Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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はい!Gヘッドです。

う〜ん、今年中に終わらせたい。けど、ビミョ〜な感じです。

まぁ、それはともかく、前回の続きです。はい。


少年の隣には

 ある人はこう言った。伊場の魔術は魔術に準じていないと。またある者はこう言った。伊場は日本の魔術史が残した汚点だと。

 

 魔術の世界に入ってから、彼は色々な魔術師と出会ってきた。それは彼にとって、新たな魔術への布石となり、魔術への愛を高めていた。だが、彼の魔術の家系のことを知った瞬間、他の魔術師は彼には寄りつかなくなった。

 

 伊場の魔術は実に特殊で、魔術師たちにとって必要な存在であった。それゆえに地位はそこそこ高い。だから、当主と呼ぶには若すぎる年齢の彼でも、伊場の魔術師として日本の魔術協会の一席に座っている。

 

 だけど、彼はいつも白い目を向けられる。伊場の魔術師だからという理由で、彼はいつも居場所をなくす。

 

 その上、さらに先代の当主、叔父の理堂の力不足による前回のアサシンの暴走。それによって、さらに箔が剥がれた。

 

 彼は伊場の魔術を侮辱されること、叔父の理堂の悪口を言われるとひどく激昂してしまう。

 

 ただでさえ、親友のヨウとセイバーを殺そうとしたバーサーカーのマスターに怒りがあるのに、それ以上に怒りを塗り固めてしまった。そんなことになってしまった以上、いくら冷静なセイギでも平静を装うなんてことはできなかった。

 

「見事に君は僕を怒らせるマトを全て当てたみたいだ。だから、容赦はしないよ」

 

 発言通り、セイギは全力で少年を潰しにかかる。その隣にいるアサシンは深いため息を吐いた。

 

「はぁ、やっぱり、どこの時代の男の子もこうなのか〜。バーサーカーのマスターを結界の中に閉じ込めておけばいいものを、どうしてこう潰しにかかっちゃうかなぁ〜」

 

 アサシンは独り言を呟く。もちろん、血が上っているセイギにそんな独り言が聞こえるわけもなく、彼はどんどんと魔力の球体を量産してゆく。少年はそれに対処しようと所持していたありったけの形代に魔力を注ぎ込んだ。

 

 だが、その時、少年は思いもよらなかった事態に陥る。

 

「あ……れ……?」

 

 彼の手には四枚の白い形代が握られていたが、どうしてもその紙に魔力という名の命を注ぎ込むことができないのだ。注ぎ込もうとしても、額から汗が噴き出てしまう。

 

 そして、それはすぐに分かった。

 

 少年はもう魔力がほとんどゼロなのだと。バーサーカーを実体化させることはおろか、たった一枚の紙切れに魔力を注ぐことさえ無理なのだ。

 

 少年は尻餅をついた。もう立てないほど、体力を消費していた。息は荒く、手足は震え、目の焦点は定まらない。

 

 セイギは少年の目の前まで歩み寄る。戦闘態勢で、傍らには魔力の球体を浮かせている。

 

「安心してよ。確かに君には色々イラついてるけど、師匠がしたこともあるからね。別に目標はバーサーカーを倒すことであって、君を痛みつけることじゃない。だから、安心してよ」

 

 彼は笑った。えげつない笑みで、高らかな声をあげて、幸福を感じるかのように。

 

「すぐに楽にしてあげる」

 

 だけど、心なしか、どこかぎこちなかった。自分でそうあろうとするばかりに、その形に囚われてしまっているかのようであった。

 

 セイギは心の中で躓いていた。()()人を殺すのかと。

 

 揺れる心はそれを止めもせず、せかすこともしないアサシンには見抜かれていた。だけど、今さら止められない。

 

 彼は決めたのだから。親友に聖杯を渡すのだと。本当は残り二体のサーヴァントを倒さねばならない。だから、バーサーカーを倒すことは必須で、これは仕方がないのだ。

 

 倫理と使命感が互いにぶつかり合った。

 

 そして、彼は選んだ。

 

「死ね」

 

