してやったマスターだぞ⁉︎」

 

 少年は大きな声で主張する。だが、そをな大きな声で話していてはアサシンにバレてしまう。バーサーカーは人差し指を口の前に立てて、ジェスチャーをする。

 

「……そ、そんなに僕のこと邪魔なのか?そ、そりゃぁ、わるかったとは少し思ってるけどさ……」

 

 バーサーカーは落胆する。ダメだ。どうやらバーサーカーが伝えたい内容と達斗の伝わった内容はてんで合っていない。それは言葉の分からないバーサーカーでも分かった。何となく相手の雰囲気で察してはいたが、達斗は勘違いをしている。

 

 バーサーカーは少年の言っていることと自分の趣旨が違うことを教えようとするが、少年は自分のサーヴァントに邪魔だと言われたことの精神的ダメージが案外大きかったようで、バーサーカーの方を向かず下を俯いている。

 

 こうなってしまったらもうバーサーカーとしては最悪である。言葉が話せない彼のジェスチャーという手段が封じられた以上、もうこの手しかない。

 

「■■■■■■—————!」

 

 彼は大声をあげる。そして、アサシンに向かって走り出したのだ。

 

 そう、彼は悟った。この状況をマスターに説明するのは無理だと。なので、諦めた。

 

 つまり、バーサーカーの考えはこうである。

 

 まぁ、二画目の令呪使って達斗の魔力は二百パーセント回復してるし、戦闘に参加しても問題はないか。どうせ何かあったら最後の令呪で逃げればいいでしょ。

 

 バーサーカー、ヒドイ。

 

 しかし、これは彼なりの優しさでもあった。確かにバーサーカーはやろうと思えば、今ここで自分のマスターを突き放すことはできた。しかし、彼はしなかった。それは、ここでバーサーカーが達斗の命のために突き放すことが達斗のためではないと知っているからである。

 

 達斗は怖いのだ。一人が。誰かに見放されるというのが彼には恐怖に感じるのだ。

 

 バーサーカーも同じ経験をしている。周りに誰もいないという恐怖は他の誰よりも彼がずっと知っている。

 

 だから、突き放さない。突き放せない。たとえ達斗の周りにいる誰かがバーサーカー一人であっても、彼はそこに居続ける。

 

 みんなから評価されなくとも良い。バーサーカーは自分の評価に値することをすればいいのだ。もしそれが誰からも評価されないことだとしても、彼にとってそれが自分の中で完結できることならばそれでいいのだ。

 

 巨人は己の心に従う。そして、巨人は少年を守るのだ。彼の唯一の取り柄、鍛え上げられた肉塊により、少年の命を守る。一人にはさせない。殺させもしない。

 

 全てにおいて彼は勝利を刻む、巨人族の誇りを胸に灯す—————

 

 そしてまた、少年も心の何処かにバーサーカーへの思いがあった。

 

 少年は見上げる。目の前に立つその男を。

 

 彼の身体は傷だらけだった。明らかに戦闘で負ったであろう古傷が彼を一層と強く見せる。背中にまで彼の傷跡は点在する。どれほどの死闘を繰り広げ、生き残ってきたのだろう。

 

 そして、男は自分を守ろうとしているというのにすぐに気づいた。

 

 何で自分なんかを助けるんだ————。達斗はそう考えていた。

 

 思い返せば、ずっと前からそうだった。何でバーサーカーは彼に従事しているのだろうと。達斗は魔術師だ。十一歳にして魔術を行使でき、聖杯戦争にも参加してバーサーカーを召還した。彼は確かに類稀なる才能を持っている。

 

 だが、だからと言って他の魔術師たちより強いかというと、そういうわけではない。魔術の実力では叔母である市長や、セイギたちには到底及ばない。達斗は実力が伴っていないのだ。

 

 そんな達斗にバーサーカーは逆らうことなく従事している。それがどうも気に食わなかった。

 

