Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです!

毎度毎度申し上げてる(かと思う)のですが、この物語では魔力=生命力ということで解釈してください。


誰かに認められたかった

 スルトは巨人族の中では少し異質な存在だった。殺し合いのことしか頭になかった他の巨人族と違い、彼は人と、神と話すこともできた。理性というものが著しく欠けている、バーサーカーという名にふさわしい巨人族の割に理性的で野蛮なこともしなかった。その上、他の巨人族の戦士たちでさえも太刀打ちできないほど比類なき力を持っていた。

 

 だが、幼い頃のスルトは今みたいにたくましい体つきをしていたわけでもなく、反大英雄と呼ばれるような素質は特に持ち合わせてなどいなかった。

 

 そんな彼はいじめられていた。巨人族の中では戦士こそが一番の地位であり、その戦士になれないような貧弱な巨人は周りから蔑まれるのが常識のようなものになっていた。

 

 スルトもその一員だった。子供の頃はいじめられ、悔しさを何度も噛み締めた。だが、彼はそれで巨人族を恨むようなことはなかった。自分が弱いからいじめられるのだと。巨人族の常識は悪くない。悪いのは弱い自分であるのだと。

 

 彼は鍛えた。己の肉を、骨を、皮を、臓を、精神を。戦士に必要とされる全てのものを欲しがり、そのための努力を惜しまなかった。その努力は日が東から昇り西に沈むのを何度見たかも分からない。長い長い永久に近いほどの時を自らの肉体に注ぎ込んだ。

 

 より強くなるため。そして、巨人族の戦士になるため。彼はその思い一心に身体を鍛え続けた。

 

 そして、いつしかその肉体は鋼になっていた。そして見渡せば、周りには仲間がいた。自分の努力に魅せられて仲間が一人一人と集まっていき、終いにはみんなが自分を認めていた。

 

 その時、巨人族の戦士、スルトが生まれた瞬間だった。

 

 彼はみんなから注目され褒められるのが極上の喜びと感じた。蔑まれていたスルトは認められるということに耐性がなかったがために、その喜びが彼の人生を突き動かすこととなる。

 

 彼はさらに肉体を鍛え始めた。もっと強い戦士になろうと。皆はそこまで強くならなくても十分強いと言うが、彼はそれだけに留まろうとはしない。より認められるために、より褒められるために彼はさらに肉体に鞭を打つ。戦士として強くなろうと。

 

 辛い日々を送る。戦士として強くなるための修行は過酷を極めた。その日々は彼の身体を傷つけてゆく。だが、周りの人たちの反応がそんな彼を癒すのである。そして、至福と感じ、また強くなろうと険しい道を行く。

 

 いつしか彼は国一番の戦士として名を馳せていた。山のように盛り上がった筋肉が鋼のような屈強な戦士のトレードマーク。幾千もの死を乗り越え、強い戦士にだけある傷跡という勲章。神よりも強い力を持つその戦士をみんなはこう言う。

 

 彼は強い。彼は国一番の戦士なのだ。

 

 だが、彼はふと思った。自分は確かに国一番の戦士だと。しかし、最強の、絶対に負けない戦士と言われたことは一度もない。

 

 彼は野望を抱いた。それはこの世界中で誰よりも自分こそが強くあろうと。

 

 そして時は流れ、いつしか彼は巨人族の長となっていた。それはもう誰もがそうなるであろうと思っていて、他の巨人族のみんなの意見であった。それに反対する者は誰一人としておらず、彼こそが巨人族を率いる戦士になった。

 

 だが、彼は諦めていない。自分が何よりも強くあるのだと。神がうじゃうじゃと普通にいる時代で、その神を差し置いて最強の存在であろうとしたのだ。

 

 でも、スルトは頭が良かった。すぐに戦を仕掛けようとはしなかった。いつしかきっと世界全てを巻き込む神同士の対戦が始まると読んでいた。その上で、わざと野望を懐に入れていた。

 

 自分が世界で最強の存在になるには、その対戦しかないと思ったからだ。

 

 そして、彼の読みは現実のものとなった。それほど時間も経たず、神族たちが自分たちのプライドを守るために戦い出したのだ。

 

 彼の待っていた世界を巻き込む戦争が起こった。

 

 巨人族はロキの陣営に加わった。

 

 スルトはこう考えていた。敵である神族を殺し、そのあとロキをも殺して自分が最強の存在であろうと。

 

 巨人族は神々に攻め込んだ。多くの神々を殺し、自らが最強の存在となるために。

 

 スルトはフレイと対峙した。フレイは神々の中でも猛者として有名だった。まずは全ての神を殺す前に手馴しをしようとフレイに挑んだ。

 

 しかし、手馴しであってもフレイは強敵だった。そのためスルトは負ける寸前まで追い込まれるが、彼はフレイの隙を見て、剣を奪い取ったのだ。武器のないフレイを前にして、スルトは圧倒的強者の快楽を味わい、殺した。

 

