Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

今回は待ちに待ったアサシンさんの過去回なのですが……,

正直、いつも以上にしくじってます。本当はこの回だけでアサシンを語り終えるつもりだったのですが、意外と長かったです。なので、二話構成です。

そのため、一話に終わらせようとしたばかりに、表現がわかりづらい?

あとで直します( ̄ー ̄)


奇怪な機械《前編》

 仙狸(センリ)、それは古代中国にいたとされる大妖怪の名前である。尾が二本ある猫又の祖とも言われ、そもそも妖怪という概念そのものがこの妖怪から来たのではないかとまで言われるほどである。

 

 伝承によると仙狸は一匹の猫に過ぎない。ただ、長く生き過ぎて神通力を駆使できるようになっただけだ。

 

 だが、それは伝承でしかない。その伝承も不確かなもので、当然の如く数少ない歴史資料から憶測するしかなく、またその歴史資料も確かなものかどうかは微妙な塩梅だ。

 

 その歴史資料が間違っているということも当然あり得る。仙狸の伝承もそれに当てはまっている。

 

 仙狸は()()()人間であった。小さな村の一介の村人に過ぎなかった。彼女は若くして大人のような美しさを兼ね備え、村中の男たちを虜にするような妖艶な風貌を持っていた。その上、人当たりも良く、よく出来た娘であった。

 

 ただ、一つ普通と違うとすれば、それは彼女がとある魔術師の娘だったということだ。魔術というものがまだ世に受け入れられていた頃であっても、魔術は到底庶民が手を出せるような分野の職ではなく、それは道教などといった古代中国特有の魔術であっても同じだった。

 

 つまり、まだ人間であった頃の仙狸はいいとこの娘さんで、魔術師の家系ということから好奇の目にも晒されていた。だが、別に彼女にとってそんなことはどうだってよかった。それによって、彼女の人生が変わるわけではないし、彼女はそんな生活に何ら障害を感じたことはなかった。

 

 確かに彼女にとって不幸せなこともあったろう。それは幼い頃、彼女の母親は病で亡くなり、魔術師の父と二人暮らしだった。魔術師の父が生計を立てていたが、生活面は幼い頃から苦労していた。だが、それでもその頃の彼女は幸せを感じていた。

 

 優しい父親だった。父は妻を亡くした分もあって、娘を深く溺愛した。そして、娘も父を愛し、二人の間にはいつも笑顔は絶えなかった。

 

 それはそれは幸せな時間だった。その幸せな時間がいつまでもずっと永遠に続いてほしい、そう願っていた。

 

 だが、その幸せな時間は突然終わりを迎えることとなる。

 

 彼女は死んだ。二十四のことだった。流行病で病床に伏し、そのまま息を引き取ることとなった。

 

 美しい美貌の身体を残し、消え去った命。

 

 彼女の父親は泣き喚いた。自分の愛するたった一人の娘が死んだからだ。三日三晩ただただ泣き喚き、現実を受け入れることができなかった。

 

 その結果、父親は発狂することとなる。

 

 愛する娘が死んだという現実に耐えきることができなかった。娘が死んで、一人ぼっちになってしまった父は魔術師であろうとも一人の人間であり、愛する娘が亡くなるなどと思いたくなかったのだ。

 

 そして、いつからか父はまだ娘が生きていると思うようになってしまった。とっくのとうに潰えた命なのに、その魂もない亡骸を前にして生きているなどと主張し始めた。

 

 当然父親は頭が狂っている。そのため、当初は可哀想にと身を案じていた村人たちも、段々と父親を気味悪がるようになっていった。

 

 父親の行動は常軌を逸していた。発狂してからというもの、毎日毎日、骸の娘に食事を与え、服を着させた。時には頭を撫で、身体の所々に接吻をし、愛の言葉を口にしながら、終いには床で共に眠る。

 

 異常としか言いようがないほど父親は狂っていた。だが、やはり、狂っていても思ってしまう。

 

 骸の娘は日に日に廃れてゆく。真珠のような美貌の肉体は薄汚れ廃れた木材のように醜いものとなっていった。異臭を身体から発し、腐りかけの眼球は地に落ちた。

 

 父親はどう現実から目を逸らそうとも、逸らせなかった。やはり現実はむごい。

 

 苦しかった。辛かった。一人ぼっちなのだと認識するのが父には地獄のような選択だった。

 

 だから、父親はそんなことはしなかった。

 

