Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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題名そのまんまの通りの内容です。


やっぱりバーサーカー強い

 暗闇の中に潜む彼女を捉えることは不可能と言ってもいいだろう。

 

 彼女は山の中の英霊なので山での戦闘には圧倒的自信がある。バーサーカーは山の英霊というわけではない。ただ、純粋に強いというだけであり、この地形によって状況を有利にするという点においてアサシンより劣っている。

 

 その上、厄介なのがアサシンのクラススキルである気配遮断だ。この気配遮断は戦闘態勢でない時、自身の気配を悟られにくくする力で、その力が暗闇の中では飛躍的に上昇する。

 

 また、彼女は木から木に飛び移るとき、しっかりと木を蹴り飛ばして揺らしている。それにより、バーサーカーの周りの木が揺らぎ、何種類もの音が聞こえてくる。

 

 視覚的にも、聴覚的にも、第六感でも彼女を捉えることなどほぼ不可能なのだ。

 

 騒めく夜の林の中、木を蹴り飛ばす音とその木の幹がギシギシと鳴らす音しか聞こえてこない。暗闇の中に光があるわけもなく、無の世界でいつ来るのか分からない攻撃にビクビクと怯えることしかできない。戦闘態勢にならない限り、アサシンの気配を察知することもできないから、攻撃を繰り出そうとした一瞬でしか身を動かせなかった。

 

 だが、そんな一瞬でアサシンを自慢の大剣で叩き割るなんてことはできない。下手に攻撃しようとすれば、そのわずかな隙をアサシンは狙うだろう。だから、守ることしかできないのだ。

 

 木が強く蹴られる音がした。バーサーカーは勘で、攻撃が来ると予測する。音がした方向からアサシンは来るだろうと、防御態勢でアサシンの攻撃に備える。

 

 しかし、声が聞こえたのは背後からだった。

 

「残念、ハズレ」

 

 アサシンにしてやられた。わざと大きな音でバーサーカーを騙し、彼女自身はひっそりと静かに背後に回っていたのだ。

 

 バーサーカーは一杯食わされたと気づき、向きを変えて剣を構える。

 

 だが、そんなことをアサシンは想定済みである。

 

「私がそこまで見抜いていないと思って?」

 

 バーサーカーの背後、地面には札が落ちていた。その札に蓄えられていた魔力が急激に膨張し、爆弾のように破裂した。

 

 二重の囮。音で騙し、視覚で騙し、本命の符咒(ふじゅ)でバーサーカーを爆撃する。アサシンのシナリオ通り、上手く攻撃を浴びせることに成功した。

 

 だが、アサシンの顔は浮かない。難しそうな顔をする。

 

 それもそのはず、バーサーカーの身体は傷一つついていないのだから。

 

 アサシンの爆撃も結局のところ、魔力に依存した攻撃であることに変わりなく、バーサーカーにその手の攻撃は一切通用しなかった。それはバーサーカーの身体から放たれる熱が原因だった。

 

 炎のような熱気を帯びているバーサーカーの身体は魔力さえも溶かすほどの力を持っている。そんなバーサーカーに単純な魔力の爆発で攻撃したところで、身体に届くまえにその特殊な力により威力がゼロにされてしまう。

 

 アサシンはまたバーサーカーに攻撃を浴びせられるまえに、距離をとり暗闇の中に隠れた。

 

 予想はしていた。やはりあれくらいの爆撃ではバーサーカーの身体に傷の一つや二つを刻むどころか、そもそも届きやしないことぐらい。

 

 だが、やはりそれが立証されてしまうとどうしても辛いものである。

 

 バーサーカーを殺すには物理的な攻撃でなければならないらしい。そして、それはあまりにも不可能に近すぎるのだ。

 

 バーサーカー、身体能力はサーヴァントの中でも随一。そんな敵は、そこまで身体能力が高くないアサシンにとって天敵ともなりうる。

 

「こればかりはどうしようもない」

 

 それでも、やるしかないのだ。できなくても、やらなければならない。やってのけなければならない。

 

 アサシンには先手の権利がある。攻撃側に回ることのできるのだ。その状況を維持し続ければいい。

 

 まぁ、逆に言ってしまえば、アサシンにはそれしかない。それだけが今の彼女の取り柄であり、それだけで彼女は勝たねばならない。

 