 自分に実力がないのは当然理解していたし、聖杯戦争で死ぬかもしれないということも覚悟していた。それは自分のサーヴァントに裏切られても同じだ。彼は結局のところ、実力の伴わない魔術師であることにかわりはないし、聖杯を得るための捨て駒にでもされてしまうだろうとも感じていた。

 

 だけど、バーサーカーは静かに自分の一歩後を歩くのだ。

 

 自分がバカにされているのではといつも感じていた。バーサーカーならば、他の魔術師についてもいいはずだ。

 

 その答えが見出せずにいた。だから、必要以上に八つ当たりをして、苛立って、苦しんで。

 

 でも、本当は簡単なことだった。バーサーカーが達斗を守ることなど難しい理由でも何でもなかった。

 

 バーサーカーは守りたい、達斗を。昔のバーサーカーみたいに孤独の中に立たせたくない。

 

 —————それは巨人が抱くマスターへの優しさだった。

 

 達斗は自分を背にしてアサシンと闘うバーサーカーに一言、声をかけた。

 

「バーサーカーやってやれ—————‼︎」

 

 少年の小さな喉から大きな声が夜の森に響いた。そして、息を目一杯吐いて、吸う。

 

「お前はデクノボーだし、ウザいし、何言ってるか分かんないけどッ……」

 

 いや、もしかしたらバーサーカーは達斗を救うことで自分が救われていたのかもしれない。巨人族のみんなを焼き殺し、一人ぼっちを嘆いていたのはバーサーカーの方なのかもしれない。

 

 バーサーカーの脳裏に召還された時の記憶がふと浮かびあがる。あれは希望の光のようなものだった。暗く絶望で満たされた何処までも深く広い海のような空間でバーサーカーは孤独を噛み締めていた。そんな時に声が聞こえたのだ。

 

 誰か、僕の隣にいてくれと。目の前に見える一人という世界を壊してくれないかと。

 

 彼はその苦しみにも似た希望の光に手を差し伸ばした。

 

 スルトも同じ気持ちだった。

 

 —————彼は誰かに認められたかった。ただ、それだけ。

 

「誇っていいッ‼︎お前は強い‼︎僕が知ってる誰より何よりも、ずっとずぅっとお前が強いっ!でも—————」

 

 言ってほしい。自分は、もう—————

 

「—————僕たちは、一人なんかじゃなァァいッ‼︎」

 

 その言葉が言ってほしかった。その言葉だけを求めていた。それ以外の言葉はもらってもあまり嬉しくはない。

 

 イジメられていた小さな時、スルトは夢見ていた。いつか自分は強くなって、仲間として認められるのだと。

 

 いつだろうか、彼の認められたいという願望が強くなりたいというものに変化したのは。

 

 だが、彼はその願望が間違いだと、あの地獄の時間に初めて気付いたのだ。

 

 認められることの喜びを。

 

「■■■■■■■—————!!!!!」

 

 バーサーカーは戦士の雄叫びをあげた。

 

 だが、彼の顔はいつもの変わらぬ寡黙な表情などではなかった。

 

 感情の起伏が乏しいバーサーカーが初めて嬉しそうに笑っていた。守りがいのある主人を持ったことは誇らしい。

 

 巨人は大剣を力強く、そして空高く振り上げた。剣の先から高いエネルギーが生み出されてゆく。そのエネルギーは剣を、そしてバーサーカーの身体を包みあげた。

 

 真紅の炎を纏う肉体はルビーのような煌めきを放つ。眩い輝きは彼の闘志そのもの。

 

 あの時は彼も力を暴走させてしまった。しかし、今の彼なら使いこなせる。

 

 真に大事な繋がりを彼は確と見つけ出した。

 

 バーサーカーは剣を振り下ろす。

 

 滾る闘志は剣に乗せて、熱き思いは声に乗せて。

 

黒灰舞ひ炎は揺らめく—————‼︎‼︎(ェえエウあぁンダァエいいンんんッ‼︎‼︎)

 