 そのためにはどうすれば良いか。何も話さず、身は腐り始め、かつての面影はどこにもない娘をどうすれば良いのか。

 

 その時、父親は名案を思いついた。

 

 なんだ、簡単なことじゃないか。命がないのなら、命を吹き込めばいいだけの話じゃないか、と。

 

 しかし、普通そんなことできるわけがない。どんなに高位の魔術師であっても、死した存在を生きた存在に変えることなど不可能なのである。それはこの世の理であり、絶対と言っても過言ではなかった。

 

 もちろん、父親はそんなこと分かっていた。父親は確かに凄腕の魔術師で、ホムンクルスなど人造人間の製造に精通してはいたが、やはりそれでも無理があることは承知の上だった。

 

 だが、それで父親の心は折れることはなかった。むしろ、逆だった。娘を生き返らせたいという思いに、魔術としての知識欲も絡み、やる気に満ちていた。

 

 娘を生き返らせることができれば、それは魔術師として大きな成功ともなる。そうすれば、娘とまた幸せな生活ができると、そう考えていた。

 

 父はまず資料から集めた。娘を人として生き返らせるためにどうすれば良いのか。あらゆるホムンクルスの研究例を調べ、死者を生き返らせるような禁術に手をつけ始めた。確実に娘がまた自分の目の前で笑顔になる方法を死に物狂いで探した。毎夜毎夜遅くまで起き、何十時間もその研究のために費やした。

 

 その結果ある方法に行き着いた。

 

 死んだ娘を生き返らせるには、生きた者の魂を死んだ娘の骸に吹き込めばいいのではないのかと。

 

 狂っている。頭のネジが数十本ほど抜けていて、暴走していた。脳内パリラッパーのラリピッピーで、自身が異常だということに気づいていない。

 

 だから、そんな考えに行き着いた。理性や道徳を失い、目的のために手段を選ばないなど、人じゃない。

 

 そう、もうその時、父親は人ではなくなっていた。魔術師ではあったかもしれない。だが、もう人間というものではなかった。

 

 それは一種の化け物だった。

 

 そして、それに自身が気づかないから、なおたちが悪い。

 

 化け物が作り出す命など化け物でしかないのに。

 

 父親は娘の屍を核とし、新たな娘を作り出した。腐り、変色し、異臭を放つ彼女を歯車やネジなどの金属で覆い、さらにその上から粘土で生前と同じような彼女を形作る。また、生前のように病や災害などで死ぬことがないように、人間らしくない機能を搭載させた。

 

 より美しく、元気に、笑っていた彼女を再現するかのように。

 

 そして、父親の愛の芸術作品は完成した。

 

 美しかった。どの女よりも美しい生前の彼女が目の前に現れているかのようだった。

 

 だが、まだ終わりではない。芸術作品は完成したが、命は完成仕切っていない。

 

 彼女に命を吹き込まなければ。

 

 彼女の骸には父親の魔術が施されていた。それは生命を吸い取る禁術であり、吸い取った命が骸に渡るようにするもの。

 

 父親はすぐさま獲物となる人間を探した。村の生命力に溢れる若者を家に連れて行こうとした。騙してでもいいから、彼女の命の糧にしようと。

 

 しかし、誰も連れてくることができなかった。それもそのはず、だって父親の娘への研究は十年にも及んでいたのだから。

 

 その間に父親は村の者から危険者として見なされていた。死んだはずの娘の死体を毎日撫で、未だに生きていると信じている父親を気の毒と思うと同時に、誰も近寄ろうとしなかった。

 

 父親は悩んだ。結局のところ、誰か生贄を家に連れてこなければ娘は蘇らないのに、みんな気味悪がり近づいてこない。誘拐しようにも、自分という存在そのものが特異な存在だから、家から出ただけで目をつけられるからそんなことできやしない。

 

 人間以外の動物はどうであろうかと試したこともあった。山からうさぎを捕まえてきて、生贄にしようとした。しかし、禁忌の魔術は残念ながら他の動物には効果がないようだった。

 

 誰も彼女への生贄になろうとしない。誰も生贄となる存在がいなかった。

 

 だが、ある時ふと考えついた。

 

 自分が彼女の生贄になれば良いのだと。

 

 父親は喜んだ。自分さえ死ねば、彼女は人として生き返るのだ。あの美しい笑顔をまたするのだと。

 

 その考えを思いついた時の父親は人生で一番幸せな時を過ごしていた。莫大な金を得るよりも、高名な魔術師として名を馳せるよりも、根源に辿り着くよりも、彼は享楽に耽っていた。