 また違う方向からバーサーカーの身に刀傷をつけようと、暗闇の中を馳け廻る。各方向から囮の足音と木の軋む音を鳴らして集中力を阻害する。

 

 今度はさっきの逆のことをしてみる。バーサーカーに符咒を投げつけた。すると、能無しはその符咒に気を取られる。罠にかかったその隙にアサシンは背後からバーサーカーを襲おうと飛びかかった。

 

 その時、アサシンはふと悪寒を感じた。それは人として持つ第六感が作用した悪い予感である。まるで自分の見ている世界の色が全て黒く見えてくるかのように、不気味で彼女は何かヤバいと感じ取ったのだ。

 

(すごく、嫌な感じがする……)

 

 アサシンはこのままいけばバーサーカーの身体に大きな傷を一つ与えられるかもしれなかった。だが、彼女は彼女自身が感じた何かに従った。バーサーカーに彼女の鎌の刃が届くというところで、背後に退いた。

 

 するとどうであろうか、バーサーカーは自分の大剣を後ろを見ずに振り回したのだ。アサシンが背後にいるとは見えてなどいない。だが、もし彼女がそのまま突っ込んでいたら確実に当たっていただろう。それぐらい正確に彼女を捉えていたのだ。

 

 アサシンはバーサーカーのその行動に目を疑った。だが、現に目の前で見ているわけで、それはもう彼女にとって衝撃だった。

 

 彼女が唯一と言っていいほどバーサーカーに対抗できる武器である気配遮断がこんなに易々と見抜かれてしまうだなんてと歯をくいしばる。

 

 その行動はきっとバーサーカーの今までの戦いの経験から推測したものだろう。アサシンが気配を消していても、どこから彼女は自分を攻撃するだろうかという勘である。つまり、アサシンの気配遮断とはそれぐらいのもので容易く破られてしまうだけのものだったという証明になってしまったのだ。彼女は勘に負けたのだ。

 

 理由は単純だ。自分がアサシンということに酷く過信していたことが原因なのだ。

 

 力の差を見せつけられる。歴戦の猛者であるバーサーカーに一介の娼婦ごときが勝てるわけないと思い知らされる。

 

 やはり至極真っ当な戦闘では勝てない。苦しいながらも、自覚した。

 

 戦闘なんてやり方は自分らしくない。自分は自分らしく、我流を貫くべし。たとえそれが自分にとって一番に毛嫌いするものであっても。

 

 アサシンがバーサーカーにまた攻撃しようとしたとき、声が聞こえた。

 

「離れて、アサシン!」

 

 それは暗い林の中から聞こえたセイギの声。アサシンはその声に従い、後ろにステップする。

 

 すると、横から夜の闇には不似合いな眩い光線がバーサーカーを塗りつぶす。突如現れた光はバーサーカーを覆うと、形を変え鎖のような姿になる。鎖は何層にも重なり、檻のようにバーサーカーを監禁する。

 

 木々の奥からエッセエッセと息を切らしながらセイギがやって来た。

 

「目的地より結構ズレているじゃん。もうちょっと下の方で殺りあってほしかったんだけど」

 

「しょうがないじゃない。やっぱり、私にこのデカブツの相手は無理だわ」

 

「ええー、期待してたのに。あわよくば、アサシンがサクッと倒してくれたらなーって」

 

 他人事のように言うセイギ。当の本人であるアサシンはその言葉に若干の怒りを覚えたが、それでもここに来てくれたという喜びが勝った。

 

「ありがとう。助けに来てくれて。私一人じゃ倒せないわ」

 

「まぁ、二人でも倒せるか分からないけどね」

 

「……えっ?普通、こういうときに弱気なこと言う?」

 

「できそうもないことをできるなんて言わないよ。というか、勝てる望みは薄ッ薄だけどね」

 

「勝てる算段が整ったからここに来たんじゃないの?」

 

「いいや。アサシンが危ない状況だなぁって思って加勢に来ただけだよ。もちろん、戦ってくれてる間に、この周りに色々と罠を仕掛けておいたけど、やっぱりそれもどこまで通じるのか分からないから」

 

 セイギはとりあえず、アサシンの手をとった。彼女はいきなり掴まれて戸惑うが、セイギは喜ぶ様子はなく、むしろため息を吐いた。檻の中に囚われたバーサーカーを見て、何かを決心する。

 

「ハァ……、走るか」

 