 最後の言葉を投げかけ、セイギは魔力の球体を少年に向けて放とうとした。

 

 これで終わる。人を殺すことへの恐怖が渦巻きながら、長かった聖杯戦争への思いも馳せていた。

 

 色々な感情をその時、ぎゅっと詰め込まれたかのようだった。

 

 誰もがここで終わる、そう思った。

 

 だが、その時だった。

 

「誰か、誰かいるのですか?」

 

 死を招いていた静かな礼拝堂に女性の声が響いた。怯えているのか、声は震えていた。

 

 セイギは後ろを振り向いた。それはそうするしかなかった。もし、この光景を見られていたらすぐにでも始末しなければならないからだ。

 

 振り向くと、そこにいたのは一人の外人女性だった。きっと、この孤児院の先生か何かだろう。その女性は暗くてよく見えない周りを見渡していた。手には懐中電灯があり、前方を照らす。

 

 その女性は目の前にいる一人の見知らぬ少年にライトを当てた。

 

「あっ、あなたは誰ですか?」

 

 セイギは見られた。聖杯戦争を知らぬ一般人に。

 

「アサシン!彼女をッ!」

 

 セイギはアサシンに命令する。アサシンは言われるまでもなく、彼女の首を狙いにいく。

 

 その光景を見た少年は大声をあげた。

 

「ミディスさん!逃げてっ!」

 

 だが、遅かった。アサシンは少年の声が届く前に女性の首の後ろに歯を立てていた。血を吸うように、魔力を奪い去る。魔力を吸われた女性はその場に倒れた。

 

 セイギはほっと胸を撫で下ろす。少し目撃されはしたが、その少しの出来事なので、誤魔化せる。貧血で倒れたときに見た夢だと言えば、どうとでもなるだろう。

 

 だが、セイギの後ろにいる少年にその光景はあまりにも鮮烈だった。自分の知っている誰かが倒れるということは少年にとってあまりにも刺激が強すぎた。

 

 少年はまた一つの恨みをセイギに覚えた。

 

 ここで逃げなければ殺られる。そんな思いがあったのかもしれない。だけど、それにもう一つの感情が重なったのだ。

 

 こいつだけは生かしてはならないと。

 

 何もできない少年はふと見つめる。それは自分の手に刻まれている赤い令呪。

 

「令呪」

 

 セイギは少年のとろうとしている行動に気づいた。すぐさま少年を殺そうとした。

 

 だが、遅かった。

 

「こいつを殺す力を、僕にッ‼︎」

 

 令呪に溜まった純粋な何色にも染まっていない魔力。その魔力はマスターが所持するサーヴァントへの絶対的な手綱であるが、少年はその手綱を自らに使った。

 

 令呪の力は強大だった。魔術を行使するのに慣れていない幼い身体でも並大抵の魔術師以上の魔力を彼は得たのだ。

 

 少年の魔力量が段違いに跳ね上がった。仕留め損なったセイギは少年と間合いを広げた。

 

「セイギ、油断したの?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……、運が悪かったんだ」

 

 セイギはちらりと倒れた女性を見る。

 

「大丈夫よ。殺してないわ。ただ、ちょっと精力をいただいただけよ」

 

「そう、ならいいんだけど……」

 

 倒れている女性は死んではいない。ただ、怒りを剥き出しにしている少年はそのことを知らないのか、殺意が溢れている。

 

 アサシンは少年に女性を殺していないと主張しようとしたが、あえてセイギはそれを止めた。

 

「こっちの方が僕的には殺りやすい」

 

 セイギは心なしかホッとしているように見えた。さっきまでは無抵抗に近い少年を殺すことに躊躇していたが、今はその少年が力でセイギを倒そうとしている。それはセイギにとっては願ってもないことだった。

 

 無抵抗な人を殺すという罪悪感から少しだけ逃れられるから。

 

「作戦を変更。僕は一足先に赤日山まで戻ってるから、アサシンはバーサーカーをゆっくりと誘導して」

 

「はいはい。分かりましたっと。じゃあ、それまで私は3Pしていればいいわけ?」

 

