Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

久しぶりの投稿です。


女であって男でもあって

 手にはいっぱいの袋。持っていると袋が手に食い込んで少し痛い。歩くと袋と袋がぶつかって袋がちょっとグチャッとなってしまう。

 

 アサシンは手をぶらぶらと楽に動かしながら歩くのだが、肝心のセイバーの腕は下に向いたまま動かない。

 

「あの、アサシン。こんなに服を買ってもいいのでしょうか?」

 

「別に大丈夫。お金はちゃんともらってあるから」

 

「いや、そうなんですけど、そういうことではなくて……」

 

 セイバーは口をこもらせる。服を買うという行為に何か抵抗があるかのようで、顔を少し曲げる。

 

 アサシンはその姿を見ていた。けど、アサシンの足は止まりそうではない。というよりも、何処か他の店に行きそうな雰囲気である。

 

 そして、やっぱりアサシンはヨウたちの所には足を運ばない。どうやら次は女性用の下着を買いに専門店まで来たようだ。

 

「も、戻らないのですか?」

 

 未だに終わらない買い物に少し飽きてきたセイバー。アサシンはセイバーの手を引っ張るがその手が少し疲れてしまう。それでも無理やりセイバーを店内へと入れる。

 

 辺り一面がブラジャーとパンティーで埋め尽くされている。セイバーはそれを見ると少し顔を赤くした。

 

「なっ、なんて恥ずかしい格好を……。わ、私はこんな格好を大衆の目の前で晒すことになるのですか?」

 

 セイバーの質問は今の時代からすれば馬鹿げた質問である。けれど、何も知らないセイバーはこの時代で言えば、知識は子供並み、またはそれ以下である。

 

 もちろんアサシンだって最初からこの時代を知っていたわけではない。セイバーと似たような反応である。アサシンはセイバーの気持ちがよくわかる。だから、アサシンはセイバーを馬鹿にしたりはしない。

 

「あのね、今の時代はみんなこんな服を着ているの。その上にまた服を着るから見られはしない。大丈夫よ」

 

「でも、それをすることにどんなメリットがあるのですか?」

 

「胸の形をキレイにするの」

 

「でも、戦闘の時に邪魔になります。私はいりません」

 

 セイバーはブラジャーを着けることを拒否する。しかし、アサシンはセイバーにブラジャーを着けさせたい。もちろん、理由はセイバーの胸のサイズを測りたいためである。

 

「いや、セイバーちゃん。今の時代の女性はみんなしてるよ。郷に入れば郷に従えってこと。それに、胸の形をよくしたくないの?」

 

「胸の形なんてどうだっていいです」

 

「じゃぁ、化物みたいなおっぱいでも?」

 

「そ、それはちょっと困りますけど……」

 

 セイバーにとって服はあくまで肌を隠す物であり、女性が考えるファッションとしてではない。ダサすぎるのはダメだけど、相当ひどくなければ何でも着てしまう。

 

 アサシンはセイバーにこう問いかけた。

 

「貴方、女性?」

 

 アサシンの問いは別にふざけていたわけではない。でも、アサシンはある事が気にかかったのだ。セイバーの言動があまり女性的でない事に。

 

 別にセイバーのように男らしい女性は何万といる。けれど、英雄となるそのような者は数少ない。女性の英雄は圧倒的に少ない。だから、アサシンはセイバーを断定しようとしたのだ。

 

 セイバーは自分のマスターであるヨウにも本名を教えていない。そしてそのヨウは何を触媒としてセイバーを召喚したのか知らないから知る(よし)もない。

 

 つまり、セイバーは誰なのかが本人以外誰も知らない。武器の名を名乗らぬ限り特定なんてできない。

 

 けれど、車を馬車と言うような所からセイバーは過去の人と推測できる。そして、セイバーの言動や行動から人物を特定できるのではとアサシンは考えた。

 

 これは共に戦う『仲間』としてであり、背後の『敵』としてでもある。

 

 アサシンは情報主義の女性である。全ては情報であり、情報が戦いの全てを左右すると考えている。だから、彼女の頭の中には彼女が生きていた時代の膨大な量の知識と、この時代の知識が備わっている。知識欲の塊である。

 

 セイバーはアサシンの問いにこう答えた。

 

「女です。でも……男、でもある。私はそんな人間なんです」

 

 セイバーの顔は少し悲しみを帯びていた。悟られないように気さくに笑う。普通の人なら悲しそうな顔を見たとき、その言葉はセイバーの苦しい過去に触ると思い、何も聞かない。

 

 けれど、アサシンはそんな思いはわからなかった。

 

「身体の方は女性なの?」

 

 セイバーがあまり聞かれたくない過去にズシズシと踏み込んでいく。

 

 セイバーはアサシンの顔を見た。アサシンの顔は何一つ変わっていなかった。微動だにせず、ただジッとセイバーを見ていた。キョロキョロと辺りを見る様子もない。一切そらさずにセイバーを見ている様子は異様である。ロボットのように心がないかのようである。

 

 人間らしくないーーー。

 

 セイバーの頭の中にはそう思えてしまった。そう思ってしまったらセイバーはもうアサシンに心を許すことはできそうにもない。人間の顔をして、人間の体をして、人間の言葉を喋るのに、心がない。不気味以外の何者でもない。

 

 セイバーは一瞬にして強張(こわば)ってしまった。初めて見た人の皮を被ったロボット。感情が一切ない。

 

「ま、待って下さい、アサシン。普通、質問を一回したら今度は質問を一回されるのが常識です!」

 

 結局、セイバーは逃げた。嫌な反応をしたら普通はもう何もしてこないし、アサシンが狂った人とも思えない。普通な人でも、頭が狂った変な人でもなければ何なんだ?

 

 ファミレスで見たアサシンの行動。顔の皮が剥がれ、セイギから何かを奪うように自分の顔を修復させた。あれがさらにアサシンへの恐怖感を(あお)らせる。

 

「ええ、まぁそうね。セイバーちゃんも私に何か質問がある?」

 

 セイバーは逆にアサシンが何者かのかを調べようと考えた。けれど、もうアサシンに質問されたくない。つまり、質問は一回だけ。

 

 セイバーにした質問と同じくらいの代価の値を持つアサシンへの質問。

 

「アサシン、さっき貴方が自分のマスターに口づけした時、貴方の剥がれていた顔が戻りましたよね?あれは何なんですか?」

 

 セイバーの質問はアサシンにグサッと刺さる。

 

 はずだったーー。

 

 でも、なぜかアサシンは平然とした顔をしているのだ。

 

「ああ、あれはセイギから精力を奪ったの。私、(しかばね)だから誰かから精力を奪ないと動かなくなるの」

 

 この言葉にセイバーは多くの質問を投げつけたかった。

 

 精力とは魔力のことではないのか?なぜ、口づけをしなければならなかった?屍とは死体という意味か?なぜ動かなくなるのか?

 

 まだまだ質問は出てきた。けれどもやっぱり質問をされたくはなかった。だから、セイバーは何も言わなかった。

 

 アサシンがまた質問をしたが、セイバーはその質問を断ち切った。アサシンはもう無理だと分かったのかもう質問はしてこなかった。

 

 セイバーはアサシンを見た。その時の顔も何一つ変わりないものであった。


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