 フレイから奪い取った剣は彼に実によく馴染んだ。初めて手にしたはずなのに、なぜか剣が振りやすいのだ。それはきっとスルトの今までの努力が山よりも高く、星より高く、天よりも高いからだろう。剣はそれを見抜き、彼を担い手として認めたのだ。

 

 それからというもの巨人族の勢いは群を抜いていた。神族よりも巨人族のほうが何倍も勇ましく、ずっと血みどろだった。

 

 スルトはその光景に少しだけ胸を痛ませていた。だが、それが何故なのかはまだその時の彼には分からなかった。

 

 そして、戦いが巨人族の勝利へとなろうという時、目の前にはロキが現れた。ロキは戦争は終わったと言う。その通り、もう敵の神族たちはほぼ全滅であった。

 

 だが、スルトにとって戦争はまだ()()()()()()()()

 

 スルトはロキに襲い掛かる。自分が最強の存在であるために。

 

 しかし、ロキは強かった。あまりにも強すぎた。フレイがまるで簡単に折れる枝であったかのように思えるほどロキは強すぎた。それは天よりも高い努力をしてきたスルトを軽々と扱うほどに。

 

 悔しかった。どんなに頑張っても、自分はこれだけの存在なのだということに。結局のところ、神ではないのだから勝てるわけがないのだと。

 

 このまま負ければ自分は弱者だと罵倒されるだろう。巨人族の恥だと言われるだろう。

 

 辛い。辛い。誰かに認めてほしい。

 

 もっと力があれば、認めてもらえる。

 

 その時、声が聞こえた。

 

 力が欲しいかと。

 

 その声は剣からだった。その剣は最強になることを欲していた。強く、そして名のある剣になりたがっていた。

 

 そこに両者の利害が一致した。スルトもその剣もロキを倒し、より強い存在になるという思い。

 

 その思いがまだ見ぬ力を引き起こす。

 

 剣がスルトに全てを委ねると、スルトは徐々に身体が熱くなるのを感じた。全身の血が熱湯にでもなってしまったかのようである。隅々まで燃えるような感覚。じわじわと身体を蝕む痛みが彼を襲うが、強さのためならばとそれに歯を食いしばり耐える。

 

 そして、痛みが段々と失せてきたとき、彼は自分の身体の異変に気付いた。それは、自分の身体が黒炭になっていたのだ。燃えカスにでもなったかのように、真っ黒で硬い身体になっていた。

 

 それは巨人と神の力が合わさった結果だった。

 

 その力は凄まじいものだった。誰もが感じたことのない異質な力。神でさえもその力には無知で、謎の力の前に為す術なし。

 

 だが、初めてだからか、あまりに凄まじい力だからか、スルトは自分の力に押し負けた。意識がスッと何処かへ消え去ってしまった。

 

 それからどうなったかは知らない。自分がどうなっていたのか、ロキや仲間は何をしていたのか彼は知る由もない。

 

 何故なら、

 

 目が覚めた時にはもう彼以外、ほとんど命はなかった。目の前には黒く変色した土とメラメラと揺らめく炎が一面に広がるだけだった。

 

 きっと誰かいるだろうと仲間を探しに行く。だが、仲間は誰一人としていなかった。世界樹であったはずのところへ行こうと、巨人族の国であったはずのところへ行こうと、誰一人としていなかった。

 

 誰もいない世界に一人取り残されてしまった。

 

 その時、スルトは悟った。

 

 あまりにも強い力を得たばかりに世界はこんなになってしまったのだと。あまりに力を欲したがために誰もいないのだと。

 

 誰もいない世界。認めてくれる仲間たちを自分で殺してしまった。

 

 黒い巨人は焼土の地面に膝をつきうなだれた。強い戦士が大粒の涙をぽろぽろと流す。その流した涙は意味もなく彼の腕に落ちてジュワリと音を立てながら気化した。

 

 誰かに認めてほしかった。誰かに強いって褒められるのが嬉しかった。誰かに見てもらえるだけで幸福を感じた。

 

 なのに、その結果がこうだとは思わなかった。

 

 あまりにも強い力を得たせいで、仲間を、彼の世界を焼き尽くしてしまった。

 

 誰の声も聞こえない。自分一人だけになった世界。

 

 誰も褒めてくれない。自分一人で自分を評する。

 

 誰も見てくれない。自分はどんな奴だろうか。

 

 醜いだろう。おぞましいだろう。惨めだろう。

 

 戦士の生きる意味がなくなった瞬間だった。

 

 最期に彼は元凶となった剣の刃を自らの首に向ける。そして、カミソリで髭を剃るように彼は自分の首を刺した。

 

 そこで世界を焼いた反英雄、スルトが燃え尽きた。

 

 彼が聖杯に望むことはただ一つに過ぎない。それはかつての仲間を生き返らせることだった。

 

 自分のせいで死んでしまった者たちを生き返らせる。それだけが望みであり、それ以外のことを彼は欲さない。

 