 アサシンの場を考えないボケにセイギは苦笑する。でも、セイギの心持ちを軽くするための言葉なのだと思うと、有り難く思う。

 

 少年はセイギが逃げようとしていると捉えた。

 

「待て!逃げるのかよ⁉︎」

 

「逃げる?僕が?そんなわけないじゃん。しっかりと倒すために準備するんだよ。それまではアサシンが相手するから」

 

 セイギはそう言い残すと、アサシンを置いてその場から去った。少年はセイギを追おうと、使役魔術で人の形をした紙に魔力を注ぐ。そして、その紙でセイギを追尾しようとした。

 

 だが、アサシンがその紙を全て払い落とす。

 

「もう、かまってくれてもいいじゃない。私がここにいるのに無視だなんて、ひどいわ」

 

「お前には用はない。僕が殺したいのは人殺しだけだ!」

 

 少年はセイギを人殺しと言う。その言葉に少しだけ彼女は許せないことがあった。

 

「ねぇ、あなた、人殺しって言うけれど、そもそもそれはセイギのせいなの?」

 

「知らないよ!あいつは親の仇の弟子!それだけで十分だろ⁉︎」

 

「そうかしら?師匠が人殺しだからって、弟子が人殺しだとは限らないわよ。それに、セイギはあなたが思っているような人ではないわ。確かに極悪非道に見えてしまうようなところもあるけれど、それには一貫した彼の友達への思いがあるの。そんなに友達のことを思える人って、素敵だと思わない?」

 

「何が言いたい?」

 

「別にそんな深いことを言いたいわけじゃないの。ただね、あなたは本当の殺人鬼ってモノを知らないのに、平然と口にしているのが気に食わないだけ」

 

 アサシンはゆらりと立つ。肩の力をちょっと抜く。そして、息を吸い、しっかりと少年の首筋を見ながら息を吐く。殺しの算段がつくと、ニタリと不気味な笑みを浮かべる。

 

「本当の殺人鬼ってどんな人なのか、あなたは知ってる?」

 

 アサシンの不敵な笑みに少年の背筋が冷たく感じた。攻撃に備えて、バーサーカーは傍らに現れる。大きな身体に隠れるように少年は後ろに下がった。

 

 だが

 

「何処を見てるの?」

 

 背後から声がした。振り向くとそこにはアサシンが少年の血を蒔こうと鎌を手にしていた。アサシンはそのまま怯む少年に鎌の刃を向けたが、バーサーカーはそれに難なく対応する。

 

 いつの間にか背後をとられていた。それは戦闘において死を意味することも多く、きっと今もバーサーカーがいなければ死んでいたはずだ。

 

 サーヴァントとサーヴァントの闘い。それにちょっと魔術を使えるだけの子供が入っては即座に殺されてしまうと理解してしまった。

 

 暗い礼拝堂を血で染めようと揺らめく黒い影。しっかりと捉えることはままならず、その不可思議な動きはバーサーカーさえも惑わせる。しかし、それでもバーサーカーの臓を包む金属のような厚い隆々とした筋肉は力づくでアサシンを払いのける。

 

 少年は刹那を紡ぐ攻撃の連打を短くも長いと感じてしまった。それは心の何処かに不安があったからだ。

 

 バーサーカーは強い。さすがサーヴァントの中でも身体能力は一と言えるだけはある。だが、アサシンだってサーヴァント。予測不可能な動きはバーサーカーを翻弄し、闇に紛れればいつ首を落とされてもおかしくはない。身体能力では劣っていても、アサシンはバーサーカーに劣らない強さを持っている。

 

 その強さが何なのか。少年には分からなかった。誰からも必要とされず、誰からも守られず、誰からも愛されなかった少年には分かるわけもなく、ただ二人のサーヴァントの闘いを刮目するしかなかった。

 

 アサシンはバーサーカーに攻撃を加えた。だが、またバーサーカーはその攻撃の隙にアサシンの脇腹に剣を叩き込んでこようとする。

 

「はぁ、全っ然当たらないじゃないの。やっぱりこれが格の差なのかしら?」

 