 彼の振った剣から黒煙が生じる。その黒煙はたちまちあたり一帯を包んだ。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「クソッ‼︎最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だッ‼︎サイッアクだよッ‼︎」

 

 セイギは大声で叫びながら赤日山の内部、伊場の魔術工房の入り口まで走っていた。

 

 やっぱり悔しいのだ。口ではどうこう言えても、やっぱり身体と心は一体などではない。どうも上手く心を従わせられない。

 

 本当は一緒にいたい、アサシンと。それはヨウに対する裏切りであることは百も承知で、それでも彼は本当に彼女のことを想っている。やろうと思えば裏切ることもできるし、アサシンだってとやかく言うだろうが、それでもセイギとしては結果オーライなのは明確な未来である。

 

 だけどやっぱりアサシンの思いを尊重するという自らの姿勢を変えない。親友であるヨウのためということもあるけれど、それ以前にアサシンがそうしたいと思うのならそれを叶えるまでである。

 

 そして、それを阻害する心に苛立ちを感じている。

 

 彼は工房への隠し扉を開いた。そこは山の木々が密集している如何にも何もなさそうな所だった。きっと夏には草花が地面に生い茂り、鬱蒼とした小さな森がそこに現れるのだろう。そんな所に扉は隠されていた。まさに秘密の工房への入り口とでも言うような場所だ。

 

 セイギは慣れた手つきで隠し扉に張られた魔術を解除して、扉を開け中に入っていく。中は壁も床も天井も一面が同じ金属で覆われた一本道だった。しかもその先には出口のような扉もある。それ以外は何か扉のようなものがあるわけでもない。セイギはこの道が迷路だと言っていたが、ただの一本道でしかない。

 

 だが、セイギは入り口から少し歩いた所で立ち止まった。そして、十八回壁を手の甲で軽く叩いた。すると、一本道に見えていた視界が急にかすみ出し、いつの間にか視界にはさっきまで見えなかった道がどんどん現れた。そして、それにつれてさっきまで見えていた入り口と出口が消えてしまった。セイギはそれに驚くことなく、現れた道の一つを迷いなく歩いて行く。そして、彼はまた立ち止まり、今度は床を八回叩いた。すると、また同じようなことが起こる。今度はさっきとはまた別の方向の道へ行く。そして、今度は立ち止まらずに歩きながら一定の周期で十一回交互に左右の壁を叩く。

 

 これが伊場の魔術工房の迷路だ。決して難しいわけではない。覚えてしまえばどうってことないただの迷路。だが、階層が深く、伊場の魔術工房に近づくにつれて目の前の風景が一変し、侵入者の不安感を煽り迷わせる。

 

 この仕掛けはセイギが作ったものなどではない。これもセイギの師である叔父の理堂の残した遺品の一つなのだ。

 

 だが、セイギは語らない。こんな仕掛けを作れるのは日本でも片手で数えるほどしかいないのに、自分の叔父のことを誰にも語ったことがない。知識程度に理堂の存在を教えることは多々あるが、その理堂の生き方や信念を他人に語ったことなどないのだ。それはアサシンであっても然り。

 

 そもそも理堂の人物像を詳しく知り得ているのはこの世にセイギ、ただ一人しかいない。だが、彼はその理堂がいた存在していたということを心の何処かで負い目に感じ、話そうとはしない。

 

 しかし、忘れてはいけない。今、セイギが魔術師としていられるのも理堂のお陰だということも。

 

 セイギは魔術工房に着いた。石畳みの床の上に机と椅子、天井に届いているほど大きな本棚が小さな部屋に置いてあるだけの殺風景な場所。ここが伊場の魔術工房である。

 

 セイギは本棚を横にずらした。すると、本棚の後ろに隠し通路があった。セイギは奥へ進む。

 

 そこは赤日山、もとい伊場の魔術工房の最深部だった。

 

「ここには一度も来る必要なんてないと思ってたんだけどな……」

 

 神妙な面持ち。それもそのはず、彼はこれからやることに乗り気ではないのだから。

 