 自分を見てくれる仲間が一番大切だともう気づいたから。その一番を取り戻すために、彼は聖杯を追い求める。その身体がまた燃え尽きようとも、彼がこの世に居続ける限り。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 バーサーカーの顔が赤い。興奮の度合いがマックスで今にでも脳の血管がはち切れそうだ。

 

 大きな騒音が太い喉から出て、巨人はまたアサシンに剣を振る。

 

「やん。もう、怖いっ」

 

 か弱い声とは裏腹に、空中で身をくるりと翻し敵の攻撃をかわす。

 

「あのね、私はあなたより身体小さいし身体も軽いんだからフットワークはいいと思ってるの。だから、そう簡単に攻撃を当てさせないわよ」

 

 アサシンは木の上に飛び乗った。山猫のように軽々と上へと上へと移動して、バーサーカーに一言。

 

「あなた、こんなことできないでしょ?」

 

 その一言の意味をさすがのバーサーカーでも分かったのか、バーサーカーは苛立ちのような雄叫びをあげる。そして、アサシンが乗っている木の幹を剣で叩き折った。

 

「えっ、嘘?それだけで怒ることある?」

 

 バーサーカーの膂力に大剣の重量を上乗せされたら木はまっすぐと立つことはできない。アサシンは倒れゆく木から他の木へとまた身を軽くして飛び移る。

 

「ほんと、怒りっぽい人は嫌いだわ」

 

 彼女は合掌をして一小節唱える。

 

「山よ、力をかしたまえ、この屍たる身に力を」

 

 彼女の魔術が発動されると、山々のありとあらゆる生命力が彼女に注ぎ込まれる。木から、草から、地から、動物から、大気から。ちょっとずつ力を吸い取り、力を高めた。

 

 彼女は取り込んだ魔力をさっそく使う。

 

「これで倒せたら楽なのだけれど……」

 

 彼女は右手をグッと強く握った。すると、あらかじめ設置されていた罠がバーサーカーに向かって牙をむく。鞭のような触手がバーサーカーに向かって伸びるが、バーサーカーは難なく対処する。その次に魔力が弾丸のように放出された。しかし、それもバーサーカーには特に意味のない攻撃だった。彼の熱い身体に触れた瞬間、魔力が一瞬で蒸発してしまったのだ。

 

「あらら〜、やっぱりダメか」

 

 頭を悩ませる。いくらバーサーカーがマスター不在だとしても、強者であることに変わりなく決め手に欠けていた。形勢的に見ればアサシンの勝ちとも言える状況だが、やはり勝つのでは意味がない。バーサーカーを殺さなくてはならないのだから。

 

 遠距離から罠だけでバーサーカーを倒したいというのが本望なのだが、それでは倒せるわけもない。やはり倒すなら接近戦しかないのだろうか。

 

 アサシンは鎌の刃を見る。刃にはヒビが入っていて、歪んでいる。斬れ味も前より格段に悪くなっているだろう。もう一度、バーサーカーの攻撃をまともにこの鎌で受け止めたなら、接近戦自体が難しい。

 

 だが、やるしかないのだ。チャンスは一回と考えた方がいいだろう。

 

 アサシンは木から降りて、構えた。バーサーカーもそれを見て剣を構える。

 

 両者が互いに相手の出方を伺う。冬の風が二人の間を駆け抜けてゆく。

 

 刹那に近い静寂のあと、最初に動いたのはアサシンだった。アサシンはバーサーカーに向かって走ってゆく。鎌でいつでもバーサーカーの首を切らんという意思が感じられる殺気を放つ。

 

 バーサーカーもアサシンが飛び込んでくるだろうと予測し、大きな剣を身の後ろにまで引いて構える。

 

 アサシンが飛び込んだ。バーサーカーはそのアサシンに向かって剣を横に振る。

 

 しかし、どうしたことかバーサーカーの剣はアサシンの身体に擦りもしなかった。しっかりと狙ったはずである。タイミングも良かった。きちんと相手を切ることができる位置で剣を振ったはずだった。

 

 だが、それはあくまでアサシンがバーサーカーを斬りつけようという時である。その予想が外れたのだ。

 

 アサシンをバーサーカーを飛び越えた。そして、バーサーカーに背を向けたまま、木々の中に潜っていった。

 

「うふふふ。やっぱり、こうするわよね。だって私、暗殺者(アサシン)だし」

 

 アサシンの声がする。だが、どこから声がしているのかさっぱりわからない。今、バーサーカーが立っている周りには木ばかりである。

 

 時間帯は夜、この状況下で木々の中に身をひそめる事などアサシンには朝飯前も同然だった。

 

 バーサーカーは姿が見えなくなった敵を追おうとしたが、さらに暗い林の中へ入ってしまっては元も子もない。

 

 林の中の闇に隠れるアサシン。色々な方向から彼女の声が聞こえてくるので、集中力が切れてしまう。

 

 彼女の一番得意とする状況が出来上がった。

 

「さぁ、楽しみましょう」




スルトの過去、若干改変しましたが、許してください。

スルトと少年の妙に似通った部分、それがスルトの優しさを生んでいるのかもしれません。

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