 アサシンは無惨にも瓦礫と化した礼拝堂の椅子に腰をかけてくつろぐ。依然として少年とバーサーカーの警戒は続くままだが、アサシンからしてみれば勝ち目のない闘いだと悟り、早々に諦めていた。

 

「別にそこまで気張らなくても大丈夫よ。もう、勝てないって知ったし、セイギが逃げる時間は稼いだつもりだから。というか、やる気無くしたっていうのが妥当なところかな?」

 

 殺る気の無いアサシンを目の前にして少年は少し拍子抜けした。てっきりセイギのサーヴァントだから、自分を本気で殺しに来ると思ったのだろう。だが、アサシンはむしろその逆で、それほど殺す気はなかったのだ。

 

 では何故なのか。少年はある疑問にぶち当たった。それはアサシンに殺されるかもしれないと思った時に、寒心したことである。だって、アサシンは殺すつもりはほとんどなかったはずである。隙あらば殺す程度であり、本気で首を狙っていたわけでは無かった。

 

 なら、何故怖くなった?アサシンと対峙した時、恐ろしく思えたのだろうか。

 

 それはきっと死ぬということに恐怖を覚えているからだ。

 

 だとしたら、さらにおかしいことに少年は気づいた。自分は聖杯戦争に進んで参加したのだ。その時に、もう死ぬことに恐れなど捨てたはずなのだ。

 

「死ぬことを恐れてない人を殺すのはいいけれど、まだ生きたいって言っている人を殺すのは気分良くないものよ?あなたは死ぬことが怖いんでしょう?」

 

「そんなことない!だって、僕は僕のことを見捨てたこの世界が大っ嫌いで、だから、何もかも変えてやるんだ!」

 

 少年はそう言うものの、もうその決まり文句はアサシンに飽きられていた。

 

「はいはい、分かりました分かりました。そうね、変えたいのね。でも、変えたいなら何故変えないの?」

 

「何のことだよ?」

 

「そのままの意味よ。世界を変えたいのでしょう?なら、まずはあなたの見える世界を変えてみなさいな」

 

 アサシンはバーサーカーのことを指差した。

 

「あなたには強大な力だってある。それさえあれば、あなたは世界を簡単に変えることができるわよ。そう、簡単なこと。殺し尽くせばいいじゃないの」

 

「そんなこと、できるわけないだろッ⁉︎人が死ぬっていうのはな……!」

 

「あらら?怒っちゃった?そうよねぇ〜、だって自分の命が危ないってときに、あの女の人のことを気にするほど優しいものねぇ」

 

「だって、それは……」

 

「だって?何がだってなの?あなたは世界を変えたいのでしょう?なら、命という命を絞り尽くせばいいだけじゃないの」

 

 アサシンの指摘に少年は何も言えなくなった。ただ握り拳を作る少年にアサシンは嘆息した。

 

「これだから、お子様は。自分の矛盾に気付いた?世界を変えたいなんて言いながら、そのための犠牲に怖気づいて。あなたはアーチャーを殺した。だけど、その女の人が死ぬのは嫌だだなんて、虫がいい考えね」

 

「うるさい!お前みたいな奴には僕の気持ちなんか分かんないんだ!」

 

「ええ、分からないわ。でも、それは私であって、あなたの隣にいるサーヴァントはどうでしょうね?そうでしょう?終焉の巨人、スルト」

 

 その言葉に少年は言葉をなくした。

 

「何故分かったのって顔してるわよ。まぁ、さすがに分かるわよ。だって、その名前は有名だもの。大英霊は数を数えるほどいるけれど、世界を終わらせた反英霊はそう多くはいないわ。それに、バーサーカーの熱い身体から、何となくだけど察しはつく」

 

「それだけで?」

 

「そう。それだけよ。それだけで充分よ。そんな名のある英霊を呼ぶことはそれだけのリスクがあるの。そんなことも分からないで、強そうだから召還したの?」

 

「違う。それは違う!」

 

「なら、何故バーサーカーを召還したのかしら?」

 

「それは……」

 

 少年は言葉が出なかった。ちゃんとした理由があってバーサーカーを召還した。だけど、その理由を言うとなると、どうしても素直に言えなかった。

 