 だが、やらねばならない。駄々をこねても、ここまできたからにはやるしかセイギには道がない。

 

 彼は最深部の真ん中にある水晶体に手を触れた。水晶体に手を触れると、彼の手相や魔術回路が解析されてゆく。

 

 彼はそれを終えると、水晶体に命じた。

 

「今までの伊場の全ての魔術の記録を本で出してくれないか?」

 

 彼がそう命じると、水晶体にオーケーと文字が浮かびあがった。そして、それから数秒後、水晶体から一冊の本が現れた。その本は暑さ十五センチほどの極厚の本。彼はその本を手に取る。

 

「こんなに伊場の魔術の記録があったのか。それほど、この工房は長い間伊場の魔術師たちに使われたってことだよね」

 

 彼は水晶体を撫でる。

 

「ありがとう。僕の魔術工房。そして、さようなら」

 

 彼はそう告げると、水晶体にある呪文をかけた。すると、水晶体は赤い怪しい光を放ち始めた。

 

「システム異常、システム異常。ただちに避難してください。ただちに避難してください」

 

 警報が工房内に流れる。セイギはその音を聞くと、本を持って魔術工房の後を出た。

 

「システム異常、システム異常。ただちに避難してく……だァさ……イ。たぁ……だち…………に…………ぃ…………。…………爆破モード切り替え。爆破モード切り替え。爆破まで十分。爆破まで十分。ただちに安全な場所へ避難してください」




今回は久々に人物紹介です。(パラメーターなどは多少の変更がございます)

バーサーカー


パラメーター:筋力A・耐久C・敏捷C・魔力D・幸運D・宝具B〜A+
スキル:狂化B(焼焉の身体のせいで実質E)・神性E・焼焉の身体B・破壊者D・世界の終わりEX
焼焉の身体……身体が熱くなったりするスキル。このスキルは自身の他のスキルも焼いてしまうため、そのせいで狂化スキルが最低値になってしまっている。
破壊者……何かを破壊することを長所とするスキル。また、このスキルにより耐久がガタ落ちするかわり、筋力は非常に高く上昇する。


長身巨躯、煤のような黒い肌に筋肉質な肉体、何より顔が怖いというTHE・バーサーカーって感じのバーサーカー。しかし、性格は乙女チック。優しく、人殺しを無闇にはせず、可愛いものが好き。やってみたいことはガーデニング・花いじりと、お菓子作り。きっと、女の子だったら可愛かったろうに。

真名はスルト。
そう、あのスルト。世界を一度終わらせたスルトである。もちろん、この物語でもスルトは世界を終わらせているし、破壊者としての一面がある。敵を殺し、最凶の神を殺し、仲間を皆殺しにした。
だが、スルトはそのことをずっと悔やんでいる。(詳しくは数話前の回にスルトの過去があります)。
聖杯への願いは殺してしまった仲間を生き返らせること。それだけである。

また、彼は昔の力に飢えていた自分と似ているマスターの達斗を気にかけており、できれば彼も救いたいと考えている。

宝具は『黒灰舞ひ炎は揺らめく(レーヴァテイン)
宝具ランクB〜A+
種別:対界宝具
レンジ:0〜300
最大捕捉:1〜

バーサーカー、もとい巨人スルトの持つ大剣。その長さは彼の身長を越すか越さないかというくらい非常に長く、とても大きい。重量はトンを超えるほど。(ベルセルクのガッツが持っている大剣のさらにデッカい版みたいなもの)
宝具を発動すると高温の黒い灰があたり一面を包み、焼け野原状態になってしまう。また、彼の炎は魔力、つまり生命力を燃やす炎である。そのため、その炎に焼かれた場合、基本的に死ぬことは免れない。つまり、焼く=死を与えると同義である。

ちなみに、バーサーカーはそもそも焼け終えてしまった身体なので焼かれることはない。達斗は焼こうと思えば焼くことも可能だが、意外に器用なバーサーカーは達斗には火を近づけないようにしている。

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