 

 そして、父親はすぐにその行為を実行した。笑顔で彼女の目の前に立ち、彼女の硬いほおに触る。そして、彼は自らの魔術回路を開放した。

 

 彼の身体に満ちている魔力が彼の魔術回路を通って、彼女の身体に流れてゆく。魔力は生命力と言っても過言ではなく、魔力が死んだ彼女の身体に満ちるにつれて、段々と粘土で塗り固められた肌が人肌のように美しく変わってゆく。乾いた唇はふっくらと厚みのある薄紅色の実のようで、はめ込まれた眼球は血が通り潤いを取り戻してゆく。

 

 それに伴うかのように、父親は段々と痩せ細っていく。数十年の寿命をぎゅっと十秒ほどにまとめたかのようで、老いぼれた老人へと成り果てた。肌は萎れた紙のようで、髪は細く色素が抜けて、皮と骨だけの存在へと成り下がった。

 

 だが、父親は喜んだ。自分がどうなろうと関係ない。娘がかつての美しさを段々と取り戻しつつあるのだから。

 

 その時だった。娘の目がぎょろりと老いぼれた父親を見つめた。そして、ニタリとほくそ笑むように笑った。

 

「あラ、美味しソウ」

 

 そう口にした途端、父の視界が回った。家の中の景色がぐるりぐるりと回転したのだ。父親はその瞬間、何が何だかよく分からなかった。だが、即座に理解した。

 

 それは自分の視界に首のない胴体が映っていたからである。

 

 走馬灯のようなものの一種だ。死ぬ間際に頭の回転が通常の何倍も速くなり、処理速度が急激に上がったのだ。それによって分かった。

 

 父親は首を刎ねられたのだ。自らの娘の手によって、首と胴体を離された。

 

 父親の頭が重力に従い、床に落ちる。頭が消えた胴体は血を噴水のように吐き出しながら前に倒れた。その血は白く綺麗な肌の彼女を赤く染め上げた。

 

 死んでいるはずの娘はその血を見て、笑顔を死んだ父親に向けた。その笑顔は生前の男を虜にするような笑顔などではなく、禍々しく人の邪悪な部分が詰め込まれたような笑みだった。

 

 父親の命と引き換えに娘は生き返った。そのはずである。なのに、どうも彼女は人間らしくなかった。

 

 それは簡単な話である。父親の魔術は失敗した、そう言えるだろう。

 

 本来なら娘に生贄の命そのままを取り込ませることで生き返らせようという実験であった。そして、生きた人間として戻るという結果を出すはずだった。

 

 確かに娘は命は取り込み、命を得た。しかしまだ完全に人に成り切ることができなかった。

 

 それはなぜか。理由は簡単だった。

 

 たった一つの命だけでは足りなかったのである。彼女一人を生き返らせるのに、一人分の命以上のものが必要だった。もっと多くの命を得て、初めて彼女は一人の人間に戻れるのだ。

 

 だが、もちろん、一人分の命を得た彼女は人間のある部分が蘇った。それは人間のみが保有する人間らしさ。

 

『殺人欲求』である。

 

 人には死の欲求(タナトス)生の欲求(エロス)が備わっている。そして、彼女はそのタナトスと一部を得た。

 

 その結果が、父親という形で出た。

 

 生き返った娘は死んだ父親を見て、高笑いをした。人間性を著しく欠いた、人間性の中の殺人欲求しかない彼女は人を殺すということに喜びを得た。

 

 そして、彼女はこう言うのである。

 

「モッとォ、美味シそうナノ食べタイ」

 

 彼女はそう言うと、父親と過ごした家に馳せる思いもなく、父親の死骸を置いたまま家から出て行った。

 

 理性もない、知性もない、常識もない彼女はただ人を殺したいという獣じみた本能にのみ従い、獲物を探していた。

 

 すると、村人の二人のカップルがちょうど彼女の目の前を歩いていた。そこは運良く、人通りの少ない場所で、彼女がそんなことを考えることはできないが殺しをするにはもってこいの場所だった。

 

 彼女は家から持ってきた鎌を手に二人のカップルの前に現れた。カップルは突然目の前に現れた血だらけの彼女に驚いていたが、その間にとりあえず男の首を鎌で刎ねた。

 

 すると、隣にいた女性は悲鳴をあげながら逃げ去ろうとした。しかし、彼女は逃さなかった。生前の時にはなかった機械仕掛けの身体による高い身体能力は女性に軽々追いついた。そして、鋼鉄の身体で女性の胴体を突き刺さした。