「同じだと思ったから。きっと、スルトなら、僕の壊したいって気持ちに賛同してくれると思ったから……」

 

 それでも少年は心の内を明かした。別にここでそんな告白をする意味なんてないのに、心のドアが開いてしまった。

 

 アサシンは少年を憐れみの眼差しで見つめる。

 

「あなたは反英雄を何も分かってなんかない。何故、バーサーカーが破壊を好むと思っているの?」

 

「それは、世界を一度……」

「だからって、彼が破壊を望むと思って?」

 

 少年は知っている。本当はどれだけ自分がバーサーカーに無茶を押し付けているのかを。バーサーカーは本当は優しくて、少年が考えていたような英霊ではなかったことも。

 

 それでも、バーサーカーはこうなのだと勝手に決め付けて、結局マスターとサーヴァントの間には溝が生まれる。

 

 分かってほしいのだ。少年は自分のことを。分かりたいのだ。自分には誰かがついているということに。

 

 悔しかった。ひょいと顔を現したアサシンにまんまと自分たちの置かれている状況を見抜かれて、もがいて苦しんでそれでも聖杯を掴もうとしているのに、それを上から覗かれているような気分だった。

 

「あなたはハナから一人ぼっちよ」

 

 全てを否定された。

 

 その時だった。悔しさと現実に浸る少年の隣でバーサーカーはうめき声をあげた。

 

「■■■■■■‼︎」

 

 その野太いかすれた声は礼拝堂の壁を叩くぐらいの力強さがあった。声の振動がその空気全体に広がった。

 

 アサシンはバーサーカーに冷たい視線を送る。

 

「この子だけじゃなく、あなたにも言うことがあるようね。あなたは少し過保護なのではないのかしら?それは違うという叫びなのかもしれないけれど、少年は間違いなく一人ぼっちよ。あなたはそんな少年のそばにいようとしているのかもしれないけれど、その誰かのための行動はあなたには向いていない。あなた、とっても不器用だから」

 

 アサシンはそう言い残すと、礼拝堂の外へ向かう。

 

「もし、それを否定するのなら、あることを肯定することになる。それはあなたの過去の仲間の巨人が自らあなたの炎の中に飛び込んだということ。もちろん、そんなことはありえないし、考えにくいけど、もしかしたら仲間はバカだったのかもね」

 

 彼女は笑いながらバーサーカーのことを、彼の過去の戦火に散っていった仲間を侮辱した。

 

「■■■■■!」

 

 今度は怒りの雄叫びだった。人を殺さんとする形相を見て、アサシンは笑みを浮かべた。

 

「ウフフ。そんなに嫌なら私たちを追ってくればいいじゃない。仲間殺しの巨人さん」

 

 バーサーカーは飛びかかった。しかし、その時にはもうアサシンは暗い闇世の中に消えていた。

 

 バーサーカーはアサシンを追いかけようとする。

 

「お、おい。ちょっとどこ行くんだよ!お前が行ったって、僕の魔力供給がなきゃ、負けるぞ?」

 

 当然である。バーサーカーのクラスの性質上、特に魔力消費が激しく、マスターがいなければ一分としてまともに戦えないだろう。

 

 するとバーサーカーは少年の小さな胴体を掴んだ。

 

「何するんだっ!」

 

 少年は抵抗するが、バーサーカーは小さな抵抗を無視して、少年を肩に乗せた。そして、そのまま礼拝堂の壁を壊し、外へ出た。

 

 すると、外にはアサシンがいた。バーサーカーが外へ出るのを待っていたかのようである。

 

 バーサーカーはアサシンの姿を目にすると、すぐさま剣を振るが、アサシンは上手に対処した。

 

「もう、焦らないの。まったく。ほら、こっちよ、ついてきなさい」

 

 彼女はそう言うと、バーサーカーから近づかず遠のかずの一定距離を保つようにして赤日山へと向かう。仲間を侮辱されたことにより、理性が働いていないバーサーカーはそれが罠だと分かっていても、アサシンのあとを追った。

 

 つい三十分ほど前のことである。


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