 露骨に嫌そうな顔をするセイギ。運動が大の嫌いである彼にとって自主的に走るだなんて嫌悪対象でしかないのに。

 

 だが、今はそれしかない。それしか思いつかないのだ。

 

「えっ?走る?」

 

 突然、セイギが自分の手を掴んで走ろうとしているのである。まず、なぜそんな経緯に至ったのか分からないし、そもそもセイギと手を繋いでいる時点で頭が正常に回らない。

 

 セイギはアサシンの質問に「走っていれば分かるよ」とはぐらかすような返答をする。彼女は何故そうするのか分からないけど、一旦彼の言うことに従い、暗闇の中に向かって走り出した。

 

 すると、背後から声がする。雄叫びのような、呻き声のような太く低い声。そして、その声が段々と近くなってきた。

 

「壊されたな……」

 

 それはきっとあの光の檻のことだろう。つまり、バーサーカーが檻をこじ開けて出てきたということ。

 

 二人は逃げるが、バーサーカーはその後ろを追いかけてくる。今にでも追いついてしまいそうな速さで木々をなぎ倒しながら進むバーサーカーはもうすぐそこまで来ていた。

 

 セイギはくるりと百八十度右に回って、合掌した。

 

「まぁ、アサシンが頑張っている間に僕は僕にできることをしたから、その頑張りを是非身体で受け止めてほしいね」

 

 バーサーカーが彼等の前に姿を見せたとき、セイギは身体から魔力を発した。血脈を通り、大気に伝い、そのオーラは罠の起動装置に触れた。

 

 光の球弾が暗闇の中から放たれた。バーサーカーはその球弾に即座に反応する。剣で光をかき消した。

 

 だが、そんな単発な罠をバーサーカーに仕掛けようと、上手くダメージを与えられるわけないのは百も承知。

 

 セイギは賢い。だから、それだけでは終わらせるわけもない。

 

 今度はバーサーカーの足元が爆発した。これも魔術を施されたトラップである。もちろん、そんな攻撃はバーサーカーにとっては蚊に刺された程度。

 

 次にバーサーカーを囲む木の幹から直線的な光線バーサーカーめがけて放たれた。的はバーサーカーの心臓である。その魔力の威力も熱い身体の前ではほぼゼロに等しくなる。

 

 それでもさらに罠はバーサーカーを襲う。爆発、誘爆、砲撃、束縛とありとあらゆる罠をそこらじゅうに仕掛けていて、ことあるごとに罠に嵌める。

 

 また魔術だけではない。落とし穴に落としたり、木を倒してぶつけたり、時にはアサシンの力により敵の背後をとったり。

 

 やれることなら何でもやる。どんなにちっぽけな攻撃でも、魔術師として嘲笑われる戦い方でも。

 

 貪欲にバーサーカーを倒すことを求めていた。

 

 セイギの息のリズムが段々と小刻みになってゆく。心臓のビートが彼を打ちつけ、冬の外気に包まれた身体はバーサーカーに負けず劣らず熱い。

 

 アサシンにも彼の頑張りようが伝わっていた。それは彼にしては少し異様でもある。

 

 セイギは基本的に運動が嫌いだ。そもそも、運動神経とか筋力とかセンスとか、そういう根本的なところで躓いているので嫌いなのだ。それに、性格も全然ストイックなんかじゃない。好きに、自由に一日を謳歌したいのだ。

 

 だから、何かしないといけないとなっても、彼から自発的かつ積極的にするだなんて彼にとってはありえないことなのだ。

 

 そんな彼が今、アサシンの手を引いて走っている。それは彼らしくない行動なのだ。

 

「セイギ……、あなたは……」

 

 呼吸の乱れていないアサシンがセイギに話しかけようとしたが、セイギの剣幕から彼の必死さは窺えたので、そのあとの言葉をしまった。

 

 だが、セイギは振り返った。

 

「んっ?何ッ?」

 

「あっ、いや、何でもないの。ただ、あなたらしくないなって思ったの……」

 

「そうッ?……ハァっ、まぁ、僕らしくないかもね」

 

 途切れ途切れの言葉。走りながら、今の自分が自分らしくないと言う。

 

「でも、僕がこんなことしなかったら、アサシンは何をしてた?」

 

 それはアサシンの心の中に響いた。まるでセイギに自分の心の中を見透かされているかのようだったから。

 