 

 そのあと、彼女は二人の死体の唇に唇を重ねて、ありったけの魔力を吸い取る。二人の骸は父親と同じように惨めに成り果ててゆく。皮と骨だけになるまで彼女に吸われ、無惨な姿だった。

 

 皮肉なことに娘はさらに人らしい姿を手に入れた。生前の姿により似てきて、完全な人間にまた一歩近づいた。

 

 また、彼女は人間らしさを手に入れた。今度は知性と常識である。

 

 すると、彼女は目の前の惨状に絶句した。知性と常識を得た彼女はすでに三人もの人をこのように殺しているのかと考えると、吐き気が止まらなかった。

 

 だが、彼女の殺人欲求はあまりにも強すぎた。それはきっと、殺せば殺すほど人に近づけるからだろう。父親の魔術により組み込まれている、人間になりたいという本能が殺人欲求となり彼女を動かすのだ。

 

 身体が疼く。どうしても人を殺さなければならない身体になってしまった。

 

 その結果、彼女は笑った。彼女自身が人を殺すことを良しとしたのである。

 

 その時、彼女は醜悪な殺人犯となった。

 

 知性と常識を得た彼女はより計画的な犯行を可能とした。

 

 それから、彼女は幾人もの人を殺した。人を殺すにつれて満たされる殺人欲求と人間らしさ。嫉妬、睡眠欲、痛み、嘘、理性など色々なものを得てゆく。殺せば殺すほど彼女は自分が人間に近づいているのだと感じることができた。

 

 それが嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

 

 殺して人から魔力を自分の身体に蓄えると生きているという充実感を覚える。それが彼女の快楽となった。

 

 人を殺すごとに取り戻すあの時の美しさ。血に染まった分だけ彼女の肌は白く滑らかで、瞳は鏡のようにきらめき、髪はさらりと柔らかく、四肢は男に限らず女も誘惑するほど妖艶で肉々しい。

 

 身体が美しくなるにつれ、彼女の殺しの仕方も変わった。人通りの少ない場所で通った人を殺していたが、彼女は娼婦の姿で人を誘うようになった。路地裏で妖しい服装で買われるのを待ち、買われるとその者の家まで行き、一連の行為をしたあと寝首を掻き切る。それが彼女の殺しの習慣となっていた。

 

 別に彼女は娼婦として身を売りながら殺しをしなくてもよかった。前みたいに人通りの少ない場所で殺しをしていればよかったが、彼女は二十人ほど殺した時、性欲というものを手に入れてしまった。そのため、娼婦をしながら殺しをしていたのだ。

 

 また、性の行為をしている時、彼女は自分が生きていると感じることができた。こんな機械と粘土で作られた身体でも彼女は自分が生きているのだと思えたのだ。

 

 そうして、性欲に耽り、人殺しの享楽に浸っていたら、いつの間にか殺した人数は五十人をとっくに越していた。その頃には同じような死体が村付近から何体も出てくるので、警備隊のような者がそこらかしこに配置されていた。別にそんな者どもは殺そうと思えば殺せたが、それでは顔がバレてしまう。なので、一旦人を殺すのは避け、人目につかぬようにと山の中で過ごすことにした。

 

 しかし、山の中に過ごし続けて三日ほど経つと、彼女は身体が疼き始めた。やはり、彼女の根元にある殺人欲求は抑えが利かないようだった。野生の動物などを狩って殺人欲求を誤魔化してはいたが、どうしても彼女の中にある化け物は暴れだしそうである。

 

 そして、殺人欲求(バケモノ)は彼女の理性をぶち破ってしまったのだ。

 

 ある日、彼女はいつものように森の中で寝ていた。朝日の木漏れ日に起こされ、胴体を起こして目を開くと驚きの惨状が眼前にあった。

 

 血飛沫がべったりとついた木の根のところに首をはねられた死体が二つほど、その隣には四肢が切断された女の死体が一つ。

 

 彼女は驚いた。目の前に広がる光景は自分がやったものなのかと。しかし、この惨状は彼女がやった以外に誰がいるのだろうか。

 

 彼女は理解した。彼女の中にある殺人欲求があまりにも強く、それゆえに彼女は無意識下で人を殺していたのだと。

 

 彼女は恐ろしかった。自分の中にある殺人欲求がここまで強いのかと。

 

 そして、彼女は気づいた。三人を殺して、彼女は恐怖というものを手に入れたのだと。


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