 もし、セイギが来なかったら、アサシンは一人でバーサーカーを殺そうとしていた。もちろん、気配遮断が通じないことぐらい分かっている。それでも、アサシンはバーサーカーをある方法で殺そうとしていた。それはもっともアサシンらしい殺し方であり、彼女が一番に嫌悪している殺し方だった。

 

 セイギはそれを止めたのだった。彼らしくない、その行動の理由は彼女らしい殺し方を止めたい一心だった。

 

「嫌だと思っていることをやろうとしなくていいよ。確かに、罠の準備には少し時間がかかっちゃったけど、何で一人ですべてやろうとするのさ。辛いなら少しは僕にまかせてくれてもいいんだよ」

 

 アサシンはセイギが何かヒドイ目に遭うのなら、自分が犠牲になろうと思っていた。それは彼は今を生きている存在であって、自分は違うからだ。

 

 だから、最後はセイギに迷惑をかけることなく、静かに終えようと思っていたが、それをセイギにこんな風に止められるとは思わなかった。

 

 とことん邪魔をしてくる。セイギのためにしようとしていることを、彼が止めてくる。

 

「ほんと、嬉しいのか悲しいのか。よく分からないわ」

 

「大切に想ってるってことだよ。喜んでほしいな」

 

「喜べないわ。いつ死んでもおかしくないこの場で、喜べると思う?」

 

 そう言いつつも、彼女の笑顔は喜びにあふれていた。

 

「さてと……」

 

 彼は轟音が鳴る方向へと視線を移した。

 

 今こんなにもイイ感じの雰囲気なのに、それを一切考えずに喚き暴れる大男を成敗しなければならない。

 

「ざっと、この山に二百ほど罠を仕掛けたからね。それ全部を発動したら、さすがにケガの一つや二つは負うでしょ?」

 

 二百の罠をアサシンとバーサーカーの交戦中に仕掛けた。それすべてをセイギは合わせる気なのだ。運良く、バーサーカーは能無しなので、罠があると知っていようが知らまいが、逃げている敵を見たら追わずにはいられない性分。これほど罠に引っ掛けやすい奴はそうそういない。

 

「あとは罠すべてを浴びるように、僕たちは逃げ回るだけなんだけど」

 

 彼の口がピクピクと動いている。

 

「アサシン、もう僕、走れなさそう」

 

「ええっ?嘘っ?」

 

 嘘などではない。セイギの足はもうガクブルと震えている。決してバーサーカーの力に恐れ(おのの)いたわけなどではない。

 

 ただ、ただ、ただ。

 

「純ッ粋に疲れた」

 

「嘘でしょ……?」

 

 セイギはただひ弱なだけなのだ。

 

 まず、足場がしっかりと舗装されていない土で林の中をアサシンの手を引いて走っていたが、そんなことをセイギにやらせてはいけないのだ。筋力が女子並みのセイギはそれだけでほぼすべての体力を使い果たしてしまう。

 

 それに、そもそもセイギはここまで自転車を漕いでここまで来たので、その分の疲労も充分に回復していない。ただでさえない体力をガンガン使ってしまったのだ。

 

 つまり、簡単に言えば、セイギはもう走れない。

 

 なので—————

 

「やっぱりこうなるよね……」

 

「何でセイギが落胆してんのよ!私の方が悲しいわよ!普通こういうのって男の人が女の人にするものじゃないのっ⁉︎」

 

 それはカッコよくて、背も高くて、爽やかな男性が可憐で、背が小さくて、か弱い女性にするあの運び方。

 

 アサシンの腕の中にセイギの丸まった身体がある。ぶらりと腕と足を垂らすセイギはアサシンの鼓動を直に感じていた。そう、それは例のアレ。

 

 お姫様だっこ♡。

 

 だが、二人は恥じらいながらも喜ぶどころか、不機嫌そうな顔である。

 

「何で私がセイギを抱えないといけないの?」

 

「何で僕がアサシンに抱えられないといけないの?」

 

 二人とも深いため息を吐く。

 

 だが、しかし、それはしょうがないことなのだ。マスターからの魔力供給のないバーサーカーにすべての罠を浴びせて、少しでも敵の体力を減らすために。

 

「なんか、こんなことするなら、バーサーカーに罠浴びせなくてもいい気がしてきた」

 

「そ、それはダメよ!」


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